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働くママとパパは理解し合えるか?子育てをめぐる男女のギャップ問題(全6記事)

育児書の情報にとらわれるな--働くママとパパが理解し合える“我が家のルール”

共働きを選択するママは増えていますが、「女性は家庭、男性は仕事」という認識は根強く、今でも、パパとママの間には悩みや不満が尽きることがありません。男性学研究者の田中俊之氏と、「博報堂リーママプロジェクト」リーダーの田中和子氏が、ランチケーション(働くママたちの異業種ランチ会)から生まれた「糧ことば」を紹介しながら、子供を持つ共働き夫婦がどうすればわかりあえるのか、お互いの立場から語り合いました。「働くママとパパは理解し合えるのか?」という明確な答えのないテーマの中から、登壇者の2人と参加者が夫婦で育児家事を頑張るための「今日の糧ことば」を共有しました。

仕事から距離を取る生き方をしてきた

田中和子氏(以下、田中和):ここで、みなさんから何か質問とか先生に聞きたいことがあったらぜひと思うんですけど、どうですか?

質問者1:田中先生にお尋ねしたいんですけど、実際にご自身の家庭ではどういう役割で家事を分担されているのかを教えていただけますか?

田中俊之氏(以下、田中俊):ぜんぜん大丈夫ですよ。大学生だった僕は、さっき途中で述べたように、結婚するしないにかかわらず、仕事中心の生活というのがまず理解できなかったんですね。自分の生活があって、仕事があるという順番にしたいと。

なるべく拘束時間が少ない仕事をしたい、あと満員電車に乗るのも無理だということを考えた時に、大学の教員になりたいなと考えたんです。

まあ偉くなっていくと学務が忙しくなりますけど、週に5コマとか6コマとか授業を持たされるので、それを中心に考えればいいと。それで、夏休みとか春休みも一定程度取れると。

ということを考えた時に、自分は仕事よりも生活の部分がかなり多くあるので、分担も何も、フルタイムで働いている妻と一緒に暮らしていると、当然僕のほうが家にいる時間が長いので、家のことができるということなんですよね。

だから必然的に、分担するしないではなくて、例えば平日の昼間に市役所へ行くのは、当然僕の役割。妻はフルタイムで行けないので、引っ越しした時の手続きとか、銀行とかも僕が行くということになります。

でも、もし僕がこういう学問をやっていなかったら、それに対する違和感ってあると思うんですよ。「なんで俺がやらなきゃならないんだよ」みたいな。

さっき言ったように、それはもう自己反省を繰り返してきましたから。そういうことを人に教えて、本も書いてってやっているわけですから、今の僕は「それは当然そうするよね」って思うわけですよ。

この先2月に子供が生まれる予定なんですが、幸いなことに大学が春休みなんですよ。だから2ヵ月まるまる、妻は実家に帰らないで家にいて、僕がケアして、ごはんを作って、子供の面倒も見てやろうと思うんです。

そのことに対して大変ほめられることが多いんですけど、僕の中では「まあ当たり前だろうな」という気持ちなんですよ。僕が休みでちょうど2ヵ月空いているわけですから、それはやりますと。

だから、分担うんぬんというよりも、かなり仕事から距離を取る生き方を自分がしてきたので、家のためにやれることがあるなら、僕はしようと思っているし、分担って決めちゃうと逆に面倒くさいというか。

やれるほうがやれる時に、共働きの場合だと特に柔軟に対応したほうがいいんじゃないかなという気がするので、そういうふうに柔軟にやっていった側面もあります。

夫婦間のルールはシンプルなほうがうまくいく

田中俊:話を戻すと、さっき言ったように、僕は拘束時間が少ない仕事をしているので、かなり家のことはやれます。ただ、もう手抜きとかはなるべくしたほうがいいと思って、コープデリというのを最近取っているんですよ。炒めればできるようなおかずのキットがあったりするんですね。

これから、たぶん2、3月はかなり僕が作らなきゃいけないので、そういうのを取り寄せてみて、どの程度おいしいのかを試したりしていますね。

田中和:お試し期間中ということですね?

田中俊:そうですね。

田中和:今の話でいうと、フルタイムのママが復帰する時、しかも、もともと超できるプロデュース型の女性が復帰する時に、家事のタスクを全部リストアップして、旦那さんに「朝やるのはこれだけある、夕方はこれだけあるけど、あなたはこのうちどれをやるの? チェックして」みたいなことをする人がいますけれども。

田中俊:あ~、それはいさかいが起きやすいというか……。

(会場笑)

田中俊:社会学では、「ルールのミニマム性」って言うんですよ。いいルールを少なく作ったほうが組織はうまくいくということなんですね。例えば、校則が多い高校って、校則違反が発生しがちじゃないですか。

でも、優秀な学校で、私服の学校で、校則がゆるい学校って、逆にぜんぜん乱れてない。私服だけどおとなしい服を着てくるし、平和に保たれている。

ルールをいっぱい作って事を進ませようというのは、非常に非論理的なんですよね。例えば、この間カフェでお茶を飲んでいたら、隣のカップルが「何をしたら浮気か」とか決めていたんですよ。

(会場笑)

田中俊:「こいつらバカだなぁ」と思って。そんなリスト作ったら……。例えば「女の子と2人で話したら浮気」とかやっているわけですよ。学校帰りにクラスメイトで一緒になっちゃったら、「近寄らないで」って言うわけですか? 無理ですよね。だから別れるんですよ、あいつらは。

(会場笑)

田中俊:だから、カップルだったら「お互いに自分がやられて嫌なことはしない」とか、そういう、シンプルで汎用性のあるルールを定めることが大事だと僕は思うんですよね。

育児雑誌はいい加減な情報が多い

だからそれ(家事のタスク管理による分担)はダメですよ。いさかいが出ちゃいますから。ルール違反が出ちゃうじゃないですか。「これはあなたの分担なのにやらなかったじゃない」みたいな。

田中和:「両立術」とかそういう本にけっこう出てますよ?

田中俊:いやいや、ダメですよ。本当に一般書はダメなことが多いなぁと思っていて。最近育児雑誌とかを読むと、「奥さまが冷凍で食品を作っておけ」みたいなことが載っているんですよ。「産褥(さんじょく)期で作れなくなった時のために、冷凍してストックしておいて、夫が食べられるようにしておけ」みたいなアドバイスが……。

田中和:なかなか献身的なできる妻ですね。

田中俊:そういうアドバイスが、育児雑誌とかを読むと載っているわけですよ。奥さまは産褥期なんですよ。子供を産むという大仕事をして、6〜8週間にわたって大変な時に、なんで(夫の食事を)冷凍してストックしとかなきゃいけないのか。夫は勝手に外食するなり、自分で作るなりしろよということなんですよね。

育児とか子育てのことってみんな不安だから、そういう雑誌とかを読んじゃうんですけど、やっぱりいい加減な情報が多いし、古い価値観を押し付けてきていたりする。

教育のことで付け加えて言えば、「子供にごほうびをどうあげるか」みたいな議論って必ずあるじゃないですか。勉強する前にあげたほうがいいのか、達成できてからすればいいのかとか。

これは社会心理学で真面目な研究があるんですけど、どうやったらモチベーションは上がるかということについて、これは「人によって違う」という結論しか学術的には出ないんですよね。つまり、いろんなグループに分けて条件をかけてやったけど、いろんなタイプの子供がいたから……。

田中和:そう。うちは小学生2人いるんですけど、「ごほうびあげるよ」と言うと、最初にほしい子と、あとにほしい子と、それぞれなんですよね。

田中俊:そうなんです。雑誌とか本って歯切れがいいほうが求められるから、「ごほうびはあとにあげるべき、その3つの理由」みたいに書いてあって。あんなもの参考にしちゃダメなんだと思うんですよ。

お互いの仕事のことは知っておくべき

田中和:なるほどね(笑)。先ほどの先生のお話にちょっと水を差すようですけれど、私の旦那も大学で教えているんですよ。「満員電車に乗りたくない」「自由な時間がほしい」という、先生と同じような理由で教員になって。

でもやっぱり、だんだん年齢を重ねるごとに、大学とはいえちょっと忙しくなっていって、その間に、サバティカルを1年間、研究年間としていただけますと。いただいた時に、ちょうど私が3番目の子を出産して復帰した年だったんですね。

私自身がものすごく忙しくなって、復帰しながら実はもう1つ仕事を請け負っちゃったりして、倍々になっていたんです。子供も増えました、仕事も増えました。それで、旦那が家にいることをいいことに、日々の帰宅がだいぶ夜遅くなったんですよ。

そしたら、旦那も家事をやるとは言っていたんだけれども、だんだん溜まってきちゃったみたいで、ある時夫婦で爆発しちゃって……。

田中俊:それは夫婦がどううまくやっていくかという話なんですけど、やっぱりお互いの仕事ってなかなか理解し難いですよね。

僕は田中さんのお家に起こったトラブルってよくわかって、研究者って、家にいる時にも本を読んだり、執筆したり、分析したり、仕事しているんですよ。

田中和:よく言われます!「俺が何もしてないなんて思うな」って。

田中俊:そうそう(笑)。会社員の方とちょっと違うんですよね。拘束時間が少ないだけで、労働時間自体は少なくないんですよ。

「家にいるから全部やれるよね」ってなっちゃうと、自分の仕事ができなくなっちゃう。授業時間以外や学務以外の時間は研究したいわけじゃないですか。

だから、お互いの仕事ってキチッと説明しておいたほうがいいし、みんな基本的には自分の仕事しか知らないから、そこはちゃんと共有しておかないと怖いとは思いますね。

田中和:うちや先生のところみたいな特殊な家庭だけじゃなくて、サラリーマン夫婦でもそうかもしれないですね。

田中俊:そう思いますよ。

田中和:旦那さんも奥さんのことを「どうせ一般職みたいな仕事しているんだろ」って思っているかもしれないですし。人に話すことで、奥さんのほうも自己反省といいますか、自分でこういう仕事していたんだなということを改めて思ったりするといいですね。

田中俊:そこはみんなわかっているものとして処理しがちなところなので、しっかりお話しておいたほうがいいかなとは思いますね。

田中和:ありがとうございます。総括すると、今日のキーワードは「コミュニケーション」「レスポンス・アビリティ」でしょうか。

田中俊:メルッチが言っていることは、とてもいいことだと思いますよ。

田中和:田中先生が言っていることとして……。

田中俊:ぜひ参考にしてもらえれば(笑)。

男性も「男もつらいんだ」としっかり主張して

田中和:ありがとうございます。最後残り5分、みなさまにもお手伝いしていただきたいことがありまして。今日の「糧ことば」、今日聞いた話の中で、「これはちょっとおもしろかったな」「これは膝打ちだな」というような言葉を、ぜひ一言ずつみなさんに書いていただけたらなと思います。

先生と話していると、話が尽きませんね。社会学から、これだけママの糧ことばを解説していただいたのは初めてで、すごく楽しかったです。

田中俊:よかったです。

田中和:もしよろしければ、書けた方から、共有をお願いしたいんですけれども。いらっしゃいますか? はい、ありがとうございます。それではお願いします。

女性参加者1:「男もつらい」ということです。女性活躍推進で、女性のマネジメント能力を高めようとか、女性が育休から復帰をしやすくしようというお話があります。

けれども、先ほど先生がおっしゃられたように、現在は大半が男性が作った社会であり、働いている女性が少ないわけですから、本当に変わらなければいけないのは、やはりこれまでの価値観であったり、働く環境であったりするわけです。

女性活躍推進で、やっぱり本当に変わらなければいけないのは、男じゃないでしょうか。本当は今の働き方は男の人もつらいはずなんです。

なので、男の人は「男もつらいんだ」ということをしっかり主張していただき、男の人がつらくなくなれば、女性活躍推進も進むんじゃないかと思います。

田中和:すばらしいです。

(会場拍手)

家事をしたら夫婦でほめあおう

田中和:男性の方どうでしょう? ぜひ。

男性参加者1:「ママの問題はパパの問題でもある」「お互い様」「両輪で考える」「時にはユンケルも必要」。

田中和:ははは(笑)。ありがとうございます。

田中和:他にはいかがですか?

女性参加者2:私は、男性学とは自己反省だと考えていると、そう思っている男性が存在すること自体に感動しました。知っている人とか周りの人は、それこそもう無理というか……。粘土層ですか(笑)。

あとは、いくら話してもわからない人に話しても無理という人がほとんどだったので、そうじゃなく思っていらっしゃる方がいるということに(驚きました)。それだけで来てよかったなと思いました。

田中俊:それはありがとうございます(笑)。

田中和:他にもぜひぜひシェアしたいっていう方がいたら。お願いします。

女性参加者3:「男性の評価基準が仕事でしかない」というところが、私には一番刺さりました。

自分は女性から見た立場しか考えていなかったので、男性の立場に立ってみたら、「家事とか手伝っても評価されないならやらなくてもいい」みたいなことにつながっちゃうのかなと思って。

「やってやって」と言うのは簡単かもしれないけれども、男性にプラスがないというか、そういうところも考えていかなきゃいけないのかなぁって、もっと男性側に立って考えなきゃいけないなって思いました。

田中和:せめて家庭の中だけでも、やってくれた旦那さんにはすごく評価をしてあげればいいですよね。

田中俊:そういうことですよね。それだけでもやっぱりうれしいですからね。「お互い様」ってさっきおっしゃっていただきましたけれども、そうですよね。夫婦でほめ合うっていうことですよね。

自由について真剣に考えるべき

田中和:先生は何と書いていただきました?

田中俊:僕はやっぱり、このためにジェンダー論とか社会学をやっているので、「自由に生きる」ということですね。

これをみんなに思ってほしいなと思ってジェンダーの勉強をやっているし、『<40男>はなぜ嫌われるか』とか『男がつらいよ』という本を書いているんですね。

子供の時に考えていたほど簡単じゃないじゃないですか。つまり、若い頃に考えていた自由というのは、拘束がない状態のことで、だらけている夏休みのことだと思うんですけど。でも、日記が溜まった夏休みって、自由だとは思えないと思うんですね、結局。

ダラダラしていて拘束がないから自由というわけじゃないし、あと、家族を作りましたので、家族を作るとやっぱりお互いの自由が競合する場面が出てくるわけじゃないですか。

自由を作っていくということは、やりがいもあることですし、これはどっちの本にも書いたことなんですけど、そもそも自分の人生なのに、「自分がどう生きたいか」とか「どういうことをやりたいか」ということを、「男の人は仕事だけしていれば」という話が、見えなくさせてきたと思うんですよね。

だから、男女問わずやっぱり自由に。「こうあるべきだ」とか考えるんじゃなくて、自分はどうしたいかと。自分が作った家族があるならば、家族はどうしていくのかということを考えると。

自由というのはすごく青臭いことばなのかもしれないですけれども、大人こそ真剣に考えるべきなんじゃないかなと思いますね。

逆に、考えないと、どんどん日々過ぎて行っちゃう気がして、それが一番怖いなと私は思いました。

中高年のキャリア教育

田中和:私はやっぱり「レスポンス・アビリティ」ですね。「ちゃんと話そう」とも書きましたが、今の話をうかがって話すためには、自分が何を話したいのかということもちゃんと考えなきゃいけないなと。

田中俊:そうですね。今の大学って、キャリア教育が厳しいから、「君は何をやりたいか」とか「将来何になるか」とかいうことをすごくやらされるんですけど、中年こそ考えるべきじゃないかなという。

田中和:中高年のキャリア教育。

田中俊:だって、若者は正直わからないですよ。学生なんだから、「君、何がやりたい」とか「ビジョンを持て」とか言われたって……。

もっと中年こそ若い時を思い出すべきで、自分たちができなかったようなことを若者にやらせているのはなんか違うなぁと思って。

今だったらわかるじゃないですか。仕事ってこういうものなのかとか、お金稼ぐってこういうことなのかとか。ここでこそ、1回立ち止まって、もう1回考えてみるっていうことがすごく大事じゃないかなと思いますけどね。

田中和:ありがとうございます。今日はここに座らせていただいて、私が一番楽しかったです。みなさんも楽しんでいただけましたでしょうか? 先生とはぜひまた、次は何だろう、「お互いにほめ合う夫婦のあり方」とか、「中年だからこその愛」とか(笑)。

田中俊:いいと思いますよ、本当に。

田中和:じゃあ、我が家も帰ったら、なかなか言いづらいですけど、旦那をちょっとはほめてみます。

田中俊:夫婦で愛を語れればいいと思いますね。

田中和:気恥ずかしいですね。できるかなぁ(笑)。

田中俊:ははは(笑)。

田中和:それではありがとうございました。みなさまありがとうございます。

田中俊:ありがとうございます。

(会場拍手)

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