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第255回『極意はがんばらない「ファシリテーションは何をもたらすのか?」』(全2記事)

入山章栄氏が語る、“もったいない”ファシリテーションのパターン 司会進行よりも大事なポイント

さまざまな社会課題や未来予想に対して「イノベーション」をキーワードに経営学者・入山章栄氏が多様なジャンルのトップランナーとディスカッションする番組・文化放送「浜松町Innovation Culture Cafe」。今回は株式会社Funleash CEO 兼 代表取締役の志水静香氏と、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏がゲストに登場。本記事では、ファシリテーションにおいて、「司会」の役割以上に重要なポイントをお伝えします。

トップが4年で変わる会社は変革が難しい

田ケ原恵美氏(以下、田ケ原):入山さんのプロフィールです。大学院修了後、三菱総合研究所に入社された入山さんは、研究員・コンサルタントを経て、アメリカ・ピッツバーグ大学大学院に留学されます。その後、アメリカ・ニューヨーク州立大学バッファロー校で助教授を務め、2013年に日本に帰国。現在は、早稲田大学ビジネススクール教授として活動されています。

教鞭を執る一方で、2019年に刊行した『世界標準の経営理論』は15万部超えのベストセラーになるほか、京都市の戦略アドバイザーやイベントにおけるファシリテーターとしても活躍。いで立ちは、当番組の『浜カフェ(浜松町Innovation Culture Cafe)』のマスターに極めて似ていますが別人です。入山先生、どうぞよろしくお願いします。

入山章栄氏(以下、入山):早稲田大学の入山です。よろしくお願いします。

田ケ原:あらためて入山先生の、今のお仕事や活動内容について教えてください。

入山:メインの仕事は当然経営学者で、早稲田大学大学院のビジネススクールの教授をしております。それ以外に、経営学の考え方をいろんなところに普及するためにメディアに出たり。

あと、いろんな企業さんからお声がけいただくので、いろんな会社のアドバイザーをやったり、社外取締役をやったりしています。ビジネスという意味で日本をもっとおもしろい国にしていこうみたいなことで、微力ながらそういう活動をしています。

田ケ原:今、日本企業をご覧になっていて、課題はどんなものがあると思われますか?

入山:1つはまさに、先週話したテーマですけど、「心理的安全性」ですよね。いろんな人たちの意見を引き出すということですね。あとは、社長さんの任期が決まっている会社は、2年任期とか3年任期で社長が代わっちゃうでしょう。

会社の変革というのは、特に大手・中堅は絶対10年とか20年とかかかるんですよ。そこでトップが4年で辞めるとわかっている会社は、やはり変革が難しいんです。

自分が辞めるから、10年先まで責任を持てないんですよ。だからそのためには、やはりトップが結果を出しているなら長期でやる。長期でやらないとイノベーションも起きないので、そういう体制を作っていくことが大事だなと思っています。

田ケ原:ありがとうございます。まさに経営学の専門家らしいコメントが聞けたかなと思います。今日もそんなお話を聞かせていただけたらと思います。よろしくお願いします。

「チャンスがあるのにもったいない」日本企業

田ケ原:続いて、志水さんのプロフィールです。大学卒業後、日系IT企業に入社し、アメリカに赴任。外資系IT・自動車メーカーなどを経てギャップジャパンに転職され、人事本部長として人事制度基盤を設立されました。

その他にも、総合人材サービス会社「ランスタッド」の取締役・最高人材開発責任者をはじめ、複数の企業で人事制度の構築、理念・ビジョン浸透、組織変革などを牽引し、先進的な施策の導入事例も持ちます。

2018年には、株式会社Funleash(ファンリーシュ)を設立され、スタートアップ・大企業、自治体や教育機関など、さまざまな組織に対して人材育成や組織の成長を支援されています。志水さん、よろしくお願いします。

志水静香氏(以下、志水):よろしくお願いします。

田ケ原:では、あらためまして、今の活動やお仕事内容を教えてください。

志水:今プロフィールをご紹介いただいたんですが、私は30年弱ぐらい、ずっと外資系の企業で働いてきたんですけれども、やはり日本企業に「チャンスがあるのにもったいないな」というところがありまして。

キャリアも後半に近づいてきたので、残りのキャリアは日本企業がもっともっと生き生きと、世の中というかグローバルですごい国だなと思ってもらえるように、微力ながら手伝いたいなと思って、外部支援をやっています。

外部支援というと、コンサルティングというふうに思われがちなんですけど、コンサルティングみたいに100枚ぐらいのプレゼンテーションを作って「はい」ということではなく、中に入って一緒にガンガン議論して、「その会社のために一番いい方法って何だろうね?」みたいなものを模索していくお手伝いをしています。

人事部長とCHROの役割の違い

田ケ原:すばらしい。どんなふうにご覧になっていますか?

入山:いや、僕は日本の人事界のスーパースターのお一人である志水さんの大ファンなんですよ。経営学者の立場でいろんな会社を見た結果、いわゆる会社の機能でいくと、一番変わらなきゃいけないのは、人事と組織だと思っています。

でもそれって、めちゃくちゃ難しくて時間がかかるんですね。人事は人と組織だから、会社ごとにぜんぜん違うんですよね。だから、その会社に深く入り込んで、本当に根底からコツコツ会社を変える、いわゆる「CHRO」(最高人事責任者)がすごく重要な役職になってきているんですね。

だから、僕は実は、「これからCHROで本当に優れた人は、兼業をしたほうがいいんじゃない?」ということをすごく言っています。大変なことになるけど、3社ぐらい兼業してもらって。A社、B社、C社、どこの会社も変えるみたいな人が、絶対出てくるだろうと言っているんですね。

そうしていたら、志水さんが今Funleashで、まさにそれに近い仕事をやられているんですよ。だから、志水さんみたいな方が、これから日本の会社を変えていくんだと思います。

志水:そういう方が増えてきています。いくつか掛け持ちをして、CHRO的な役割で入るという。私自身もそうですけど、これから増えてくると思いますね。

田ケ原:すばらしいですね。まさに(今の)人事の組織は、「会社の成長にどう貢献するか」を考えられる人が、まだ少ないということですよね。

志水:やはりどうしても、「スーパー人事部長」みたいな人が多いんですよね。「何が違うんですか?」とよく言われるのは、人事部長は今日の仕事がうまくいくことを考えるんですよ。それも大事なんですが、CHROはやはり、未来のことを考えなきゃいけないんです。

「未来のこの事業をどういうふうに伸ばしていくんだろう?」「この組織をどうやって発展させていくんだろう?」という、ずっと未来を考えていなきゃいけない。だから、非常に経営者に近いですよね。

「司会」の役割だけで終わってしまうパターン

田ケ原:大事な役割ですね。ここからは、「ファシリテーションは何をもたらすのか?」というテーマでお話ししていきたいと思います。「ファシリテーション」というと、「会議などをスムーズに進める技法のこと」なんて一般的には言われていますけれども、あらためて志水さんは、ファシリテーションをどんなふうに整理されていますか?

志水:ファシリテーションは非常に重要なんですけれども、単なる進行役とか調整役ではなくて。やはり、その場にいらっしゃる人たちが本音で話をできて、その意見をきちんとまとめて、最良の結果に導けるように場をちゃんと作っていく役割かなと思っています。

田ケ原:しゃべることよりは、場をどう作っていくかが重要だということですね。今週は、「ビジネスの現場以外におけるファシリテーション」を考えたいなと思っているんですけれども。

入山:つまり、ビジネス以外のところでもファシリテーションは大事じゃないかっていう。

田ケ原:はい。個人的には、例えばお二人はイベントにすごく登壇されているのでわかると思うんですけど、ゲストは豪華なのに、ファシリテーターとか司会の方が、いまいちちゃんとキャスティングされていない件ってよくあるなと思っていて。

入山:大変多いです。

田ケ原:そのあたりを、お二人はどんなふうにご覧になっていますか?

入山:私はけっこうパネリストとして登壇する場合もあるし、ファシリテーターをやる場合もあるんですけど。ファシリテーションの人がいて、立派な会社の重役とか協会長みたいな方が来て、3~4人いて、それで「じゃあ、○○さんからお願いします」と言って、その○○さんが10分か15分ぐらいずっとしゃべって、みんなそれをシーンと聞いていて。

「はい。じゃあ次、○○さん、お願いします」と、隣の方がまた10分か15分、用意してきたパワポとかを使ってわーっとしゃべって。「はい。じゃあ次、○○さん」と言っている間に時間は過ぎ、「はい、おしまいです」というのはありますよね。

いいんですけど、せっかく4人の方に来ていただいているんだから、お互いがお互いをどう考えているんだとか、やはりそういうことをどんどんやるべきだと思うんです。そういうセッティングの時もあると思うんですけど、司会じゃなくてファシリテーションをやるのがすごく重要だと思いますね。

「PTA」でファシリテーション力が身につく

田ケ原:志水さんは、どんなふうにご覧になりますか?

志水:あえて違う意見が引き出されるように空気を作っていくことがすごく大事。包容力みたいなものも大事ですし、そこにいらっしゃる方たちが、「あ、自分でも気がつかないうちに、すごく本音を話していた」みたいな感じで帰っていかれるような場にしていくことは、まだまだできていないかなと思いますね。

田ケ原:どうしたらファシリテーションが「必要だよね」となっていくんですかね。

志水:今、気づいている方は、けっこういらっしゃると思いますけどね。

入山:経験することですよね。たぶん、そういう順番が決まったものが議論だと思っちゃっているんですよ。でも、本当はそうじゃなくて、いろいろ右へ左へ行ったりすることで、「こういうのもあるんだ」とわかる。

そして、田ケ原さんがおっしゃったように、「けっこうこれはファシリテーターで違うね」ということがわかると、「実は大事なのってパネリストよりファシリテーターなんじゃないか?」ということに気づいてき出している方は多い。だからそう見ていくと、どんどん変わっていくんじゃないですかね。やはり経験ですよね。

志水:ある経営者の方が、「志水さん、俺ファシリテーション能力がめっちゃ身についたんだよね」と言ってくれて、「どこで身につけたんですか?」と聞いたら、「PTA」と言っていたんです。もう意見がガチャガチャで、いろんな人がいる中で、(その方は)男性だったんですけど、男性でPTAにいらっしゃるのは非常に珍しいから。

入山:そうですね。まず、マイノリティですからね。

志水:やはり最初は場をコントロールしようとしていたんだけど、これは無理だと思って、とにかく聞こうと思ったんですって。最終的にその場がすごく良くなってきて、みなさん意見も言いやすくなって、みなさんの意見が決断につながるということで、「いやこれ、会社に活かせるわ」とおっしゃっていたんですよ。

入山:PTAファシリは、力がつきますよね(笑)。

テーマの専門知識がない時はどうする?

田ケ原:でも、入山先生もその話をされていましたよね。

入山:どこで聞いていただいたかわからないですけど、僕が言ったのはちょっと文脈が違っていて。特に日本の大手企業の偉い人たちは、人生でマジョリティ経験をしたことがないんですね。僕もそうなので、自戒も込めて言っていますが、マイノリティ経験をしたことがないから、マイノリティの感覚がわからないんですよ。

田ケ原:男性社会だからということですね。

入山:はい。なので、そういう人たちにはまず、「保護者会に行ってください」とお願いしているんです。日本はやはりどちらかというとまだ男性が中心なので、男性が働きに行く代わりに、小学校の保護者会はだいたい女性なんですよ。

ガラガラっとドアを開けた瞬間、全員女性で、「こんにちは」と言って、後ろのほうでちんまり座っているんですよね。僕はそこで心が折れて、「あ、これがマイノリティか」と、マイノリティ経験をしてすごすご帰ったんですけど、先ほど志水さんがおっしゃった方は僕よりすばらしい方で、ちゃんとそこでファシリをやるという。

志水:意見を聞いて、「みなさんが言っていることってこうですよね?」と。でも、自分の意見はそこでは言わないと言っていました。

田ケ原:なるほど。でも、今の話を聞いていると、PTAで専門性は必要ないと思うんですけど、例えば会議やビジネスイベントにおけるファシリテーションは、専門性が必要なんじゃないかって、どこかで思っているところがあるんですけど、実際どうなんですか?

志水:確かに(テーマについての)専門性を求められるファシリテーションもありますけど、けっこうマジョリティというかほとんどのケースは必要ないと思いますよ。パネリストや参加者の方がそこにいらっしゃるから。(大事なのは)例えばその人たちに気持ち良く話してもらうということですよね。

田ケ原:なるほど。

入山:僕も今のはすごく賛成で、こっちが知らない立場で、いろんな人に教えてもらえるわけじゃないですか。例えばオーディエンスがいる場合ですけど、観客のみなさんはけっこう素人の方もいらっしゃるでしょうから、細かい専門用語で話すよりも、わからない言葉が出てきたら、「すみません。それってどういうことですか?」と聞くのは、むしろ会場への通訳の仕事になるので、ファシリテーターがやればいいと思います。

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