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自分も相手もラクになる正しい“丸投げ” 『任せるコツ』(全4記事)

仕事を断る時に使える「魔法の一言」とは? 気を遣って、つい返事を先延ばしにしてしまう人へのアドバイス

「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」にてマネジメント部門賞を受賞し、10万部を突破した『任せるコツ』。著者である山本渉氏をゲストに迎え、自分も相手もラクになる正しい“丸投げ” というテーマでイベントが行われました。本記事では、仕事の任せ方だけではなく、仕事を断りたい時の伝え方のコツも解説します。

前回の記事はこちら

仕事を任せる時、相手の業務量はどう把握する?

鳥潟幸志氏(以下、鳥潟):じゃあ、どんどん(質問に)いきますね。「任せる時の相手の業務量の把握はどのようにしていますか? ふだんの業務に余白がないことが多かったり、実際はわからないけど『余白はない』と主張されることが多い中で、任せる部下側の業務量をどう把握しますか?」。もしかしたら具体的なやり方のご質問かもしれないですが、いかがでしょうか。

山本渉氏(以下、山本):自分が今働いている会社だと、労務(担当者)がすごく気をつけているので、それぞれのチームメンバーがどのぐらいのプロジェクトで動いているのかはリスト化しています。

あとは、本人がどのぐらいに思っているのか。「今パンパンです」なのか、「余裕あるのでもっと仕事が欲しいです」なのか、そういう状態は全部定期的にシステム化して確認をするようにしているのでわかっています。アナログでもいいので、そういったことを導入していただくのがいいですし、お願いする時にも聞いてみる。

そういうのも全部やったけど、とはいえお願いしている途中で「どうやらパンパンになったぞ」とか、途中でなんとかしなきゃいけない時もあるので。仕事は1人でやるものじゃないので、そういう時はちょっとサポートをつけてあげることで緩和していくとか。

鳥潟:ありがとうございます。業務量の把握は必ずしも上司だけの責任ではなくて、組織としてちゃんと把握できるものを導入できるかどうかもそうですし、もちろん上司としてふだんのコミュニケーションとかで、どれぐらいどうなのかを把握することもそうですし。

お願いする時に、急に忙しくなってきた時の対処法も合わせて伝えてあげると、受ける側もちょっと前向きに受けられるようになるかもしれませんね。

依頼を断る時に使える「魔法の一言」

山本:受ける側もぜひトライしていただくといいのが、無理してやらないほうがいいというか。「ノーと言っちゃいけないんじゃないか」と思う人も多いんですが、それはお願いしている立場からすると逆に困ってしまうので。

体を壊してまでやってもらうのも良くないですし、やりたくないと思ってやってもらうのも良くないので、断りにくいというのもあるかもしれないんですが、ぜひ伝えたほうがいいかなと思います。

とはいえ、日本人ってなかなかそういうのを言いにくいところがあるので。基本は任せる側のことを全部書いているんですが、1つのチャプターだけ「いい断り方」を入れたんです。

鳥潟:ありましたね。せっかくなので、ぜひ「いい断り方」を紹介してください。

山本:1つは「素早く断る」です。「すぐ断ると失礼じゃないか」というか、何も考えてないみたいになるので、逆だと思う人が多いんですよね。2~3日置いてみて、「熟考に熟考を重ねたんですが、やはりこれはちょっとスケジュール的に難しく……」みたいな(伝え方をする人が多い)。

丁寧に返すよりも、とにかく早く「できません」って伝えてあげたほうが、任せた側にとってはすごくありがたいので、なるべく早く返す。

どうしても、「気まずいんじゃないか」「もう二度と仕事に誘ってもらえないんじゃないか」と考えるんですが、魔法の一言があって。「またお誘いください」という一文さえ入っていれば、任せたほうもまったく気にならないというか、気分も悪くはならないです。

労務的に、厳しいことを無理やりやらせるのは良くないっていうのは、今のマネジメントではわかっているので、なるべく早く答えつつ、「またお誘いください」という魔法の言葉を入れていただければいいと思います。

鳥潟:ありがとうございます。かなり実践的な教えということで、私もいいなと思いました。確かにお願いされて断る時って、ちょっと気まずいから持ち帰っちゃうんですが、なるべく早く返事をすると、お願いする側は次の人に打診できますからね。

山本:そうなんですよね。ちょっと冷たい言い方になってしまうかもしれないんですが、仕事って代わりがいるんですね。Aさんができなくても、ちょっとかたちを変えればBさんができるっていう仕事は多いので。なんとかなるので、任せられる側の人はそんなに責任感を背負いすぎなくていいんじゃないかなと思います。

鳥潟:確かに。ありがとうございます。

仕事の目的・重要性を伝える際のポイント

鳥潟:では、次のご質問にいきたいと思います。任せられる側の視点ですが、「目的や重要性が綺麗ごとに聞こえることがある」ということです。依頼される時に、もしかしたらそれが自分の言葉ではなくて、上からの伝書鳩で伝わってるからだとこの方は解釈をしていると思うんですが。

似たようなご質問もあるんですが、「任せる時の目的や大義を、どういう言い回しを含めて表現するといいんでしょうか」。このあたりのご質問が来ていますが、いかがでしょうか。

山本:なるほど。初めの方が「たぶんそうかな」とおっしゃっていたように、上の言葉をそのまま借りてきたみたいなのは一番良くないです。お願いの仕方で「会社がこう言ってるからこれをやってください」というのは、やはり一番良くないので。

ご自身の中で咀嚼した上で、「今できていないこのスキルができるようになる」「ここが苦手なので1回目はつらいかもしれないけど、できるようになると、ほかの得意な分野と掛け算すると次のステップまでいけるようになるから」とか、その人にとってどういう成長になるかを伝える。

ポイントとしては、その人の個々の目的を探してあげることですかね。「会社が言っているから」「世の中がこうだから」という大きいところよりは、なるべくその人の小さいところやプライベートなところというか、目的は個人個人のところで探してあげるといいと思います。

鳥潟:重要ですね。

リーダーが「自分の言葉でちゃんと語ること」の重要性

鳥潟:チームに複数人いる時に、例えば「社長にお願いされた仕事がこうなんだよね。だからこれをやろうと思ってるんだよね」って説明する時は、当然全員にジェネラルに伝えないといけないと思うので。

この時によく言うのは、やはりリーダーが自分の言葉でちゃんと語ること。「社長はこう言っていて、自分はこう思うから、ぜひみんなでやっていこうよ」とか、まさに自分の言葉で言うことが大事だというのはまずあると思います。

プラス、個別にお願いしていく時は、その人その人のモチベーションとか「プラスアルファがこういうことなんだよね」ということを添えてお願いしてあげる。だから、ちょっと分けて考えたほうがいいかもしれないですよね。

山本:そうですね。部全体のメリットも、それはそれであると思うんですね。部として「部全体で成果を出せば、ボーナスの母数もこの部として大きくなるよ」みたいなことでもいいですし、本当に何もなければ「良い結果を出して、おいしい焼肉を食べに行こう」とか(笑)。そういうモチベーションというか目的を作るのは、別に間違ったことではないので。

鳥潟:(笑)。確かにそうですね。

山本:最後の最後、何もない時はそういうことでもいいと思います。

鳥潟:相手のメリットに変換して伝えてあげるって、ともするとちょっと押しつけがましいというか。「見え透いてるな」って思っちゃいがちなんですが、この本を見ると、そういうことを言ってあげたほうが絶対にいいなって私も思ったんですよね。なので、ぜひ実践されるといいんだろうなと思います。

かえってモチベーションを下げる、動機付けのNG例

山本:確かにメリットもありますが、気をつけなきゃいけないのが「これをやると給与が上がるかもよ」「出世できるかもよ」みたいなことになると、逆にモチベーションが下がってしまうケースもある。もう自分の中でやりたいと思っているのに、外的な要因で言われると「いや、そういうことじゃないんだよな」ってモチベーションが下がるケースもあるので。

出世できるとかボーナスもらえるということじゃない、なるべくその人の中から生まれてくる内的要因から、まずは考えてみるとほうがいいと思います。

鳥潟:そうですね。本当に、グロービスの科目の中でも今のような話があります。フレームワークで「動機づけ要因・衛生要因」というものがあって、お金や給与とか最低限欲しいものは、これを下回ると一気にドンと下がっちゃうんです。「この目的でどうですか?」って言われると、逆にモチベーションが上がらないというのがあって。

むしろお金とかではなくて、「あなたにとってのやりがい」とか「社会にとっての価値」というところにつなげたほうが、動機としては上がっていくっていうメカニズムですよね。

山本:そうですね。ベースとして必要なものと、より上げていくものは別という考えの部分ですね。

鳥潟:リーダーとしては、そこも頭の中で整理しておいて、「このメンバーにはこういうことを語ってあげよう」というのを使い分けられるといいですね。ありがとうございます。

「リーダー」とは、あくまでも役割の1つ

鳥潟:いっぱい質問がありますが、これも「いいね」が集まってますね。同世代で集まったプロジェクトでリーダーを担っているということで、同世代であるからこその悩みだと思うんですが、メンバーは部下ではないと。

「スキルや経験の把握がなかなか難しい。時間がない中でプロジェクトを進めなきゃいけない時に、お願いの仕方や伝えるポイントがあればご教示いただきたい」という、かなり具体的なシーンのご相談なんですが、いかがでしょうか。

山本:なるほど。同世代だからといって、何か特別にしなきゃいけないということもないと思うんですね。上司と部下の関係だから、無理やり押しつけてやらせるものがないっていうのと同じ考えで、同世代でも同じ目的を持って「このプロジェクトをうまくやろう」という関係なので、フラットに接する。

いばったりもせず、逆に下手に出るということでもなく。同じチームメンバーとしてしっかり目的を探すという基本のやり方でいいのかなと思います。

鳥潟:よく言いますけど、リーダーってあくまで役割の1つですから。相手が同年代でも年上でも年下でも、そこはリスペクトしながら、リーダーというキャップがあるからお願いしてるんだっていうのは成り立ちますもんね。

山本:どっちが上でどっちが下だということではないので、役割としてということですよね。

鳥潟:そうですね。

関係性が薄い相手に仕事を頼む時のコツ

鳥潟:「相手を把握する時間があまりない、でもお願いしなきゃいけない時」というのがセットでついていますが、これにはどんな工夫とかできそうですかね?

山本:なるほど。例えば新規のプロジェクトでいろんな部署から集まってきて、「このメンバーでやってください」って言われちゃった時に、「初めまして」と(笑)。

鳥潟:おそらくそんなシーンだと思います(笑)。でも、アサインしないと進められないみたいな。

山本:確かにそれは難しいですね。本当に時間がないなら、自己紹介の時に「何が得意で、どういうプロジェクトでこういうことをやってきました」というのを1人ずつ言ってもらうのが、スタートとしては早そうですね。

その時もやはりリーダーが1人必要なので、バーっと聞いていって「じゃあ、この人にはこれをやってもらって、この人はサポートが得意そうなのでサポートをやってもらって」と、チーム編成をしていく監督みたいな役割の人が必要かなとは思います。

鳥潟:なるほど。確かに、プロジェクトが組成されて「初めまして」ってなる時でも、できるなら事前に「過去にどんなことをしてきたか、何が得意で何をやりたいか」ぐらいは考えて持ってきて、それをバババッと聞く。その上で、「こういうプロジェクトで、このタスクは誰かやりたい方いますか?」というふうに進めていくのが現実的かもしれないですね。

山本:そもそも、そのチームを作った人の責任なので(笑)。チームを構成する時にやはり気をつけなきゃいけないかなと思います。

鳥潟:確かに(笑)。ありがとうございます。

メンバーの進捗確認、どこまで聞くべきか

鳥潟:これがラストの質問です。「任せたあとの介入に悩みます。進捗状況の確認の際に、聞きすぎると部下が鬱陶しいと感じてしまうだろうし、どんなタイミングがいいでしょうか?」。これもすごく共感しますね。いかがでしょうか。

山本:難しい問題ではあるんですが、これも相手のレベルに合わせてだと思うんですよね。新入社員でまだ右も左もわかってない人だと、締切りの前日だけに見るのだとかなり危険もあるので。最後までは任せずに、かなりバッファをもって軌道修正ができる何日か前のタイミングでしっかり出してください、というのもありですし。

もう十分この仕事ができるんだったら、本当に任せる。そんなに細かい指示を出していると、どんどん相手もやる気もなくしてしまうし、「じゃあなんで私に頼んだの?」ってなってしまうので。答えとしては、その人のスキルと経験次第なんですが、大きなミスにつながらないようなバッファはこちら側から作っておかなきゃいけないのかなと思います。

鳥潟:確かに。あと、お願いした時に決めておくのは、お互いにとっていいはずですよね。

山本:「ここまでにこれをやって、ここで報告してください」というのは、初めに決めなきゃいけないですね。任せたはいいんだけどデスクに来るたびに「あれ、どうなってんだ?」「あれ、どうなってんだ?」っていうのが一番ダメ(笑)。

鳥潟:確かに、嫌になっちゃいますね(笑)。

山本:「このタイミングで見せてください」とか「どのぐらいでできる?」と聞いて、「1週間ぐらいで7割のものを見せられると思います」「ああ、じゃあそういうのにしましょう」とか。

それでも心配だったり、本当に新人だったりしたら、「5割でいいからちょっと前に見せてください」って言うことは、特に相手が不安に思ってる時とかは決して間違えた任せ方ではないと思います。なので、「人によりけり」という答えになってしまいます。

鳥潟:相手の適性と能力を把握して、事前にちゃんとそれを設計しておく。この2つが重要ということですね。

部下の積極性を引き出すには

鳥潟:これは私も聞いてみたいなと思ったんですが、「部下に仕事を任せていく中で、いずれ本人が『挑戦したい』と思えるような価値観を同時に作っていくこと、引き出していくことをやっていきたい」。いわゆるコンフォートゾーンから脱出させていく環境を作っていきたいという質問です。

推測するにその部下の方は、積極的に「これをやりたいです」ってあまり言わない方なんだけど、仕事をお願いしつつ、挑戦心を引き出していきたいということかなと思います。コンフォートゾーンから抜け出しにくい方に挑戦心を煽りつつ任せていく方法は? というご質問なんですが、いかがでしょうか。

山本:本(『任せるコツ』)にちょっと書いた、マグロのエピソードが近いのかもしれないです。マグロの養殖場を見に行った時に、そこのネットが破れてしまっていたんですが、「マグロは逃げない」って言われたんですね。ずっと泳ぎ回っているから、ネットが破れていたとしても、広い海に行けるということを知らないので逃げないと聞いて、おもしろいエピソードだなと思って。

ビジネスでもそれに近い人はいるなと思って。ネットの中というのはコンフォートゾーンだと思うんですね。実はそこから抜け出すと広い海があるのに、行けないと思っているということがあるので。

じゃあどうしたらいいかというと、カマス理論の話と一緒かもしれないんですが、出る人を見させてあげるとか。そうすると「自分もそっちに出れるんだ」というのがわかって、そっちに行ってみたり。

まずは“ちょっとだけ難易度の高い仕事”を一緒にやる

山本:もう少しビジネスに近い話で言うと、「今できていることの範囲内だけで仕事をしたいな」と思っている人がいたら、まずはそれよりもちょっと難易度が高い仕事を一緒にやってみることですね。

1回目は、その人の力というよりは自分の力でやる。任せるというよりは自分がやる、成功体験を見せるだけでいいと思うんですが、そうすると「こうやるとうまくいくんだな」となって、徐々にサポートの手をやめて(メンバーが)自分1人でできるようにしていく。

それがマグロの例で言うと、広い海があることに気づくということだと思いますので、「自分もそっちに行けるんだ」と思うように連れていってあげるのもありなのかなと思います。

鳥潟:「連れていってあげる」は、すごくいいですね。リーダー自らがやって見せてあげることで、「あ、やれるんだ」っていう感覚を見せる。

山本:「任せる」とはちょっと違うように思われるかもしれないんですが、本当に自信がなくて前に進もうともしない人には、そうやって手を引っ張るのも必要かなと。「任せる」よりは「育成」に近いですね。

鳥潟:ありがとうございます。今日はたくさんご質問もあって聞きたいところですが、時間が迫ってきました。

山本:本当にありがとうございます。

山本氏の著書『任せるコツ』に込めた思い

鳥潟:最後に山本さまから、今日ご参加いただいた多くの方にメッセージをいただければと思います。

山本:何人ぐらいの方に聞いていただいているのかわからないんですが、本当にお忙しい中、ありがとうございます。

『任せるコツ』という本を書いた時、一番初めに出版社の方に「読んだ方も成長して幸せになってほしいし、読んだ方が実際にこれを実践することによって、チームメンバーの方や読者の周りの方も幸せになることを最終的な目標にしたいです」ということをお話しして作りました。

今日お聞きになっていただいた方で、全部が全部、すべての業界に当てはまるということじゃないかもしれないんですが、何か腑に落ちて「これをやってみようかな」というものがあれば、ぜひ実践していただけるとうれしいなと思います。

今日お話しできなかったこと以外にも、叱り方、モチベーションの上げ方、今の時代に合った任せ方、若手やZ世代にはどういう頼み方をしたらいいのかとか、いろんなことが書かれていますので、もし機会があればぜひ本屋でお手に取ってみてください。ありがとうございます。

鳥潟:読まれた方は実践して、本当にわかりやすい本でたくさんの気づきがあると思いますので、読んでいない方はぜひお手にとって、見て学んでいただければと思います。ありがとうございました。

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