2024.10.10
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売上アップ、生産性向上、部下指導など、さまざまな課題を抱えて心身ともに疲れ切ってしまうリーダーが増えています。こうした状況を打開する新たなスキル「セルフ・コンパッション」を実践するためのポイントについて、『すぐれたリーダーほど自分にやさしい 疲れ切らずに活躍するセルフ・コンパッションの技術』著者の若杉忠弘氏が解説しました。本記事では、「自分に優しくしたら甘え」という自分自身への呪いを解き、疲れきらずに活躍するための方法について解説します。
若杉忠弘氏(以下、若杉):さて、あらためて、どうやったらセルフコンパッションを高めることができるのか? ということですね。本(『すぐれたリーダーほど自分にやさしい』)の中にもいろいろ方法論を書いたんですが、今日はまず手始めとしてできることを紹介したいと思います。ここが一番大事なポイントだと僕は思ってます。
どうやったら高めることができるのか。実は2つのアプローチがあります。1つ目が「考え方をアップデートする」。それだけです(笑)。2つ目が「練習する」ということですね。それぞれ1個ずついきましょう。
まず「考え方をアップデートする」とはどういうことかというと、「自分に優しくしたら成果が出せないです」というのが、今の僕たちが持っている標準的なビジネスの考え方です。
「自分に優しくしたら甘えだよね」「自分に優しくしたら堕落するよね」「自分に優しくしたらダメだよね」「もっと他人に奉仕しなさい」「他人に貢献しなさい」「自分を犠牲にしてでも相手のことを考えなさい」……こういうふうにずっと刷り込まれて、ある種の呪いがかかってるわけです。本当ですよ(笑)。
だから、「セルフコンパッションは良いんですよ」と言うと、「それ、甘えちゃうので私はダメなんです」「心配です。できません」という質問が必ず出てきます。「呪縛」と言うと非常にネガティブなニュアンスがあるんですが、そういうふうに教わってきたということですね。そうすると、僕たちはセルフコンパッションを封印しちゃうんですよ。
セルフコンパッションを、みなさんが新しいスキルや新しい能力だと思われていたら大いなる誤解です。これは、我々にとって標準装備の能力です。
若杉:自分に優しくするから成果が出せるというふうにすれば、すでに僕たちが持ってる標準装備の能力が解放されて、これだけでレベルアップです。実は練習はいらないんです。本当にこういうことなんですよ。
実際の研究データで言うと、セルフコンパッションのメリットを書いたA4の1〜2枚ぐらいのネットの記事を読んでもらうだけで、セルフコンパッションのレベルが上がるんですよね。
ですので、今日の1時間のセミナーにみなさんが参加して聞いてくださるだけで、セルフコンパッションのレベルは上がるということですね。おめでとうございます。そういうものなんですよ(笑)。というのが1つです。
とはいえ、練習したほうがもっと使えるようになるのは事実です。ですので、練習したり実践するのは非常に大事なことになってきます。
これが2つ目のアプローチになるわけなんですが、実践上のコツは……多くのリーダーは難しいことをやりたがるんですけども、僕のおすすめは「究極的に簡単にする」です。
「難しいことをやれば、もっと成果が得られるんじゃないか」と思ってしまうんですが、そういうことじゃないですよ。極限まで簡単にするエクササイズをすることをおすすめしたいと思います。「究極的に簡単にする」ということです。それはどういうことかというと、日常に巧みにセルフコンパッションを潜り込ませることです。
若杉:じゃあ、最後に3つのやり方をパッパッと教えて終わりにしていきたいと思います。
1つ目が「待ち受け画面にセルフコンパッションを表示する」。パチパチ。僕のおすすめは、僕の本の書影を載せることですが(笑)、そんなことを言うと非常に我が強い人だなと思われるので、それは遠慮させていただいて。
みなさんが好きなセルフコンパッションのイメージを、スマホの画面に載せるということをやっていただきたいと思います。僕もセルフコンパッションの待ち受け画面になっていて、英語で「Self Compassion」と書いてあります。
だいたい1日で、多い人で100回ぐらい(スマホの画面を)見るんじゃないですか。多い人はもっと見ているかもしれないですね。
少なくとも数十回見てるので、スマホを立ち上げるたびにセルフコンパッション、スマホでメールチェックするたびにセルフコンパッション、ネットをチェックするたびにセルフコンパッション。これでも立派な実践になってきます。本当ですよ(笑)。
実践2、歯磨きの時。みなさん、きっと朝と夜に歯を磨きますよね。……磨きますよね(笑)? これはセルフコンパッションそのもので、自分の歯を労わってるんですよ。つらいのはイヤじゃないですか。だから磨くわけですよ。
歯を磨くと口もきれいになって、そしてメンバーとも会話できるわけです。みなさんが朝に歯を磨かずにメンバーと会話したら、メンバーは嫌がりますよね(笑)。だから、自分を大事に労わることが、実はメンバーに対しても役に立っている。本当にシンプルな例示ですよね。
ですので、朝に磨く時、夜に磨く時、「もう自分はセルフコンパッションを実践してるな」と思うだけです。だって、どうせ歯を磨くんですから、こう思えばいいじゃないですか。これも立派な実践になります。
若杉:実践3が「つぶやく」。ただ「つぶやく」です。ちょっとでも大変なことがあったら、「自分に優しくしていい、自分に優しくしていい、自分に優しくしていい……」とつぶやく。これだけです。
気持ちが乗らなくてもぜんぜん大丈夫です。心に抵抗感が走っても、軽くつぶやくだけ。ちょっとでもつらい時があったら、「自分に優しくしていい、自分に優しくしていい、自分に優しくしていい」と、つぶやく。こうすると、じわじわと自分の中にセルフコンパッションの考え方が浸透していきます。
今日お話ししたことです。「疲弊というリーダーシップのダークサイドを知る」ということです。リーダーシップは本当に重要です。でも、世の中で良いとされるリーダーを実践すればするほど、僕たちは疲れきります。
今、「傾聴しましょう」「パワハラ対策をしましょう」「部下の指導をしましょう」「コンプラを守りましょう」と、いろんなことが言われていますよね。これを全部やったら、本当に疲弊します。
だから、疲れきらずに活躍する、セルフコンパッションの技術、テクノロジーを使おうということです。これに精神論で向かおうとしたら破滅します。ちゃんとした技術やテクノロジーで対応することが、今、本当に求められています。
実はテクノロジーってそんなに難しくないんですよ。「はじめのエクササイズ」で言ったように、本当にすぐ身近にできるものがありますので、そんなところから始めていただきたいなと思っています。お話を聞いていただいて、ありがとうございます。じゃあ小林先生にお戻しします。
小林亜希子氏(以下、小林):若杉先生、ありがとうございます。
小林:ご質問もあるかと思うんですが、ちょっとだけ私と若杉先生でお話ができたらなと思うので、よろしくお願いします。
「リーダーは自分に優しくしていい」という話だったんですが、私は先日、必死の山登りに行きました。すごく必死すぎる時って、こんなに練習してるのにぜんぜん自分に優しくなれず、「このポンコツの足がぜんぜん動かないから!」とかなっちゃったり(笑)、自己批判にいきがちなんです。
すごくギリギリなリーダーが、経営的にも「いろいろやることが多すぎて……」みたいな時も、そういうふうに陥りがちなのかなと思うんです。そのリーダーが「(自分に)優しい」という意外性というか、そのところについてもう少し教えていただけますか。
若杉:リーダーが優しいということの意外性……。ある意味、今までのリーダー像とは違いますよね。違うとはどういうことかというと、この「自分に優しくする」という能力を実は使っていないってことです。
左手があるんだけど使ってない、ということだと思うんですよね。まずは「それを使っていいんだよ」という許可を出すのが、さっき言ったように考え方をアップデートする上ですごく大事なんじゃないかなと思います。
ギリギリだからこそ使っちゃいけないんじゃなくて、ギリギリだからこそ使っていいんだよという、自分への許可を出していくことが大事です。じゃあ、どうやって許可を出せるかというと、やはり作戦としては「自分に優しくしていい」というメッセージで自分を囲んであげることなんですよね。
先ほどのスマホの画面(にセルフコンパッションの要素を入れる)もそうなんですが、無意識レベルでも、いつでもそのメッセージを受け取っていればいいんですよ。そうすると、「自分に優しくしていい」という意外なやり方に対して、「やっていいのかな」って許可を出せるんじゃないかなと思います。
山登りの場合で言うと、靴に「自分の足に優しくしよう」みたいな文字を書いておくのはどうでしょうか(笑)。
小林:そうですね(笑)。
小林:まず、(自分に優しくすることを)忘れるっていうのがありますよね。
若杉:そうなんですよね。
小林:「優しくしていい」というスキルを忘れているので、それを頻繁に思い出すリマインダーとして、スマホの待ち受けにしたり、どっかに書いておくとか、そういうことが大事ってことですよね。
若杉:本当にそうです。リマインダーですね。大事なことは、本当に必要な時にはだいたい僕たちは忘れちゃうんですよ。
小林:必死な時ほど忘れます。
若杉:必死な時、忘れますよね(笑)。どんなスキルもそうですよね。よくビジネスの中ではロジカルシンキングが大事と言われてますが、ここぞという切羽詰まった時にはロジカルシンキングを全部すっ飛ばして、直感だけに頼っちゃう。それで、失敗する。
これと一緒ですよね。「自分に優しくしていい」という局面の時に、自分に優しくできない。それはリマインドしてあげれば、よりやりやすくなるんじゃないかなと思います。
小林:なるほど。大事なのはリマインドですね。ありがとうございます。
小林:あと、最近わりと「管理職は罰ゲーム」みたいなことを言われたり、管理職にいることがあまり得なことではないと言われることもあったりしますが、そのあたりはいかがですか?
若杉:まぁ、もしかしたら得じゃないんでしょうね(笑)。
小林:(笑)。
若杉:なぜかというと、コストが大きいからですよね。つらい感情への対応であったり、リソースが少ない中でより高い成果を求められている。こういうものがコストになっているということですよね。
もう1つの考え方は、もしこのコストを低減させる方法があったとしたらどうでしょうか? ということですよね。メリットとデメリットを考えた時に、今はコストが大きいので「管理職は罰ゲーム」みたいに、管理職はあんまり良くない仕事だと思われてるんだけど、もしそのコストが減ったらどうですか?
その方法として、セルフコンパッションという技術を使ってコストを減らすことができると思うんですね。そうすることによって、よりリーダーの数がどんどん増えて、そして社会も良くなっていくんじゃないかなと思います。
今の状況だと、セルフコンパッションが自然にできている人か、もしくはもともと生まれつきメンタルがタフな人しか、管理職になれない状況になってしまうわけですよ。こんなの悲しいですよね。技術さえあれば、誰でもコストはある程度減らせるわけですから、「やったらいいんじゃないかな!」というのが僕の提案です。
小林:先生の本にも書いてありますが、“受け身の練習”というか、戦う時にどう自分を守るかみたいなスキルが大事という感じですよね。
若杉:そうですね。だから今のリーダーのみなさんを見ると、受け身の練習をまったくしないで格闘技に参加してるようなものなので、これは痛いですよね(笑)。
受け身というのは、上手に相手の力を感じて、それを流していく。そして自分の被害を最小限にしていくという、ある種のテクノロジーですよね。これを知らないままリーダーシップという“格闘技”にみんな参加していて、血まみれになって戦って「罰ゲームだ」と言っているので。
「いやいや、もうちょっと防具とかあるよ。受け身の練習をしたらもっと楽しいよ」と言いたい(笑)。そういうことでしょうかね。
小林:本には、研究で大変な時に、先生が窮地をどう乗り越えたかということも書かれていましたね。
若杉:そうですね。
小林:みなさん、ぜひそのあたりも読んでいただければと思います。
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