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東洋経済主催 経済記者×名物鉄道マンが語る「鉄道ビジネス最前線」(全7記事)

交通広告最前線 選ばれる路線になるために、西武鉄道が仕掛ける次の一手

鉄道ビジネスの現状や各社の取り組みなどを語る「鉄道ビジネス最前線」。今日本で問題視されている少子高齢化や人口減に、鉄道各社はどう挑むのか。鉄道事業以外での「多角化」から、次なる生き残り策についてのトークが行われました。本パートでは、西武鉄道・沿線事業企画部の手老善氏が新たな交通広告・デジタルサイネージの「稼働率」について語りました。

事業と広告出稿を含めて収益を上げていく

手老善氏(以下、手老):そんななかで、減ってしまった中吊り広告をいかにして取り戻していくかというところなんですけれど、単純に、媒体費を安くすれば買ってもらえるか? なかなかそういうわけにもいきません。インターネットなどと比較しても、媒体費のところだけで価値づけ、訴求力があるかというと、なかなかそれが厳しい時代に入ってまいりました。

そんななかで西武鉄道としましては、中吊り関連でいろいろ企画をやっております。例えば、弊社の運営しております「トモニー(TOMONY)」という、駅のコンビニエンスストアがあるんですけれど、こちらとのチケットタイアップ企画ということで。

最近ですと、もう明後日からかな? 「海のハンター展(—恵み豊かな地球の未来—)」(注:2016年7月8日〜10月2日国立科学博物館にて開催)とか。上野とか六本木、そういったところで展示会が盛況で、当日券を買うのにも並んでしまって、主催者さま側の非常に負担が大きいと。

そういったトレンドもありつつ、やっぱり告知をしていかないといけない。そういったところを拾うということもあり、私どものチケットタイアップ企画を申し込んでいただくと、中吊り広告が出ます。そこに必ずうちの「トモニーで売ってますよ」という文言を入れていただくんですが、そうするとチケット販売を代行して駅のところでできますよと。

こういったかたちにして、単純に広告媒体の価値だけじゃなくてほかのもの、弊社グループないし弊社内でシナジーを生かしたものを展開しております。これでだんだん、中吊りが戻ってきているところでございます。

また、それの延長なんですけれど、けっこう昔は私どもの会社でもやっていたんですが、沿線の映画館もしくはホール等々で試写会をやったり、そういったものが多かったりするんですけれど、事務局を立てて個人情報を管理してとか、いろいろ大変なところがある。これも中吊りとかポスター(での広告)をつけたうえで、事務局の運営もうちでやりますと。

それで、「西武鉄道からのプレゼント」というアプリも作りまして、ここで全部個人情報の管理、抽選、当選者への発送を一括で行う。こうした事業と広告出稿を含めて収益を上げていく。こういった施策を重点的に今、紙媒体の押し上げを行っております。

「急行に乗っても、必ず1回は見られる」デジタルサイネージ

また、先ほどトレンドとしてもありましたデジタルサイネージに関してなんですけれど、弊社の電車のなかの「Smileビジョン」、駅の「スマイル・ステーションビジョン」という、2つのブランドをやっております。

電車内に関しましては、車両数ではJRさん、(東京)メトロさん、やっぱりここらへんが非常に大きいので面数も多いんですが、その後、東急さんに続いて第4番目の面数、おおむね3,000面を超えるような電車の面数についております。

やはり大口のナショナルブランドさんは、まず「JRさんに出そう」「メトロさんに出そう」「東急さんに出そう」ときてしまうと、予算的にそれでいっぱいになってしまう。なので、その次にうちが入るか・入らないかというところになってしまうので、いろんな、(ほかとは)ちょっと違うところを出していかないと、うちに向いてくれないだろうということで、1ロール。番組表ですね。

A社、B社のCMがあって、1ロールが終わると、またあたまに戻ってA社、B社のCMが流れるというようなものがあります。だいたいの会社さんですと10分以上、長いと20分台というところもあるんですけれど、弊社の「Smileビジョン」に関しましては、1ロールを9分に設定いたしまして運用しております。

なので、見る機会が多いんですが、これは実際の弊社の主力路線である池袋線の急行電車に乗った時、(始発駅から最初の停車駅までの)池袋—石神井公園間の所要時間が9分台というところがありますので、「急行に乗ったとしても、必ず1回は見れる」というのをセールストークにできるように、こういった設定をしております。

中吊り等々の減少を完全に補完しているようなものでは、池袋の「スマイル・ステーションビジョン」ですね。池袋の駅で、弊社が事業として100周年を迎えて全面リニューアルを行っていたのですが、この3月にすべて完成いたしまして、こういった媒体を置いております。84インチ、縦にするとほぼほぼ私の背丈ぐらいまであるんですが、そちらが39面。4Kがネイティブで出せる高画質のものでございます。

紙媒体より稼働率が高いワケ

あとは、70インチの一回り小さいものも、これでもそれなりの大きさですが76面、合計115面ということで、1つの鉄道会社・1つの駅で申しあげますと、JR東海さんの名古屋駅に次いで日本で2番目の面数になっております。こちらがおかげさまで、稼働率が98パーセント。ほぼほぼ開始から……、開始当初は時間がなくて入らなかったんですけれども、ほぼほぼ満枠で推移をしております。

ここも、実は対比があります。デジタルサイネージと紙媒体を比べた時に、場所が変わらなくてもなにが違うかというと、紙はずっと同じものが出ているんですけれど、デジタルサイネージは映像ですので、番組表を作って1つの枠を何分割もできる。例えば、ここの紙を20万円で売っていても、(同じ場所をデジタルサイネージにしたら)1枠5万円で8枠ぐらい売ったら増収になると。もちろん、投資コストもありますけれど。

ただ、これは面数、リーチできる人が多くないとなかなか手ごろ感が出てこないということで、駅に置いてあるもの、JRさんやメトロさんは先ほどのとおりロール販売を基本にしております。JRさんですと新宿・渋谷・東京駅とか、いろんな駅に便があって、ロールのなかの1つとして映像が出る。

それが1つの価値になって売れているというのがありますが、私どもが池袋駅でそれと同じことをやっても、はたして振り向いてもらえるだろうかというところがあります。なので、ここ(池袋)の媒体の価値を最大に高めるためにはなにをしたらいいのかという時に、「1週間買い切り・1クライアント」。ずっと流れているというような貸し切り商品にいたしました。それが高稼働の原因かな、と。

そういう意味では、私どもの規模でも、私どもより大きい媒体社さんがいるなかで、広告主さんにどう選んでいただくかというやりかたとして、単純にお客さんが多いとかいうところだけではなくて、その場の価値に、その場所に合ったもの、またクライアントさんが求めるものをどう入れていくかということを考えていかないと、なかなかこういう媒体というのは売れていかないのかなというところでございます。

あと、最近人気が出てきたんですが、マルチビジョンという55インチの8面が2段で16面ある、非常に横長にでかいサイネージがついております。こちらはエンタメ系を中心に出ているのと同時に、先ほどのとおり私どもが新しく変わらなければならないというのがありまして、きゃりーぱみゅぱみゅさんと一緒にやった「KPPトレイン」という、電車をピンクにして走らせるものをやりました。

「そこに合った広告」とは、どういうものなのか

そういった、単純な私どもの通常の告知だけではなくて、そもそも沿線価値を向上させるための集客のコンテンツ。これをあくまで媒体価値を上げるために応用することで、人が上を見るようになる。ということのなかで、クライアントさんが見に来ると「みんな、上を見てるよね」と言うようなところへ繋げる。そういった方策を行っています。

すみません、駆け足でまいりましたが、最後にお時間もございますので、私どもの次期新型車両として、40000系という電車を発表させていただいております。2017年春にデビュー予定となっておりまして、先日プレスリリースでお出しさせていただきましたが、先ほど飯島さんのお話にもあった、座席指定の列車を直通で走らせるという事業を開始いたします。

元来、私どもは「(特急)レッドアロー号」という列車がありまして、秩父への観光ですとか、川越—新宿間を走っていたりするんですが。やはり1番のトレンドは通勤利用が非常に多いということで。夜の時間24時池袋発というのが最終なんですけれども、これもキャンセル待ちになるほどの大盛況でございます。「もっと本数を増やしてくれ」とか、そういったお客さまの声も多いので、こういった路線を走らせています。

平日は有楽町線に直通、休日は西武秩父線からみなとみらい線まで、秩父から横浜までの観光需要に対応するということになっております。また、ここのなかでも、座席の向きは変わって、向かい合わせのようなかたちになります。また、乗車時間も長くなることから、どのような気持ちでお客さまが電車に乗られてるかというものも、これが増えてくると変わってくるかもしれない。

というのをふまえて、私どもも、そこに合った広告というのはどういうものなのかというのを今、開発を進めております。まだ表には出ていないんですが、この40000系のなかでも、いろいろおもしろいことをやっていこうかなと思っておりますので、今後にご期待いただけたらなと思います。このあたりで、私からのお話は以上とさせていただきます。ありがとうございました。

(会場拍手)

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