2024.10.01
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男性学の田中俊之×髭男爵・山田ルイ53世「“普通”じゃなくたって、いいじゃないか!」現代の日本社会における男性の生きづらさ(全7記事)
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田中俊之氏(以下、田中):現代の日本では、製造業とか建築とか昔強かった産業が弱くなっているし、全体的にみても、男性のお給料っていうのは下がっているんですね。
だから、とくに若い世代ほど基本的には共働きじゃないとやっていけないってなるはずなんですけど、やっぱり「バリバリ働いてくれる男の人は頼りになる」というのが世間一般の評価になっています。
この間、専業主婦の方だけが集まる平日昼間の市民講座で、「夫のいいところを挙げてください」というワークをやったんですけど。
山田ルイ53世氏(以下、ルイ53世):なんちゅう質問するんですか。
(会場笑)
田中:悪いところばっかり挙げていると、ネガティブかなと思って(笑)。
ルイ53世:欠席裁判じゃないですか、それ(笑)。
田中:それで、「馬車馬のように働くところ」と書いた人が出てきて。
ルイ53世:(笑)。それはどっち? いいところ?
田中:いいところ。
ルイ53世:でも、そうなんだなあ。
田中:もちろん、辞書的には、馬車馬って一生懸命なことの例えなんですけど、本来の意味は「馬車を引く馬」ということですよ。
ルイ53世:だから、嫁が馬車に乗っとるんでしょうね(笑)。
田中:ちょっとした貴族感がありますよね。
(会場笑)
ルイ53世:(手であおぐ仕草をしながら)羽根の団扇でこうやっとるんでしょうね(笑)。
田中:1人2人じゃないんですよ、立て続けに聞いて、ほめているつもりなんでしょうけど、男性の立場からすると、「いや、夫は馬ではなく、人だよね」というのがあって。
ルイ53世:まずね。そうですよね。
田中:だから男性もつらいなと思います。だから男性の働き過ぎが問題だと言われているんですけど、これってあんまり問題にされてないというか。逆に一番不審がられるのが無職ですよね、男性の場合だったら。
「え、男で中年で無職なの?」ということになりますし、なんだったらパートとか非正規とかでもちょっと下に見られちゃうわけですから。働いてれば働いているほどほめられるなかで、働き過ぎは改善するはずがありません。
ルイ53世:そうですよね、いいことってなってますもんね。
田中:だから、長時間労働が問題として認識されてないことが問題なんじゃないかなと、働き過ぎについては思うんですよね。あと男女ですごく差があるのが、自殺なんですよね。
ルイ53世:これはどっちが多いっていう話なんですか?
田中:圧倒的に男性が多くて、90年代後半から2010年の前半に、14年連続3万人死んだんですね。日本は。
3万人中、女性が1万人に乗った年は1回もないんです、実は。毎年、男性が2万何千人くらい亡くなっていて。自殺死亡率というのを今日持ってきたんですけど、10万人あたりで何人が自殺しているかという率なんですけど、2003年だと2.8倍くらいあるんですよね。
ルイ53世:女性は14.5。
田中:それに対して男性は40.1になりますから。常に2倍以上の開きがあると。
自殺対策基本法というのができましたので、いろいろ国が金かけて調査できるようになって明らかになったことは、中高年の男性が、人に悩みを相談するのがはばかられるという割合が若い男性よりも高いし、女性よりも高い。人に悩みを吐露できないという傾向があるんじゃないかという問題ですよね。
ルイ53世:40年……。
田中:そうですね、(調査が)1970年から。
ルイ53世:40年くらい基本的はずっと男のほうが自殺してるってことですよね。一度たりとも女性を下回ったことはないってことですもんね。
田中:このもっと後ろにいっても同じですね。
ルイ53世:同じなんですね。
田中:世界的にもやっぱり男性のほうが高いんですけど、日本のほうが差が大きいし、そもそも男性が高いから女性が低く見えるんですけど、自殺率自体が日本は高いんですね。
ルイ53世:じゃあ、女性も高いんですね。
田中:そうですね。世界的に見れば高いんです。やっぱり人に悩みとかを気軽に相談できないとか。
それはなんでかなと思ったんですけど、そもそも友達がいない方というのが。
ルイ53世:(笑)。
田中:身もふたもない話かもしれないですけど(笑)。中高年だと多いのかなという問題がありまして。
ルイ53世:僕も、芸能人の友達はほとんどいませんから。
田中:テレビ番組のアンケートのときに困るとおっしゃっていましたね。
ルイ53世:そうなんですよ。最近の番組のアンケートいうのがね、スタッフさんが楽しようと思ってるとしか思えないんですけど、山ほど書かされるんですよ。たまーに出るときでも、趣味や特技から始まってね。「ものすごいお宝を持っている芸人はいませんか?」とか、「いやお前が調べろや!」みたいなやつとかあるんですけど。
(会場笑)
ルイ53世:交友関係ってやっぱり聞かれるんですよね。「ふだん、芸能人の誰と遊んでますか」みたいなことを。そういうネタがあると番組でしゃべることが増えるんですけど、僕、一切いない。ひぐち君しかいないです。芸能人。相方ですけど。あんまり社交性がないもんですから、だから、今の話がちょっと身につまされるというか。
田中:コンビでは悩みとか話されたりとか。
ルイ53世:うちね、めっちゃお互い言います。そこがあるからなんとか。「こないだ、嫁がこんなん言うて」みたいな話もしますから。
田中:そうですか。男性学の視点から考えると、そういう方がいるかいないかで男性の感じる「生きづらさ」は大きく違ってきます。仕事で会われる方が相談相手になっているのはすごくいいなと思います。
ルイ53世:いや、いいですよ。プライベートもお互い吐露できるし、かつ仕事の悪口一緒に言えるっていう。「あいつ腹立つな」とか「あの番組どうやった」とか、「お前のあのギャグは周りが悪いで。お前、別に悪くないで」とか(笑)。
(会場笑)
田中:すごく助けあってますね(笑)。
ルイ53世:だからやっぱり相談できるっていうのももちろん大事やと思うんですけど、一緒の方向向いて悪口言えるっていうの、これ非常に大事やと思うんですよ。そういう人間がいるっていうのが。
田中:一般的に悪口とか愚痴って、後ろ向きなこと言うなよとか、もっと前向きにとか言われますけど、精神衛生上いいですよね。
ルイ53世:絶対必要ですよ。
田中:つまり、悪口言う人が面と向かってその人に言っているんじゃなくて、閉じた場で友達とかと愚痴を言うというのは。
ルイ53世:直接言うわけでもなし、ネットに書き込むわけでもなし、ここだけでずっと言うだけですから。別になんにも害はないわけですよ、これはね。
田中:そうですよね。今日のテーマは「生きづらさ」ということなんですけど、そういうことを言うことがだめだみたいな風潮があったり、正論ばっかりだと、すごく窮屈になっていっちゃうなと思います。なんかすごくいいですね、お仕事されてコンビでそうやって言い合えるというのは。
ルイ53世:そうですね。お笑いの実力がどうやこうや言う以前に、そういう存在やっていうのが僕には非常に大事ですね。現場ではちょっとイラッとすることありますけど。
(会場笑)
ルイ53世:それを差し引いても、非常に大切な存在なんですよ、やっぱり。
田中:通りすがりのおばあさんに、ひぐちさんがなんか言われたとか耳にしましたが。
ルイ53世:ぜんぜん関係ない通りすがりのおばあさんに、ロケ中のひぐち君が、「ありゃだめだ」みたいなこと言われたんですよ(笑)。「あいつはどうしようもねえな」みたいな。なんにも関係ないおばあちゃんですよ。ちょうどデイサービス中、デイサービス受けてるおばあちゃんに言われちゃった。「あいつあんなの、どうしようもねえな」って言って(笑)。
田中:でも、男爵にとっては、かけがえのないパートナーですね。
ルイ53世:そりゃあもうかけがえないです。
田中:そういったことを考えると、気軽に相談できる相手が職場にいれば本当にベストだと思いますし、気軽にちょっとしたことを話せる友達がいるということは、すごくいいなと思って。今の話は、本当素敵だなと思いました。
ルイ53世:ただ、いない人はどうやって作ればいいんですか? そういうの。
田中:新しく作るっていうのはすごく難しくて、そうすると、趣味というのが1つ。
ルイ53世:新しい友達つくるとか、年いったらもう、不可能でしょ? 肌感覚としては。30やったらまだいけるのかな。遊びに行ったりとか。40になってから新規の友達つくんのって、けっこうムズないですか?
田中:ありえないですよね。恥ずかしいじゃないですか。
ルイ53世:だってもう、「いえーい」とかいけないでしょ?
田中:「いえーい」はいけない、引いちゃいますもんね(笑)。来られたら、「えっ」てなっちゃいます。だから、やっぱり趣味だと共通の話題があるし、さっきボルダリングっておっしゃいましたけど、やりに行こうよっていうことだと。友達になろうとは言えないですけど、今度やりに行こうよっていうのは言える。
ルイ53世:この歳になってから、僕は言うたことないですけど、「友達になろうよ」って言われたら、ちょっと引く気持ち、なんなんですかね?
田中:なにか、悪い勧誘かなって思う(笑)。
(会場笑)
ルイ53世:(笑)。それくらい、ちょっと人間不信じゃないですけど、なんで急にそんな友達とか言うてくんのみたいな、裏があるに違いないというのがあるから。
田中:40くらいになったらありますよね。妙に距離感が近い人って、警戒しちゃったり。
ルイ53世:なにか買わされるんちゃうかみたいなね。
田中:趣味とかスポーツジムとか習い事とか、定期的に人と会うことをつくって、だんだん友達になっていくと。さっき男爵が言った「友達になろうよ」っていうのはちょっとないと思うので。
徐々に徐々にということを考えると、定期的に通う場とか、こういう本のイベントとかもよくいらっしゃる方とかいて、情報交換とかされているんじゃないかなと思うんですけど。そういう趣味とかもいいと思うんですよね。
ルイ53世:じゃあ、ちょっと今から、隣の人と、一組になっていただきまして。お互いに、「友達になろうよ!」って言ってみましょう!
(会場笑)
ルイ53世:よくわからない集まりが始まるという(笑)。
田中:嘘ですよ? もちろん嘘ですよ。
ルイ53世:(笑)。
田中:だから、これくらい自殺が中高年にかたよっていることを思うと、妻とか友達とかそういう吐露できる場があるといいのかなと思うんですね。
ルイ53世:それは絶対そうですね。
田中:さっきの働き過ぎとつながるんですけど、「平日昼間問題」というのが男性学ではありまして。平日昼間に、学校卒業以降定年前までの男性が街をウロウロしていると、それだけで怪しく見えるという問題なんですね。
ルイ53世:そう思われてしまうという。
田中:例えば、泣いている子供の手を引っ張っていても、お母さんだったら子育て大変だなで済むと思うんですけど、おじさんだったら、「あれ?」って。
ルイ53世:それ、わかりますわ。怪しい。
田中:なにか通報しなきゃいけないのかなという。
(会場笑)
ルイ53世:うちの先輩にダンディ坂野さんっていう方がいらっしゃるんですけど、ダンディさんもお子さんいらっしゃって、すごく子煩悩なんです。いいパパで。
そういう子育ての話とかしてるときに、「ダンディさん子供連れて遊びに行ったりするんですか?」みたいなこと聞いてたら、「行く行く」と。「子供が太鼓のゲーム好きやから、ゲームセンターとかよう行く」みたいなこと言うてたんですよ。「でもバレません? 『ダンディ坂野や』ってなりません?」って聞いたら、「大丈夫や。キャップ深くかぶって、サングラスしてマスクしていくねん」って。
(会場笑)
ルイ53世:いやそんな人が女の子の手引いてたら、余計怪しいですよって。
田中:完全に誘拐犯。
ルイ53世:そういう、ちょっと、気をつかいますよね。
田中:男性が育児休業を取らないとか言いますけど、実際に僕の知り合いとかでとった人もいるんですね。それで子供連れて児童館とか行っても、お母さんしかいないとか。児童館の職員の人自体が、「あ、パパが来た」みたいな感じでびっくりしちゃうとか。
いざ休みをとっても居心地が悪いということ、さっき居心地という話も出ましたけど。居心地よく過ごせないから、「じゃあ休みとってもあんまりな」ってことになっちゃうんですよね。
ルイ53世:仕事してるほうがええわ、みたいになりがちですよね。
田中:びっくりされちゃうくらいだったらね。公園デビューとかしても、お母さんたちしかいないので、うまくなじめないってことも。
ルイ53世:そうですよね、違和感ありますもんね。公園で中年の男性が子供と遊んでたりとかしたら。
田中:なんなのかなって、周りが不安を抱いちゃう可能性も。
ルイ53世:若干際立ちますよね。
田中:これはさっきの話とやっぱりつながっていて、働いているのが普通だから、働いてないのって変じゃないの、という偏見になってしまうわけで。でも仕事柄、平日の昼間とかでも、お時間あるときはありますよね。
ルイ53世:ありますあります。でもやっぱり、そういうこと気にしてちょっと外に出づらいですよね。僕の場合は周りの人に顔がわれてる部分がある程度あるので。
田中:もちろんです。
ルイ53世:暇なんかな、って思われるんちゃうかなっていう。
(会場笑)
ルイ53世:全部自分の心のなかで起こってることではありますが。子供連れてたりしたら、奥さん働かせて、家で子供の面倒見てんのかなとか思われるんちゃうかなみたいな、そういうのはありますね。
田中:でも、今、男爵がおっしゃったことが社会学的にみると大事なことで、こういう社会のルールって、自分が内面化しているから、人に言われないけどそう思われているんじゃないかなという気がしてくるんですよね。
ルイ53世:そうなんですよ、全部自分の心で起こってることだけなんですけどね。
田中:男の人が働くのが「普通」というルールが存在しているので、そういう罪悪感を自分が抱いちゃう。つまり、そのルールがこの社会のなかですごく強力に作用しているってことなんですよね。
ルイ53世:圧力がすごいですよ、休みの日とか。
田中:自分で規制していっちゃうってことがあると思うし、これはさっきの話とつながって。働いているほうが男の人も気が楽だし、周りも安心するという構造がここで完成しちゃうわけなんですよね。
そうやって、定年まで仕事、仕事ってやっていくわけなんですけど、そうすると、さっき言ったことで言えば友達もいないし趣味もないみたいなことになったまま定年を迎える人がすごく多いので、定年した後になにもやることがないという人がすごく多いんですよ。
ルイ53世:わかります。僕、日によっては若干定年気分のときあります。
(会場笑)
ルイ53世:さっきもちょっと言いましたけど、アンケートとかに書く趣味・特技がほんまにないんですよ。なんにもないんですよ。みなさんまだ覚えてらっしゃるでしょうか、2008年、髭男爵があほほど売れたときに比べたらぜんぜん暇やから、正直オフで家にいるときもあるんです。そのときに趣味もとくにないでしょ、暇でしょ。正直、友達もひぐち君くらいしかおらへんし。
田中:(笑)。
ルイ53世:まさか休みの日に「ひぐち君、遊ぼう」とは言われへんから(笑)。
(会場笑)
田中:それはないんですか?
ルイ53世:それはないです。「ひぐち君、あーそーぼー」っていうのはないですね。なので、その3点がぎゅっと揃うと、ワンデイ定年みたいな気持ちになるときがあるんですよね。こういう感じなんかな、世のお父さんが一生懸命勤めあげて、いざ定年でお家にいるようになったら煙たがられてどうのこうのっていうベタな話っていうのが、こういう空気感なんかなって思うときはありますね。
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