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罪を犯したギャンブル依存症者の雇用への取り組み(全1記事)

再犯率は55% 元受刑者雇用の取り組みで気が付いた「与える愛」の大切さ

11月、ギャンブル依存問題について考える「ギャンブル依存症対策推進フォーラム」が開催されました。少年院、刑務所出所者の再犯防止を目指す「職親プロジェクト」の取り組みのなかで出会ったギャンブル依存者の事例について、草刈健太郎氏が講演しました。草刈氏がこの活動を始めることになったきっかけには、非常に悲しい出来事がありました。そして、愛を与えられずに育った人が多い犯罪者に対して、どう接することで更生を促していくことができるのか、ということについて、話されています。

元受刑者雇用への取り組み

草刈健太郎氏:本日は、この様な場にお招きいただいたこと、心より感謝申し上げます。私はギャンブル依存症ではございませんので、おもしろい話はできないかもしれませんが、私が今やっている取り組みについてお話させていただきたいと思います。

自己紹介させていただきますと、私は、「カンサイ建装工業」という建設会社と、もう1つ「日之出塗装工業」という塗装会社をやっております。あとは「OBF」という人材派遣会社をやっています。年間約40億円くらいの規模で商売ををさせていただいております。

本日、いろいろギャンブルの話を聞きましたが、私の父親がギャンブルというか株が好きでですね、やっぱりバブルの波に押されて、バブルのときは総資産65億円あったのに、私が継ぐときはマイナス15億円でした。

(会場笑) 

この13年間ずーっと働いて、やっと2年前に返しまして、株とかギャンブルとかは絶対やりたくないなと改めて思わせていただきました。

私は商売以外の取り組みとして、受刑者の就労支援をやっているのと、あとはカンボジアの貧困問題を救うために教育番組を作る。この2つを行っております。今日は、この「職親プロジェクト」という会の説明をさせていただこうと思います。

これは、法務省、日本財団、そして私たち民間企業が三位一体となって出てきた受刑者の就労支援、雇用で雇い入れながら更生させていく仕組み、そして調査研究を行いながら皆で話し合って更生させていくという仕組みを行っております。

この団体の特殊性としては、受刑者でも身元引受人がいない人たちが多い(そういう人を支えている)。親がもともといないとか、親がいても犯罪を犯してしまったことで「もう帰ってくるな」と放棄されたり。(そんな人たちは)基本的に再犯を起こすことが多いんです。

最初は支援を3社から始めまして、千房というお好み焼き屋の社長と、だるまという串カツ屋と私で始めたんですけれども、今は70社くらいに膨れ上がっております。

要するに愛情を与えられていない人が多いので、非常に常識やモラルが無い人が多いと。今、刑務所に入っている人たち、何人くらいかと言うと、約5万人から5万5千人いると言われております。そして、2年半で再犯を起こす人っていうのは、大体55パーセントだと言われているんです。

犯罪被害者のひとりとして

では、なぜ私がそのような人たち、再犯を起こす人たちに対して、こんなことをしているのかと言いますと、実は私は犯罪被害者のひとりなんです。皆さん、テレビで見られた方もいるかもしれませんが、私は妹、私の夢である妹を、アメリカで20カ所をズタズタに刺されて、殺されました。

大変ですよ、犯罪を犯す人も大変なら、犯罪被害者も大変です。家族ボロボロになります。もう落胆して、悲嘆して、精神的、体的ストレス、もうボロボロになります。一番大変なのは母親です。グリーフケアと今では知られているんですけど。体に斑点が出てくるんですね。大きな落胆した方には。

でも、人間って、普通に生活していると恨んでも恨んでも、心が病んでいくだけなんです。恨むことが正にならないんですよね。

この話をしたら長いんであれなんですけど、やはり本当に回りの人たちのおかげで復活させていただきました。

また、殺した奴は家に帰りまして、「無罪や」と訴えられました。約4年間裁判にかかりまして、費やしたお金が約7,000万、会社潰れそうになりました。そして、アメリカで殺されたので、1回行って帰ってくるのに300万くらいかかるわけです。それが4年間。そんだけ使っても、返ってきたお金は0円です。

やっぱり自分の子供にお金は使っても、犯した子供には責任あるけれど、親は払わないと。やられ損だというかたちでございます。だから皆さん、アメリカ、もし、留学に行くというときは、やはりこういうことをあったということを学んでいただきたい。今、アメリカに犯罪者がどれくらいいるか、220万人です。人口が3億3千万人いて220万人。どれだけ危険な国かということをわかっていただきたいなと。

一つひとつの問題を解決していくしかない

でも、今、日本でも約55パーセントが再犯を犯しているということですので、こちらもご理解いただきたいと思います。

やはりそこで、原因が問題なんです。受刑者、就労者の問題、雇い入れ企業の問題。社会の問題、あとは刑務所の問題と一つひとつを全部、私は解決していこうと思って、それをやっているうちに、自分の妹の供養になるのではないかと今は活動させていただいております。

簡単に言うと受刑者の人たちっていうのは、基本的には先ほども言ったように心技体が、ほとんどありません。3年間(刑務所に)入っていると、ほとんど精神的な状態が病むんですよね。初めは監視されているのが怖いんですけど、ずっと居ると楽になるんです。で、社会に出てくると社会の波に押しつぶされて、ほとんどの人たちが駄目になります。

弊社も7、8人雇いまして、「身元引受人になります」と刑務所まで行って、島根旭(あさひ)というだいぶ遠いところまで行って、会社にも来ないでどこかに出て行ってしまったり。少年法はOKなんですね。20歳になればもう1回入らないといけないとあるんですけど、すぐ出て行っちゃう。あとの4人はですね、上司と喧嘩してですね2人は辞めちゃいました。

でも、私はその時、悔しくてですね、「うちの会社辞めてもええよ、その代わりお前何やりたいんや」と。「次はこんな企業に働きに行きたい」と言うので、うち人材派遣会社もやってるんで、「じゃあわかった、俺が全部段取りしたる」。全部段取りして、うちの会社を辞めてもその2人はやっている。

「なんで上司と喧嘩したん?」上司(の財布)からお金を抜いたんですね。やっぱりクセあるんですよ。上司が「お前パクッたやろ、盗んだやろ」「やってません」。で、おかしいなと思って、次は1万円札に番号打ってたんですよ。番号打っていて「お前盗んだだろ」「盗んでいません」。「これ番号打ってたんや、お前盗んだだろ」と言うと、「すんません」言うんですよ。

(会場笑)

「お前どうしようと思とったんや、何に使ったんや」と言うと、「パチンコに行ってた」と。「パチンコ行って、お前見つかったらどないしようと思ってたんや」と言うと、「勝ったら返そうと思っていました」って(笑)。そんな常識の無い人たちが沢山おるんですけど。やはり、もともと親の愛情を与えられていなくて、モラルが非常に低い、基礎知識が無い人が非常に多いなと思います。

惜しみない愛を与えること

じゃあ、どうしたらよいのか。初めは、叱って叱って鍛えてやろうと思っていたんですよね。でも、そもそも愛情貰って無い人たちって、叱られ慣れてるんですよ、今まで。

この2年、勉強してきてやっとわかったのは、愛情の無い奴にとことん愛情与えるんです。「お前逃げんなよ、お前と死ぬまで俺は付きあってやる。うちの会社辞めてもええで、そのために俺は雇ったんじゃないよ」と。「だから、お前、次会社どこか行くと言うたら、俺が全部段取りしたるから」と。

私、青年会議所をやってまして、何千人て友達がいるので、「ホストクラブで働きたい」「わかった、俺の友達のとこ行け」。「何やりたいねん」「コックさんになる」「いいよ」。で、また辞めたいって言っても全部いろいろやったんです。そしたら、この前そいつが、男泣きしよってね、「もう勘弁して下さい」って。今まで優しさ与えられたこと無いんで、そうなって来たんです。それから、ずーっと仕事続いてますね。

やっぱり、そういう人たちも居るんやなと。私たちってもともと親から優しさ与えてもらってその基礎があって、いろんな社会の波に押されてだんだん強くなって行くんですよね。でも、そもそも(の基盤が)無い奴は、逃げることと嘘つくことしかできない。それを勉強さしていただきました。

ギャンブル依存の恐ろしさ

今日のお題(ギャンブル依存)である、残りの2人の1人。私も、いっぱい失敗してるんで、刑務所に行って「情報をくれ」と、面接だけだったらわからないわけですよ。何回も何回も失敗しているとだんだんと私も折れてくるし、うちの職人も病んでくるんですよね。ならば、情報をくれと。「個人情報保護法あるんで渡せません」というわけですよ。そんなもん面接だけやとわからないし、ちゃんと教えてくれて言うたんです。

「来てくれたら教えます」言うから、また島根まで行って、4時間くらいかけて行ったら、全部教えてくれたんです。こいつ何の犯罪犯したんやといろいろ聞いたら、やっぱり6年間毎日パチンコ、朝9時から夜中まで、毎日6年間行ってんですよ。ギャンブル依存症やなと。

その1ヶ月前くらいに、たまたま田中(紀子氏 「ギャンブル依存症問題を考える会」代表)さんに、大阪へ来てもらって講演聞いたんです。「あ、ギャンブル依存症ってこんなんなんや、脳みそがこんなふうになっているんだ」となって、行為的依存症や薬物依存症について勉強し始めたんですよね。

行為的依存症って怖いんや。ああ、こいつ絶対ギャンブル依存症やな、と。(その彼が刑務所から)出てきた時に、「私その人間迎えにもう1回行く言う」と言ったんですけれど、刑務所からなんて言われたかというと「草刈さん、もうくだらんお金使わんでええ、たぶん2週間で辞めます」と。お前どんな奴紹介してんねん、言うて(笑)。

(会場笑) 

わかった、と(島根までは)迎えに行くの止めて新大阪まで迎えに行って。なかなか、ギャンブル依存症の人に、「お前はギャンブル依存症や」と言えないんですよね。薬物依存症の人には、「お前は覚せい剤で捕まったんだから覚せい剤もうやるなよ」って言えるんだけど。「お前はギャンブルばっかりやっとる、ギャンブル依存症や」となかなか言われないんですよ、行為的依存症の場合は。

脱ギャンブルで貯金140万円

その前に、たまたま田中さんと口約束して「もしかして(その彼から)電話あるかもしれないので、話し聞いてあげてくれ」って言っていて。で、彼が(刑務所から)出てきて、「お前なんで悪いことしたんや、やっぱりギャンブルか」と聞いたら、「はい」。「もう1回ギャンブルしたいか?」言うたら、「やりたいです」言うんですよ。田中さんっていうこんな人がいる、「1回話すか?」「話したいです」って、田中さんと電話で30分間バリバリ盛り上がってるんですね。

(会場笑)

さっきの貴闘力の話みたいに、ギャンブルやる時ってめちゃくちゃ楽しそうになるじゃないですか。それと一緒で。「お前、田中さんと一回会いたいか」となって、たまたま結婚式があって来てもらって、ご飯屋さんで会ったら話が合うんですよね。むちゃくちゃ合うんですよ。

で、(同席して)横で聞いてるうちの父親が普通の人なんで、怒ってくるんですよ。「お前なぁ、ギャンブル依存症って決め付けんな、お前失礼やぞ」とか言うて。

(会場笑) 「親父、話ならんから帰れ」言うて帰らしました。

(会場笑) 

普通、そう思いますよね。でも僕ら勉強してたからそれがわかるんですよ。で、話が合って、田中さんが最後、その男の子に「あなたはギャンブル依存症って認定します!」って言ったら、(衝撃を受けて)それからそいつギャンブル恐怖症なったんですよ。

(会場笑) いや、多分、軽かったんでしょうね、多分。

それから8ヶ月、先月やっと保護観察期間も取れて。そもそもギャンブルしか興味が無いんで、ずーっと6年間ギャンブルばっかりやって来たから、今は仕事しか趣味がないんですよ。で、7ヶ月うちのマンションで貯めて、貯金して、日当1万1千円払ってるんですけど、140万貯めよったんですよ。

(会場どよめき)

反対に怖なった。「お前、何も遊んで無いやろ」言うたら、「遊んでません」言いよるんです。「仕事ばっかりじゃなくて、遊べよ」言うたら、「いや~、わかりませんねん」って言うから(笑)、「その140万貯めた金と、俺が半分払ったるから勉強しに行きなさい。YMCAとか友達作りに行きなさいよ」というお話をしています。様々なことがあるなと思いながら、ギャンブル依存症の人のほうが更生したら世の中の財産になるなと最近思ってますね。

社会が受刑者を更生させる仕組みづくりを

それよりも、心の病んだ人間、そもそも心が腐ってる人間。だから、あの、私、そんないろんな奴を見てきて、酒鬼薔薇聖斗みたいな奴の気持ちもだんだんわかってきましたね。で、それをいかに、どう1人ずつ様々な個性を、どう意識を変革させるのかっていうのが、一番受刑者にとって大事なことやなと思います。

あとは雇い入れ企業でございます。受刑者、なんて雇わないですよね。リスク被るんで。だからほとんどは中小企業や中小零細企業。例えば、障害者の方については大企業でも雇う枠はあるんですけれども、(受刑者については)無いんですよ。雇わないです私も、こんな縁が無かったから。

なら、どうしたらええねんといろいろ調べたら、イギリスではソーシャル・インパクト・ボンドっていう仕組みがありますよね。

その仕組みを、作りたいと、今、日本財団を入れて、やろうと思っています。今日資料で見られている方もいると思うんですけど、刑務所に入って受刑者1人頭、大体どれくらいかかるかと総務省の人と話し合ってたら、直接経費で450万、3食付いてますからね。間接経費、1千万くらいかかります。1人1,500万、5万5千人×1,500万、掛けたらすごいすよね。

あとは警察の費用とか弁護士料とかも入れたら、天文学的な数字になるんすよ。で、3年入らなければとなると、1人頭大体1,500万×3年で4,500万かかるんですよ。

社会に出して、私らの中小企業、中小零細企業が彼らをもし更生させたとしたら。その企業に払ってあげたらいいんですよ、1千万ぐらい。イギリスでは投資家とかその辺に払うんですけどれども、そういう仕組みを私は作ろうと思っています。

それは長い時間がかかるので、私は、この職親プロジェクト以外に、社団法人作りました。いつか公益社団法人にしたいなと思って、寄付金を集めて、企業に対して更生させたらバップを払う仕組みと、受刑者一人ひとりに、その病気についての診断書を作って、それを更生させる仕組みを作らないといけないと思っています。

でも、皆さん思いますよね。何で刑務所で更生できないんだ、と。

私もずーっと言い続けてきたんですよ。「矯正や矯正や」と言っても、刑務所で基礎教育も教えたらいい、と。でも、できないんです。刑務所って大体ど田舎にあるんで、刑務所で働いている人も現場のことがわからないんです。規則は決まっているので、コミュニケーション能力を身に着けなさい、と言ってもこういう答弁の教育現場ではできるんだけども、授業としてはできても、(現場では)なかなか出来ないのが現状ですね。

じゃあ、社会に出て更生させないといけない、それについてはお金がかかる。じゃあ、お金いるよね。例えば田中さんがやってる活動もお金がかかるわけですから。一つひとつを解決しないと何の問題解決にもならないと私は考えております。

時間も無いんで最後に、私が千宗室という裏千家の人に、悩んだときに言われた言葉を。「草刈君、因果応報っていう言葉がありますよ。結果だけじゃないですよ、原因の因を掴みなさい。ひとつひとつの問題点の原因を掴むことが大事です。そのなかで、あなたのご縁が出来るから。では、あなたは就労者のための、因になりなさい、ご縁になりなさい、水と空気と太陽になりなさい。そしたら更生できますから」と。

今の話もそうですけど、一つひとつ原因を捕まえながら解決していくことが大事だと、いう言葉を最後の言葉として私の講演とさせて頂きます。

ありがとうございました

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