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『男が働かない、いいじゃないか!』出版記念トークイベント(全5記事)

「仕事から降りられない」「愚痴を言えない」 弱みを見せない男たちが抱えるもの

「女が家に入らなくてもいいじゃないか」は言われ始めてだいぶ時間が経っています。しかし、「男の人が働かなくてもいいじゃないか」という考え方については、まだタブー視する風潮が強く残っています。「仕事から降りる」という選択肢が与えられていない、なかなか愚痴を言えない男性たちは今後、どのように生きていけばよいのか。書籍『男が働かない、いいじゃないか!』を出版した、男性学の専門家・田中俊之氏とラジオパーソナリティーやコラムニストなど、多方面で活躍するジェーン・スー氏が男性が抱える問題について意見を交わしました。

『男が働かない、いいじゃないか!』に込めた意味

田中俊之氏(以下、田中):今回、『男が働かない、いいじゃないか!』という本を書かせていただいたんですけども。このタイトルに対して、どういう意味かなぁと思う人がけっこういらっしゃるんじゃないかなと思うんですが、堅く言い直せば、「男性の仕事中心の生き方を見直しましょう」ということなんですね。

男が働かない、いいじゃないか! (講談社+α新書)

そういう言い方をしてもいいと思うんですけど、たぶん堅すぎて一般の人に伝わりにくいと思いますし。男が働くというあまりに強い固定観念に対して働かなくてもいいじゃないかと肯定してアピールしたいなという思いがありまして、このようなタイトルをつけました。

本当に「働かなくていいんですか?」という質問もたくさん出てきちゃうんじゃないかなと思うんですけど、この本は質問があって、見開き2ページでそれに答えていくという形式になっているんですけど、最後の質問が「働かなくてもいいんですか?」です。「もちろん大丈夫です」という書き出しから始まっています。

そこの部分をお読みいただければ、どういう意図があるのかというのはわかっていただけると思います。これからお読みいただけるんだと思いますけど、ここでは言わないで、ぜひ帰って読んでいただければなと思います。

スーさんもお読みいただいたと思うんですけども、ご感想などを簡単に。

ジェーン・スー氏(以下、スー):ありがとうございます。読ませていただきました。ひとつひとつ丁寧に、若い方もふくめて、思い込みを解いていくためには、こんなに設問が必要なのかと驚きました(笑)。

「女が家に入らなくてもいいじゃないか」とは、言われ始めてだいぶ時間が経っています。まだなかなか実現できてはいないことだと思うんですけど。それでは「男の人が働かなくてもいいじゃないか」と言われると、いまだにちょっとドキっとする人が7、8割だと思うんですよね。

田中:そうですね。

スー:履き違えてしまうと、「労働しないでどうやって食べていくの?」みたいな話になりかねませんが、読み進めていくと、そういう話ではないとよくわかります。田中先生がわかりやすく説明してくださったなと思いました。

田中:ありがとうございます。今、スーさんからもご説明があったと思うんですけども、やっぱり日本の男性というのは、働くということと男性の距離が近すぎるという問題意識がそもそも私の中にあるんですね。「近すぎて何が悪いの?」っていう話もあると思うんです。

「何が悪いの?」ということで、2つ問題を指摘したいと思うんですけども。まず、組織のレベル。働いているみなさんにとって自分と会社との距離ということになりますが、これは近すぎると、会社と自分が一体化しすぎてしまって、会社というものを客観視できなくなっちゃうだろうと。

例としてこの本にもあげたんですけど、たとえば東芝の不正会計を考えたときに、歴代の3人の社長が「不正会計してね」って言って、してねって言われても、「いや、おかしいですよ!」って言う社員がいても僕はいいと思うんですよね。

それが、「あぁ、そうですか」となっちゃう。たぶんこれが会社のためになるって考えてみなさんやられると思うんです。不正行為というのも。それも会社と自分の距離があれば、もう少し異論とか反論とかあるんじゃないかなと思います。

「一生懸命働いて何が悪いんですか?」という質問もあり得ると思うんですけど、距離が近すぎるということ自体は、実は会社にとってもデメリットがあるということをぜひ言いたいです。

男性は結局、仕事から降りるという選択肢がない

田中:あと、個人のレベルということでは、スーさんの本『貴様女子(貴様いつまで女子でいるつもりだ問題)』に、「とあるゲームの攻略法」という項があったと思うんですけど。

スー:はい、ありますね。

田中:働いていて、やる気がない男性社員を見て「あれ?」って気づいたことがあったという話だと思うんですが。

スー:そうですね。新卒で会社に入りまして、同じ会社に8、9年いたんですけど、まぁとにかく仕事しない男性がいっぱいいるわけですよ!

田中:(笑)。

スー:私や女の先輩は、もうギャーギャー言いながらワーワー働いて、周りの者をなぎ倒すように仕事をしていたんですが。同時に、なんでこんなに働かない連中がいるんだと思っていたんです。あきらかに比率は男性のほうが多かったんですよ。申し訳ないですけど。

で、あとからよくよく考えてみたら、働かない女は全員辞めてたんですね。私がその会社にいた8年の間に。女性には仕事を辞める、仕事を中断するという選択肢があるということに、当時はまだ気付いていませんでした。

たとえば28歳くらいで、結婚するのでとか、旦那さんの転勤に付いて行くのでとか、しばらく仕事を休んでのんびりしますとかっていうのが許されるし、祝福されることさえある。

でも男性はそれが言えない。彼らにとって昇進が最終的なゴールとして掲げられているように見えていたんですが、もっと最後の最終的なゴールというか、彼らにとって重大なことは、どこまでこのゲームの場、つまり会社に居られるか、居続けられるかということなんだなと。

本にもありましたけど、やっぱり半沢直樹のような人はおりません(笑)。あんな輪を乱す人はいませんし、正しさよりも政治ですし、誰に付いているかというのでそのあとが決まっちゃったりもする。

充足感を持ってよりよい仕事をしていくことばかりを優先できないのだなと思いました。その場でこぼれないことを最優先にしながら、ちょっと言い方としてはひねくれているかもしれませんが、仕事に夢中になっているフリもしなきゃいけないんだなと。

そうしたら、ちょっとアプローチを変えないと通じ合えないわと思ったのが、30歳頭くらいですかね~。

田中:たしかにそれは、この本のテーマにもすごく深く結びついていることで、男性は結局、仕事から降りるという選択肢がないので。

スー:そうなんですよね~。

田中:端からみてやる気が見えなかろうが、本人がやりがいを感じてなかろうが、降りるという選択肢がないということは、仕事に対してやる気がある側から見たら、「この人なんなんだろう?」ということになると思いますし。僕らは男性なので、ストレートに言っちゃうと「働くだけで半分が終わってしまう僕らの人生、なんなんだろう?」ということになってくると思うんですよね。

本にも書いたんですけど、自分たちは性別が男だというだけで、「学校卒業したら40年間フルタイムで働いてください」って言われて、「あぁそうですか」ということになっちゃっている。

スー:そこがね。私は仕事大好きですけど、1回働き始めたら途中で辞められないというプレッシャーとか、誰かを食べさせてこそ一人前というプレッシャーは、やっぱり感じたことがないんですよ。

だから、「こんな会社辞めてやるー!」とも言えますし、ひとつの会社でキャリアを重ねていくなんてことは全く考えずに、全然違う職種にも飛び込めた。それはある種、私が女性だったからなのもあるんだろうなと。そこはもうちょっと早く男性の事情を理解できればよかったかなと思います。

田中:確かスーさんは30代で全財産を1回使われたんでしたよね?

スー:そうですね。1回使いましたね。ゼロいきましたね。

田中:それは聞いてると、やっぱり男性の自分は怖いなって思っちゃいますね(笑)。

男性は仕事しか自分の価値を計る目安がない

スー:ちょっと無理ですよね。全員にはおすすめしませんけど。20代は使う時間がなかったんですよ。実家だったんでかなり貯まって、30代でバーって使って。まぁいっか、と(笑)。30代後半の後半からもう1回仕切り直しみたいな感じでした。

田中:僕らからすると男性自身、この場にい続けることが目的であるというゲームの仕組みに気付いているのかなというのはあるんですよね。たぶんい続けなきゃいけないと、なんとなく思ってるだけで、転職したり、独立したりしてゲームのルールを破っている人も実際いるわけじゃないですか。

それがうまく見えなくなっちゃっているということが非常に問題なのかなと思うんですよね。

スー:そうですね。前の先生のイベントのときに話したかなと思うんですが。35歳の女性、たとえば商社に勤めていて、係長くらいまでいって、課長にはなれなかったな~というの人が、「私、大学のときに学んでたスペイン語をもう1回やりたいんで、スペインに留学します!」って言ったら、まぁ「結婚どうするの?」とは言われると思うんですけど、「バイタリティーあるね~」とか「楽しそうだね」とか、「自由だね」とか言われると思うんです。

でも男性が同じことをやったら、「あいつ逃げたな」とか「ドロップアウトだな」って言われてしまう可能性がある。それくらいやっぱり世の中が性別に対して期待しているものが違うんだというのを、気がついてなかったですね。昔は。

田中:逆に言えば、仕事しか男性は自分の価値を計る目安がないということかなと思うんですよね。

男性同士が自分の愚痴を言うとなると、飲み会しかない

田中:以前、『相談は踊る』(ラジオ番組)に2014年5月3日に来た相談で、旦那が「働くのが辛い」と言って川に飛び込みましたという相談が来たんですね。2人子どもがいる女性から。

まず僕からお話させていただくと、その前に何かあったろうって普通は思うと思うんですね。いきなり川に飛び込んじゃう前に、たとえば奥様に「実は仕事がつらいんだ」とか、同僚に相談するとか、とういうことだと思うんですけど。

実はさっきの話からずっとつながっていて、そこから降りる、降りようと思ってるんだと人に言うこと自体がかなりはばかられちゃうから、急に川に飛び込むとか突飛なところに行くしかないという辛さが男性にはあるのではないでしょうか。この方は助かったからよかったですけど。

男性の悩み相談とか、男性同士が自分の愚痴を言うとなると、飲み会しかないじゃないですか。

スー:そうですよね。男性同士、愚痴というか、「最近俺、こんなことで悩んでるんだ」とかいう話なんて聞いたことないし、話さないって言ってましたよ。

田中:そうですね。またあとで話そうと思うんですけど、スーさんに初めて僕のことを知ってもらったのは、サイボウズの青野(慶久)さんという方と対談した記事を見ていただいたんですけど。男の人って、そういう弱いところを見せてくれないからなぁっていう感想を書いていただいたんですよね。

スー:そうです。そうです。男の人が抱えている問題というのがわからないんですよね。ポロっと言われたりすることもあるんですが、そのポロっとが決死の覚悟の上だったこともあったと思うんですが、こっちとしては女同士の日常会話の延長線上みたいなところもあって、「そんなの気にしなくていいじゃない!」と返して響きすぎちゃったりとか(笑)。

「意を決して言ったのに……」みたいな。いやいや、もうちょっと普通に話できませんかっていう願いはあります(笑)。

「寄り添う」とはある意味、「見過ごす」ということ

田中:そういうことに対して相談し慣れていないというか。弱みを見せ慣れてないから、やっぱり慣れてないことをすると、人間って急に突飛な行動を取っちゃうんだと思うんですよね。

中年になって恋愛したいとか思って変なことになっちゃったりとか、そういうことと一緒なんじゃないかなと思うので。若いうちから、男の子でも悩みがあったら気軽に相談してねとか、そういうケアをしてあげたほうがいいのかなと思うんですね。

放送ではアナウンサーの安東弘樹さんが、「寄り添う」ことが大切だとおっしゃっていたんですけども、僕もそれはすごく思うんですね。

この本の中でも、今まで、無職とかが典型的にそうだと思うんですけど、そういう男性がどういうふうに困っているかとか、どういう気持ちだとか、社会があまり拾い上げてこなかったので、社会が無視してきたような人の言葉をちゃんと拾っていきたいなと。

男性学というのは、男性が抱えている悩みとか葛藤に目を向けていきましょうということなので、今までであれば相手にされなかったであろう無職の男性に対しても、「だって無職って本人が悪いんでしょ」ってことじゃなくて、その人たちがどういう葛藤や悩みを抱えているのか拾っていきたいという想いがすごくあります。

寄り添うことってすごく大切ですが、じゃあどうするかと言ったらちょっと難しいところがありますよね。

スー:そうなんですよ。実際に寄り添うって、行動で具体的にどうすればいいのかというと、私みたいに過活動な女にはすごく難しいところがあって。寄り添うってある種、「見過ごす」ということも含んでいると思うんですよ。

田中:あ~、なるほど。

スー:ものすごく優秀なレーダーを搭載しているので、私の場合(笑)。ちょっとの変化でバッと気づいちゃったりするんですけど、それを「なんくるないさ」で見逃していくというのも必要だなと思っていて。かなり高度な技が、こちらも必要になると。

難しいのが、寄り添うといったときに、自分の力で立ち上がりたいみたいなのがあるじゃないですか。男の人って。

田中:まぁ、自分の力で立ち上がったことにしてほしいなってことなんだと思うんですよね。

スー:というか、俺は俺の力で立ち上がれるということが、彼にとっての自信になっていくみたいな。

田中:と、思いますよ。

スー:女の人は、もちろん人によりますよ、傾向であって、個体差はあるんですけど、ワーって友達に相談したりとか、気晴らしをしたりとかで、逃がしていきながらも、克服していって、「みんなのおかげだよ」みたいな着地になる。

男の人は、危険に直面したり自分が危機になったら、まず全然関係ないことをやって気を紛らわして、それをまずなかったことにして、いや、なかったことには絶対ならないんですけど(笑)。

田中:そうですね(笑)。

相手の言うこと、やることを否定しない

スー:なかったことにした後に、これは自分で立ち直れるから誰の助けも借りたくないと。自分の力で克服したということが大事なんだという。

田中:なるほど。なるほど。

スー:そこに私はガツガツ介入していくのはやめたんですよ。もう。昔はそこにガンガン介入していって、ものすごい効率のいい手段を提示して、向こうをもっとヘコませるというのを常套手段でやってたんですけど(笑)。

もうそれはやめようということで、やめたんですが、「寄り添う」だと基本的に相手の言ったことに賛同しなきゃいけないというのもあって。

田中:あぁ、そうですよね。

スー:そうすると、効率悪いなって言うと、言い方悪いですけど、果たして、「最初のボタンを掛け違えたまま延々とそのボタンをとめていくのか、君は」みたいな(笑)。顔に出ちゃう。難しいですね、寄り添うって。

田中:ある意味、スーさんはずっと相談番組をやられてきたから、今のお話にも含蓄があるというか、正直僕はそんなに人に相談されるわけではないので(笑)。

スー:なかなか男の人に相談するというのは、男同士だとないでしょうしね。

田中:ないですね。あったとしたら、よっぽどかなという気がして心配になりますけど。今おっしゃった、うまくスルーしてあげるのが大切というのは、すごく勉強になりましたね。

一言で寄り添うというと、簡単なことのようで、寄り添って頑張りましょうみたいな話があるんですけど、中身についてもう少し考えた上で、しっかり寄り添っていければいいのかなという気はすごくします。

スー:ド基本としては、否定しないことですね。相手の言うこと、やることを否定しない。ただ、それをどこまで寄り添い付き合い続けるかというのは、難しい。いまだに答えは出てないですね。私も。

男が働かない、いいじゃないか! (講談社+α新書)

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