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IT×戦略PRで変える! “Jリーグのマーケティング戦略”(全4記事)

「ジーコが来て鹿島の暴走族がいなくなった」 Jリーグに秘められた物語性

2016年2月16日、マーケティング・テクノロジーフェア2016にて「IT×戦略PRで変える! “Jリーグのマーケティング戦略”」をテーマに、Jリーグ 常務理事の中西大介氏とブルーカレント・ジャパン 代表取締役社長の本田哲也氏が基調講演を行いました。このパートでは「物語」すなわち、マーケティングにおけるストーリーテリングの重要性について語られました。試合のネット配信、CS配信も物語のつなぎを重視して配信を行っているそうです。ご当地のストーリーでは、鹿島アントラーズにジーコが来て、スタジアムに人が集まったことで周囲の暴走族がいなくなったという出来事も。Jリーグの今後の物語はどのように紡がれていくのでしょうか?

サッカーに短編小説のような仕掛けを作った

中西大介氏(以下、中西):私も10歳からずっとサッカーに親しんできているので、そのファンの気持ちはものすごくよくわかるんですね。一方で、小学生や中学生が小説を読むときに、いきなりマルセル・プルーストの長編は読めないですよね。

やっぱり短いもの、わかりやすいものから入り、物語の楽しさを覚え、それからだんだん長編に移っていくと思うんですけれども。2ステージ制を戦って、最後にチャンピオンシップで優勝を決する、というストーリーは、物語の見せ方としては短編小説です。

この短編小説の中で、きちんとコンテキストがあって、ストーリーがJリーグを知らない方々にも伝わること。そうした仕掛けによってどのくらいの人が関心を持って見てくれるか。我々にとっては、そういうチャレンジだったということですね。

これがさきほど申し上げた、「物語の途中だけ見せられてもしょうがないでしょ」ということを暗に示している数字なんですが、一番上の赤いところがJリーグの全国放送の本数です。

一番下の丸で囲んでいるところが、地上波の平均視聴率です。皆さん、関係者の方もいらっしゃるかもしれませんけど、この数字ですと、中継局にとってもたくさん放送しようとか、毎年この放送を続けようとか思うでしょうか。なかなか厳しい数字ですよね。

具体的には3パーセント台が多いですよね。3パーセントでは、昼間のコンテンツとしても厳しいです。

ありがたいことに「Jリーグをもっと地上波でやってほしい」という声をたくさんいただくんですけれども、国民全体の関心度とこうした視聴率の数字では、シーズン通じて誰が見ても物語が理解できるほど、地上波の露出を継続させるというのは、今の時代ではなかなか困難だということですね。

わかりやすいストーリーに変えて、もう一度振り向いていただこうと、チャレンジに踏み切ったのです。

その結果ですけれども、スライド右側が第2戦、NHKの総合です。ガンバ大阪とサンフレッチェ広島という、関東以外のチームだったにもかかわらず、関東の数字が10.4パーセントでした。

通常のリーグ戦では3パーセント台ですので、3.5倍以上のお客様に関心をもって見ていただけたことになります。

私共も、大会方式変更に踏み切るときに、視聴率10パーセントという数字が1つの分水嶺でした。なのでまだまだ満足して合格というところまでは到底いってはいません。

少し振り向いていただいた。短編ではありますが、わかりやすい物語、ストーリーテリングをもって伝えると、一定の成果が上がるということに関していうと、マーケティング的な発想でいうと「一定の兆し」が見えたとは言えると思います。

ドラマの見逃し視聴と同じ効果があった

まったく観ていなかった方々にどうやって物語をつなぎ、伝えたか、なんですけれども、他ジャンルでこんな話があります。今、Netflixやhuluが入ってきて、ドラマの見逃し視聴ができるようになってから、最終回の数字が跳ね上がるドラマがずいぶん出てきてます。

例え見逃しても、途中でストーリーが継続する、物語が継続する仕掛けによって、関心が維持されて、最終話ではNetflixやhuluといった見逃し視聴数が減って、テレビ本体の視聴率がドンと跳ね上がる傾向がありますよね。

Jリーグの場合もまったく同じ傾向が出ました。一番のクライマックス、チャンピオンシップの前とチャンピオンシップ中に、徹底的に短いストーリーの物語を動画コンテンツを中心に編集し、たくさんの動画を配信しました。

配信元はオウンドメディア、SNS、それから今回はスカパー!やYahooさんに協力していただいて「スポーツナビ」でも相当流していただきました。

試合自体がよかった、ということも当然あるんですけれども、準決勝、決勝第1戦、と動画の再生回数がどんどん上がってくるんですね。この数字、スライドで2つ挙げましたが、実は近年にはめずらしく日本代表戦を超えました。

最近Jリーグが日本代表の数字を超えるということはなかったんですけれども、2015年においてはこの数字が上回った。このことについて我々は、ドラマの見逃し視聴と同じ効果があったと考えています。

つまり、ドラマの見逃し視聴のように、この動画を様々なところで見ていただくことによって、チャンピオンシップの短編小説のストーリーが継続するようになった。物語のコンテキストが、やや明らかになったんだと思いますね。その結果、最後は動画の視聴回数が落ちた。落ちたんだけれども、今度はテレビの視聴率が跳ね上がった。

日テレさんとhuluの関係とまったく同じような傾向が出たので、これは非常に興味深いなと思いましたね。

語られる物語が貧弱・貧困になった

本田哲也氏(以下、本田):言い方を変えると結局、平たく言うとですけど、話についていける人が増えたという。昔はそういう意味でいくと、Jリーグがわりと国民の関心度が今よりも高かったときっていうのはみんなが見てたし、みんなが職場とか学校とかで……私も覚えてますけど、やっぱり話してたということで。

こういう技術もないわけですけど、話についていける人が多かったという感触あります、やっぱり。

中西:ありますね。そことは少し変化してしまったな、という感じがあります。関心を持つ方が国民全体の30パーセントということは、飲み会で5人集まったときに、2人しかわからない計算になります。5人で飲んでるとき、それではその話題では盛り上がらないですよね。

本田:今皆さん飲みに行ったり食事したときに、Jリーグの話ししますか? 日本代表戦のときとかはワッとなるでしょうけど、私自身もそうでしたけれども、昔友人とかとけっこう話したなと思うんですよね。

そういう会話自体が減っているというのは、実感としてありますよね。

中西:それは語られる物語が、ナショナルコンテンツとしては、少し貧弱・貧困になったということとイコールだと思います。

本田:松本の居酒屋とかではすごいでしょうね。

中西:すごいですね。東京だと5人に2人しかいないんで、誰かが話題振っても、その話は終わってしまうのでしょうね。

周辺の物語にどう関心をもってもらえるか

中西:「物語性の欠如」というところが、1つ大きなポイントだったと思います。マーケティングの世界でも、最近ストーリーテリングの話はよくされますよね。その商品・サービスに対して、周辺の物語をどう関心もってもらえるか。

本田:もともと、今日はJリーグの話ですけど、スポーツというのはドラマがやっぱりありますし、それも予測不可能なところも含めてライブ感のあるドラマ。ドラマ性があるわけですけれども、それも接触してないとわからないし。

連続したドラマが……さっきの話ですけど、継続性がないとついていけないというところで、実はその関心が落ちたところで物語がブツ切り状態になってしまうというのが、さっきの低下してる数字には出てるということなのかな、と分析できますよね。

ある程度物語のパターンは限られている

中西:僕らはストーリーテリング自体はすごくシンプルに考えてます。決して複雑に考えているわけではありません。小説家や落語家や脚本家が様々な話を生み出すような、そういうクリエイティブさというよりは、人が感動する物語のパターンは極めて限られてると思っています。

ある種パターン化されているといいますか。皆さん、『ローマの休日』と『千と千尋の神隠し』、同じ物語の構造だというのわかりますか? 『ローマの休日』、皆さんわかりますよね。

オードリー・ヘップバーン主演のヨーロッパの小国の王女様、アン王女が、彼女にとっての異界である俗世間にまぎれこんでいろんなエピソードを経て、成長して帰ってくる。

『千と千尋』もまったく同じ構造で、10歳の日本の女の子が本当の異界にまぎれこんで、いくつかのエピソードを経て最後、凛として現実世界に帰ってくる。

「女性が異界にまぎれこんで成長して帰ってくる」という意味ではまったく同じストーリーで、今までハリウッドでもこのパターンで何万通りも作られています。

「人が感動する物語のパターンというのはある程度限られていて、定型化されてる」ということは今回の『スターウォーズ』も当てはまりますよね。

これは、『千の顔を持つ英雄』というジョセフ・キャンベルさんという人が書いた(本の中に)、世界の民話や神話を集めてみると定型がある(ことが書かれている)。それにのっとって、忠実にジョージ・ルーカスが作り上げたのが『スターウォーズ』ですよね。

物語をどう関心を持ってつないでいくか

サッカーの試合も、試合後の選手や監督のコメントというのはある種、定型化されていると感じられませんか?

それは試合の物語というのがある程度定型化されてるからです。強いところが弱いところに勝つ、負ける。健闘するけど惜しかった。その理由としては、相手がダメだった、自分たちがよかった。相手のミス、こっちのミス。ときどき奇跡のようなゴールが生まれて勝つ。

ある程度物語のパターンは限られている。だけど、その試合1つ1つは全部違うんですね。映画でも細部まで全く同じという映画はない。だけど物語は定型化されている。サッカーもそういう傾向があると思います。

我々Jリーグの物語というのも「見せたい方々に、見たいと思っていただける物語を届ければ、人の心に届くものがある」と信じたのが、今回の(大会方式、地上波放送、動画コンテンツの配信という)トライですね。

途中のプロットが抜けると、物語がわからなくなりますよね? 急に興味を失いますよね。Jリーグやプロ野球の場合も「途中のプロットの欠如」が、おそらく関心をなくしてしまう要因だとすると、そのプロットをどうつないでいくか。

物語をどう関心を持ってつないでいくかということが、マーケティングの方法を考える上でのコアかなと思うんですね。

本田:一般化していうと、コンテンツマーケティングと今いわれるわけですけど、そのコンテンツ消費のヒントが、けっこう今の話はあると思いますよね。

コンテンツマーケティングというのは顧客と企業をつなぐ、ここ(間)にコンテンツを作ってやるという定義ですけど、そのコンテンツの作り方があまりにもニッチすぎたりとか、企業の事情に寄りすぎてると普遍的な物語性というのはなくなる。

ただ、「誰もが知ってるようなことをただ発信してもしょうがないよね」と。そこには何か「お得なのか、感動できるのか、今だからこそ見れるのか」という、そういうレアさですかね。

多分このバランスが必要で。だからさっきの話は、普遍的なコンテンツ消費の話かなと思いますね。

鹿島アントラーズ・ジーコが来て暴走族がいなくなった

中西さっき、ローカルで成功しているクラブがあって、一方で都会のクラブやナショナルコンテンツとしてはやや苦戦しているという話をしましたが、ここにも当てはまります。たとえば、「この地域には今までプロスポーツがなかった。それから甲子園でも優勝したことがない。

だけどここにプロチームができて、自分達のチームが全国の舞台で戦っているんだ」ということ自体が、彼らにとっての新しい物語ですよね。今は各地方単位ですけれど、Jリーグ発足の頃、国民全体が共感できる、そういう物語がいっぱいあったんです。

鹿島アントラーズ。鹿島には、住金の工場しかなかった。暴走族がたくさん走りまわってた。だけどジーコがきて、アントラーズのスタジアムがいっぱいになり、ゴール裏でみんなが大きく応援し始めた頃には、暴走族がまったくいなくなった。これは物語ですよね。

本田:1つの地方自治体のストーリーで(笑)。鹿島スタジアム、皆さん行かれたことありますか? (周囲に)何もないんですよね。

中西:周りに他のエンターテインメントはないですよね。つまり、国民みんなが、Jリーグの優勝争いや降格争いを楽しむ「ナショナルコンテンツ」をどう作っていくか。物語の欠如に対して、Jリーグはどういう手を打っていくのか。それを今の時代に合わせた流通経路で。つまりIT、デジタルメディア、SNSを活用しながら途切れさせずに届けていく。

「物語をつくること」を縦糸、「テクノロジー」を横糸として考えると、どんなトライが可能か。我々が打つべき大きなストラテジーですね。

ハリウッド映画以上に泣ける、Jリーグの物語

本田:次の議題に入っていきましょうか。

中西:その前に少しだけ紹介させてください。道でこういう顔してたらおかしいですよね。

中西:スタジアムでは許されるんですね。スタジアムはそういう非日常空間ですね。

中西:これ大分が(J1に)昇格したときですね。これ、背景にローカルの物語があるのがわかりますよね。

本田:号泣してますもんね。

中西:なかなか、ハリウッドでもこれだけ泣かせる映画はないですからね。そういう物語を、スポーツの場合はライブで提供できます。……これ見てください、お母さんと子ども。

本田:いい写真ですね、これ。

中西:これだけ映画館でボロボロ泣いたり、嬉し泣き、ここまでなかなかしないですよね(笑)。そういう非日常空間というのは物語を作る可能性を……スポーツ全体にいえることですけど、Jリーグは秘めているということだと思いますね。

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