2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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鳥潟幸志氏(以下、鳥潟):あらためまして、みなさん今日はお忙しいところ、セミナーにお集まりいただき、ありがとうございます。鳥潟と申します。今日は「AFTER AI時代に求められる能力とは」というテーマで、「AIが答えを出せない問いの設定力」について、みなさんと一緒に情報をシェアしていければと思っております。
簡単に自己紹介をさせていただきます。私は現在、二足のわらじを履いています。
1つはグロービス経営大学院で教員を務めており、前職ではベンチャー企業の経営を行っていましたので、ベンチャーマネジメントの科目の責任者をしています。
もう1つは、グロービスの事業会社でデジタル・プラットフォーム部門のリーダーを務めています。具体的には「GLOBIS学び放題」という動画学習サービスの事業責任者です。
経歴としては、新卒でサイバーエージェントに入り、2社目ではPR会社のビルコムの立ち上げに参画しました。その後、グロービスに入社し、現在に至っています。また、2024年4月には人生初の書籍を出版し、さまざまなランキングで1位をいただくことができました。
特にうれしかったのが、ギフトランキングでの評価です。5月、6月、8月と、書籍を社内の同僚や部下にギフトとして贈っていただいているようで、非常にありがたく思っています。今日は、この書籍の内容のエッセンスに加え、書籍に書き切れなかった部分も含めて、みなさんに事例を交えながらシェアしていければと思っております。
鳥潟:まず、そもそも「なぜこの本を書こうと思ったのか?」ということについてお話しします。私は先ほど申し上げたように、「GLOBIS学び放題」という動画学習サービスを6~7年前に立ち上げ、現在も事業リーダーを務めています。2023年にChatGPTがリリースされて以降、グロービスとしてもこの技術をどうビジネスに活かせるかをすぐに議論し始めました。
2023年6月、もう1年以上前になりますが、動画で学ぶだけでなく、動画で学んだ内容に対して、生成AIがフィードバックを与える仕組みをサービスに埋め込みました。例えば、学習者が解答を書くと、その内容に対してAIがフィードバックを返すというものです。
この仕組みをローンチするために、私自身も生成AIを活用し、どうすれば意味のあるフィードバックを提供できるかを研究してきました。そして、サービスとしてローンチに成功しました。
また、プライベートでも英語学習を続けており、1年ほど前から英会話のすべてをChatGPT-4Omniに切り替えています。毎朝15分ほど、生成AIと英会話を続けており、今朝も行いました。このように、プライベートでもかなり生成AIを使い込んでいます。
そんな中で、3つの疑問が生まれました。1つ目は、生成AIに入力する問いの質によって、引き出される回答がまったく異なるという点です。生成AIを使っているみなさんも、この感覚は共有しているのではないかと思います。
もう1つが、プロンプトを勉強して、非常に良い問いを入力したとしても、結局出されるのは選択肢に過ぎず、最終的にそれを受け入れるかどうかを決めるのは人間だということです。
3つ目の疑問は、仮に良い判断をしたとしても、最終的に生成AIが「これだ」という機械的な答えを出すことに対して、「私たちは本当にそれに従いたいのか?」という根本的な疑問が生じました。
鳥潟:この疑問について同僚の教員とも議論を重ね、1年ほど考えていく中で、生成AIがこれから普及していくことは間違いないが、その中で人間にはどのような能力が求められるのかを整理し、「3つの能力と1つの資質」にまとめました。
まず1つ目が「問いの設定力」、2つ目が「決める力」、3つ目が「リーダーシップ」です。さらに、これに加えて「自分らしさ」という資質が非常に重要になってくると考えました。「自分らしさ」とは、他者が決めた軸やルールに従うのではなく、「自分自身はどう考えるべきか?」と問う力です。AIが普及することで、この「自分らしさ」がさらに重要になると考えました。
こうした背景のもとで書籍を出版し、出版後の4~5ヶ月間で、さまざまな方と講演やディスカッションをさせていただく機会をいただき、私自身も考え方が大きくアップデートされてきました。今日は、そのあたりをみなさんに少しシェアさせていただければと思います。
私が所属するグロービスは、経営大学院が比較的よく知られているかと思いますが、「ヒト」「カネ」「チエ」という3つの領域で、大学院や法人研修、そしてベンチャーキャピタルでは日本最大のファンドを組成しています。また、「チエ」の領域では出版物やメディアを運営している組織です。
今日はまず全体のスキルについてお話しし、その中で時間の関係もあり、「問いの設定力」と「決める力」の2つに絞って話を進めたいと思います。単に概要を理解するだけでなく、「問いの設定力」と「決める力」をどのように開発するべきか、少し詳しく見ていきたいと思います。最後に、「自分らしさに沿って生きる力」をどう身につけるかという話をしたいと考えています。
鳥潟:最初に簡単なイントロとして、ぜひみなさんにチャットで回答していただきたいのですが、今回のテーマは「AIが答えを出せない問い」です。みなさんがどれくらいAIを使っているかを少し把握したいと思い、1、2、3、4の選択肢をご用意しました。
1は「毎日使っていますよ」という方。2は「機会があれば使うけど、毎日ではない」です。3は「使いたいけど、あまり使えていない」です。そして4は「その他」というかたちです。該当する番号を複数選んでもかまいませんので、チャットに入力いただけますでしょうか。
1が多いようですが、1寄りの2という方もいらっしゃり、3の方も一定数いらっしゃいますね。2もやはり少なくないようです。3の方も思ったよりいらっしゃいますね。だいぶみなさんの利用状況が見えてきました。1が多いものの、2や3の方もかなりいらっしゃる印象です。ありがとうございます。
この書籍は、もちろん生成AIをベースに書いていますが、あまり利用していない方でも、している方でも応用できる内容になっていると思います。その点も意識しながらお伝えしていきたいと思います。また、事前に何名かの方から「こういうことを知りたい」とのリクエストをいただいていますので、今日の流れの中で、それらの内容も少し触れながら説明していきたいと思います。
さっそく内容に入っていきます。この書籍の中で「AFTER AIに求められるスキル」について触れていますが、「そもそもテクノロジーは今どれくらい進化しているのか?」という点を、みなさんも日々いろいろなメディアで目にしているかと思います。
私自身の考えでは、テクノロジーは第1次産業革命から始まり、第2次、第3次と進化してきました。
これまでのテクノロジーは、大まかに言えば、人間の肉体労働やコミュニケーション手段、情報処理作業を代替する役割を担っていたと思います。
つまり、効率化ですね。テクノロジーはこれまで、どこまでも効率化のために使われてきた。しかし、生成AIが登場してから、景色が一変したと感じています。思考や創造性の一部を代替し始めている点が、人類にとって大きな影響を与えているのではないでしょうか。
そのため、ホワイトカラーや知識集約型のビジネスに従事している方々にとっても、生成AIは「脅威だ」や「これをどう対処するのか」といった声が多く聞かれるわけですが、私としては、この流れが非常に大きなティッピングポイントになっているのではないかと見ています。
鳥潟:では「AIが何でもできるのか?」という問いについてですが、よく使っていらっしゃる方なら感覚的におわかりだと思いますが、AIには強みと弱みがあると考えます。
例えば、この書籍にもまとめていますが、AIが得意なのは「選択肢」に答えることです。膨大な情報を集め、分類することができるので、さまざまな選択肢を提示するのは非常に得意です。
ただ、例えば「自分のキャリアをどうしたいのか」といった自分の意思に関する問いは、AIには答えられませんよね。また、過去の出来事について、例えば徳川家康が何をした人物なのかは簡単にAIで調べられますが、「鳥潟幸志がこの会議でどう発言すべきか」といった問いには、AIは答えを出せないわけです。
さらに、特定の条件下で理想的な選択肢を設定することはできますが、「人間としての理想は何か?」という問い、真善美に近いような問いにはAIは答えられません。ここはやはり、人間が決めるべき領域なのではないかと感じています。
AIは論理的な思考は得意ですが、情理、つまり人の感情や気持ちを理解するのは苦手です。もちろん、センサー技術が進化すれば、将来的にはAIがこれらを理解できるようになるかもしれませんが、まだしばらく時間がかかるでしょう。
ですので、私としては、AIが得意な領域はどんどん活用すればよいと思う一方で、AIが答えを出せない問いの領域については、人間がもっと能力を磨いていくべきだと考えています。
鳥潟:これをスキルに落とし込んだ内容が、「BEFORE AI」として書いている部分です。
これまで求められていた能力を非常にシンプルにまとめたのが左側にあります。「正解の発見力」「判断を仰ぐ力」「フォロワーシップ」と書いています。
「正解の発見力」というのは、誰かが与えた問いや課題に対して、いかに早く正解を発見できるかという能力です。いわばテストの答えを見つけるようなものです。「判断を仰ぐ力」は、上司や経営陣に「A、B、Cのどれを選びますか?」と判断を仰ぐ能力。そして、与えられた方針に従って行動する「フォロワーシップ」が求められていたわけです。
この時代に必要な資質としては、集団が決めた「らしさ」、つまりその集団の規範や暗黙の了解を理解し、それに沿って生きることが重視されてきました。特に日本の経営においては、こうした能力が非常に求められていたと思います。
もちろん、これらの能力は今でも必要だとは思いますが、特に変化のスピードが速い現代においては、(右の「AFTER AI」にある)「問いの設定力」「決める力」「リーダーシップ」という3つのスキルがより重要になります。そして、これらを支える基盤としての「自分らしさ」が、さらに重要な要素になっていると考えます。
また、よく「不確実性」が話題になりますが、「昔から不確実だったのではないか?」とか「昔からVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代じゃなかったか?」という声もあります。
それはその通りなのですが、現代では、その不確実な出来事が起こる頻度や、その発生までの時間がますます短くなっていることが特徴だと思います。よく「100年に一度の危機」と言われるような大規模な出来事が、今では10年に一度、場合によっては5年に一度の頻度で頻発している状況です。そのたびに、私たちが持っている前提や常識が覆されているように感じます。
例えば、このような講演も、5年前にはオンラインで行うことは一部であったかもしれませんが、どちらかというとリアル開催が当たり前でした。また、商談もオンラインで行うことは少なかったですよね。それが今では当たり前になっています。
このように、変化が急速に進んでいる現代において、AIだけで機械的に導き出す能力以上のものが求められているのではないでしょうか。それが「問いの設定力」だと考えています。
鳥潟:では、「問いの設定力」の中身に入っていきます。そもそも、なぜ問いが重要なのかという点について、ここであらためて整理しています。
解くべき問題が明確な場合と、解くべき問題が不明な場合がありますが、現代ではそもそも解くべき問題自体が不明である、という状況が多いのではないかと思います。
私自身、事業部のリーダーとして、グロービスグループ全体の役員の1人として仕事をしていますが、役員たちも「こうすれば必ず成功する」といったような確実な答えを持つことが、以前ほど簡単ではなくなってきていると感じます。なぜなら、変化が速すぎるからです。
そのような時代において、一人ひとりのメンバーが「これが解くべき問題なのではないか」「こうしたほうが良いのではないか」といった問いを立てられることが、組織を強くする要素だと考えています。このような姿勢が、現代の大きな前提となっているのではないでしょうか。
では、「問いって何が重要なのか?」ということについてですが、私はいくつかの先行研究を勉強しました。その中で、重要なポイントは4つあると考えています。
1つ目は、問いが思考を促すということです。問いを立てることで思考が深まり、質が向上します。これはグロービスの研究チームが2023年に行ったおもしろい研究が示しています。学生にビジネスショートケースを与え、「この状況でどのようなビジネスプランを作りますか?」と問いかけました。
この問いをそのまま与えたグループと、補足的な問いを設定したグループを比較しました。具体的には「今回のケースのターゲットは誰か?」や「そのターゲットが持っていそうなニーズは何か?」といった問いに答えてから、ビジネスプランを作るように指示したのです。
結果として、補足的な問いを与えられたグループのプランの精度は高く、より深く考えられていることが明らかになりました。つまり、適切な問いを立てることで、思考の質が向上するということが証明されたわけです。
鳥潟:2つ目は、問いが行動を促すという点です。思考が深まって仮説が立つと、その仮説を実際に検証する必要が出てきます。PDCAサイクルやリーンスタートアップなどがよく言われますが、適切な問いを立てることで「行動して確かめよう」という動きが生まれます。
3つ目は、問いが次の問いを生むということです。トヨタの「なぜを5回繰り返す」という有名な例がありますが、問いを立てることで次の問いが生まれ、思考がどんどん深まっていくわけです。これが問いの重要な役割の1つだと考えています。
4つ目は少し異なる視点ですが、自分の隠れた声に気づかせてくれることです。自分の本質的なニーズや、何に喜びを感じるのか、「自分はどう生きたいのか」といった問いが、次の人生の方向性を決めるカギになるのではないかと考えています。
後ほど詳しく説明しますが、グロービス経営大学院の特徴の1つに「志」という科目があります。マーケティングや財務だけでなく、志について学びます。しかし「志」というのは、どうやって作り、見つけ、明確にするのか。それにはやはり「問い」が大事なのです。こうした観点から、問い(の効能)を4つに整理しています。
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