2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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金野:やっぱり社会がうまく機能していくうえで、情報、いろんなセクターがあっていろんな組織があるわけですけども、同じ組織の中でもそうですし、組織を超えてもそうなんですけども。
どうしても日本の場合の情報の透明性、双方向性の欠如っていう、なんか難しく言ってますけども、要はその辺の不透明なところが日本の社会にはけっこう特徴的なところがあるんですけども、この辺をまさに具体例を含めて話をいただければと思います。
下村:これはさっきもお話しした原発依存度を決めた「国民的議論」が非常に例としてリアルなので、その話を少ししましょう。
2012年の夏に「国民的議論」っていうのをやりました。これはなんだったかというと、原発依存度を決めるのは重大なことだから、国会や政府だけじゃなくて、なるべく国民みんなで決めていこうっていう試み。
ほとんど認識されていないですけど、実はあの時の政府は、明治維新以来の特筆すべき政策決定プロセスを辿ろうとしていたんです。本当に大事件だったんです。
それまで広報っていうのは「結論はこうなりました」って“知らせる広報”が基本だったんですけど、選択肢を提示して“巻き込む広報”をやってみようということで、2030年代の原発依存度について3つの選択肢を用意して「あなたの意見はこの中のどれに近いですか? その理由も含めてぜひ意見を表明してください」と全国民に対して呼びかけました。
パブリックコメントというのを募集したり、各地で意見聴取会を開いたりということで展開していきました。この意見聴取会は、初期3回まで非常に混乱しました。意見を言いに来た人たちからすごいヤジや怒号になっちゃって。経産大臣や原発担当大臣が行ってたんですけど、その大臣が「まあまあ」と止めに入るみたいな。それをメディアがおもしろがって報道する。
ヤジや怒号を止めに入ってる大臣の画っていうのは、メディアや視聴者からは「国民の声を封殺しようとしている政府」としか見えないですよね。その状況で、むしろこの意見聴取会は当初非常にネガティブキャンペーンになってしまいました。
この時はファシリテーターが死活的に重要だなと感じました。どういう司会者が話を進めるか。あの時の最初の政権の失敗は、司会者にプロの業者を頼んじゃったんですね。
プロの司会者は、やっぱり台本と違うような紛糾をしてくると、プロのスイッチが入るわけですよ。「ここを自分が納めねば」と思って、ますます「ヤジをおやめください!」というふうになっちゃって、どんどん抑圧的になってしまう。
その時は古川(元久)さんが国家戦略担当大臣だったんですけれども、古川さんにある日呼ばれまして、「もうどうにもならないから、下村さん、次回から司会やってくれ」と言われたんです。
その時に私がつけた条件は、「絶対官僚が用意した台本通りやらないけどいいですか?」と。「傾聴に値するヤジだったら、今の質問に対して大臣答えてください、って大臣に振るけどいいですか?」って。「なにやってもいい」って言うので、じゃあ、と言って引き受けました。
それから先は実はヤジも怒号もなくなって非常にスムーズに展開したんですけども、国民的意見聴取会がスムーズになった第4回以降は、まったく報道されなくなっちゃいました。ケンカがないから、つまんないから報道されないんですよ。
つまり、飛行機が墜落したらニュースになるけど、「飛行機は落ちませんでした」ってキャスターは言わないでしょ? 落ちてない飛行機のことはニュースにならないんです。それが報道っていうものですから。
スムーズにいった討論会はニュースにならなかったので、結局あの時「国民的議論」でいろんな展開があったっていうことはあんまり共有されていません。実はその時に、金野さんからお尋ねの「情報の双方向性の欠如」とか、色々と考えさせられることが起きたんです。
例えば最初、電力会社の社員が意見聴取会の場に出てきたことに対してものすごい批判が起きたんですね。それで、当時の民主党政権は途中から彼らを排除しちゃったわけ。
「電力会社の社員の方はご遠慮ください」ってやっちゃったんだけど、私はそれは司会者として大反対したんです。個人的には私自身は強固な“原発ゼロ派”だけど、司会者という立場では、そんな排他的な扱い方は納得できないですから。でも結局、その主張は通りませんでしたけど。
これって要するに「ほかのセクターの意見は聞きません」っていう話でしょ? おかしいでしょ、どう考えても。国民意見聴取会で意見を言うなっていうことは、あなたは非国民ですよっていうことですよね。電力会社の社員たちをそうやって排除してたんです。これは僕は、本当にあの議論の汚点だったと思っています。
それから、さっき言ったように3つの選択肢というのがありました。2030年代にエネルギーの原発依存度をゼロにする「0パーセントシナリオ」、それから「15パーセントシナリオ」、そして「20~25パーセントシナリオ」。
全員がバラバラでは議論が収拾つかないので、この3つを目安として用意して「みなさん、大体どれに近いですか?」っていうことで、各会場で前もって公募して、3シナリオの意見を3人ずつ、つまり計9人に発表してもらっていたんですけど、途中からこれに対してまたすごい批判が起きて。
パブリックコメントで一般からメールで官邸に寄せられた意見は8万9千件あったんですけれども、そのうち7万7千件が原発0パーセントシナリオだったんです。で、それを見てメディアなんかは「こんなに0パーセントが多いのに、なんで発言機会は3人ずつ均等にするんだ? これは民意を反映しているのか?」みたいな論調が生まれまして。
「民主党政権は脱原発とか言ってるけども、実は25パーセントシナリオ、あるいは間を取って15パーセントっていう結論を最初から決めていて、茶番でこの国民的議論をやってるんじゃないか? だから3人ずつ均等に意見を言わせているんじゃないか?」という批判がバーッと起こりました。公正な議論に徹しようとしている“隠れ0パーセント派”の司会者としては、これも本当に心外でした。
これはナンセンスですよね。8万9千人にアンケートした結果で7万7千人が「原発0パーセント」だったのなら、それは民意と言えるかも知れないけど、自ら意見を送って来た人の数なんて、世論の比率を反映したものでもなんでもありません。
全国に50基の原発がある現状を、そんなに変えなくていいやと思ってる人と、ゼロに激変させねばと思ってる人だったら、後者のほうが積極的に声を上げるのは、当たり前でしょう。なのに、その比率を持ち出して「民意を反映しろ」なんて、本当におかしい。
ところがその時も、また政権は日和って「わかりました」と言って、0パーセントシナリオの発言者比率を大幅に増やしちゃったんです。これも私はものすごく批判しました。
とくに福島会場では……。当然ながら福島県会場がいちばん荒れますよね。この時は大きく枠を広げて30人の方に壇上に上がってもらったんですけど、全員0パーセントシナリオでした。
その時に、どうにも終わらなくてもうしょうがないから、最後に私が司会者として「わかりました。時間も過ぎてるし、会場もこれ以上借りれないから、まだ言い足りない人はこれから近くの喫茶店に一緒に移動しましょう。そこでやりましょう」って言って、二次会をやったんですよ(笑)。
結局全部で7時間やったんですけども、その二次会の時に出てきた意見で、やはり「なんで当初、3つの意見を均等な人数にしたんだ。明らかに0パーセントシナリオの人を不当に少なくしてるじゃないか」と言われたんですね。
その時、私は司会者なんですけど反論したんです。「みなさん、0パーセントシナリオばかりの30人で『そうだそうだ』って言って『0パーセントバンザイ』って言っててね、それで0パーセントは実現するんですか? 0パーセントにしたい人がこの議論で本当に考えないといけないことは、原発を0パーセントにした場合に社会にどんなリスクがあり得るのか、そっちをちゃんと検討して、それを除去できるかどうかが0パーセントの実現にはいちばん大事でしょう?」と。
「その0パーセントにした場合のリスクを一番語ってくれるのは誰ですか? 25パーセントシナリオの人じゃないんですか? その人たちの意見を聞かずに0パーセントの人たちだけで『バンザイ、これで安全だ』って言ってて、それで0パーセントが実現するんですか?」というふうに反論したんです。司会者なのに(笑)。
そしたら、「なるほど。それもそうだな」と、その場は納得してくれました。日本人は基本的に賢いですから、ちゃんと話せば相手の主張も理解できるんですよね。それをやらないで、例えば私が「二次会に行こう」って言った時から、官僚は当然「そんな、市民運動の人たちとそんな所へ行ったら危ない」みたいな反応になるんですよ。そうやって、ほかのセクターに対するものすごい恐怖心とか拒否反応がある。
それを超えて、そうやってぶつかっていった時に切り拓けるわけですよ。そういうことを積み重ねていったのが、“茶番劇”払拭への努力っていう、あの時の1つの大きな試みでした。そうやって結局、最終的に「2030年までに原発依存度ゼロを目指す」っていう革新的エネルギー環境戦略決定にこぎつけたんです。2012年9月のことでした。
まぁ、その3ヵ月後に国民は総選挙で違う政党を選んで、あっさり新政権は決定を白紙に戻しましたけどね。それが国民の選択ですから仕方ないですけど、苦労したから残念ではありました。
でもこの話って、ほとんどみなさん初耳だと思うんです。なぜか。当時のメディアはやっぱり当然ながら、「結局、原発は何パーセントになるんですか?」っていうことにしか関心がない。私が記者のところに行って「いや、それも大事だけど、この“決め方”が画期的なんだから、このプロセス自体を報道してよ」っていくら言っても、やっぱりそれは聞いてくれませんでしたね。
でも、しょうがないと思いますよ。私ももしTBSにいたら、やっぱり圧倒的関心事は、「結局、原発はゼロになるのかどうか」っていうことですから。
まぁ仕方なかったのかなとは思いますけど、私は今からでもこうやって、いろんなセクターの人たちが互いの拒否反応を超えて議論していく大事さっていうのは、こういう機会があるごとに伝えていこうと思っています。
金野:ありがとうございます。本当に国難ですよね。
下村:国難ですよ。
金野:3.11というその痛ましいできごとを通じてセクターを超えた現場が生まれて、そういう大変貴重な経験をしてきていらっしゃるので。概念的な話っていうだけじゃなくて、経験値を日本社会全体で広げていくっていうことが相当貴重ですよね
下村:そうですよね。「相互理解できるんだ」って観念的に言ってもダメだけど、政府が福島県で本当に原発ゼロにしたい人たちに向かって意見をぶつけていっても通じ合えたっていうのは、やっぱりすごく重要な1つのブレイクスルーの実例だと思いますので、それは本当に共有したいと思います。
金野:永遠というか、宿命的なテーマですからね。まさに原発というのは。
下村:そうです。今でも続いてるんです。昔話じゃないんですよ。「これからどうすんの?」っていう話ですから。
金野:エネルギー源、電源選択の民主化っていうことですよね?
下村:そうですね。
金野:原発がいいのか、悪いのか、他の電源がいいのか。それはいろいろご意見あると思うんですけれども、電源を選択するっていうことをいかに民主化するかっていうところに尽きる話ですよね。
下村:これは原発、エネルギー源、電源だけじゃなくて、国防の話でも、これから日本軍をもう1回作るのかとか。それから消費税はあと何回上げるのか。こういう国論を二分するようなテーマが、これからガンガン続くわけですよ。
その時に「あいつらは戦争がしたいんだ」とか、逆に「あいつらは平和ボケでなにも考えてない」とか、お互いのレッテル貼りばっかりやってたら先に進まないんですよ。そんな議論にならない議論ばっかりやってたら、結局その時にたまたま議席が多いほうに決まるっていうだけで、そんなの民主主義としては非常に未熟でしょ?
もっとちゃんとお互いのことを聞くために、そこで活躍する、そこを橋渡しできる人たちがたぶんトライセクターリーダーだと思いますね。
金野:そうですね。先ほどまさに「ファシリテーター」という言葉も出てきましたけども、相当近い、同義語ではありますよね。
そういうなかで、この最初のお話のなかにもありましたけども、「フォロワーシップ」というか、リーダーっていう部分だけじゃなくて、フォロワーということも含めて、民主党政権というものを選んだ側の有権者としてどうなのかということ。
そのテーマはどんな組織においても、企業においても、政治においても、常に共通するテーマだと思うんですけども。このフォロワーのレベルアップがリーダーを活性化させるということは……。
下村:これは今回「登壇してくれないか」というメールをもらった時に、最初の返事で書いた言葉なんですけどね。「これを言いたい」ということで。今までお話しさせていただいたことでみなさん感じてくださっていると思うんですけど、結局リーダーがいくら旗を振っても、それだけじゃ世の中は変わらないわけですよ。
やっぱり本当に社会が変わる時って、たぶん「旗“を”立てて人“を”集める」っていう「“を”の運動論」じゃなくて、「人“が”集まって旗“が”立つ」っていう「“が”の運動論」になった時に、世の中が変わるんじゃないかなっていう気がします。
「旗を立てて人を集める」んだったらリーダー先行だけど、「人が集まって旗が立つ」のは人が集まる方が先だから、言葉としては変だけど、最初にフォロワーありきなんですよ。まずみんなが自然に集まって「このリーダーで行こう」っていうかたちになっていく。
ただ、「このリーダーで行こう」ってみんなが思える人がその時にいることは必要ですから。それはやっぱり、トライセクターを股に掛けた人で「リーダーシップを持ってやるぞ」って思う人が出てきてね、共通言語でわかる言葉でみんなに提示して、それにフォロワーが反応して、「それじゃあ俺たちがこの人を立てよう」って言って、みんなで御輿を担ぐ。
いくらリーダーシップを持って、きらびやかな神輿を作ったって、神輿は床に置いてあるだけじゃあそれは神輿にならないですから。みんなが担がなければ、リーダーにはなれないわけですから。
みんなでちゃんと担いで、しかも途中で「ダメだ、この神輿」ってサッサと放り投げないで、ちゃんとした立派な神輿に育つまで、本当にお社にちゃんと到達するまで、責任を持って担ぎ続けることですよね、一度担ったら。それは本当に大事なこと、“フォロワーシップ”だと思います。
グローバルな課題だの、国家だの、会社だの、地域だの、自分の身の回りだの、いろんなサイズの社会がありますけども、実はどのサイズでもフォロワーが考えるべきことは同じなんです。
身の回りがいちばんわかりやすいんですけど、それだけじゃなくて、「自分の地域・町内会のこの課題解決のために自分はなにができるか」とか、「この国家的危機のために自分はなにができるか」とか、「グローバルな問題のために、まさにAct locallyで自分はなにができるか」とか。
そうやって、どのサイズの課題でも全部自分の身の回りレベルに落とし込んできて、そこでなにができるのかを考える。そういう一人ひとりになれば、そういうフォロワーが担ぐリーダーがいる組織なら、本当に課題を1つ1つ解決して、前進して行けますよ。
1人で旗を振ってるんじゃない、みんなで旗を振っている。これがすごく重要なことだと思うんですね。そして、そのためには一人ひとりが的確な判断材料を得られなければならない。判断材料が偏ったところからしか供給されていなかったら、そういう的確なフォロワーは生まれません。だから、ちゃんとした情報の受け取り方ができるようになることは極めて大事です。
それが、冒頭の講演部分の最後の方でお話しした、メディアリテラシーの世界なんですよ。こうやって情報を受け取れば踊らされない、そしてこうやって発信すれば変な誤報をばらまかない。みんなで付和雷同しない、自分の頭で考えて情報をキャッチして、そして投げていく。こういう社会になれば、その土壌の上にちゃんとしたリーダーもフォロワーも育つ。
だからすべての土壌に私はメディアリテラシーは必要だと、そういう捉え方でやろうとしています。
金野:ありがとうございます。今日はビジネスマンの人が多いので……。マネージャーだとか経営者っていうのは組織の上に立っている人のことを言うわけですけども、リーダーってどのレベルでもリーダーですからね。
社長じゃないからリーダーっていうことはなくて、あるセクションのリーダー、あるプロジェクトのリーダーシップ、身の回りでもそうですけどどのレベルでもある。
一方で属人的なカリスマリーダーの人材がとっくに終わってるっていう意味での、さっきおっしゃった、集まったところからまたいろいろリーダーが出てくるっていう、リーダーありきで人を集めるっていう動きじゃなくてっていうのは、まさにこれからのボトムアップ型のイノベーションっていうものの共通性ですよね。
下村:そこはまさにインターネット社会のいいところですよね。インターネット社会のおかげでボトムアップ型リーダーは非常に生まれやすくなっていますよね。
昔はある程度の発信力のあるツールとかを持っていなければ、いきなりカリスマ的にボーンっていうことはなかなかできなかったけど、今は本当に突然湧き上がってくるっていうことができるようになったから、これは活かさない手はないですよね。
金野:とくにレイヤーが大きければ大きいほど、政治とか社会、国とかっていうレベルになったら、もう圧倒的にカリスマリーダーで世の中を変えるっていうことではできないっていうことははっきりしてきていて。「中東の春」がそうですよね。
革命って、歴史上必ず革命家として歴史上の人物に残るようなメジャーな人が必ずいたわけですけど、中東の春ってあれだけいろんなふうに変わってきましたけど、本当に無名な人たちがネットを駆使して社会のイノベーションを起こしていったと。
東欧革命まではワレサさんとかいろいろいましたよね。もっと昔に遡ればレーニンとかロベスピエールとかいろいろいたわけですけども、今そういう、圧倒的にセンターがはっきりしてるようなイノベーションは起こらない。それは起こったら困る側が中心とかリーダーを潰せば潰せるんで。
そういう意味では誰が中心かわからない、みんなの大きなムーブメントというのが結局一番強いし、イノベーティブの近道ですよね。
下村:「働きアリの理論」ってあるじゃないですか。ある人数がいて、2割はすごく働くけれども、実は6割はたいしたことなくて、いちばん下の2割はほとんどサボってると。
あの理論のおもしろいのは、そのアリの中からすごく働いてる2割をどけてみると、残った8割の中の2割ぐらいがすごく働き出すと。で、逆にサボってるほうの2割をどけてみると、今度新しく残りの下2割はサボり出して、常に2:6:2だっていう。
あの観察から得られた理論って実はすごく示唆的で、今はもうカリスマリーダーはいなくなったけども、細分化してどんどん小さいセクションに分けていくと、その中にいわばプチ・ジャンヌダルクがそれぞれ生まれてくる。
それぞれの中でリーダーが生まれて、それがワーッとつながって社会変革になってくるみたいな。そんなイメージじゃないですか? 今の新しい社会の変わり方って。
金野:本当におっしゃるとおりです。皮肉なことに人類でいちばんうまくいっている独裁的なシステムは中国。「チャイナイレブン」とか「チャイナセブン」とか言いますけれども、あれは歴史上で初めて集団的な独裁システムを作ったということですよね。
1人の王様や1人の一族ではなくて、何年かに1回変わっていくし、しかもトップが何人もいて、集団でやってるっていうのが、だからこそという見方ができますよね。
下村:中国の本当にたくましいのは、トライセクターっていう見方でいいかわからないんですけど、すごく渾然一体としているというか、「なんでこの理論とこの理論が共存するの?」っていうのが平気で共存するたくましさがありますよね。
私がいちばん中国社会はたくましいと肌で感じたのは、何年か前に中国伝媒大学、コミュニケーションユニバーシティというところに呼ばれて北京に行ったんです。そこは北京の中央電視台、つまり日本で言うとNHKに当たるような、中国メディアの中枢の人材を輩出している大学なんですよ。
そこで、メディアリテラシーの特別講義を2時間やってくれと。中国ですよ? 大丈夫なのかと。「情報をそのまま鵜呑みにするな」みたいな話を2時間やって、教室出てきたところで連行されるんじゃないかと思ってすごく躊躇したんですけれども。
行ったら、そこの副学長がまず歓迎の昼食会を開いてくれたんですね。その場で副学長が、あいさつのなかで「諸君、今朝のニュースを見たか」と。その日、突然、人民解放軍の若い兵士の隠れた美談みたいな“ちょっといい話”が流れたそうなんですよ。
「なんで急にこのタイミングであの話が流れたかわかるか? 先週ああいう不祥事が流れたから、そのイメージを打ち消すためにこのタイミングでこれがリークされたんだろう」みたいな解説を堂々と語るんです。「こんなの大丈夫なの?」と思ったんだけど、それで勇気を得て私は授業をやりました。
それで授業をやり終わったら、学生たちがメディアリテラシーっていうものに「なるほど」とものすごい反応して、そこから質問攻めで、トータル5時間。
(会場笑)
下村:もう、すごい反応で。だから「あ、たくましいな、この国は」と。こういうこともちゃんとわかった上であの政府の発信とかを聞いてるのね、っていう感じがすごくよくわかりました。
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