CLOSE

マーケティング戦略講座① 基礎編(全2回シリーズ)~なぜか売れる営業の思考法とは?~(全3記事)

競合他社との価格競争に陥らないために必要なこと 顧客に選ばれる会社がやっている「目的」と「手段」の切り分け

世の中で流行する商品や店舗には、どんな秘密があるのか。本イベントでは、新たなビジネスを始める起業家や自社商品の売上に行き詰まりを感じている経営者に向けて、商品を売るための仕組みやマーケティング施策を解説します。本記事では、外資系企業などマーケティングの最前線で活躍された理央 周(りおうめぐる)氏が、企業が売りたいものと、お客さまが欲しいもののズレを理解することの重要性について語りました。

前回の記事はこちら

レッドーシャンになりがちな引越し業界で、ある中堅企業がやったこと

理央周氏:そうは言っても、みなさん「いやいや、じゃあ僕はどうすればいいんでしょう?」という話になると思うので、中小企業の引っ越し会社さんの事例を1個お話ししていきます。引っ越しこそ、ものすごくレッド・オーシャンになりがちで、今みんな引っ越しポータルサイトみたいなところで「安いところを探そう」と比べるんですよね。

「赤い海=引っ越し」だと思っていると、「安くします」「トラックは大きいのを持って行きます」となっていくんですよね。でも、「引越一番」という愛知県にある中堅ぐらいの企業の事例をお話しすると、その会社は、めちゃくちゃ丁寧な引っ越しをするんです。

例えば、引っ越し会社って、前の家に入る時と新しい家に入る時とで靴下を替えたりする。古いところで汚れた靴下は、新しいところに履いていかない。これはどんな会社でもやるんですけど、だいたいの会社さんは同じ色の靴下だったりするんですね。

でも、ここの会社は「絶対間違えちゃ駄目だから」と白い靴下を履いて、次は赤い靴下で中に入るといった、丁寧な引っ越しをします。それで顧客満足度は93.1パーセント。昔からこういう会社だったんです。

引っ越し会社というのはとてもユニークな商売で、お客さんの家の中に下手をしたら半日ぐらい、荷物の量によっては1日入っちゃうこともありますよね。そうすると、「何人家族で、どんな家具を持っていて」と、家の中のことが手に取るようにわかるわけです。

ここの社長が気づいたのは、「お客さまは引っ越しをする時に、エアコンや冷蔵庫、クーラー、洗濯機など、大型家電を買い替えるな」と。「うちの会社はエディオンのフランチャイズをやろうかな」と思ったんですよね。

そうすると、こんな感じで「(エディオン)デンキ一番店」とか言って。これは「大型家電量販店をやります」ということじゃなくて、フランチャイズ契約をしてエディオンの家電と同じものを、ほぼ同じ価格で(販売を)やりますよと。

引越しを「売り切り」から「継続」の商売に変えた仕組み

もちろん値段もいいんですけど、何がいいかと言うと、冷蔵庫なんかは取りに来てもらう直前まで使えて、お金はかかるけどそのまま引きとってもらえます。

それで「今度新居がここにできます」となった時に、頼んでおけばその場所に持ってきてくれるわけですよね。家電コンシェルジェというのが社内にいるので、わざわざエディオンとかヤマダ電機へ行かなくてもいいと。お客さんとしてはめちゃくちゃ便利なわけです。

もちろん引っ越し会社としても当然よくて、(このサービスで)引っ越しをするとなると、家電を運んで行くから売上は上がりますと。もっといいのは、引っ越しって売り切りの商売なので「めちゃくちゃ引っ越しがよかったから、来週もお願いします」ってことはやはりない。でもこの家電(のサービス)をやるとどうなるかと言うと、売り切りの商売が継続の商売になるんですね。

例えば(最初の)引っ越しの時にエアコンを買い替えなかったとしても、注意深く見ておけば、何を運んだかとか、家族構成とかは全部わかるので。あと2年ぐらい経った時に、もちろん個人情報に留意して電話を掛ける許可は取っておかなきゃいけませんけど、「引越一番なんですけど、そろそろエアコンどうですか?」となるわけですね。

結局これで短期的な利益も上がるし、長く利益を上げる仕組みもできますと。これに味をしめて、ではないですけれど(笑)、今は引っ越しの後にベッドマットクリーニングをやったり、レンタカーのサービスを同時にやったり、常に順調な収益を上げていらっしゃいます。

ポイントは何かと言うと、そもそも企業が売りたいものと、お客さまが欲しいものは違うんですよね。今の話で言うと、売るのは引っ越しですけど、お客さまは新居での幸せな生活が欲しいわけです。

「引っ越しを売ろう」と考えちゃうと、「安くしますから」「トラックはでかいのでやりますよ」となっちゃう。そうなるとお客さんは「わかったわかった」と言って、いろいろ比べて、「じゃあ安いほうにします」となるわけですね。すごく当たり前のことを言っていますが、今みたいに「新居で幸せになっていただくには何をしたらいいか」と考えると、アイデアが出るわけです。

目的と手段を履き違えるとうまくいかない

僕のビジネスもそうですよ。コンサルタントとか士業をやりたい方の場合、僕なんかはマーケティングのコンサルタントなので、売りたいのはコンサルティングですけど。「コンサルティング、いかがっすか?」と言っても、「いやいや、要らないですよ」と。当たり前ですよね。

顧客企業が欲しいのは、収益が上がることですよね。社員研修もそうです。「社員研修どうですか? 安くしておきますよ」ってことではありません。僕は営業にマーケティングの考え方を入れ込むコンサルタントなので、「社員が活き活きと企画ができるようになると、売上が好転するいいアイデアが出るよね」とか、こっちが欲しいわけですね。

なので、次回ちゃんとまた言いますけど、「どうやって」を考える時に、「マーケティングのコンサルです」とか「研修です」というのも最後は言わなきゃ駄目ですけど、「収益を好転できるんです」、あるいは「経営者の方は、社員が活き活きした姿に喜んでいただいています」という表現をしていかないといけないわけです。

企業が売りたいものとお客さまが買いたいものが違うという時に、このお客さまが欲しいものを「顧客価値」と言ったりします。なので、ここをしっかりと考えていろんなビジネスをやっていかないと、結局は差別化できません。

さっきちらっと出てきたけど、差別化というよりも独自化をやっていく。お客さまが感じる価値、みなさんの売り物をしっかり考えた上でビジネスを定義すると。なので、今の引っ越し会社さんの事例で言うと、「うちの会社は引っ越し会社です」というのではないんですよね。もちろん登記とかはそうしているでしょうけど。

「何年か前からビジネスを再定義していたので、新生活応援カンパニーというコンセプトでやっています。なので新生活で楽しくなること、ワクワクできることをうちの会社は応援します」と。新生活が目的なので、お客さまにとっては引っ越しはその手段でしかない。ここを履き違えてしまうとうまくいかないことが多いので、ちょっと考えてみられるといいと思います。

自社の強みを洗い出す方法

冒頭に言ったように、「じゃあ強みを考えてみようよ」と言って頭の中でモヤモヤやっていても、あんまりいいアイデアは出てこなかったり、出てきても忘れちゃったりするんですよね。

なのでこんなふうに(リストに書き出します)。1人でやるんだったら会社のこととか、ご自身のことと、製品の何を売り物にするのか。機能とか品質、お客さまは製品だけで差別化するわけじゃなくて、サービス網とか一連の流れで考えますから、サービスのよさとか。

あと、「特許を取ってますよ」というのもいいですよね。そういうのをがーっと(リストに書いて)出し切ってみる。100個ぐらい出せたらいいと思います。というか、それぐらい出せないんだったら、僕はもう一回考え直したほうがいいと思いますよ。ダブっていてもいいので、全部で100個ぐらい出せると、とてもいいと思います。

自身の会社の強みと、お客さまが何の価値を感じるか。1個事例を出すと、一番上の自社の歴史。「うちの会社は100年やっています」。これはいいことですね。その100年やっていることをお客さんが見たらどうなるのか。安心して仕事を頼めますね。同じことを言っていますけど、主語が違います。

この練習も同時にやられるといいんじゃないかなと思います。「誰に」のところは、また次回説明するので、同じようにワークシートで見える化して、書き出すといいですね。

もし1人でやるんだったら、それこそスタートアップの方々が集まるインキュベーションハウスみたいなところへ行って、「ちょっと聞いてくれる?」みたいな。

3人寄れば文殊の知恵じゃないですけど、「見て見て」と言って、「僕の強みはこうだと思うんだけどどう?」とか、「これって誰かやっているよね」というのをいっぱい集めていったらいいと思いますけどね。僕も15年前はそんなことをよくやっていました。

他社との差別化ができないと、お客さまから見たら「全部一緒」

差別化はとても大事なことなんですよね。「なぜ大事なんでしょうか?」ということをお話しすると、よく考えてみたら当たり前なんですけど、私たちがどれだけがんばっても、お客さんから見たら全部一緒に見えるんです。なので、「うちの会社はここがいいんです」ってちゃんと教えてあげないと、お客さんはわかってくれないんですね。

「差別化って何ですか?」と聞くと、「ライバルや競合と違うものを作ることですよね」ってお答えになる方もいらっしゃるんですね。もちろん間違ってはいないんですけど、本当の差別化はそうじゃないんです。

差別化とは、お客さまの目から見た時に、ライバルよりも「こっちのほうがいいよね。価値があるよね」と認識されることです。これを付加価値と言ったり、マーケティング用語で「ブランド」と言ったりします。ここをやるわけですね。

よく生産財の部品とかを作っている会社が、「いやいや、うちの会社ってネジとかボルトとかを作っていて、どこの会社も一緒なんですよね」と言うんです。

お客さんから見たら、製品は一緒かもしれないけど、例えば流通の支店がいっぱいあって、どこに電話してもたらい回しにされないとか、営業マンが1を言ったら10をやってくれるとかも差別化要因なんですよね。意外とたくさんあるので、そこを洗い出していくのがいいと思います。起業の出発点はここだと思いますよ。

さっき言ったようなかたちで、「違い」のところですね。「なぜ違いが必要か?」をもう一回言うと、お客さまから見たらすべて同じに見えるからです。「うちの会社はここが違うんです」ということをちゃんとご説明して、自社とライバルの違いを伝えていくということです。

やるか・やらないかだけで成果が出る確率は約10倍

じゃあ、あと1分30秒ぐらいありますので、ちょっと次回についてですね。次回は1月になるかと思うんですけれども、私が強くお勧めするのは、一回これをやってみるということです。よく講演とかで言うんですけど、例えば「成果が出ました、先生!」とかって言ってくるのって、昔も今も、100人いたら1人ぐらいなんです。ビジネスは厳しいですからね。

1パーセントと言うと、ちょっと少ないなと思われると思うんです。でも、ここは数字のからくりみたいなのがあって、100人に聞いたら、だいたい10人がやるんですね。そのうちの1人が成果が出るか出ないか。何が言いたいかと言うと、やるか・やらないかだけで、成果が出る確率って10倍ぐらいに上がると。感覚的なことですけど、そう思うんです。

僕は営業のコンサルタントでなくてマーケティングのコンサルタントなので、長期的にお客さんといい関係を作って、「収益を上げていくのがいいですよね」というところが得意だから。これを聞いて、「じゃあ明日から売上が上がります」とはならないと思いますけど、一回棚卸しをされるといいんじゃないかなと思います。

今日の講演はここらへんで終了させていただこうと思います。今日はどうもありがとうございました。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 初対面の相手から本音を引き出す「核心質問」のやり方 営業のプロが教える、商談成功のカギを握る質問力アップのコツ

人気の記事

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!