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元キーエンストップセールスから学ぶ、顧客に選ばれるための「シン・営業力」(全2記事)

「顧客の時間軸」を変えると価格が高くても選ばれる 元キーエンストップセールスが語る、「提案」の大原則

営業力強化・営業生産性向上をテーマにしたSansan主催イベントに、『シン・営業力』の著者で、株式会社FAプロダクツ 会長の天野眞也氏が登壇。元キーエンストップセールスの天野氏が、企業・従業員・顧客のそれぞれの目的や、顧客に選ばれる提案書作成のポイントなどを語りました。

営業をやりたくてやっている人は少ない

天野眞也氏:こんにちは。FAプロダクツの天野眞也と申します。今日はみなさまに、「顧客に選ばれるための『シン・営業力』」というテーマでお話をさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

まず簡単な自己紹介をさせていただきます。もともとキーエンスという会社にいたわけですが、僕がいた当時のキーエンスはみなさんがイメージするキーエンスとはちょっと違うかもしれません。

どういうことかと言いますと、僕が入った時は、従業員数が二百数十人とめちゃくちゃ小さかったんですよ。今風に言うとたぶんベンチャー。三十数年前は、ベンチャーという言い方はしませんでしたが、非常に小さかった。

営業の仕組みなどは後天的にどんどん作られていったわけで、最初からあったわけではないんですね。また、私が営業を始めた30年前は今とはツールもまったく違いました。そんなことも含めて、どんなふうに仕組みができたかや、言語化されたプロセスなどを冒頭でご紹介できればと思います。

自己紹介はこれくらいにして、本日ご参加いただいたみなさんに質問をしたいと思います。また、Webでご視聴の方もいらっしゃると思いますので、私がうまく変換しながらお伝えしていきます。

みなさんの中で、営業をやりたくて営業をやったという方はいらっしゃいますか? ありがとうございます。今、だいたい6人、7人の方から手が挙がりました。今日は70名以上の方が参加されていると聞いていますので、10パーセントくらいでしょうか。

ご視聴いただいているみなさんも、「そもそも自分はやりたくて営業をやったかな?」と思い返しながら聞いていただきたいと思います。

営業はやりたくてやっている人が非常に少ないのです。だってそうですよね。高校、大学の時に営業という仕事をイメージできましたか? 営業高校や営業大学ってないですからね。社会人になって、文系の大学を出て配属されてみたら営業だったと。

会社に入っても営業って教わりにくいんですね。仕組み化や言語化されていない。だから、今(セールス)イネーブルメント(=営業組織の強化や改善ための取り組み)みたいなものが非常に重要視されていると思うんです。そういったところが、営業のとっつきにくさにつながっていると思います。

顧客にあらわれた変化

こんな背景で、みなさんは最初から営業を志したわけではない。営業高校、営業大学もないし、会社に入ってから教えてもらえるかと思いきや、なかなか会社でも教えてもらえない。

こうした中で、みなさんが今、自社の体系的な営業の組織作り、仕組み作りをする時に、どんなところを考えていけばいいかというところをお話ししたいと思います。

「ここ数年、さらにコロナ禍を経てどんな変化がありましたか?」というところですが、以前はそれでも会社の成長と個人の成長を重ねたり、自身の人生を仕事に投影する人も多かったです。また、思いが強く志の高いお客さまも多く、対面のコミュニケーションが中心でしたから、お客さまとのリレーションの強化が非常に重要だったわけですね。

熱意に押されるお客さまが多く、お客さまとの関係性が強固になりやすかった。でもぜんぜん言語化されていないので、言ってみたら気合いみたいな話が多かったわけです。

ところが、現在は「会社の成長よりも個人の成長が重要だ」という方が多いです。ワークライフバランスを重視して、自分の職責をまっとうしさえすればいいという意識も強くなりました。そして、コロナ禍によって、非接触でのお客さまとのコミュニケーションが中心になったわけです。こうなると、お客さまとの関係性は必然的に希薄化します。

悪いことばかりではなく、今日のように1対nでみなさまとお話ができることもあるわけですが、「売る熱意だけでがんばってきた」ということに関しては、通用しづらくなったということです。

このようなお客さまとの変化がある中で、どういうことが営業に求められているのか。今日はここを言語化し、ひもといていきたいと思います。

企業・従業員・顧客のそれぞれの目的

まず、営業の大原則からみなさんと一緒に考えたいと思いますが、企業の目的とは何でしょうか? Webのみなさんも1回考えてみてください。会場のみなさんはもしかすると当てられるかもしれないので、僕と目が合った人は要注意です。って言った瞬間に、今まで僕を見てニコニコしてくれていた人が、みんな急に顔をそらすという(笑)。

誰も目を合わせてくれないわけですが、さあ、企業の目的とは何でしょうか? わかる方はいらっしゃいますか? もし会場のみなさんに手を挙げていただければ、僕もちゃんとしゃべります。では、この話をする前に僕と目を合わせていただいた最前列の方に、企業の目的は何でしょうか?

回答者1:継続的に利益をあげる。

天野:さすがです。「継続的に利益をあげる」というお答え。わかった方、すばらしいです。よく答えに出る、「従業員を幸せにする」や「社会に貢献する」なども重要ですが、一番重要なのはやはり利益を出すことですね。

それでは、従業員のみなさまの目的は何なのか。これもみなさんにちょっと考えていただきたいんですね。よくあるお答えは、「お給料をもらう」「社会に貢献する」「人生を豊かにする」。

さあ、これのお答えは? 同じ方にもう1回聞いちゃうとあれですが、すごく優秀な方なのでもう1回聞いちゃいましょうか。これは何でしょう? もう当てられないと思っていましたよね。じゃあ、そのお隣の女性の方に聞いてみましょうか。どうですか?

回答者2:社会に貢献すること。

天野:ああー惜しい。それももちろん重要な課題ですが、従業員のみなさまが雨の日も風の日も会社に来られて、何を目的としているか? ということなんですね。

わかる方はいらっしゃいますか? 全体のスケジュール感もありますから答えにいきます。信じられないかもしれませんが、実はみなさんの目的もそうなんですよ。「利益を出すこと」なんですね。ですから、会社は利益を出すために存在し、そこにお勤めの従業員のみなさんも利益を出すことが目的なんですよね。

じゃあ、お客さまがなぜ毎日会社に来ているのかと言うと、当たり前ですが、お客さまの会社の利益を最大化するために毎日会社に来ているんですね。

企業への提案の大原則

一方で、みなさんは営業職の方なのでおわかりだと思いますが、「移動はぜんぶタクシーで行っていいよ」「経費使い放題だよ!」「接待無制限だよ!」と言われたらどうですか? 嫌ですか? みなさんニコニコされていますけど、嫌な方はあまりいないんです。

会社の利益を最大化するために経費は抑える方向のほうが本当はいいんですが、実際にみなさんに「経費使い放題だよ」と言ったら、なんとなくうれしいんですよね。

ということはどういうことか。「もしかしたらお客さまもそうかもしれない」とイメージしながらお話を聞いてみてください。こういうことなんです。企業のメリットは、確かに利益です。ですから、企業への提案は利益を大原則としてください。

一方で、担当者さんは企業の中の個人です。「企業のメリット=利益ばかり」を強調しても、もしかすると個人のメリットに照らし合わせると、いまいちそこが噛み合わないというケースがあるわけですね。

こういうケースをしっかりと捉えて、会社の利益と担当者さん個人の利益を両輪で出すことを、しっかりと提案の中に織り込んでいただきたいと思います。

「個人のメリットって何なの?」ということですが、吹き出しに書いています。シンプルに言うと、昔だったら接待みたいなことかもしれないし、もっと言うと、その方が我々の提供する商材やサービスで社内で評価されて出世することもそうかもしれません。

車のリースで例えると、ハイブリッドで燃費が良い車を総務部長さんが導入したとする。使うのは営業さんだけど、営業さんからすごく感謝されたとかね。こういうことをひっくるめて個人のメリットになるわけです。

みなさんも自分に照らし合わせて「自分が経費を使う立場になったら」というように、しっかりとイメージを持っていただけたらと思います。

提案書作成のポイント

続いて、またみなさんと進めていきたいんですが、この商品AとB、どちらを買うべきでしょうか?

先ほどはこっちのテーブルのみなさんに聞いたので、今度はこっちのテーブルのみなさんに。僕と目が合う方がいいですね。あ、今合っちゃいましたね(笑)。さあ、AとB、どちらがよろしいでしょうか?

回答者3:B。

天野:Bですね。ありがとうございます。もちろんそうなんです。今の流れで言って、企業の目的は利益を出すことであれば、当然Bですよね。

ところが、今日は営業をされている方もたくさんいらっしゃると思うんですが、実際に買っていただけるのはAというパターンが多かったりするんです。

どういうことかと言うと、我々が入れる見積もりは、時間軸が現在なんですね。だから場合によっては、「BはAよりも1.5倍高い」と言われかねないんですよ。そういうことってありますでしょう?

売上や利益はお客さまから見ると未来軸なので、「本当にこれで売上が上がって利益が出るんですか?」ということに関して、ピンと来ない方も多いわけです。ですから、しっかりと企業の目的である利益に着眼して提案していただきたいんですね。

ところが、最前線でやっていると、Bの方は「1.5倍高い」と言われてしまう。「値引きをがんばります」とか、場合によっては「(御社の)製品は高すぎて売れないんですよね」というフィードバックをされてしまうこともあるんです。

なんでこういうことが発生するのか。これは「消費者感覚」で判断しているからで、コストしか見ないケースが多いんですね。

法人やBtoBの場合は基本的に「モノを買う」と表現しますが、ほとんどのケースは投資です。投資なので投資額を上回ったものが利益ですから、やはり売上と利益については絶対に話さないといけません。

ですが、我々もそうですが消費者感覚で判断することのほうが多くないですか? 「安いものがいいな」と、どうしてもコストが先行しちゃう。ここの部分は完全な処方箋があるわけではないんですが、このメカニズムをしっかりと理解しておけば提案できます。

半分冗談ですが、、もしお客さまに「A」と言われて、「(Bは)高いよ」と言われたら、言ってあげてください。「え、ご存知ないんですか?」と。「みなさんは会社の利益のためにいらっしゃるので、ここはBを選ばなきゃダメですよ」と言ったら、確実に出禁になりますね(笑)。

(会場笑)

天野:「そんなことお前に言われたくない」と出禁になっちゃいますから、そんな物言いをしてはダメなんですが、だからこそ提案書などでここをしっかりとお客さまにお伝えする。企業の「買う」=「投資」であることを理解して、しっかりと提案書を作ることが大事だということですね。

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