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「妊婦にも、子どもにも、育休中パパにも厳しい社会に未来はあるのか?」 『マタハラ問題』(筑摩書房)刊行記念(全6記事)

就職先で人生が決まる時代は終わった--これからの日本のキャリア形成

2016年1月に書籍『マタハラ問題』を出版したNPO法人マタハラNetの代表・小酒部さやか氏、コピーライターの境治氏、働くママ(サラリーマンママ=リーママ)の力を社会に還元することを目指すリーママプロジェクト代表・田中和子氏の3名が「妊婦にも、子どもにも、育休中パパにも厳しい日本社会」の問題点と、その打開策について語り尽くします。新卒で入社した企業で人生が決まるという時代ではなくなった今、将来をどのように見据えてキャリア形成を行っていけばよいのでしょうか。働く上で持つべき意識について意見を交わしました。

自分の市場価値を意識していく必要がある

質問者3:会社が先か、自分が先かで言うと、希望としては私は「自分が先」で働きたいと思ってるんですけども。

ただ、会社の中では、会社のために頑張って、会社が生き残るために働いてるんだって声がよく聞かれるんですね。それが、今話された多様な生き方で損してるところになってるのかなと思ってます。

自分がやりたいことっていうのが一番にあって、それが会社の利害と一致するというところが、共同体としての強さなのかなと思ってます。

田中和子(以下、田中):今この話を聞いていて、日本全国もっと自由に転職しやすい国になったら、もっといろんなことが解決するんじゃないのかしら?

小酒部さやか(以下、小酒部):サイボウズの青野さんとかも、「副職禁止とかどんどんなしにしていこうよ」っておっしゃってて。これから労働人口がどんどん減っていくから、1人の人がいろんな仕事をできるような状態に持っていかないといけないし、終身雇用が破たんするので、この仕事がダメだったら次こっちのほうでやってみようってマルチになっていかないと。

境治(以下、境):そうそう。会社に人生を委ねたらずっと面倒見てくれるっていうのはもうおしまいだから! っていうね。実際にそうなってるわけなんですよね。立派な企業が中国とか台湾とか行ったりするのは、そういう時代じゃないっていうね。

小酒部:自分が会社にいる間も、自分の市場価値っていうのを私たちも意識していく必要があると思って。

ホントに会社に残ってる上司で、「ほかの会社に転職できないし、ただ居座ってて、その会社だから部長なだけであって、外に放り出されたら絶対使えないのに、こいつ」と思うような人いくらでもいるじゃないですか。

田中:(爆笑)。「うん」と言いがたいけど(笑)。

小酒部:(質問者の)2人のお話を聞いてて思うのは、市場価値がある方だから会社をこっちから切れるって、意識していく必要がありますよね。

:そう。そのぶん会社に頼る、あてにするみたいなことは決別したほうがいいよっていう。会社が突然なくなっても、どうしたら生きていけるかみたいなことはね。実際にたぶん、これからそういうことが起こったりすると思うんですよね。実際、今まで起こってきたしね。

就職先で人生が決まる時代は終わった

田中:私たち、就職氷河期第一世代なんで、同期の同じゼミの子とかが山一證券(注:不正会計事件後の経営破綻によって1997年に廃業)に決まってたのに、報道で行けないことを知った、みたいな。

:そこなんですよね。一番ポイントなのは、22歳で大学を卒業する時点で、昔はわりと人生のすべてが決まっちゃってた。本当に決まってたんですよね。でもそうじゃなくなってるってことを皆がちゃんと自覚して、会社とどう付き合うかとか、家庭をどう作っていくかとか考えないといけない。

田中:そうか。「会社が俺を・私を守ってくれない同盟」っていうのにすれば、55歳以上の人たちにも。

小酒部:そうですね、つながりますね。確かに。

田中:ちょっと名前が長すぎるんで(笑)。

小酒部:そこはコピーライターの境さんに(笑)。

:でもね、そこには今50代に変化が訪れてるから、わかるわかるって。田中さんに(笑)。

田中:「飲もうよ~」って(笑)。

:言ってる人たちは、そういうことを今発見してるんだと思うんですよ。「どうも俺らが考えてたライフプランと今違ってるんだな」って。

田中:そこに闘ってそうな私が出てきた、みたいな。

:(笑)。

田中:闘ってないんだけどね(笑)。笑って過ごしてるだけなんだけども。ぜひこの機会に聞いてみたい方、ぜひ。

ライフがあってこそのキャリア形成

質問者4:貴重な意見をありがとうございました。私は結婚とかもしてないですし、独身なんですけども、女性の働き方って意味では、今年で35歳になるのでこれからいろいろ考えていかないといけないなと思ってるので。

私、新卒のときからシステムエンジニアでずっと働いてきて。SEの仕事って本当に男性ばっかりっていうか、9割がた男性なので、マタハラの問題を抱えている以前に出来ていないので、女性が職場で働くことは大変だなと思うのと。

自分自身のところに当てはめてみると、仕事をやって周りの男性方についていくのが精いっぱいで、自分でこれから家庭をつくるとか、将来どうしていこうかなとかあまり直面してこなかった。そこを考えちゃうと、また周りの男性方についていけなくなるっちゃいそうだなって考えてて。

新卒とか、働き始める時に自分の人生どうしていきたいかっていうのをちゃんと考えておかないといけなかったな、っていうのを。

育児と仕事を両立するっていうのを、きちんと考えておかないといけなかったなって、今回すごく思いました。

田中:いや、過去形じゃなくて全然いいです(笑)。これからで。

質問者4:ありがとうございました。

小酒部:企業に頼っちゃいけないのかもしれないですけど、入社したときからライフがあってこそのキャリア形成をどうしていくかっていうところから、やっていかないといけないと思うんですね。

企業に入った時からライフって全部抜け落ちるじゃないですか。それがやっぱり問題かなと思いますね。

田中:もう少し前、企業に入る前からなんじゃないかなって。

小酒部:あー、学生のときからね。

田中:もっと言うと、組織の中で自分がどう立ち回るかっていうことは、とっても小さいころから意識してるんじゃないのかな。

小酒部:うーん。

自分は何をやりたいのかを考えてほしい

田中:私なんてもうどこ行っても1人が好きみたいな感じでしたけど、自分の子ども達は、友達付き合いの中でもそういうことをすでに気にしていて。少しは気にするのもいいと思うんだけど、組織との関係ももありながら、要は自分は何やりたいのかってことを考えてほしい。

自分がそれをやることで、どう社会に役立つのかなっていう、訓練というか思考を巡らす経験が大切なんじゃないかな……ていう話でまた1時間くらい話しちゃいそうなので止めます(笑)。

ほかに?

質問者5:僕もいろいろマタハラ問題とか児童虐待とか耳にするんですけど、そもそも個人の幸せがないと全体の幸せがないっていうのが抜け落ちてるんじゃないのかなって。

3年くらい前に社会心理学者の齊藤(勇)さんが言ってたのは、「個人主義の再インストールが必要だ」って。本当にそういうことなんじゃないかなって。

社会全体に対して私がっていうよりは、私が思うように生きたら社会が幸せになれるっていう、その発想のスイッチが必要なんじゃないかなと最近すごく思います。

小酒部:そうですね。

田中:すごいすっきりしました。

組織も含めて、小さな社会から大きな社会まで、何となく動いてるんだけども幸せ感が欠如している。中が空洞になってる感じでしょうか。ありがとうございます。

日本は労働者しかいない

質問者6:今日はありがとうございます。お三方に質問させていただきたいんですけども、結果として未来にどういうことが用意されていくかていうことが、予想でもかまわないんですけど。2つ意見がありまして。

今日の話をお伺いして、僕自身が考えていることと共通していることが2つありまして、1つ目は今日最初に出てきた、境さんが男性の方が女性の方に加わるそういう場面に共通すると思うんですけど。

自分も仕事で、マイノリティの方とか担当させていただいてるんですけども、それにも共通してると思うんですけども、マジョリティ、大多数の人がマイノリティに手を差し伸べるってこと、アメリカだと黒人とか白人とかの問題もそうなんですけど、マジョリティの人がどうやって動くかってことが1つ大事なのかなってことが1つあります。

もう1つは、日本の社会が今変わっていかない、昔の流れのまま来ているっていうのが、僕自身が考える一番の理由っていうのは、成功体験がないっていうことかなと。

いろんな働き方があって、いろんなデータはあって、いろんな海外のやつもあるけど、日本の社会に合うのか合わないのかっていうところもわからないし、誰もやってないというところで、成功体験がないというのがあって、そこが問題点としてあるっていうのが現状にあるんだろうと思っています。

働き方の多様性やダイバーシティ・インクルージョンとかも、専門家の人たちが成功体験をどうやって作るのかがカギなのかなと。そこで聞きたいのが、情報がどんどん出せる時代で、1つでも事例が出てくれば、今の時代に合ってくると思います。

この2つについて、田中さんと境さんのお二人にも自由にご意見あれば聞かせていただければと思います。

いかによいバトンにして次世代につなげるか

田中:はい。全体として目指したい未来像という中で、マジョリティの目線が入ってくることで変わっていくなってことと、ダイバーシティ・インクルージョンの成功体験をどういう風につくっていくのか。つくっていかないと進んでいかないんじゃないかってご意見でした。

小酒部:すごくいい意見だなと思いますし、私自身も日本に変わるという成功体験をしてほしいなと思ってます。今、本当、モメンタムが来だしてて、いい流れが来てると思うんですよね。

私、去年に国際勇気ある女性賞を受賞したときに、アメリカに行って言われて悲しい思いをしたのが、「日本は労働者しかいない、市民がいない。市民活動がない」みたいなことを言われてしまったんですね。「市民活動の仕方も知らないし、労働者同士で足を引っ張り合って、食いつぶし合ってる」ってことを言われたときに、すごい悲しい思いをしたんですね。

でも、今こうやって「保育園落ちた、日本死ね」もそうですし、マタハラもそうですし、モメンタムが来ているし、流れをつくり出そうとしているし、つくり出す人達が現れてるし、そこに皆賛同の声も上がってきてて、いい流れが出来ているので、この流れを絶やさずに盛り上がりをこのまま続けていってほしいし。

あとはやっぱり次世代のことを思いたいですよね。今私たち女性が進出できたのは、バリキャリで働いてくれた女性たちがいて、結婚とか妊娠とか諦めて、男性同様に働くことでしか女性は社会進出ができなかったんですよね。

なぜなら、女性は後から入る新参者だったから。男性の着ぐるみを着て、男性並みに働いて初めて、ああじゃあ女も職場に出てくるかってなった。

その人たちからバトンが来て、だから今私たちが育児しながら働けることがあるんで、感謝しなきゃいけないと思うんですね。

で、私たちにバトンが来たときに、いかによいバトンにして次世代につなげるか、今このマタハラという問題を解決しなければ、保育園問題を解決しなければ、今度は次世代が苦しむ。

今度は次世代が一体いくらの税金になるんだ、いくらの社会保障費になるんだ。4人のお年寄りを1人の人が見ないといけないってどれだけの負担なんだって。それでこの問題があったまま渡したら、確実に破たんしますよね。

やっぱりバトン効果だってことを意識していきたいですし、この流れをこれからもっともっと盛り上げたいと思いますし、1人1人ができること、例えば今日の話を家に持ち帰って家族でしてみること、上の世代の人に話してみること、子供に話してみることってことから始まっていくんじゃないかなって思ってます。

子供たちを大事にしてくれる人が欲しい

田中:堺さん、最初に私、いいですか? 私はママとしての思いを届けたいという思いでやってることからいうと、目指したい未来はですね、まず子供たちを大事にしてくれる人が欲しいと。なぜなら、子供はあなたたちの未来だから。

そこが分断されてるっていうのがすごく違和感があって。それは境さんのさっきの話にもありましたけど、子供のいないところで仕事をしていて、子供と関わる大人がお母さんたちしかほぼいないという生活を、50年、60年続けていて、そのくらい長かったですけど、それが成功しちゃったからそれが成功体験になっていっちゃってる。

ただ、それじゃあ続かないんですよね。その気付きをどうつくるのかっていうことは非常に大きな課題だと思っていて。例えば、子供がいない社会にあなたは住みたいですか? どうですか? っていうのを映像化するなり。

本当にサイコ・サスペンスみたいになっちゃうと思うんですけど。子供のいない社会で、あなたはこんなふうに生活するんですよってことを、本当に具体的に見せて行かないとわからないと思うんですよね。

その恐ろしい社会を取るか、ぎゃあぎゃあ言う子供の横で、その声を我慢するのではなく喜んで受け入れて、保育園を隣につくるのかっていうのを、まず選択させるっていうのが大きなところかなと。

そういう意味では、成功体験というよりは、恐怖体験かな(笑)。

企業での成功体験っていうと、ダイバーシティをマネージメントして……。このカタカナも日本語にしたいんですけど、多様性のある組織、多様な価値観を持った組織が、うまく経営として成り立っていくことが、成功していく、利益になっていく、新しい利益をつくるとう循環になっていかなきゃいけないと思うので。

ぜひ経産省さんにやってもらいたいのは、ダイバーシティ100選とかやってるじゃないですか。ご存知かしらね? これは、女性活躍であれ、障害者活躍であれ、いろんな多様な人材が活躍している企業に表彰するっていうことをやってるんですけど。

そういう表彰した企業たちをつなげて、そこで新しいことを生み出すとか、そこから新しい何かを出すってことを、象徴的なものでもいいからやってもらいたいんです。それがあなたの企業でもできるんですよ? ってことがわかると。

企業は慈善活動じゃなくて、営利活動をやってるので、営利につながってるっていうことをちゃんと記事にしないと動かないんじゃないかと思うんですよ。企業と社会の意識と、本当は両方ともムーブメント必要なんじゃないかなと。

最後に、男性、もしくはマジョリティの目線が入ってくるっていう意味は、経済活動の主流に乗って行くことや、社会保障の基準になっていくということとかにつながると思うので、どんどん入ってきていただきたい。

そこに対して、うまくママの声や、マタハラを受けている人たちの声が、届くといいですよね。今日の保育園の(テレビ報道に関する)グラフは、私非常に勉強になりました。動かすのは政治か! みたいな(笑)。

どうやって政治記者としゃべるか、っていうのが今日私が得たヒントでした。

マタハラ問題 (ちくま新書)

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