2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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久保彩氏(以下、久保):みなさん、ランチタイムにご視聴いただきありがとうございます。今日は500名弱のお申込みをいただいています。
ファシリテーターをさせていただきます、株式会社フライヤーの執行役員で、新規事業・カスタマーサクセスの責任者の久保と言います。今日のゲストは近内悠太さんです。さっそく、みなさんに自己紹介をしていただいてもよろしいでしょうか。
近内悠太氏(以下、近内):こんにちは。今日はよろしくお願いします。近内です。この本(『この世は贈与でできている 資本主義の「すきま」を埋める倫理学』)を書いた人間です。贈与をはじめ、今はケアと利他の話を考えたり書いたりしています。
結局社会は人と人のつながりなわけですよね。この本は、その根本に何があるのかを考えて書いた本です。つながっているとはどういうことか。どうすれば良きつながりになるのか。どういうものがお互いを支配するような、悪しきつながりになるのか。そこに贈与があるのではないかと書き始めた本で、それを元にいろいろ考えたり、お話したりしている今日この頃です。今日はよろしくお願いします。
久保:ありがとうございます。私は近内さんとは、講座の「心を整える哲学の部屋」シリーズで何回もご一緒させていただいています。このシリーズは4ヶ月間行っていて、第1回が先ほどのご著書にもあった「贈与」ですね。「贈与と利他」というテーマでした。
そこから直近ですと、SF(サイエンス・フィクション)をやり、今回は「入り口」です。特に今日のテーマにある「自分の言葉で考える」ことが、どうやら哲学の入り口のようだなと推察しています。
最初に、そもそもなぜ近内さんが哲学にご興味を持ったのか。そこから「哲学とは?」「自分の頭で考えるとは?」ということをお聞きしていきたいと思います。
近内:例えば、ある学問領域の中ですべて納得できるんだったら、それでいいわけですよね。僕が中学生くらいの時によく思っていたのは「科学的に正しい」というのは何をもって正しいと言っているのかということ。
あるいは「過去の歴史としてこうなっています」って「それは何でわかったの?」「どのようにしてそれが正しいと言えるのか」と。つまり「正しさ」がどこからやってくるのかということです。ある特定の学問領域の外に出ちゃうわけですよね。
たぶん哲学はそういう場所にあるんです。
近内:そもそも「経済学を前提としている人間観が正しいのか」は、経済学の中では問えないんです。だってそれを前提に話を進めるのが経済学という学問なんで。
サッカーで「なんで手を使っちゃいけないの?」という問いと同じです。「今、俺たちは試合をやっているんだよ。もうボールは動いちゃっているんだ」という時に、「でも、ごめん。ちょっと待って。どうしても手を使っちゃいけないルールがわかんないんだけど」と言ったら、「とりあえずここを出て行って」と言われますよね。
久保:確かにその人、ややこしい(笑)。
近内:「このルールがわからなくて、ゲームができないんだ」となれば「お前、とりあえずあっちに行って」と言われてのけ者になっちゃうわけです。ゲームから疎外されることになる。
久保:なるほど。
近内:「ゲームそのものが、どういうルールでどういうものなんだろうね」という問いをプレイヤー自身は問えないわけですよ。外にいないと問えない。
「科学的に正しい」「何々の法則」など教科書にはまことしやかに載っているけれども、そもそも「なんで正しいの?」という問題がある。どのようにして真理と認定されたのか、と。
「科学哲学」というジャンルです。当時の僕は、先人がそういう問いを研究したり考えたりしている蓄積があるなんて知らなかったから「困ったな」と思っていた。「学校の教科書がよくわからないな」と思っていて。言われた通りにしてテストの問題は解けるんだけど、納得できない、あるいは「飲み込めない」という状態でした。
まさに僕の講座で取り扱っている野矢茂樹さんや永井均さんの本を読んで、「え、みんなが言ってるんじゃん」「こういう疑問は真っ当だったんだ、間違っていなかったんだな」と思えた経緯がありました。
久保:なるほど。つまり、私たちが中学校、高校で「これが満たされると正しい」と前提にしているものや「サッカーでは手を使わない」という先ほどのルールを、そもそも「なんで?」と考える。
哲学はそれを考えるきっかけ、考えるプロセスだったということですね。哲学にはそういう領域があることに気づいたと。
近内:そう、やっと安心できた。「間違っていないよ」「そういう問いがあるよね」という人たちのグループがあって、どうやらそれらの問いと応答の全体は「哲学」と言い、そういうことを考える人たちは哲学者らしいと。
久保:ちなみに近内さんが、哲学を学んでみようかなと思ったのは、おいくつくらいでしたか?
近内:それが哲学だとわかったのが18、19歳。高校の進路相談の時に、数学か物理か哲学かで悩んでいたことがあって、なぜかたまたま1年生か2年生の時に受け持ってくれた地理の先生に相談したんですよね。数学や物理の先生じゃなくて。
「僕、今、数学か物理か哲学かで悩んでいるんですけど、どう思いますか? 将来は教える仕事をやりたくて」と聞いたら、先生は「うーん、だったらまずは数学じゃないですかね」と言われたんです。この先生がすごいなと思ったのは「それなら、“まずは”数学だと思います」と言ってくれたこと。「この人は信用できる」と思った瞬間でした。だから進路の学部は数学にしましたね。
久保:さっきチラッと見せてくださいましたけど、野矢さんの本(『哲学の謎』)で「哲学の領域がわかった」ということですが、私もちょっと読んで付箋を貼っているんです。
近内:どうでしたか?
久保:いきなり、けっこう謎めいた会話で始まって。例えば自分が死んだら、自分のいろいろな記憶に残っていた他人もなくなるのか、地球はなくなるのか。「日常なかなかそんなことを考えていないよ」「それを考え始めたら日常がかなりきついよ」という2人の会話で始まっているんです。
最初はちょっと「おーおーおー、こういうことを考え始めると大変だな。若干面倒くさいだろうな」と思いながらも、だんだんと考えることのおもしろさ、2人の会話のシニカルなおもしろさに、どんどんのめり込んじゃう感じがありました。
近内:単純にこれは思考実験としておもしろいんじゃなく、現実の社会問題にもちゃんとつながると思っています。
久保:なるほど。
近内:僕が特に好きな議論がいくつかあって、正常と異常の話。例えば「無人島にたどり着いてしまったロビンソン・クルーソーは間違えることができるのか」という話が出てくるじゃないですか。
要は自分の身体が異常である時に、他者がいないのにそれが異常か正常かがわかるのか。つまり、正常/異常あるいは善/悪の「基準」が自分自身しかないわけです。参照されるべき他者の眼差しが存在しない。
「正常か異常かは実は他者との関係性でしか決まらないのでは?」という話や「自分が間違っていることに、他者がいない状況でどうやって気づけるのか」という話など。
正常と異常というものは、意外と共同体によって決まっている。例えば何をもって障害とするか、何をもってディスオーダーとするのか。まさにディスオーダーという言い方のとおり、秩序、オーダーがあるからディスオーダーが発生する。
「みんな、こういうことはあるもんだよね」「そういうもんじゃん」「常識じゃん」「それってずっと変わらなかったよね」と思うけど、「いや、変わり得るものですよね」と相対化するのが、たぶん大事だと思うんです。
久保:そうですね。例えば私たちはいろいろなところで「正しい」と定義するものを持っています。それがさっきの例の「サッカーでは手を使わない」だったり。実は生活の中にもあるし、もうちょっと倫理的な「人はこうあるべき」みたいなルールもある。でもルールは変えてもいいというか、変わり得るもの。選択肢は他にもある。
近内:変わってしまうものというね。
久保:ああ! なるほど、そうなんだ。
近内:あと自分の言葉や自分の頭で考えるや、自分の言葉に責任を持つことの真反対の状況は何かというと「そういうもんじゃん」と言うこと。「そういうもんじゃん」はズルくて、相手に納得してもらおうというか、飲み込ませようとするわけです。
「そういうもんだから」と自分で言った時に、本当に自分で納得できているのかというと「納得できていないけど、世の中はそういうもんなんだ」というエクスキューズ(言い訳)でしかないんです。「決まりだからそういうもんなんだよ」では自分も納得しないから言葉として弱いんですよね。
面倒くさいけど考えた人、納得した人は言葉に強さが出るんですよ。だって心底納得して言っているから。その理路を人に説明できるから。
近内:野矢茂樹さんの師匠筋に当たる人で、大森荘蔵という哲学者がいます。大森荘蔵のゼミに出ていた時のことを野矢さんが本の中で書いていたんですけど、大森荘蔵から学んだことは「自分でも何を言っているかわからないことはしゃべるな」ということだったと。
これは本当に重要な指摘で、それはなんでかって言うと、言葉がみんな揃ってないからなんです。言葉は使う人同士でズレてしまっている。
例えば「恋愛ってさ……」という時、「恋とは、そもそもどういう意味で言ってるの?」とわかっていないけど使うじゃないですか。僕は知窓学舎で講師をやっているんですが、そこの中学生に、ロビン・(イアン・マクドナルド・)ダンバーのダンバー数の話「ネットでコミュニケーションを取れるのは150人が限界」という説明をしたことがあったんです。
そこで「みんなは友人と思える人数の限界は、どれくらいだと思う?」と聞いたら、けっこう50人、100人とか挙げるわけですよ。その時に僕が「今、友人という言い方したじゃん」と言うと、生徒の中に「友人ってピンとこない。友人はどこまでですかね」と言ってくる子がいて。
久保:ほう。
近内:「そうだよね。今、僕はあえて『友人』という言い方したけど、じゃあ『身内』あるいは自分の『味方』と思える人だったら?」と言葉を変えたんです。「自分の身内と思える人の上限は?」と聞くと、やはり人数が下がるんですよね。例えば「友人は100人、500人までいける」と思った人が、「30人」とだいたい下げるんです。
その中で「友人」に100人と書いた子で「身内」と思える人数の数値を上げた子がいたんですね。
久保:へえ! なんだろう?
近内:「友だち」というと本当に親しい人で、たぶん「身内」は親戚とかも含むと思ったんでしょうね。つまり血がつながっているとけっこう多いなと思ったらしいんです。
みんな、これはわかります? つまり普通は「友人」よりも「身内」がコアな存在だと思っている。だけどある生徒たちは、それよりも大きい概念だと思っていた。ほら、同じ言葉を使っているように見えるけど、同じ言葉を使っていないでしょう? それがもう数字で出たわけです。
だから言葉が通じないのは当たり前なんです。言葉でイメージしているものが違うんだから。数字にしたらだいたい下がるのは同じだったのに、何人かは「身内」のほうが多いと人数を増やす子がいたのは、おもしろかったです。
久保:うーん! おもしろい。佐渡島(庸平)さんの『言葉のズレと共感幻想』という対談本で、言葉の定義をベン図で表す実験をしていると言われていて。その言葉の概念は、ベン図やサークルの中に入っているのか、外にあるか、重なっているのか、離れているのか。
近内:重なっているところには何があるかとかね。
久保:そうそう! それをやると人によってかなり違うことがわかると書かれていました。
近内:話が通じないわけだよねっていうさ。
久保:なるほど。チャットがすごいですね(笑)。今日話しているのは、わりと難しいハイブロー(教養のある人向け)な話ですけど、みなさん、それを聞きながら「なるほど、こういうことか」とめっちゃ書いてくださっているんですよ。
自分の頭で考えるとはこういうことねと。先ほどの大森荘蔵さんの言葉「自分が何を言っているかわからないことは言わない」のところで、「考えるとは腹落ちしたことや納得したことね」と書いてくれたり。
近内:チャットで見ると、やはり「身内」のほうが多い人もいるね。
久保:いますね(笑)。
近内:潜在的に自分の意見に賛成してくれる人を考えると、人によって捉え方はぜんぜん違う。例えば「平和って何だと思う?」だったら、抽象度が高いからみんなの答えがまちまちだとわかる。だけど「友人」と「身内」という言葉の感覚ですら違うよねというさ。
久保:確かにね。
近内:逆に自分とは異なることを思っている他者が現れると、自分はこの言葉に何を託していたのかがわかってくる。
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