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隅研吾氏新国立競技場について会見(全1記事)

日本伝統建築の知恵で“陰”や“風”を操る--新国立競技場をデザイン、隈研吾氏の狙い

2020年「東京五輪・パラリンピック」に向けて建設計画が進む新国立競技場。そのデザインをめぐっては、当初ザハ・ハディド氏の案が採用されましたが、高コストなどを理由に白紙化。最終的には、隅研吾氏と大成建設・梓設計の案が採用されることが決定しました。新国立のデザインについて、外国特派員協会にて隈氏が行った会見を書き起こしました。

新国立競技場について建築家が解説します

隈研吾氏(以下、隈):今日は来ていただきありがとうございます。パワーポイントを使いながら、新国立競技場の話をしたいと思います。まず、我々のチームは3つの会社です。大成建設と梓設計と我々の事務所の3つです。

これはみなさんよく見ておられるパースです。

我々は、建物の外観、この外苑の森を「森のスタジアム」と名付けました。外苑の森は、東京でも非常に大事な緑のスペースなので、それとどうやって調和させるかということを第一に考えました。

実は、私の事務所はこのスタジアムのすぐ側にあります。それで、私の家は神楽坂にあるので、毎日このスタジアムの脇を通って、通っているんです。この場所の緑がどうなるかということに関しては、私も非常に関心がありました。

我々が考えたのは、まず建物をなるべく低く抑えたいということ、最高の高さは49メートルです。それから、建物を自然の素材、木をたくさん使って、木が感じられるような優しいスタジアムにしたいと考えました。

それから、この絵を見ていただくとわかるように、外観には緑を、本物の植物をたくさん植えました。それも東京の在来の植物をたくさん植えて、それによってさらに外苑の森と建物が調和するように考えました。

緑を植えると、みなさんは「メンテナンスが大変じゃないか?」ということを気にされると思うんですが、メンテナンスがなるべくかからないような木を選んで植えました。

地上から人の目にどう見えるかを最重要視

これが南側の入口からスタジアムを見上げたところです。普通の建築は、建築家はついつい建築を模型で見て、上から見て、格好がいいとか悪いとか言います。

しかし、私たちの場合は人間の地上のレベルから見たときに、建物がちゃんと人間に優しく感じられるようにする、ということをテーマに設計しているので、この地面のレベルから建物を見上げたときの感じが非常に大事です。

この見上げた絵で、木が見えると思います。これはひさしの軒(のき)の部分に木をたくさん使っています。日本の伝統的建築では、ひさしの下の軒の部分に木を使って、その部分がすごく美しいのが特徴なので、私たちもそのような日本の技を今回この建物に活かしたいと思いました。

例えば、みなさんご存知の奈良の法隆寺があります。法隆寺の五重塔も、そのひさしの裏の軒の美しさ、そこに木を使っている。その美しさが、この法隆寺の五重塔の大事な部分なので、我々はこういうものを意識して、このやり方を現代に蘇らせようと考えました。

それから、この軒に木を使うことのもう1つのいいところは、直接雨がかからないので木が長持ちするということです。

それによって、法隆寺は世界最古の木造建築と言われている。それと同じように、我々も木を軒のところに使って、雨が直接かからないようにすることで、メンテナンスを簡単にして木を長持ちさせる、メンテナンスコストを安くさせるということを考えました。

環境技術を“見える化”

これ(スライドを指して)は、明治神宮です。今回の敷地は外苑といって、明治神宮の森の一部であります。その外苑のこれが中心にあたる明治神宮の建物ですが、この建物も実はこの軒のデザイン、軒が重なったデザインというのを一番のポイントにしています。

これがスタジアムのなかです。ここでも、我々は木を感じられるような空間にしたいと考えました。屋根は、木と鉄を組み合わせたコンポジットのストラクチャーでできていて、特に下から見上げたときに木が一番見えるようなデザインにしました。

このスタジアムの観客には、スタジアムに入ると「あっ、木に囲まれてる」という、暖かさややわらかさをとても感じていただけるのではないかと思っています。

それから、この絵でもう1つ注目していただきたいのは、真ん中の抜けてる空が見えるところの周りにガラスの屋根があります。実はそれには、太陽光パネルを取り付けています。

このソーラーパネルは、下から見えるんです。ソーラーパネルは屋根にあっても見えなくて、観客にはわからないんですが、ここではソーラーパネルが下から見える。そういう環境技術の“見える化”、それを行おうと考えました。

このソーラーパネルで発電された電気は、先ほど(お見せしたように)この建物には緑がありましたが、その緑に水をやるエネルギーに使われます。

それからあとで出てきますが、ここにもともと流れていた渋谷川の水の流れを再現するということを我々はやってるんですが、その渋谷川の水をポンプで循環させるためにも、このソーラーエネルギーが使われています。

「陰」が建物に落ち着きを与える

これが建物の断面図です。ここで見ていただきたいのは、外に先ほどの木でカバーされたひさし状のものがついていて、その下にできる影があります。このひさしの下の影が、先ほどの法隆寺の五重塔でもありましたが、建物に落ち着きを与えて、森と建物を調和させます。

これは影がとても大事で、日本建築の場合、谷崎(潤一郎)の『陰翳礼賛(いんえいらいさん)』、みなさんご存知だと思いますが、そこにうたわれているように、影の美しさで森と建築を調和させようとしたわけです。

あともう1つ見ていただきたいのは、ここに風が矢印で書いてあります。今回は、風をどうやって建物のなかにうまく取り入れてきて、空調がなくても快適な空間を作るかということをシミュレーションで考えました。

そのようにエアコンがなくても風の流れによって快適な空間を作るというのも、これは日本の伝統的建築のなかで今まで培われてきた大きな知恵なので、その知恵をもう1回現代に再生しようと考えました。

そのときに大事なのは、ちゃんと風を計算してシミュレートすることです。しかし、夏の東京はだいたい南西の風が多いので、その風はひさしによって観客席のほうに下りてくる。

冬の東京は北東の風が多いんですが、それが観客席に下りてくると困るので、北東の風は上のほうに抜けていくように、このひさしはデザインされています。

それから、この断面は3段のスタジアムとすることによって、どの席からも観客席を近く感じられる。アスリートと観客をできるだけ近く感じられるセクションになっています。

市民に開かれた遊歩道「空の森」

もう1つの我々の売りは、「空の森」といわれる空中の遊歩道です。ここは、いつでも市民に開かれた遊歩道で、ここに見える外部階段によって、直接市民がここにアプローチできます。

1周850メートルなので、ここでランニングする人もいるでしょうし、ゆっくり散歩する人もいるでしょうし、ベンチに座って東京を空から見る人もいるでしょう。そういう方たちに、ここを楽しんでいただけるようにデザインしました。

私は毎日、前のスタジアムの前を通っていて、イベントをやってるときはいいんですが、そうじゃないときは、コンクリートのお城みたいですごくさみしい感じがしました。

だから、いつでも人がここにアクセスできる、という親しみやすいスタジアムにしたいと思って、空の森を作りました。しかも、空の森は木の空間のなかにあるというデザインにしました。

これはもう1つの環境に対する我々の提案です。渋谷川が、昔は新宿御苑が水源で、ここを通り渋谷のほうにいってました。その渋谷川をもう1回復元する、そのせせらぎの部分がこれです。

陰を操った「浅草文化観光センター」の例

今日は実は、このスタジアムのスライドのほかに、私どもが今までにやった建物についてのスライドも少し持ってきました。それによってどんな感じかというのを、イメージしていただければいいなと思いました。

これ(スライドを指して)は浅草文化観光センターという、浅草の浅草寺という寺の前にある文化観光センターです。これは浅草寺の有名な雷門です。この雷門の前に、我々の文化観光センターがあります。

これはコンペのときに出した案ですが、ここでもひさしが重なっていて、ひさしの下に柔らかい影を作るというのがテーマになっています。

これが断面図です。これを見るとひさしがたくさん出ている。その下に影を作るということ。それによって太陽光をカットして省エネルギーを図るという我々の意図がわかると思います。

これが完成予想図で、これができあがったものです。このように外壁は、やはりスギをたくさん使っています。今回も我々は、スギを提案しています。

スギを外壁の部分に、それからカラマツを屋根の部分に提案して、スギとカラマツというのは日本を代表する木の1つですが、これによって国産材をたくさん使って、このスタジアムによって日本の森を元気にしよう、という気持ちもあります。

このように外壁でスギを感じられるわけです。そのスギを腐らなくする、燃えなくするという技術も、いま世界中でここ20年間くらい、非常に早いスピードで技術の革命がありました。

そういうふうにして、木をもう1回、都市のなかでも使えるようになった。こういう世界の新しい流れがありますが、今回の国立でも、そういう木の新しい処理の仕方というものが施されるわけです。これは浅草のインテリアですね。

フランス「City of Arts and Culture」の例

次は、フランスでも我々は同じような考え方、同じようなコンセプトでブザンソンという町のCity of Arts and Cultureというのを設計しました。これができあがったのは3年前です。

このブザンソンという町は、世界指揮者コンクールをやる場所で、小澤征爾さんがここで24歳のときに世界で一番に選ばれた町で、日本ともとても関係が深い町です。

これが敷地です。真ん中のレンガの建物を保存して、その上に木の建物を被せました。

このように川と町の間に、左側の部分はせせらぎを復元したところです。それで、同じようにせせらぎをここでも復元して、町の人が水を感じられるようにするというデザインにしました。

これは川から見たところで、ここでも木です。ここはカラマツです。フランスのカラマツを使っています。

French Larch(カラマツ)ですね。

これがそのせせらぎを復元したところで、新しくこういう水の流れを使って、屋根に同じようなひさしを作ったんです。ひさしをつくって、見上げると木が見えるということをやって、ここはこの市の人にとって非常にすばらしい散歩道になりました。

僕はこれを縁側とフランスの人にも説明していますが、このようなひさしの下のスペースというのは世界中の人からきっと愛されると私は信じています。

これも縁側です。植える植栽もなるべく地元の、ローカルの草や花を植えて、そこのローカルな自然を大事にするということを考えました。

これは、やはり光と影をデザインしました。ここを僕は「木漏れ日」と呼んでる場所です。屋上にはソーラーパネル、それからグリーンルーフが組み合わされています。

屋根やひさしがこれからの都市には必要

次のものは2年前にできたパリの建物で、エントレポット・マクドナルドといいます。マクドナルドはハンバーガーではなく、通りの名前です。これは、エデュケーションとスポーツの複合体で、パリの北のコミュニティの中心になる施設です。

1970年にエントレポット・マクドナルドというのが、マクドナルド通りの前に500メートルの長さの建物でできました。

そこの500メートルを6人の建築家が、それぞれ場所を分割してデザインして、我々は一番西側のエッジの部分を担当しました。

下にある白い建物は1970年にできたコンクリートの建物で、我々はその上に屋根を乗せました。その屋根の下にできる影が、ここに来る人たちに安らぎや安心感、そういうものを与えると考えました。

これがその屋根のデザインです。実は、このルーフの下もカラマツでできています。カラマツを下から見上げたときに、このカラマツの質感が見えるというのが、すごく暖かく優しい感じがしていいと、市民の人たちからも評価していただきました。

我々は屋根を使ったんですが、ほかの5人の建築家は全部、箱の上に箱を乗せたデザインだった。我々は屋根やひさしが、これからの都市にとって必要じゃないか、と考えて提案しました。

私自身は1954年に生まれて、1964年の東京オリンピック、前の東京オリンピックのときに10歳でした。そのときに、丹下健三という建築家の設計した代々木の体育館を父親と一緒に訪ねて、本当に感激して、そのときに「建築家になろう」と決めました。

その代々木の体育館は今でも原宿の駅前にあって、すごく美しい、時代を超越した建築です。

私も丹下先生の建物のように、子供たちが訪れて、ここで木を使ってるとか、緑があるとか、そういうことに感激してもらえるような建物を作れたらいいな、と願っております。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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