2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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小宮悦子氏(以下、小宮):吉岡さん、ありがとうございました。これからは、もうひと方のスピーカーの川上さんを交えてお話をしていきたいと思います。川上さん、お寺の副住職で、その証を身につけていらっしゃるので、確かですね。
川上(全龍)隆史氏(以下、川上):そうですね。
小宮:自己紹介を兼ねて、今吉岡さんのお話を聞いた感想などからいただきたいと思います。
川上:初めまして、川上と申します。このIVSでお話させていただくのは、今年で2回目になります。去年も喋らせていただいたんですけど、「お坊さんかどうかちょっとわかんない」と言う方がいたので、今日はこういうのをつけさせていただいてます。
私も吉岡先生のお話を以前から聞いておりまして。副住職なので、お坊さんなんですけど。最近「ワンネス」という考え方、とくに企業、最近は海外の企業のほうが多いんですけど。
そういうコンセプトについて、海外の経営者の方たちにお話をさせていただいてるんですが、そういうところで非常に吉岡先生がやっておられるところと通じるものが出てきてると思いまして。今回もパネリストをやらせていただきます、よろしくお願いいたします。
小宮:吉岡先生。今、私たちがふだん目にすることがないような画像をたくさんご覧いただいたんですけれども、少なからず衝撃を受けてらっしゃる方もいらっしゃると思うんですが。これが今の東南アジアの現実だということですよね。
吉岡秀人氏(以下、吉岡):はい、少なくとも貧困層の現実ですね。僕らが見聞きする情報というのは、日本もそうですけど、中間層以上の人たちの情報ですね。ビジネスが沸騰してるとか、そういうことしか目撃しないんですけど。やっぱり現実として、これがあります。
小宮:そもそも1995年、どうしてミャンマーで医療活動をしようと思われたんですか?
吉岡:僕はこういう、絶対に医療を受けられない人たちのために医者になろうと思ったんですね。だからそういう国で働くことには迷いがなかったんです。
ただ、なぜミャンマーかというと、70年前の戦争のときに、日本人がここで20万人亡くなっているんですね。従軍した人で、3分の2が亡くなっています。
戦後ちょうど50年目のときに、その遺族の人たちから頼まれたんです。とにかく自分の家族がなくなった場所で、命を失った場所で、自分たちも年をとっていけなくなったので、命に変わる事業に切り替えたいと。
命を慰める事業から、命を生み出す事業に切り替えたいと。だから「先生行ってくれないか」と言われたので、僕が行ったんです。それが最初です。
小宮:「ワンネス」という考え方は通じるんでしょうか? 吉岡先生が今さらっとおっしゃったんですが、ミャンマーじゃなくても海外で医療を受けられない子供たちのために活動すると決めたのが、なんと中学生のときだと。
吉岡:そうですね、中学生のときです。
小宮:本で書いてらっしゃいますよね。中学のときに、自分の生き方をこれだと決められる方が何人いるかと、それだけでも稀有な例だなと思うんですけれども。
そういった生き方、しかも他の人たちのために生きようと、中学生ですよ。考えるというよりこれは、どのように理解したらいいんでしょう。さっきおっしゃっていた、「ワンネス」ということに繋がっていくのかもしれないんですけれども。
川上:「ワンネス」の考え方というのは、先ほど先生がスピーチの最後のほうにおっしゃられてたんですけど。「人間というのは、他人を通してでしか自分を認知できない」とおっしゃられたんですね。
私たちはよく「自と他」と自分と他人を分けてしまって、とくに戦後の日本の教育方針というのが「自己実現」といって。それが教育のメインなんですよ。
それが教育指針になっているんですけど。そのために、自分だけの自己実現とか自分だけの利益実現とかいうかたちになっているんですね。
ただ、吉岡先生は、中学生のときにそれを決められたという。非常に利他ですよね。利で、他人の他ですよね。他人と自分というものを、一緒に考えられる。そして他人のために生きるというものを、何かどこかで経験されてると思うんですけど。
私からも質問になるんですけど、中学生のときに決められたということで、なにか個人的な経験、例えば家族の方や周りの方であったんでしょうか?
吉岡:僕の行動のベースは、感謝なんですよ。何の感謝かというと、自分の運命に対する感謝です。僕は大阪の吹田の生まれなんですけど、昔国鉄の改札を出ると、ずっと地下道だったんです。
その地下道をずっと歩くと、僕が子供のとき……もう東京オリンピック終わったあとじゃないですか。そのときに、傷痍軍人の人たちが、いっぱい座ってたんですよ。手足のない人たちが、本当に軍服を着て足にゲートル巻いて、みんな座っていたんですよ。僕は気味が悪かったんです、子供だからよくわかっていないし。それが昭和40年ちょっとの時代ですね。
同じ時代、1965年というのは、中国で軍備拡張競争が始まった年ですね。それから中国ってほとんど栄養失調になっていくじゃないですか。ちょっと下ると、ベトナム戦争がバリバリの頃ですね。しかもそのとき韓国は、バリバリの軍事政権じゃないですか。そのちょっと後にポル・ポトは、人口の3分の1を虐殺することをカンボジアでやってのけた。
このわずか20年の差なんですね。20年前アメリカによる空爆に次ぐ空爆で焼け野原でしょ。わずか20年という時間と、わずか飛行機で1時間というこのわずかな時空のズレが、僕の幸せを決定してると思ったんです。これはもう僕の力じゃなくて、運命じゃないですか、はっきり言って。だから、本当にありがたいと思ったんですね。
もしかしたら僕が飛行機で1時間飛んだところ、もしかしたらもっと前に生まれてたかもしれないのに。だから、本当にありがたいなと思ったわけです。それが最初のきっかけなんです。運命に対する感謝です。
だからこの感謝を、何らかの自己表現というか、お返ししたいと思いましたし、なにか世の中に還元することによって僕の気持ちを表したいと思ったのが最初なんです。
小宮:川上さんが、日本の教育は自己実現だと。つまり自分の夢を叶える、そして競争の中で自分を認められる存在にするということを目標に行われてきたというお話をされたんですけれども。
ここにいらっしゃるみなさんも私たちも、そういう中で育ってきたわけですよね。それと利他というものは、かなり距離があるような気がするんですけれど。
川上:やっぱり自己実現ということで、教育を受けてるわけなんですよね。それでよく聞く話が、去年くらいに京大の経済学部の教授の方とちょっとお話してたんですけど、京大の医学部って、最近困った性格の生徒が入ってくると。
その話をほかの人にもしたら、東大とか有名な国立大学の医学部と同じなんですよね。自分がいかに賢いかというのを証明したいがために医学部に入ってくるやつがいるというんですよね。
先生のように人を助けるためとか、世の中のためになることをするために医者になる人が非常に減ってるっていうことが、よく聞くようになりまして。
やはりそういうところって、教育の問題だと思うんですね。もう1つ私が考えていたのが、「マインドフルネス」という分野の仕事もやってるんですけど、瞑想で人のストレスとか共感性とかを高めていくんです。
そちらの分野の研究を自分で勉強してるんですけど、人間というのは他人を幸せにすることで、自分も幸せを感じている。最近そういう文献というか学術研究を見ていると、ブリティッシュコロンビア大学というカナダの大学の教授がやった研究によりますと、2歳の子供でも、他の子供におやつを与えるほうが自分がおやつをもらうよりも幸せを感じるんですよね。
人間は生まれながらにそういうことができてるはずなのに、どっかでそれがずれてしまうんですよね。大学くらいになってくると、自分を認めてもらいたいがために医学部に行く人たちが増えてくる。そういう悲しい現状になってると思います。
吉岡:僕は20年もやってきていっぱい死にゆく人たちも見送ってきましたけど、その中で気づいたことがいくつかあります。
なにかというと、先ほども言われましたけど、人間って自分のことがわからないんですよ。鏡がないとわかんない。今僕はどんな人間かと聞かれれば、それは生まれてからずっと、はっきり知性もない頃からずっと周りが与えてくれたイメージの総和が、僕の自己イメージなんです。
だから自分の自己イメージを、例えば人を傷つければその人は泣きますね。人を喜ばせれば、喜んでくれますね。そしたら、人を喜ばして「ありがとう」と言われれば、僕はそういう自己イメージを受け取るわけです。泣かせればそういう自己イメージを受け取るし。そういうものすごい無数のイメージを受け取って、それの総和が今のイメージのはずなんです。
要するに、自分の自己評価が低い人間というのは、絶対に幸せになれないですね。何をやっても自己イメージが低いから。幸せになれないですよね。
さっき言ったように、逆説的ですけど、どうやったら自分の自己イメージを高めることができるかというと、自分では高めることはできないんです。悟りを得てるわけではないので、自分のことを客観視できないんですね。
ですから、周りに言ってもらうしかないんですよ。そうすると僕らが幸せになる方法というのはたった1つしかなくて、周りを喜ばせる以外ないんです。
そうやって自分の自己イメージが高い、自分を本当に大切にできるということですけど、自分を本当に大切な人間だと心から理解できる人間ですね。
でなければ、小さいときに親から虐待受けた人は自己イメージ低いですね。だって大切にされてないから、そういうイメージばっかり受け取るから。そうやって自分のことを大切にできる人間だけが、人のことを大切にできるんです。
人間というのは自己の延長線上で人を認識しますから。自分が幸せじゃないのに、他人の幸せなんかわかるわけないんですね。だから人を本当に幸せにできる人間っていうのは、自分が本当に幸せな人間だけですね。
だから、その自己実現じゃないですけど、自分は幸せになる必要はあるんです。ただし、逆説的ですけど、自分が幸せになる方法は、他人を喜ばせるしかないという。
僕がやってることは、いつも言いますけど、自分のためにやってますから、こんなことを。だって僕がやりたいと思って、ミャンマーの人が僕のところに来て「助けてくれ」って言ったわけでもなんでもないんです。
僕は彼らの現状に我慢できなくて、僕が嫌だからこの現状を変えたいと思ってるからやってるんです。だから、まさに僕のためにやってるんです。そしてそれをやることによって、彼らは喜んでくれる、感謝してくれる。そのイメージの積み重ねで今の僕があるんです。
だから、続けることができると思うんです。自分のための苦労以外、人間そんな長く続かないですから。親子であっても友人であっても、他人にずっと苦労させられたら、途中でダウンしますよね。でも、自分のためだけは続けることできるじゃないですか。
なぜかというと、それによって得られるものも失うものも、全部経験になってそして未来に繋がってることもわかるからだと思うんですね。
だから僕が続けていける最大の原動力は、自分のためにやっていると割り切ってるからです。ただし、自分のためというのは他人のためでもあると僕の中では理解しています。
小宮:それはもう、一貫してそういうことなんですか? 悩んだり迷ったりということはなかったんですか?
吉岡:いや、迷い続けてそこに到達しました。だから本当にたくさんの方が来てくれて、朝の5時から夜中の24時まで毎日患者を診てましたよ。もうへっとへとになりましてね。だけど、肉体はヘトヘトになってもいいんです。人間だから。
だけど、心がヘトヘトにならないはずなんです。だってそれをやりたくてここへ来て、それをずっとやり続けてるのになんで心がこんなに苦しいんだろうって思ったんです。
そのときにパッと僕の目に入ったのは、患者たち、その家族だったんですね。この人たちは借金もして、4日も5日もかけてあの悪路を、しかも満員のバスを乗り継いで僕のところまで来てる。なぜ来てるかといったら、もう自分のためじゃないですか。自分の病気を治すため、自分の人生を良くするため。そのために来たんですね。
僕のところにたくさんの人が来ましたけど、「ああ、この人たち本当に自分のために生きてる」と。だからこんなに幸せそうにしてるんだなって思ったんですね。
それまで僕は、この人たちのためこの人たちのため、人のため人のためってやって、結局自分がくたびれちゃって、ぜんぜん幸せを感じられてないと。
僕らが幸せにすべき最大のものは、自分の人生ですね。これはだって、誰も幸せにしてくれる保証がないですから。自分で幸せにしないと、誰も幸せにしてくれないということを、そのとき気づいたんです。
だから100万人助けても、自分のこのたった1つの人生が蔑ろにされてたら、絶対僕はこの人生を生きた意味がないと思ったんです。
だから私というこの1つの人生を、いかに大切に扱うか。それは同時に、他人の人生をいかに大切に扱うかなんですけど。そういうことに、僕は途中で気づいたんです。
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