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自ら考え、自ら進めていくリスキリングとは?『新しいスキルで自分の未来を創る リスキリング【実践編】』出版記念セミナー(全3記事)

今後5年で成長する10の職種と急速に縮小する10の職種 AIや自動化による「技術的失業」に備える、リスキリングの重要性

日本能率協会マネジメントセンターが、『新しいスキルで自分の未来を創る リスキリング 【実践編】』の出版記念セミナーを開催。著者で、日本のリスキリング普及の第一人者である後藤宗明氏が、欧米でリスキリングが定着した理由や、「AI時代のリスキリング」の5つのポイントなどを解説しました。

ようやく解けてきたリスキリングの誤解

西舘聖哉氏(以下、西舘):それでは後藤さん、よろしくお願いいたします。

後藤宗明氏(以下、後藤):よろしくお願いいたします。

西舘:僕は1冊目の書籍から後藤さんを知って、いろんなセミナーやカンファレンスを見させていただいていますが、最近のリスキリングの状況はどうですか?

後藤:「やっと機が熟してきたな」という手応えを、この数ヶ月間で感じ始めています。

西舘:というと?

後藤:書籍の中でも書いたんですが、「個人が自主的に取り組む学び直しだ」という誤解によってうまくいっていないところがあったんです。ですが最近は、リスキリングをすると「自社にとってよいことがあるんだ」「自社の未来の事業を担う人材を育てていくことだ」と、経営者の方々にだんだん理解していただけるようになっています。

それで、組織の中でリスキリングの制度をちゃんと作っていくかたちが徐々に始まりつつあるという手応えを感じています。

西舘:僕も、リスキリングって言葉を聞かない日がほぼないんではないかというくらい広まってきたなと思います。市民権を得たというか、そんな空気を感じます。

「(著書を)両方拝読しました」というコメントが入りましたが、僕も手元に本を持ちながら、いろいろと深掘りさせていただければと思います。

個人が自主的に学ぶ「学び直し」ではない

西舘:今回のイベントページにも記載がありますが、リスキリングとは「新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し、そして新しい業務や職業に就くこと」。

言葉の定義が広まり、みなさん認識はしているのではないかなと思いますが、「今回初めてこのセミナーでリスキリングについて触れます」という方もいると思うので、あらためて後藤さんからご紹介いただいてもよろしいでしょうか?

後藤:承知しました。では、スライドを共有します。リスキリングという言葉は、Reskill(リスキル)という英語がもとになっていて、新しいスキルを(再)習得させるという意味ですね。

主語が組織で動詞がリスキル、目的語が従業員になります。なので、個人が自主的に好きなことを学ぶ「学び直し」とは異なり、組織の新しい事業戦略、デジタルトランスフォーメーションなどを担う人材をちゃんと組織内で育てていくこと。

「職業能力の再開発」とも言いますが、個人が自主的に学ぶものとは異なり、リスキリングは組織がちゃんと実施責任を持つ「業務」だと言えます。一方、働く従業員の方の視点で考えると、リスキリングは新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し、新しい業務や職業に就くことだと私はご説明しています。

なぜ新しいスキルを身につけて実践することが大事なのか。例えばみなさんがリスキリングの一環として、デジタルマーケティング分野を学びたいと、オンライン講座を3ヶ月間受講したとします。

ところが、社内や社外への転職で、学んだだけで新しい仕事に就くチャンスがもらえるかというと、そこは厳しい世界です。やはり、即戦力でないとなかなか難しいし、チャンスがもらえないところがあります。

新しく学んだことは仕事のプロジェクトなどで実践し、それがスキルとなって再現可能なかたちになる。持っているスキルをどこでも活かせるようになる。そこで初めて、新しい業務や職業に就くチャンスがもらえるんです。

私は今、「学びっぱなし問題」と言っています。新しいことを学ぶことがゴールになってしまっていて、新しい業務や職業に就くところがスポッと抜け落ちてしまっているのではないか。

「AI時代のリスキリング」の5つのポイント

後藤:これは、最近出版された英語版の『ハーバード・ビジネス・レビュー』です。「Reskilling in the Age of AI」で、「AI時代のリスキリング」という趣旨です。この中でポイントが5つありました。

1つ目は「リスキリングは組織の戦略上の必須事項である」。2つ目は、「リスキリングはすべてのリーダーとマネージャーの責任である」で、ここが大事です。個人が自主的に取り組む学び直しではないんですね。

3つ目が「リスキリングチェンジ・マネジメントの取り組み」、つまり組織変革に伴うものである。4つ目は、「従業員は理にかなっている場合はリスキングすることを望む」です。自分が将来目指すキャリアパスと会社が提供するリスキリングの方向性や機会がちゃんと一致していないと、従業員が自分ごととして取り組まないので非常に重要です。

5つ目は、「リスキリングには村(エコシステム)が重要である」です。これは、リスキングするための支援の仕組みです。中小企業のみなさんが、自分たちだけではリスキリングが難しい場合に、地方自治体でもちゃんと支援の仕組みがあるか。

リスキリングは成長産業・事業に就くための準備プロセス

後藤:最後にもう1つ、ChatGPTのようなものが業務のタスクをどんどん自動化していく中で、リスキリングは無駄なのではないかという話もあります。これは図を使って説明します。

一番左は、我々が現在就いている仕事です。AIやロボットによってタスクがどんどん自動化されていくことで、なくなっていく可能性があります。そこで、ちゃんと将来の成長事業に移っていけるように、リスキリングが重要になります。

ところが、現在の成長事業も時間を経て徐々に変質していきます。なので、実はリスキリングは我々がまだ知らない、存在していない仕事に就くための準備プロセスになっているとお伝えしています。

生成AI・ChatGPTの分野では、これからどんどん新しい仕事が生まれてくると思います。例えばプロンプトエンジニアという仕事は、半年前にはまったく注目もされていませんでした。YouTuberも、10年前には存在していなかったような仕事です。

今、AI分野のスキルを身につけている方、AI分野の仕事に就くことができている方は、これから新しく生まれてくる成長分野に移るチャンスがあることになります。これから新しく生まれてくる仕事に就くための準備プロセスを兼ねているので、「リスキリングに取り組むことによって、ご自身の職業の将来の選択肢を増やしていけるんですよ」とお伝えしています。

西舘:ありがとうございます。今の図の納得感が高すぎて、「これだけでいいんじゃないか」感がすごく強かったです(笑)。

僕が生まれた頃の仕事って、今とぜんぜん働き方が違ったと思います。まだぎりぎりインターネットを仕事に活用してない時代だったので、その頃の仕事と今の仕事は違います。

僕が就職してからの10年間くらいでも、働く場や仕事のやり方がぜんぜん変わってきているので、10年後に向けてリスキリングするという観点で言えば、「新しい仕事に就くためだな」という納得感が、一気に増しました。

後藤:そこが私の書籍の第一弾のタイトルについています。「自分のスキルをアップデートし続ける」。この「し続ける」ところが大事です。外部環境はどんどん変化していくので、スキルをアップデートし続けることがすごく重要です。

西舘:まさに先ほど後藤さんが言っていた、「学びっぱなしではなく、学んでそこからさらに次につなげていって」という部分が、大事になるんですね。

後藤:そうですね。

西舘:僕も学生時代は「社会に出たら勉強しなくていいだろう」とか、「自分の分野だけを学んでいたらいいだろう」と思っていた人間ですが、社会に出ていろんなことをやってみると、ぜんぜん足りないなと思います。経営のことを覚えるとか、人とのコミュニケーションもスキルの部分があるので、「学ばないと本当にやっていけないな」と強く思うことが増えました。

欧米でリスキリングが定着した理由

西舘:ここから本編に入っていきたいと思います。まずは1つ目です。後藤さんにぜひ詳しくお聞きしたいと思っていたのですが、こちらの本『リスキリング【実践編】』にはどんな想いを込めているのでしょうか。

1冊目を出版した時から、いろんなところでお話ししたり人に伝えたりする中で、思ってきたことや込めたかったものが、きっとたくさんあるのではないかと思いますので、こちらをお聞きしたいと思います。

後藤:海外でリスキリングが注目された経緯と、今、日本で「個人の学び直し」という文脈で言われているものには大きなギャップがあります。

なぜ海外でリスキリングが定着したかについては、技術的失業が一番大きなトピックになっています。AIやロボットが世の中をどんどん便利にしていく一方で、人間の仕事をどんどん自動化していくことに備えるための準備としてリスキリングが注目された経緯があります。

もともとは2013年にオックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授が、「The Future of employment」という論文を出されました。この論文の中で、「米国の総雇用者の47パーセントの仕事が今後10年、20年の間になくなる可能性が高い」という発表がありました。私がリスキリングに関心を持ったきっかけは、ここでした。

この技術的失業を防ぐためには、どうしたらいいのか。いろんなことを調べていくうちに、技術的失業を防ぐためにはリスキリングが有効だと、海外のいろいろなカンファレンスに出て知りました。それでリスキリングに大変興味を持ち、これをちゃんと伝える側に行こうと思って、自分自身のリスキリングをやってきました。

今後5年で成長する10の職種と急速に縮小する10の職種

後藤:現在、技術的失業はかなり深刻な様相になっています。こちらは、今年の5月に世界経済フォーラムが発表した雇用予測です。今後5年間に新しいテクノロジーやグリーン分野で6,900万件の雇用が生まれる一方で、経済的な圧力や自動化によって8,300万件の雇用がなくなる見込みであると。

つまり今後5年間で、1,400万件の雇用が純減するというお話ですね。まさにAI等で世の中がどんどん便利になる一方で、我々の仕事が変質していくことが明らかになっています。

同様に(上記の雇用予測では)今後5年間で成長が著しい職種トップ10と、急速に縮小していく職種トップ10が出ています。成長著しい職種トップ10の1位は「AIおよび機械学習スペシャリスト」です。2位は「サステナビリティ分野のスペシャリスト」ということで、1位がデジタル、2位がグリーン(分野)になるわけです。

ところが、急速に縮小している職種トップ10の1位は「銀行窓口および関連業務」、2位は「郵便局事務」、3位「レジ係やチケット係」、4位「データ入力事務」、5位「一般事務、役員秘書」、6位「物品記録や商品陳列」、7位「会計、経理、給与事務」、8位「議員、公務員」、9位「統計、金融、保険事務」、10位「訪問営業、キヨスク店員と関連業務」。

正確性が必要とされる作業を中心とする方の仕事がこれからどんどん縮小していきます。AI等によって作業が効率化されますので、まさに今、こういう仕事に就いている方がリスキリングをすることで、成長分野に移っていく必要があります。

また、IBMのグローバルCEOのアービンド・クリシュナという方が、ブルームバーグ通信の取材に応じた記事によると、バックオフィス約2万6,000人の仕事の30パーセント、7,800名くらいの雇用がなくなる可能性があると予測しています。

彼は生成AIが仕事をどのくらい代替するかが明らかになるまで、新規採用を一時停止するかペースを落とすとおっしゃっています。この生成AIの影響から、自動化による効率化・生産性の向上と引き換えに、人数がいらないかたちで仕事ができるようになっていく。

ここを防ぐために、リスキリングが必要になってきます。これをぜひ、みなさんに知っていただきたいと思います。

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