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後悔なき生き方(全4記事)

「勝ち組・負け組の世界では幸せになれない」川上全龍副住職が説く、死の間際に後悔しない生き方

2015年12月10日、「IVS 2015 Fall Kyoto」が開催されました。Session6「後悔なき生き方」に登壇した、春光院・川上全龍副住職は、人が幸福感を感じて生きるために必要な「ワンネス」という考え方について紹介しました。

勝ち組と負け組を分けたリーマンショック

小宮悦子氏(以下、小宮):今おっしゃっていたことは、まさに川上さんがおっしゃっていた、自分と他を一体化して認識することはなかなかできないんだけれど、その境地にあるとき達したと理解していいんですかね。

川上(全龍)隆史氏(以下、川上):そうですね。先ほどから言ってるんですけど、ワンネスという考え方は、自と他を分けずに全体的に客観的に見るということなんですよね。

この、もともと仏教にある考え方が、最近非常に注目を浴びてるというのは、やはり転機になったのは2008年のリーマンショックくらいなんですよね。リーマンショック以前は実践主義、資本主義が絶対と思われてた時代なんですよ。

ただ、リーマンショックが起きた段階で、結局のところ勝ち組負け組で分かれてる世界で、勝ち組は自分の利益ばかりを追求、自分の夢の実現のために突っ走っていて、他のことを気にせずにいた。結局社会全体が崩壊してしまう。崩壊してしまったことによって、すべての人が何かを失うわけなんですよね。

それによって、新しい概念というのが必要になってくる。それによってとくにシリコンバレー系の人間、経営者の人間たちがアジアの考え方を見たときに、資本主義とか実践主義というのは西洋ベースの哲学ですから、その中には答えがなかったと。じゃあアジアのほうを見てみようと。

東洋思想なんかを見たときに、ワンネスって。仏教用語で言うと「一如」、一に女編に口と書いて一如というんですけど。そっちのほうに目が向く。

結局社会全体の幸福度を上げないかぎり、自分も幸せになれない。結局自分というのは、独立した存在ではないんですよね。

やっぱり先生もさっきからおっしゃっているように、自分というもののイメージは、周りとの繋がりによって形成されていく。あとみなさんの行ってる行動というのが、例えばみなさんがチョコレートを1個買ったとして、それが500円だろうが200円だろうが、単なるチョコレートを普通に買ったと。コンビニで買ったと考えてください。でもその買ったという行動自体が、何人の人に影響を与えるか。

今はとくにチョコレートなんかそうですけど、カカオのフェアトレードとか。その買ったチョコレートのお金がどういう会社にいくか。子供を酷使してる会社にいくのか、それともそのお金がそういう農園で働いてる人たちに満遍なくいくのか。そういうところになってくると思うんですよね。

結局1人の行動が、すべてのものに影響を与えていくし、いろんなものが自分にも影響を与えていく。その相互作用を考えた上での行動が必要になってくると思うんです。

イエローストーン国立公園の生態系

小宮:そのリーマンショックというのは、いまだにみなさん生々しく覚えてらっしゃると思うんですけれど、そこでいったん世界が、資本主義が行き詰まった。これはもうこの上にほかの価値を付け加えないと、あるいは変更しないと、人類はやっていけないんじゃないかと思ったってことですか?

川上:そういうことですよね。とくにリーマンショック以前にも環境問題を考えたときに、人間が1個1個を良い悪いで判断していっても、結局のところ全体を見ない限り、答えが出てこないということに気づくわけです。

良い例というのが、アメリカのイエローストーン国立公園なんですけど。1920年代くらいに、狼を全部駆逐しちゃうんですよね。なんでかというと、家畜を食べてるし、絶滅危惧種になりつつあったアメリカバイソンやバッファローも食べてしまっている。

そういう状況のときに、人間が勝手に判断して、「狼は悪いもんなんだ、じゃあ駆逐してしまおう」と。

一斉に駆逐してしまうんですけど、それによって何が起こったかというと、アカシカの数が爆発的に増えるんですね。アカシカが増えることによって、結局生態系が完全に崩されてしまう。しかもバイソンの餌まで食べてしまう、そしてバイソンの数まで減ってしまう。

それによってだいたい1995年くらいに、狼をもう1回導入しようということになったんですよ。そのイエローストーン公園の中に。それによって、この間やってたニュースなんですけど、20年くらい経った後に生態系が戻ってるんですよね。

ですから、結局目の前にあることだけで良い悪いを判断するのが人間の常なんですけど。そうじゃなくて自分というものをさて置いて、客観的に全体を見ることが非常に重要になってきてると。人間はリーマンショック以降、そういうことに気づきだしたということですよね。

「悔いのない生き方」をしていくには

小宮:そういう境地に達するというのは難しいことだと思うんですけれど、何かのきっかけがあって、あるいは経験があって、初めてそういった客観的なところなんでしょうか? ここからは、「悔いのない生き方」というテーマに少し迫っていきたいと思います。

川上:子供のときとか今でもよろしいんですけど、一番自分の周りにいる人の中で、この人の人生の助けになってあげたいという気づきが必要になってくると思うんですよね。別に大きいことを最初からしてくださいということは、絶対必要ないです。

この間「TEDxKyoto」でお話しさせていただいたんですけど、そのときのプレゼンターの中にちょうど、カミヤアスカちゃんという女の子がいたんです。

小学校6年生、12歳の女の子なんですけど、彼女は特許を持ってるんですよね。どういう特許を持ってるかというと、彼女はスチール缶とアルミ缶を自動的に分けるごみ箱を作ったんです。

そのきっかけというのが、アスカちゃんのおじいさんがスーパーマーケットを営んでいて、おじいさんがその缶の分別ですごい苦労をしていると。それをなんとか助けてあげたいというのを、小学校4年生くらいからずっと思ってたらしいんですね。

お父さんも発明家らしくて、いろんなお父さんの助けを得て、缶を捨てるだけで、穴に通すだけでスチール缶とアルミ缶を分ける。これをできる特許を取得するんですよ。

でも、そういうのは彼女の純粋な思いで、「おじいちゃんを助けてあげたい楽にしてあげたい」という思いだと思うんです。そういうものって、とくに大きな団体に寄付してくださいとかそういう問題じゃなくて、周りにいる方ですよね。

親戚でもいいし、友人でもいいし、それから先生がおっしゃっていたように、小さいときに負傷した兵士の人がいたという、そういうことに気づいていただくということが、これからの人生の中で重要になってくると思うんです。そこからその人を幸せにすることによって、だんだん動きが大きくなっていく可能性もあるんです。

勝てないときに勝負する必要はない

小宮:みなさん今までの人生をお考えになって、「あのときがそうだったんだ」というそんな瞬間を今思い出してらっしゃる方もいるかと思うんですけれども。

要は、意識はわかりました、なんとなく理解した。だけどそれに気づいてから、行動に移すという。これはまた1つの飛躍ですよね。ここにいらっしゃる方は起業してらっしゃる方がほとんどですから、行動力というのは備えていらっしゃると思います。

吉岡先生にうかがいたいんですけれども、医療を届かない子たちに届けたい、そこから今回のカンボジアの病院もそうなんですが、ぽんと行動にいきますよね。これはなにか信念のようなものがおありになってやってらっしゃるんですか?

吉岡:今でも医療者とか医学生の方とかものすごい数いらっしゃるんですけど。さっきのは、医療者だけですからね。僕は人生というか、やるべきことを、ちょっと普通の人とは時間軸をずらして考えています。どういうことかというと、自分の子供にも言うんですけど。

例えば、子供のときにいじめられてるとするじゃないですか。普通の親は「頑張って行け」と言うじゃないですか。僕は絶対にそんなこと言わないんですよ。肉体的に勝てないと思ったら引っ越そうと素直に言いますね。もしやられたらですよ。

なぜかというと、中学校3年生でやられてても、(その内)体力差が逆転するじゃないですか。それから今度、20歳を過ぎたら強さの基準が変わりますね。そして、それが年齢とともにどんどん変わっていく。だから、勝負なんて勝てるときにすればいい、負けるときにする必要はないと思ってるんです。

常にそういう感じで、僕は時間軸を伸縮自在に引き直すんです。だから、別に自分の代でこれがうまく成功しなくてもいいんです。みんなが自分の上を踏んでいってくれて。

だって西洋医学って、もともとサイエンスじゃないですか。だから自分ができることは他人にもできるという前提で進んでるし。だから、全体をそういうふうに組み立てていかないといけないんですよ。

だからなんでも自分がやる必要はなくて、今はなんでもそうじゃないですか。テクノロジーも全部一緒ですよ。僕らの歴史は全部そうじゃないですか。前の人の財産の上に後の人が乗っかってきて、そして事が成されていく。それが自分のところでできたらうれしいですよ。

だけどそれだけじゃなくて、自分の代でできないこと、そして自分の代でできること。それはなにかわかりません。みなさんだって、5年後何が起こるかわからないわけですから。社会もそうですし、この業界もそうですし。僕ら医療業界も同じです。どんなイノベーションが起こるかもわからない。

明日アルゼンチンあたりの中学生に、僕の作ってきた価値観が、長年大人が作ってきた価値観が、一気にひっくり返される時代じゃないですか。だから、わからないんです。わからないからこそ、今できなくてもいい。でも確かな一歩。山を登るのと一緒で、一歩一歩登っていくしかないわけですから。

そういうかたちで、できるかできないかよりも、自分の代でできるかできないかであって。でも失敗しても、それを元に誰か違う人がそれを利用していってくれますね。

だから、そんな感覚なんです。あんまり失敗という感覚がなくて。失敗したら誰かが僕の失敗を避けていってくれたらいいと思ってるだけなんで。でも、やらないことは僕の人生の大損失なんで。

成功の反対は失敗ではない

小宮:先生が本に書いてらしたのが、成功の反対が失敗ではないと。

吉岡:違いますね。

小宮:成功の反対は、何だと思いますか? 成功の反対は、何もしないことだというんですよね。

吉岡:そうですね。みなさんも起業家の人たちだし、十分わかってらっしゃると思うんですけどね。それからもう1つ、最近ちょっと気づいたことは、振り返ってみると、今の人たちの考え方に染まらないようにすごく気をつけてきたんです。

小宮:例えばどういうことですか?

吉岡:持続性があるかとか、それは企業の人たちの得意な分野ですけど。先のことがわからないので、状況がすっかり変わっている可能性があるじゃないですか。

僕の今までの経験上は、例えば丸いものを作ろうと計画を立てて、絶対丸くは納まってないんですね。計画を立てるなと言ってるんじゃないくて、それは僕は得意じゃないと言ってるんですけど。そうすると、でき上がったものがいびつなかたちになることがしばしばじゃないですか。

だからシチュエーションも違うし、時期が違えばいろんな変化も起こっているし、時代の荒波も被っているかもしれない。だから、最低限の装備が備わったら船を漕ぎだせというのが、僕の感覚ですね。そして漕ぎながら、生き残れと。臨機応変に対応して生き残れという感覚で進めてるんですね。

計画を作るとかサステナビリティを作るというのは得意な人に聞いて、僕自身がやるしかないので。ただし最初のワンプッシュは絶対やろうという感覚になってます。

小宮:自分で自分の背中を押すというのはできないことなんですけれど、どうしたらその一歩をプッシュできる?

吉岡:それはもう、自分の生を死から逆算するしかないですね。死を感じない生なんて、密度がないから。人間って自分の命と他人の命が分離してるって考えるじゃないですか、それワンネスじゃないんですよ。

ワンネスというのは、言ったら円じゃないですか。円というのは点がつながったものですけど、必ず連続性があるものじゃないですか。必ず自分の命と他人の命は連続してるんですね。

だから自分の目の前で他人が死ぬとか、それを僕たち医者もすごいたくさん経験するんですよ。でも、自分には起こらないと思ってるんですね。でも僕は人が死ぬたびに、明日は自分の姿だと認識してます。だから、今日やれることはやっとこうと思うんです。

明日どうなるかわからないんですけど、みんなが僕のやったことをなしにするかもしれないんですけど、でもいいんです。自分のやれることをやっとおこうと。

それが自分の人生を生きたことになるからという意識です。だから死というものは、常に強烈に意識していますね。

これも言うんですけど、死を近づけ過ぎると、人間は生きる気力を失いますね。ですから、その死といかに一定の距離を保つかというのが非常に難しいところなんですが。それはもうずっと同じ距離ではなくて、離れたり付いたりするんですけど、うまく死とのバランスをとりながら生きてる感じがします。

人間は結局、どのように死にたいか

川上:今先生がおっしゃられた、「死」という言葉になるんですけど、私と先生は言ってみれば死というものが間に入ってくると思うんですよね。間というか、共通点でもあると思うのが、先生は死を食い止めるための仕事をされてる。私の場合は、亡くなった方をそこから引き継ぐわけですよね。

やはり私も、和尚になってからもう10年くらいなんですけど、やっぱり父の背中を見ていて、ずっと変化を見ているわけなんですけど、今の人たちは死に接する機会がないんですよね。核家族化が進んでてしまって、老人とも暮らしていないから、老いた人も周りにいない、老いるということも理解できない。あと、お葬式というのは、昔は自宅でやっていたんですね。

私が小さいときは、父が亡くなった方の自宅に行って、そこで葬儀をやる。そういうことをするとどういうことになるかというと、やっぱり周りの人が来るんですね。

近所の人たちが来て、ある程度死というものが定期的に周りにあったんですよね。死に毎回接していると、自分もこうなるんだし親もこうなるんだというのを理解できてたということが定期的に起きていたのが、今はなくなってるんですよね。

だから人が亡くなって病院から葬儀場に直行して、小さい子供って、葬儀場に行かないわけじゃないですか。近所のおじちゃん死んだみたいだけど、葬儀場でやってるからわかんないやみたいに。

いつの間に死んでたんだ、亡くなってたんだみたいな状況になってるので、自分の命も限りがあるんだというのがわかんなくなってしまっている。ですから、だらだらと、何かこの生活でずっとやっていけば大丈夫なんだって、勝手に永久的に物事が続くような錯覚に陥ってると思うんですね。

ただそこじゃなくて、本来人間は死に、この瞬間瞬間近づいてるわけですから。去年も健康経営というパネルディスカッションで出させていただいたときに、人間は結局、どのように死にたいかということですよね。

今みなさんが健康を考えたり、自分の生き方を考えるときって、結局最後、どのように死にたいかということになってくるんですよね。そこから逆算で、自分の人生がどのようになってくるかを考えるといいと思います。

考え続けると鬱になる

小宮:まだ会場にいらっしゃるみなさんはお若いから、ずっと生きていくんじゃないかと思ってらっしゃる方がほとんどなんじゃないかと思いますけれど、だんだん変わってきますよね。

川上:変わってきますし、若いからといって、自分の死が遠いというわけでもないと思うんですよね。37歳くらいで癌になって亡くなられてる方とか、最近ニュースでも多かったと思いますし、突然の事故死というのも、私も友人を2人事故でなくしています。

そういうのを考えるときに、若いからといって、自分の死が遠くにあるわけでもないんですよね。ですから、私が今できることは何だろうかというのを、毎日考えて生きる。

そういうことができるようになると、先生がおっしゃっているように、自分の背中を押すことってできると思うんですよね。

小宮:考え続けるこということですね。

川上:そうですね。でも死のことを考え過ぎると鬱屈状態になっちゃいますから。ただ定期的に自分の人生って、ここまでこう来てるけどどうなんだろうと、客観視してみることが重要になってくると思います。

小宮:その、考え続けると鬱になっちゃうというのはなんとなくわかるんですけれども、そういうときに身体を動かすというのは、1つの方法ですよね。とにかく動いてみるというのが、たぶん吉岡さんの原動力になってるんじゃないかなと思うんですけど。どうですか?

吉岡:おそらく、動くほうが楽ですね。よく思うのは、独房に閉じ込められるよりも、肉体労働、過重な労働をさせられたほうが楽なのと同じだと思いますね。

瞑想で静的瞑想より動的瞑想のほうが楽なのと一緒で、おそらく行動するほうが、頭で考えて思い悩んでぐーっとやってるよりも楽だと僕は思いますね。だから、選択肢としてきっと僕は本当に楽なほうを選んでると思いますよ。

小宮:いや、なかなか楽ではないと思うんですけど。私はお一人様ですし、子供いませんし。女性が1人で、明日死んでもいいかなと思って生きている方で、まあそのときは野垂れ死にするんでしょうね。でもそれを別に、悪いと思ってないんですよね。

というのはさっき利他というお話がありましたけど、私はどっちかというとずっと優等生できて、お勉強はできる女の子。でもマイノリティで(笑)。

それでテレビ局に入って、ニュース番組に出会うわけですけど。それまでは自分のために頑張るってすごく苦手で、それこそ自己評価も低くて、頑張れなかったんですけど。そのニュースというものに出会えた途端に、頑張れるようになったんですよ。

他人事じゃないんです、いろんなところで起きてることが。冷戦が終わったのもオウムの事件も、9.11もそうですね、自分とつながってるような感じを持てて。

その取材やニュース番組を作るためだったらどんな苦労も苦労と感じなかったという経緯があったものですから、それはとても幸せなことですよね。

本当に幸福だったと思いますし、今またそれに変わる幸福を求めて探している最中なんですけれど、だから明日死んでも大丈夫って思ってるんですね。なかなかそういう境地には至れないんだろうと思うんですけれど、そう思ってしまうとわりと思い切りができるというか、決断ができる踏み出せるという、ある種のエネルギーにはなりますよね。

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