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ビジネスリーダーが学ぶべき「歴史」(全4記事)

見習うべきは「シラク3原則」 小泉進次郎氏が取り組む人口減少問題

2015年4月29日に開催された「G1ベンチャー2015」に、ライフネット生命会長の出口治明氏が登壇。モデレーターの為末大氏の進行で、「歴史とリーダーシップ」をテーマに、ビジネスリーダーが歴史を学ぶ意味についてトークしました。終盤の全体討議では、まず政治家の小泉進次郎氏が人口減少問題へのアプローチについての質問を投げかけ、出口氏はフランスのシラク3原則に学ぶ社会保障のあり方について見解を述べました。

小泉進次郎氏が取り組む人口問題

為末大氏(以下、為末):全体討議ということで、質問でもご意見でもいいんですけど……はい、小泉さんお願いします。

小泉進次郎氏(以下、小泉):今日は出口さんに初めてお会いできて、大変勉強になりました。今日歴史の話を伺って、G1ベンチャーという、これから(の未来)を考える人たちが多い場の中で、こういったセッションはすごい必要だなと思って、改めて来てよかったと思いました。

出口治明氏(以下、出口):ありがとうございます。

小泉:僕の今の仕事とも絡む質問なんですけど、出口さんがおっしゃったように、未来のことは極論を言えば誰もわからないですよね。ですけど、わからない未来の中で最も確度の高い未来の予測の1つが人口ですよね。

出口:はい、そう思います。

小泉:その人口で、日本が一番抱えている問題が、このまま行けばおそらく2100年には明治時代と同じ4000万人台になるだろうと。それをなんとか、今の1億2000万人を、せめて50年後には1億人で食い止めるようにあらゆる策を講じようと。今、これをやっているのが、私の立場でもあるんですけど。

出口:絶対にそうだと思います。

小泉:今までの日本は、歴史的に人口はずっと増え続けてきた。その時代から、これから、ある一定のところで下げ止まることができるかという新しい局面の中で、歴史をずっと俯瞰してこられた出口さんは、今の日本とこれからをどういうふうに見ているか、ご教授いただけたらと思います。

人口問題解決の糸口となる、シラク3原則

出口:明治時代と全く違うのは、明治時代と同じ人口になっても構成が全く違うということですよね。僕は個人的に言えば、日本の一番の課題は1にも2にも3にも人口を増やすことだと思っていて。一番のモデルは、やっぱりフランスの考え方がしっくりくる気がします。

シラク3原則という極めてシンプルな原則があります。第1原則は、男性は赤ちゃんを産むことができないので、赤ちゃんを産むか産まないかは女性が100パーセント自由に決めればいいという原則です。

でも、赤ちゃんを産むということはコストがかかるわけですから、その女性に経済力がなければ赤ちゃんを産めませんよね。

だから、女性は産みたいときにいつでも産んでもいいと。でも、その産みたいときに困らないように極力税金でそこの格差を縮めると。子どもは社会の宝である、というのが第1原則です。

第2原則は、そんなことを言っても例えば18歳で産むと、仕事をしないと生きていけないので、地方自治体の役割として、待機児童ゼロというのがマストですよと。いつ赤ちゃんを産んでも働けますよ、という条件を作ることが第2原則です。

第3原則は、実は意外に知られていない気がするんですが、もとのポジションにもとの地位で戻れることを法定化したことです。僕は前、大企業にいたんですけど、最近は民間も厳しくて。例えば10人いたら、1番から10番まで順位を付けるんですね。

ある女性がそのグループで2番だったとします。それで、産休で休んだと。そしたら、1年は働いてないわけですから、上司が「この人は今年働いてないんだから10番にしよう」と言うわけです。これは、わりと理解できる。

でもこれをやってしまうと、例えば2年休んだら、2番の人が10番とランクを付けられたら、もう明らかに戻れないんですよね。

シラク3原則の第3原則は、赤ちゃんを産むということはものすごいいろんな勉強をしているわけだから、2番で休んだ人は2番で戻さなきゃいけないということを法定化したんですよね。そうすると、男性でも女性でも安心して休める。

こういう枠組みを作ったことで、もともと94年に(出生率は)1.6と少しでしたが、2006年には2.0くらいに戻っているので、こういうベーシックな政策をきちんとやれば、10年くらいで0.4や0.5ポイントは直すことができると思います。

自国の文化を残すことと、子供を産むということ

これもご存知かと思いますけど、僕がフランス人に聞いた限りでは、このシラク3原則のもとになった考えは、パリにインシアードという英語の大学院ができて、フランス人の若者の50パーセント以上はフランスワインを飲まない、むしろビールや他のアルコールを飲んでいると。

フランスがどんどんアングロサクソン化していくと。この中で、「これでいいんだろうか?」という問題提起を社会でみんなで考えた。

フランス文化はもう放っておいていいのだろうかという議論をした中で、やはりフランス文化を残そうと。フランス文化を残すとはどういうことかという議論をすれば、それはフランス語を話す人口を増やさなければ、絶対に文化は残らないと。それがシラク3原則です。

僕の知る限り、フランスのアプローチは社会保障がどうかとか、国の生産性がどうかというより、フランスの文化を残すためにはフランス語をマザータング(母語)とする人口を増やさなければいけない。そのためには、肌の色はともかく、フランスで産まれる赤ちゃんを増やすことしかないということで、このシラク3原則を始めたという話を聞いたことがあります。僕はすごく腹落ちしました。

為末:一夫多妻はあまり聞かないですか?

出口:これまた誤解があって。日本を除くG7の国では、婚姻外で産まれた赤ちゃんのほうが多いですよね。フランスでは確か法律婚以外で産まれた赤ちゃんが6割近いと思います。これは一夫多妻や不倫をすぐに考えそうなんですけど、実は違うんですよね。G7の他の国では、女性が初めて赤ちゃんを産む年齢と初めて結婚する年齢がずれていて、赤ちゃんを産んでから2、3年後に結婚してるんですよ。

つまり、2人で住んでいて、かわいい赤ちゃんが産まれたらどちらも責任を感じて法律婚をするというパターンなんですよ。ところが、先進国の中で日本だけが婚姻年齢のほうが早いんですよ。婚姻してから、赤ちゃんが産まれているんです。これはなぜかと考えたら、やっぱり無意識の社会差別があるからでしょうね。

為末:できちゃった婚をむしろ奨励したほうがいいということですよね。

出口:はい。子どもに対する理解は、人間は次の世代のために生きているわけですから、どんな子どもであっても社会の宝なので、女性が赤ちゃんを産んでくれたら社会みんなで「ありがとう」と言うと。そういう社会にしていけばこの問題はなくなると思うんですけど。

だから、婚姻外の赤ちゃんがたくさん産まれているというのは結婚しないというわけではなくて、先に赤ちゃんを産むというのが数字的に大きいですね。

為末:なるほど。

歴史上でおもしろいリーダーは誰か

質問者:今、世界を見渡して、出口さんがおもしろいと思うリーダーがいれば教えていただきたいです。あと、私も行こうと思ってるんですけど、安倍首相が明日来ると。いろいろとイノベーションやリーダーシップなどを話したいんですけど、歴史的なリーダーとして安倍さんはどういうリーダーで、どなたに近いスタイルなのかお聞きしたいです。

出口:2つ目は難しいですね。

(会場笑)

何で難しいかと言えば、まだ何をやられたというのがよくわからないので。2つ目は、正直言って僕自身はわかりません。今、生きているリーダーで、というのもものすごく難しいんですけど。

生きてるリーダーでなくてもよかったら、僕はさっき話したクビライはすごいと思います。何ですごいかと言えば、クビライの生きた時代は十字軍の時代で、ヨーロッパでは宗教の違いで人を殺していたんですよね。

クビライの言葉が残っていますが、思想や信条、宗教は目に見えないと。目に見えないもので人の首を斬っていたらもったいないと。人間については、何がやりたいのか、何が得意なのかをよく聞いて、使ったほうが得だと。この精神、寛容の精神はすばらしいと思います。それでいいですか?

歴史は最高のケーススタディ

質問者:為末さん、出口さんにお聞きしたいです。歴史を学ぶ意義は、そこから原理原則を導き出して、意思決定に活かしていくことかなと思っていて。

自分であれば、何か迷ったら難しいほうを選んでチャレンジしようということを心がけたりしているんですね。お二人がいろいろな歴史を学ばれて活かしている原理原則、実際に行った意思決定の事例があればお聞きしたいなと思います。

出口:歴史を学ぶ意義は、原理原則もありますが、僕はケーススタディの要素のほうが多いような気がします。いろんなことが起こったときに、(過去の)人はどのように判断したんだろうと。だから、原理原則もありますが、僕は歴史は最高のケーススタディだと思っています。

学んだことといえば、やっぱりダイバーシティの大事さです。ライフネットをつくるときに、僕はどういう人だろうと抽象化したら、「年を取っていて保険のことをちょっとは知っている」という属性ですよね。じゃあ、パートナーは誰が考えても、「若くて保険のことを知らない人」のほうがいいよね、ということで岩瀬(大輔)を選んだと。

為末:僕はあまり詳しくないんですけど、歴史がおもしろいなと思うのは、断片的な情報なんですね。事実以外に、もう1つの見方があって。つまり、活字なんですけど。13世紀の農民はこう見てたけど、漁師はこう見て、歴史家はこう見た、という。そういうものを集めて、「こうだったんじゃなかろうか」という推論を出すのが、歴史とこれから先を見る上で大事な点かなと思ってます。

もう1つ、原理原則とはちょっと違うかもしれないですが、プラトンという哲学者がいて、彼はオリンピアンだったんですね。レスリングのオリンピックで、プラトンというのは肩幅が広いという意味だったんですけど、彼は銀メダルで終わるんです。プラトンはその後、哲学を志して哲学者になるんですけど。

自分の人生は銅メダルで終わっちゃったので、次の人生で彼の哲学にあたるものは何だろうかというのを考えるという上で、彼の人生の話は好きな話で。もう1発勝負があるというのは、スポーツ選手にとっては希望なんですよね。

だから、それはすごく勇気づけられた。本当の話かどうかわからないですけど、裏を取って元気がなくなるくらいだったらこの話を信じておけばいいかなと思って(笑)。

出口:ファクトだと思います。

為末:ファクトですかね。そう思ってます。最後、どうぞ。

歴史上で優れた女性のリーダー

質問者:以前出口さんのお話を聞かせていただいたときに、本と旅行からしか学ぶことはできない。たぶん、本は歴史かなと思ったんですけど。

出口:人・本・旅と言ってますね。

質問者:人・本・旅ですね。「ああ、そうか」と旅行にガンガン行ってるんですけど。今日、女性の話がジョゼフィーヌしか出てこなかったのかなと思ったりして(笑)。別にリーダーでなくてもいいかなと思うんですけど、歴史上、女性がやってきた役割でおもしろい話があればお聞きしたいです。

為末:Historyの語源がHis Storyだと聞いたことあるんですけど、あれは本当なんでしょうかね?

出口:あれは違うでしょうね(笑)。

為末:ああ、違うんですか。

出口:お話になかったんですけど、僕は、奈良時代は女帝の世紀と習って、草壁皇子や文武天皇や聖武天皇がみんな病弱で幼かったから、しっかりした女性が中継ぎで継いだと。こういうふうに習った記憶があるんですね。でも、これは全く嘘だと思いますね。

当時の650年から700年の間、奈良時代の前の世界を治めていたのは実は武則天ですよね。中国の女帝です。彼女はめちゃくちゃ優秀だったので、おそらく日本の持統天皇は、世界を言わばヒラリー・クリントンが仕切っていると。そしたら日本は私が仕切ってもおかしくないだろうと思ったと思うんですよね。だから、ロールモデルがあったから、奈良時代は女性が活躍できた。

中国の北魏から隋、唐という王朝は、学者は拓跋帝国とか呼んでるんですけど、鮮卑の拓跋部という部族が作った王朝です。全部、異国人ですけど。このグループはものすごく女性の力が強いんですよ。

なぜかよくわからないんですが。だから、武則天だけではなくて馮皇后や韋皇后など、男性顔負けの優れたリーダーが山ほど出てきているんですよね。

持統天皇は鸕野讚良という名前ですけど、彼女は明らかに天照のモデルですよね。古事記や日本書紀ができた時代で。彼女はおそらく藤原不比等という官僚を使って日本の建国をなしとげているので。そういう意味では、日本という国を本当に作ったのは僕は持統天皇だと思っているので、女性が作った国ですよね。

今、安倍内閣も「女性が輝く国をつくろう」と言っているので、それは「日本がもとに戻る話なんだ」と考えれば、すごくいいと思うのでぜひ頑張っていただきたいと思います。

今のITの世界はバブルと言えるのか

為末:最後にいいですか? モデレーターの権限を発動ということで。 「今現在のITの世界はバブルだと思われますか?」というのを聞きたくて。

いったい何がバブルで、何がバブルじゃないかというのがわからないんですが、ああいうものを見ていると、そのときの人はおそらくこれが永遠に続くだろうなと思っていたんじゃないかなと思うんですけど。

でも、じわじわと衰退が始まっている。衰退というか、きっかけは全然(想像が)及びもしない所の国が負けることによって起きていく。その関係が人間にはどうしても見えないんじゃないかと思うんですけど。全然バブルではなくて、今上がっているという状況かもわからないんですけど、 今現在の日本の経済とITの領域をどうんなふうに見られていますか?

出口:これも荒っぽい議論なんですけど、自然界にあるものと人間の社会はわりとよく似ていて。振り子ってありますよね? 振り子って、振り切らないともとに戻らないんですよ。同じように、作用・反作用もあるんですけど。

社会はあるところまで行かないと、もとに戻らないような気がします。だから、社会って振り子のような気がする。

それからもう1つは、バブルを振り子で考えたら、熱中したらピークに行くまで終わらないんですよね。いくらクールな人が「これはおかしい」と警鐘を乱打しても、社会全体としてはやっぱり行っちゃうので。そういう癖を持っている。

だから、バブルで必ず右に振れて、あとどこまで戻すかというのはその社会の対応によって違うんですけれども。バブルというのは、そういう面では必ず起こるので、それは振り子が振れ切れる所だと考えたらいいのかもしれない。

為末:今現在、どのくらいだと思われますか?

出口:もう振り切れそうだという人もいれば、まだまだ行くという人もいるので難しいですよね。でも、実はもっとベースにあるのは、先ほど小泉さんもおっしゃった人口というのは圧倒的に大きいですね。

どんな社会でも、単純ですけど、年齢は関係ないんですが、元気で意欲があって働く人がいるかどうかというのが、社会が伸びるかどうかの全てなので、人口。

それから、昔は農業がベースだったので、気候ですよね。大震災でもネパールでもわかるんですけど、本当に人間の文明というのはあれ(脆い)なので、温暖化は僕らが考えてる以上に恐ろしいかもしれませんね。自然の大きい枠組みというのは本当にすごいと思います。

為末:ということで、終了と出てしまいました。出口会長でした。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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