2024.10.10
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——それでは、「仕事をスムーズに進めるノウハウ」についてお伺いします。例えば、時間をかけて作った企画書が一からやり直しになるような事態を避ける方法はありますか?
鳥原隆志氏(以下、鳥原):企画書を例にすると、ほぼ完成状態で上司に渡すタイプと、下書きレベルで渡すタイプがいるんですね。ただ僕は、両方ともあまり良くない進め方だと思っています。その前に「下書きの下書き」が必要です。「こういった内容で企画書を作ります」という、メールの平打ち程度で上司に確認してもらいます。
それで次に、だいたいの構成案をWordか何かで打って、プロトタイプを作ります。それが通れば、次はPowerPointなりで形式を整えていく。こうやって仕事を刻んで進めていくと、上司も部下も気持ちよく仕事が進むと思いますね。
——お互いに「こんなはずじゃなかった」となるのを防ぐには、仕事を刻んで見える化するということですね。それでは、企画書が無事できた後に、会議で自分の提案を通す伝え方のコツはありますか?
鳥原:やはり根回しがすごく大事です。「こういう提案をしようと思ってるんですけど、どう思われますか」と事前に上司に根回しをしておく。そして、発表の場もしくは正式な提案の場は、OKをもらった状態で進めるのが良いと思います。
会議は「何かを決める場所」だと誤解されてる方が多いんですけど、「決まったことを確認する場」だととらえたほうがいいと思いますね。なので、事前に上司に「こんな方向で提案を考えてるんですけど、ご意見をいただけないですか」と、何回も根回しをして進めていくと、自分の提案が通りやすくなります。
——会議の前に、上司に「こういうふうに進めていきたいです」と共有しておくということですか?
鳥原:会議の前に、「こういうことを提案したいんですよね」と言っても遅くて、おそらく却下される可能性が高いです。だから、もう自分の考えが浮かんだ時に、「来月の会議でこんなことを提案したいんですよね」と持って行く。そこで必ず意見が出てくるので、それを踏まえてもう一度作り直す。
会議の前に報告するのは、「こういった書類をみんなに配ろうと思ってるんです」ぐらいで、もう8割ぐらいの完成度をもって、最終の報告をするといいと思います。
——なるほど。そうやって上司に根回ししていくうちに、味方につけられるというか。上司が会議で自分の意見を後押ししてくれることもありそうですね。
鳥原:そうですね。インバスケット(架空の人物となり、制限時間内にできるだけ多くの案件を処理するワーク)で言うと、まず「対策立案」(問題解決の対策案の洗い出しと検討・評価を行い、具体的な実行を行う計画の立案のこと)というプロセスがあります。そして、それとセットになってるのが「調整」というプロセスなんですね。
組織なので、良いアイデアを出しても、その対策を通すことによって、損するような利害関係者が必ずいらっしゃるわけです。
具体的なエピソードで言うと、私は前職のダイエーという会社で、あるお店のマネージャーをしていた時に、東京本社に出張に行きました。それで、お店の方に東京のおみやげを買って帰ったんですよ。
私にとってはすごく良い行動だと思ったんですけど、それが非常にまずかったと。ほかの同僚に呼ばれて「困ったことをしてくれた」と言われたんです。「どうしてですか?」と聞くと、「うちの店は節約のために、おみやげを買わない風習になってたのに、あなたがそれを破った」と言われたんです。
自分は良い行動だと思っても、良く思わない方も必ずいるわけですね。だから、自分が良い提案だと思ったとしても、必ず調整、根回しは必要になってくるんです。それで、自分の意見を通すためには、いかに反対者を事前に押さえておくかが、根回しのゴールになってきます。
——報告や提案をする際の根回しの方法は、上司に合わせて変えたほうがいいのでしょうか?
鳥原:相手を説得する際の、「説得の3要素」という考え方があります。人の性格って本当にさまざまですが、大きく3つのタイプに分かれると思うんです。1つは利益の「利」と言うんですけど、その方の利益に関することが大事なタイプ。次に「律」と言って、ルールや規則を重んじるタイプの方もいらっしゃいます。あとは「情」ですね。その人の価値観や感情を大事にされている方。
例えば利益タイプに自分の意見を通したい時は、この提案によって、「上司の利益がどのように増えるのか」を強調していくわけですね。
律タイプの上司の場合は、おそらく前例だとか、「専門家に聞いて裏付けを取ってるか?」とすごく聞いてくると思います。「総務に事前に確認したので、もうOKもらってます」とか、「リスク管理部に確認したところ、コンプライアンス面はクリアできましたよ」とか。規則に触れていないことを前面に出すと、意見が通りやすくなると思いますね。
情タイプはもう熱量ですね(笑)。提案書よりも、どちらかと言うとプレゼンテーション能力になってくると思いますけど、身振り手振りでどれだけやりたいかを、ひたすら訴える。
この考え方は、先ほどの報連相にも使えます。例えば、数字にすごく厳しい上司で、仕事のやり方の報告は要らないけど、「数字が変化する際は細かく報告をくれ」というタイプもいます。些細な数字を求めるタイプなのか、1ヶ月単位の数字を求めるタイプなのか。上司のタイプを考えると、恐らく報告したほうがいい内容と、しなくてもいい内容も、ある程度区別できるんじゃないでしょうか。
——それでは、上司から無茶な仕事を依頼された時。例えば、短い納期でやったことのない仕事を任された時は、どうしたらいいでしょうか。
鳥原:ネガティブじゃなくてポジティブに表現を変えることですね。例えばデパートで店員さんに、「この服の、このサイズはありませんか?」と聞いた時。上手な販売員さんは「ないです」とはあまり言わないですね。
まずポジティブな表現に変えて、うまいこと伝えますよね。「そちらは在庫がない商品でございます。ただ、こちらの商品でしたらご用意できます」と言うと思うんですよ。
だから無茶ぶりする上司に対して、「いや、それはちょっと無理ですね」と言うのはNGです。それをうまく受け入れて、逆に自分の思うような方向に持っていけるかどうか。代替案を出すのがポイントだと思うんですね。
——なるほど。より自分がやりやすい仕事の進め方を提案するチャンスでもあるんですね。
鳥原:はい。ここも先ほどの3タイプに分けてもらって。例えば利のタイプには、「今日中にできないことはないんですけど、今日中に出しても、部長の業績・利益にはほとんどつながらないと思います。明日まで待っていただくと、おそらくこういったメリットがありますよ」という表現で持っていきます。
律だと、「今日遅くまで残って仕上げることはできますが、先月も深夜勤務で総務から指摘されちゃったので、どうしましょうか」と持っていく。
情だと、「すごく良いご指示をいただいたので、この仕事を完璧にしたいです。なんとか明日まで待っていただけないですか」と。こんな感じで、3通りの受け答えを用意しておくと、おそらくどれかがハマるんじゃないですかね。
——仕事の期限を調整したい時にも、先ほどの3タイプ別の考え方が使えるんですね。それでは、最後に上司とのコミュニケーションを円滑にするためのアドバイスをお願いします。
鳥原:別に上司と仲良くならなくてもいいと思うんですね。ただ不仲になると、自分の仕事が進めにくくなるので。無理に仲良くしようと考えるよりも、味方につけるスタンスを忘れずに、上司との関係を保ってもらえればいいかなと思います。
私は会社の代表をしているので上司がいない立場なんですけど、上司はいたほうがいいですね。上司がいなくなるのを望まれる方も多いと思うんですけど、上司って、けっこう便利な道具ですよ(笑)。自分の傘にもなるし、責任も取ってくれるし。間違ったことをすると叱ってくれるし、その時は嫌かもしれませんが、いい燃料のようなものですね。
いろんなタイプの上司がいるので、この本(『インバスケット&ケースのストーリーで体験する 上司との悩みを成長に変える賢い方法』)を参考に上司をうまく使って、自分のお仕事に活かしていただけたらいいなと思います。
——ありがとうございます。
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