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対話の中で学びを生みだす ファシリテーションの技術 (全2記事)

ファシリテーターは単なる司会進行役ではない メンバーの意見を引き出し、学びを生み出す技術

本の学びを深めるオンライン講座「flier book camp」を運営する、株式会社フライヤーが主催した本イベント。1on1に苦手意識がある方や、職場の人間関係を良くしたい方に向けて、悩みを解決するヒントをお伝えします。本記事では、株式会社学びデザイン代表取締役の荒木博行氏がゲストに登場。ファシリテーターの役割や、メンバーの意見を引き出し、学びを生み出すコツを明かします。

荒木博行氏が明かすファシリテーションの技術

久保彩氏(以下、久保):みなさんこんにちは。たくさんの方にお集まりいただきまして、ありがとうございます。

今回、750名近くということで、最近のイベントの中でもかなり多くの方にご参加いただいているのかなと思います。「対話の中で学びを生みだす ファシリテーションの技術」ということでご参加いただいているということは、ファシリテーションのお悩みがすごく大きいからなのでしょうか?

どうしてみなさんがこのタイトルで今日来られたのか、「どこに興味をもったのか」というところをぜひチャットで教えていただければと思います。

今日お届けしますのは、私、久保彩と、ゲストの荒木博行さんです。よろしくお願いします。

荒木博行氏(以下、荒木):よろしくお願いします。

久保:私はずっと横で荒木さんのファシリを勉強させていただいていて、師匠みたいな方なので、今日はその真髄を見せていただくのを大変楽しみにしております。

改めまして、本日ファシリテーターをさせていただきます久保彩と申します。株式会社フライヤーのCCO(Chief Customer Officer)です。イベントを毎月2回から3回、みなさんに仕事の合間で、良い気づきや、これから「午後の仕事をがんばるぞ」という気持ちになれるような時間を展開したいと思い、この時間でやっております。荒木さん、自己紹介を簡単にいただいてよろしいでしょうか。

荒木:私は、今は学びデザインという会社を立ち上げて、いろんな企業と共に学ぶ場作りをやっております。VoicyやPodcastで、ひょっとしたら接点のある方が多いかもしれません。

毎日更新しているんですけれども、ゲストの方をお招きして、それこそ今日のファシリテーションじゃないんですが、いろいろな対話の中から学びをどういうふうに引き出していくかを、日々日々やっています。

その前のキャリアは、グロービスに15年いました。クラスで授業を作っていたわけなんですが、そこでも対話を通じて学びを引き出すことはずっとやっています。そんな立ち位置でいろいろと取り組んでいます。本日はどうぞよろしくお願いします。

対話は「瞬間芸」、考えすぎたら何もできない

久保:よろしくお願いします。実際にチャットを見ていましても、「Voicyを毎日聴いています」とか「Voicyを聴いて来ました」という方、あるいは荒木さんのご著書を見て、「すごく良かったです」と言ってくださっている方がいらっしゃいます。

そして、「『学びを生み出す対話』というところに興味を惹かれた」という方も。今回の話の中でも気づきが生まれたらと思いますし、自分も気づきを作れる人になりたいということのようですね。

あ、これはおもしろい。「社員(私も含む)に必要なスキルだけど、身に付いていない。周りにも上手なファシリテーターが少ない気がする。今日が考える、気づくきっかけになったらいいな」と。

あと、もう1個だけ。「仕事はもちろんなんですが、子どもとの会話の中から学びが生まれるとうれしい」。これは私もすごく共感しますね。先ほどちょっとお伝えしたように、私は荒木さんの講座でご一緒させていただく中で、本当にすばらしいなと思うのは、荒木さんがいると(話のポイントが)際立つんですね。

いろんな対談で話を聞いていても、ストーリーで言われていることが、急に輪郭がくっきりする。「あ、確かにそこがすごいんだ」とか「確かにそこが、この方の言われていることで私にも有効なんだ」とか、意味がすごくはっきりする。そのあたりは、意識されてやっていらっしゃることなんですかね?

荒木:そうですね。意識と無意識と両方ありますし、長らくこういうことをやっているので、ほぼ無意識が多いんですけど。今回の講座では、そういう意味で僕が無意識的にやっていることも意識化し、言語化してお伝えすることをやっていきます。最終的に無意識化できるようになるのがゴールなんですが、なかなか意識を無意識化するのが大変なんです。

でも、無意識化できると、対話の中でどんどんやれることが増えてくるんですね。対話って本当に瞬間芸なので、いろいろ考えていたら何もできないんですよ。

なので、スポーツと一緒ですよね。本当に、フィールドに出る前に勝負はほとんど決まっているみたいなことだったりもするので。だから、事前にどれだけ無意識化できるかが1つのポイントのような気がしています。

ファシリテーターは単なる司会進行役ではない

久保:そうですよね。でも、無意識化する前に、意識的にポイントを押さえることを、当然トレーニングとしてやっていった結果、無意識になるっていうことですよね。今日はそのポイント、つまり荒木さんがいろいろ試行錯誤してきたことを教えていただきます。

今回の講座は、実は3年前に1度やっていただきました。その時が、実は「flier book camp」の第1回だったんですね。3年前に受けた方も、「あれを受けて本当に良かった」と言ってくださっています。

組織の中や仕事の中でもそうだし、いろんなところで場作りの力を発揮して、周りの人の学びの場を作れるようになったということでした。それをもう1回、3年越しに今回やっていただくことになったんですが、今回はどういうポイントをお話しされるのか、ちょっと教えていただけますか。

荒木:対話の中で、単に対話するだけじゃなく、そこから学びをちゃんと引き出していくことって、けっこう大事なことなんですね。

「MCとファシリテーターはどう違うんですか?」という質問がありますけれども、ファシリテーターは司会進行役じゃない。そういう意味もあるんですけど、それ以上に「学びを生み出していく人」でありたいなと、僕自身は思っています。ここは大きなチャレンジのような気がしますね。

MC的なものは、「じゃあ、久保さんどうぞ」「はいはい、なるほど。じゃあ、それに対してヤマモトさん」とか、「あの人はどうですか?」「いろいろ意見が出ましたね。ちょっとそろそろ時間なので、CMをどうぞ」とか。

久保:今のはタイムキープがメインですね。

荒木:会議の場だと、いろんな人に満遍なく話を聞くとか、大事な人をちゃんとケアをするみたいなことはあるんですけれど、それ以上に、「この対話の中から何が見つかったの?」というところをちゃんと引き出していくと、ちょっとステージが上がるような気がするんですよね。

「学び」を生み出すファシリテーターの役割

荒木:もちろん司会進行的な部分はあるんですけれど、「その次のフェーズにどうやって行くか」がけっこう大事なような気がしています。いろいろ前捌き的なフェーズ1の「前提整理」だとか。フェーズ2の「ラポールの形成」、つまり共感意識。「大丈夫だよ」「ここでしっかり話せるんだよ」という空気作り。このフェーズ1、2がめちゃくちゃ大事で、これがある種「土」みたいなものですね。

(土が)耕されていないと、その上に植物が育たないので、1、2までをちゃんとやった上で、そこから学びを探索していく。そんなことのような気がします。

親子の会話も、まず前提として共感をちゃんと示して、相手が話す気になる、というのが大事じゃないですか。「そっかそっか。今日学校でそんなことを学んだの。先生は何を言っていたの?」「それは本当にすごいね。それで、どうしたわけ?」とか。

そういうところから細かいキーワードがポツポツ出てきて、「それってすごくない?」「つまりこういうことを学んだの?」みたいな。それは、なんとなくその場から生まれているような気がするんですけど、その前提はこっちがめちゃくちゃ耕しているんです。

久保:確かに、こういうファシリテーターがいると、もちろん参加者は学びがすごくくっきりして、「おもしろいな」と思って聴けますが、それだけではなく、対談相手や、先ほどの親子の子どもの側から見た時にも、前のめりに「こういうこと?」と言ってくれたら、すごくうれしいですね。この手法をやっていくと、関係性作りにもすごく活きていきますね。

荒木:このラポール形成みたいなものが「難しい」と書かれている人も。これこそ、「ザ・身体知」なので、そんなに簡単じゃないんですよ。ポジティブな合図、ネガティブな合図、いろいろあるのをうまく調整する。

「先が聞きたい。言っていることを理解しているよ」というサインを、いろんなかたちで繰り出していくことによって、ようやく相手は「しゃべってもいいか」という状態になるわけですよね。

相手の発言の中で、最初の段階でもちろん違和感がある部分もあるかもしれないですけど。それ自体にいきなり「違和感があります」というサインを出すよりは、「聞いているし、先をもっと聞かせて。ここまでは理解しているよ」というサインを出し続けることを、意識的にやるのが大事。

これも講座の中でいろいろやっていきます。でも本当に身体のクセみたいな部分なので、繰り返しやっていく感じですかね。

タレントの「ワイプ芸」に学ぶこと

久保:そうですね。ちなみにリアルとオンラインだと、このあたりは違うものなんですか?

荒木:ぜんぜんとは言わないですけど、違いますね。オンラインの場合だと、やはりいろんな意味で情報量が少ない。平面的な画面なので、身体が出すサインがわかりづらい。たとえば僕が今、下で足をバタバタしていてもぜんぜん気づかないですよね。だから、画面内に映る部分でしかサインを送れていないんですよ。

久保:なるほど。

荒木:例えば、メモを書くといっても、メモを書いている姿はわからないんですよね。久保さんには、下を向いて内職しているみたいに見えてしまうかもしれない。そういう意味では、この画面に映る部分でどういうふうにリアクションするかが大事だったりします。

よく「ワイプ芸」と言われますけど、芸人さんがテレビのワイプっていう小さな画面に顔が抜かれていたりするじゃないですか。そこで抜かれていることを意識しながら大きくリアクションするのが、彼らにとってはサバイバルスキルになっています。そういう意味で、オンラインの場合だと、ちょっと動き方が変わるのはありますね。

相手の言ってることがわからなくてもOK

久保:聞いてますサイン、先が聞きたいですサイン、理解してますサインについて、「この3つのサイン、そこそこ反射的にできるし、相手からは『聞いてくれてありがとう。話しやすかった』と言われるんですけど、実は相手の言っていることがわかっていないことが多いです。そんなところから始めても大丈夫でしょうか?」という、おもしろいご質問をいただきました。

荒木:実はいろいろあるんですけど、この短い時間で答えるならば、最初の段階はぜんぜんオッケーって感覚ですね。最初の段階では、とりあえず関係性を築くことが何よりも大事なので。

大げさな話、相手がフランス語を話していても、「ああ、なるほど。いいこと言いますね」という感じで、「この人と話していても大丈夫だな」という関係性を築く。ただ、それで終わっちゃうと、本当に中身がすっからかんになっちゃうので。そのサインを送り合うフェーズと、それからより深掘りしていくフェーズはちょっと違うんですね。これを間違えちゃう人がけっこういるんです。

気になるところにいきなり切り込んでいってしまうことに耐えられる人(相手)って、あんまりいない。この部分は、長らくやっていて感じていますね。

1つの意見をどこまで深掘りすればいいのか?

荒木:そこからどうやっていくかは、この短い時間の中ではあまり触れられないですけど、「意見の裏には『問い』がある」。みなさんの質問の中にも「どこまで深掘りすればいいのか」「深く掘るのか、横に展開するのか」とか、良い質問ですね。

「客観と主観」とか、いろいろあるんですけど。技術論としてまず考えなきゃいけないのは、意見。例えば、「ファシリテーション力がとても重要だと思っています」というのは、意見じゃないですか。

その裏側には必ず「問い」があるんですね。問いは語られることはあまりないんですけれども、「ファシリテーション力はあなたにとって重要か?」という問いに対して、意見として「ファシリテーション力はとても重要だと思っています」という答え。「問い」と「答え」の関係性ってあるんですよね。

久保:確かに。

荒木:意見に引っ張られちゃうんだけど、意見の前に「この問いは意味があるのか?」を考えなきゃいけないんです。

これがファシリテーターをやる上でとても大事なところで、常に意見を聞きながら、裏側で意見と問いを分離させ、問いの価値をじっくりと考える。これは、本当に鍛えないとなかなかできない。

論点がズレた時の対処法

久保:今の「問いの価値をじっくり考える」というのは、先ほど他の方がご質問されていた、「その意見を深掘りするのか、横に展開するのか」を考えるために、1回問いに立ち戻るという感じですか?

荒木:そういうことです。まず先ほど言ったように、意見はいったん受け止めましょうと。「あ、なるほど」とか、何でもいいんです。その上で、今言った、意見の裏側にある問いに注目しましょう。問いが適切でないとしたら「問いを修正する」という行為を、然るべきタイミングが来たら働き掛けなければいけないんですね。

「そこに行く前に、こういう論点についてどう?」とか。あと、「そこに行く前に」みたいな言い方をしちゃうと、ちょっと角が立っちゃうから、ここの言い方もけっこう大事だったりするんです。「なるほど。それはおもしろいですね。そこに関して、さらにここはどうですか?」とか。

久保:そう言われたら、すごくナチュラルに別の論点に移れますね。

荒木:問いが適切であれば、さらに意見を深掘りする。「その点、もう少し意見を聞かせてもらえますか?」とか。もしくは、複数の人がいる場合は、問いをキープしながら他の意見を求めることも大事だったりします。

そうすると、ひょっとしたら「ファシリテーションが大事かどうかに対して、私は実はあんまり大事じゃないと思っています」という意見が出てくるかもしれない。だから、問いはキープした上で、他の意見を求めることもあるわけですね。

またその意見を受け止めて、問いがずれていないかに注目する。こういうことを、実は裏側では脳みその中で理解し、やっている。

事前にどのくらい問いを用意しておく?

久保:先ほど質問があった、「ファシリテーターはどこまでコントロールするのか」とちょっと関連しそうですね。習熟度によるんでしょうけど、「問いをどこまで事前に設計するのか」について、どう思いますか?

荒木:習熟度にも依りますし、会議とか場の目的にも依りますね。「今日この場で、新規事業に対してイエスと言ってもらわなくてはならない」という使命感を帯びたファシリテーションの場合は、コントロール色がかなり強くなります。

それは仕方ないんだけれども、「まだスケジュールは先なので、まずいろんな意見を聞きたい」という段階であれば、コントロールをかなり手放すかたちになります。

久保:そうですね。「学びを生み出す対話」という今回のテーマで言うと、ある程度骨となる問いをちょっと持っておく感じですかね。

荒木:そうですね。当然のことながら、最初の段階はある程度「問いを設計する」ほうがやりやすいですよね。初めは「補助輪付きで乗りましょう」という感じなんだけど、「じゃあ補助輪を外してみましょう」「今度は手離しでできますか?」と、型をちゃんと理解した上で、だんだん難易度を上げていく。

そうすると、「補助輪があるから、いろんなチャレンジができる」という受け止め方で「ちょっとチャレンジしてみようかしら」となるんです。それに慣れてくると、受け止め方は習熟できたので補助輪を外して、「問いの設計はその場で柔軟にやってみましょう」というフェーズにいく感じでしょう。

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