2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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組織課題を丹念に読み解く調査&コンサルティング会社・ビジネスリサーチラボが開催するセミナー。今回は、近年注目される「ボスマネジメント」について、同社代表の伊達洋駆氏が解説したセッションの模様をお届けします。ボスマネジメントと部下マネジメントの違いや、上とも下とも良い関係を築けていない上司へのアプローチの仕方などが紹介されました。
伊達洋駆氏:続いて、「上方影響力と下方影響力」についてお話しします。途中で「下方」と「上方」という話を部分的に含めましたが、影響力の行使には上に向けた行使(上方影響力)と下に向けた行使(下方影響力)があります。
上司が部下に対して影響力を行使することを「下方影響力」と呼びます。別の言葉で言うと「リーダーシップ」とも言いますが、この文脈では「下方影響力」と呼びます。この「下方影響力」と「上方影響力」の両方に注目した研究が行われており、これは考えさせられる内容です。
そして、上方影響力をめぐる有名な現象として「ペルツ効果」があります。これはペルツという研究者が実証したもので、上司の上方影響力が強い場合、上司の部下に対する働きかけがより有効になるというものです。
上方影響力が強いと下方影響力の効果が高まるということです。上司にうまく働きかける人は、部下に対する働きかけも効果的になるのです。これをペルツ効果と呼びます。
上司に対してうまく調整してくれる上司の言うことには、部下も「がんばろう」と思います。つまり、上司を動かせる上司は、部下のモチベーションを高めやすいのです。部下は自分のがんばりが組織の意思決定や目標達成に反映されやすいと感じるからです。
一方で、下方影響力と上方影響力に関する興味深い研究があります。戦略の構築や実行に関する研究で、上方影響力と下方影響力が戦略を生み出し実行するプロセスにおいて、効果的な方法が違うことを示しています。
上方影響力は多様な戦術を持つほうが効果的です。一方、下方影響力は一貫性が重要です。上に対する影響力はバリエーションを持たせるべきですが、下に対する影響力は同じ戦術を一貫して使うことが重要なのです。
というのも、上方影響力は時と場合によって有効な戦術が異なるため、一辺倒では「また同じことを言っている」となってしまい、影響力を行使できなくなるのです。そのため、臨機応変に対応する柔軟性が求められ、影響戦術も多様であるほうが良いとされています。
一方で、下方影響力は逆です。多様な戦術を用いると部下が混乱します。一貫した働きかけを行わないと、戦略の実行において部下がついてこなくなります。
したがって、上方影響力(ボスマネジメント)と下方影響力(部下マネジメント)は異なります。部下マネジメントで求められる「一貫性を持った行動」を上司に対して行うとうまくいかないことがあります。これは興味深い傾向です。
本日、「ボスマネジメント」というテーマでさまざまな議論を取り上げました。ただ、混乱があるかもしれませんので、これまでのエビデンスを基にして、「結局、ボスマネジメントにおいて何をすればいいのか」を考えていきましょう。
まず1つ目は、「合理的説得」が重要です。
上司に対する影響力を行使する戦術として、根拠や事実を基にした説得です。これにより上司の納得を得ることができるので、おすすめです。
続いて、「相談」も効果的です。
上司に対して、自分の考えや意見、提案に対してフィードバックを求めます。そして、そのフィードバックを基に修正を試みます。「相談」によって上司との協力関係を築くことができます。事前に相談しておくことで、後から動かしやすくなるという実践的なメリットもあります。
さらに、「鼓舞訴求」も有効です。
会社の目標や理念、上司の目指すところを踏まえ、そこに貢献する意志を伝えることで、上司を動かすことができます。これにより動機づけを引き出し、上司の共感を得ることができ、上司を動かすことにつながります。
一方で、上司に対してお世辞を言ったり過度に称賛したりすることは逆効果になる可能性があります。これは戦術の「取り入れ」と呼ばれます。
「取り入れ」は上司に対して逆効果であり、場合によっては自分の評価も下げる恐れがあります。そのため、あまりおすすめできない方法です。
さらに、要求をしたり連合を組んだりする、つまり徒党を組んで上司に対して圧力を加える戦術も避けたほうが良いでしょう。
これらの戦術は効果が薄く、逆効果になる可能性もあります。「圧力」や「連合」といった戦術はリスクが高いので、避けたほうが無難です。
上司に対して影響力を行使する、ボスマネジメントとは「上司を動かす」というよりも、「上司と一緒に動く」という考え方に近いと言えます。上司との関係をきちんと築き、協力を引き出すことが成功の鍵となります。
「どうやって動かせるのか?」ではなく、「どうやって一緒に動いてもらえるか?」という問いに変えることで、上方影響力をより効果的に発揮できるのです。これが上方影響力に関する研究から見えてきたポイントです。
以上で私からの「ボスマネジメント」についての講演を終わります。上司と部下の関係性を可視化したい場合には、組織サーベイを活用できますので、ぜひお問い合わせください。
ということで、いくつかご質問をいただいているので、残った時間でテンポ良く回答していきたいと思います。私が回答している間でも、追加で質問があればどうぞお寄せください。
では、最初の質問です。「講演の中で、『上司との良好な関係が、影響力行使においても重要だ』と言われていました。部下が上司との信頼関係を築くために、日頃からどのようなコミュニケーションを心がけるべきでしょうか?」ということです。
確かに、信頼関係があれば上司と一緒に動いてもらいやすくなるというお話をしました。ボスマネジメントにおいて信頼関係の構築は重要な観点となります。
どのようなコミュニケーションを心がけるべきかという質問についてですが、「共通点を探す」ことが有効です。人は共通点があると相手に対して好意を持ちやすいです。共通点は自然に見つかる場合もありますが、見つからないこともあります。ですので、上司との間で「共通点」を探り、それを確認し合うことが信頼関係の構築につながります。
もう1つは「自己開示」です。自分の考えや置かれている状況、ニーズを積極的に上司に話すことが重要です。自己開示には返報性があり、自分が自己開示すると相手も自己開示したくなるものです。この自己開示は信頼関係のバロメーターでもあります。自分の話をすることで信頼関係を深めることができます。
他にいただいている質問です。「『取り入れ』がかえって逆効果になるのは、日本でもそうなのでしょうか? なんとなく日本で出世した人を見ていて、効果がありそうに見えてしまうのですが」という質問ですね。
これは日本で明確に検証されているものを私は知らないのですが、アメリカ以外の文化でも同様の結果が出ています。さまざまな国で行われた影響力の戦術についてのメタ分析の結果、「取り入れ」はあまり有効ではないことがわかっています。多くの文化圏において、「取り入れ」戦術は逆効果になる可能性が高いことが示されており、日本でも逆効果になる可能性が高いと考えられます。
次の質問に移ります。「ペルツ効果についての話が興味深かったです。上司の上方影響力が弱い場合、部下との関係が良くない上司がいて、部下が上司を軽視する傾向もあります。外から関係改善を促すためにできることはありますか?」という質問です。
この状況は、上司が上とも下ともあまり関係を築けていない状態と推測されます。まず、関係を構築することから始める必要があります。影響力の行使には「相手に動いてもらう」ということが含まれますが、その前に関係を築くことが重要です。
関係の構築には、まずコミュニケーションを交わすことから始めます。お互いの価値観やニーズ、性格を理解する機会を作ることが大切です。まずは理解を深め、関係を築くことが有効です。
続いてのご質問にお答えします。「私の上司はボスマネジメントが苦手です。私はうまくやれているので、私の上司までは話がスムーズですが、そこから上に上げてもらうと衝突か却下になります。何か改善策はありますか?」という質問です。
1つの方法として、「上方アピール」が考えられます。つまり、上司の上司に直接アピールする方法です。上司にも報告しながら、その上の上司とも関係を築き、自分の意見やアイデアを直接伝えることです。
普段から社内のさまざまな人と関係を築いておくことが重要です。その中に自然と上司の上司も含まれるようにします。上司の上司に対して情報を少しずつ伝えていくことが有効です。
もう1つ考えられるのは、質問者がボスマネジメントに自信があるのであれば、上司にそのスキルを教えることです。「こんな感じで伝えると、うまくいきますよ」といったアドバイスをし、伝えるタイミングや方法をプロデュースすることです。
上司のスキルを高めるだけでなく、上司がボスマネジメントしやすい場面を整えるサポートをするアプローチも1つの方法です。これにより、上司が上手にボスマネジメントできるように支援することができます。
では、他の質問に移ります。「部下として上司に提案をした時、上司の考えと対立することがあります。そのような場合、自分の意見を押し通すべきか、上司の意見に従うべきか、判断に迷います。円滑に合意形成を図るためにはどうすれば良いでしょうか?」という質問です。
この質問に対しては、「相談」が有効ではないかと思います。「相談」は単に意見を聞くだけでなく、自分の提案や意見を部分的に変更することを含んでいます。
これは重要なポイントで、上司からすると、自分の意見がまったく反映されないと心理的なハードルが高くなります。しかし、上司の意見が取り入れられていると、「参加している感覚」を得られます。一緒に作り上げたという気持ちが生まれ、その意見やアイデアが通りやすくなります。
次に、「組織の意思決定プロセスにおいて、部下の意見が反映されることは重要だと思います。しかし、意思決定に関与しすぎるのも問題があるように感じます。部下は意思決定プロセスにどの程度関与し、どのようにコミットしていけば良いでしょうか?」という質問にお答えします。
部下が意思決定に関わることが重要な理由は、部下が持つ情報が貴重だからです。部下は最前線の情報を上司よりも持っていることが多いのです。したがって、意思決定の判断を提示するというより、意思決定を進めるための情報を提供することが重要でしょう。
部下が持っている情報を上司に伝えることで、意思決定の質が高まり、部下も影響力を部分的に行使できたと感じられます。これが部下の関与の仕方として基本的なアプローチです。
他にいただいているご質問です。「コロナ禍でリモートワークが普及し、上司と物理的に離れて働く機会が増えました。対面でのコミュニケーションが減る中で、上方影響力をどのように発揮していくべきでしょうか? リモートワークならではの工夫があれば教えてください」という質問です。
確かに、上司と部下が離れて働く状況が増えています。リモートワークで上方影響力を発揮するためには、「合理的説得」がヒントになると思います。
「合理的説得」は事実や論理で説得する方法で、テキストメッセージで行いやすいです。対面でのコミュニケーションでは雰囲気に頼る部分が多いですが、リモートワークでは内容が重視されます。そのため、リモートワークでは「合理的説得」がより効果的になるでしょう。
ここで思い出したのが、採用に関する研究です。オンライン面接では、外向的な人の評価が対面よりも低くなることがわかっています。対面のほうが雰囲気が伝わりやすいのですが、オンラインでは内容が重視されるためです。
リモートワークならではの工夫としては、テキストによるコミュニケーションをしっかりと考えて伝えることが重要です。これにより、たとえ離れていても上方影響力を発揮することができるでしょう。
以上で、だいたいの質問にはお答えできたかと思いますのでセミナーを終了させていただきます。本日はボスマネジメントのセミナーにご参加いただき、ありがとうございました。
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