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モチベーションを高めるマネジャー育成の秘訣 ~1on1の成否を決める「傾聴力」とは~(全2記事)

1on1でメンバーの納得感を高めるカギは「拡大質問」 部下に「自己決定感」を持たせるコミュニケーション術

4割以上の企業が導入していると言われる「1on1ミーティング」。リモートワーク下でのチーム力向上や社員のエンゲージメント向上を目的に開始したものの、期待通りとは言えない状況にある企業も少なくありません。そうした中、「モチベーションを高めるマネジャー育成の秘訣」をテーマに、株式会社ベネッセコーポレーションと株式会社リンクアンドモチベーションの共催で行われたセミナーに、『できるリーダーは、「これ」しかやらない[聞き方・話し方編]』の著者で、株式会社らしさラボ代表の伊庭正康氏が登壇。部下の「自己決定感」を高める1on1の進め方について語りました。

1on1のアイスブレイクで話すこと

伊庭正康氏(以下、伊庭):今日言いたいことは、スライドのこのページです。「早く言えよ」という話ですが、もったいぶらせていただきました(笑)。

1on1で「1週間や2週間に1回、15分や30分も話すことなんてないでしょ」と思われるかもしれませんが、ご安心ください。1on1では、話す流れが決まっているので、雑談で終わりません。

まず、「30分の過ごし方」というケースで持ってきました。最初に「10分程度」と書いていますが、5分から10分程度ぐらい。短ければ3分ぐらいで終わっちゃいます。

最初はアイスブレイクをしていると思ってください。「プライベートの相互理解」。大したことはありません。「最近天気がいいけど、週末はどこかへ行っているの?」とか、「最近忙しそうだけどどう?」。それぐらいの言葉です。

「この間公園へ行ってきましてね」「そうなんだ。何したの?」「息子とキャッチボール」ぐらいの会話です。でも、ふだんできないですよね。これをほんの数十秒、もしくは長ければ、2~3分してもいいと思います。

次は、「心身のチェック」。「いつも聞いているんだけども、また今週も聞いていい? 体調はどう? 10点満点としたら、今日は何点ぐらい?」「今日は7点です」「良かったじゃん。この間は4点と言っていたものね。何があったの?」。

いいほうはいいですが、下がっている場合もありますよね。「今回7点です」「あれ? 前回9点だったけど」「忙しくて、最近スポーツジムに行けないんですよ」「ああ、そうなんだ。どうしようと思っているの?」とかね。

まだこれは雑談、アイスブレイクですよ。でもこの時に、「夜眠れていないんです」とか「3食ご飯を食べることができていないんです」となったら、ちょっと話は変わってきますよね。「2点です」「1点です」。これも困りますね。

体調のことを聞くのは、リモートワークをされている企業さまであればマストです。コロナうつ。別に、コロナだからうつになるわけじゃなく、リモートワークで孤独化しているからですね。なのでこれを聞いてあげる。「10点満点で聞くと答えやすいですよ」と私はいつもお勧めしています。

次の「モチベーションチェック&アップ」は、モチベーションをチェックするというより、褒めてあげる。「先週タナカさんから聞いたよ。伊庭くん、スズキさんのことを手伝ってあげたんだって? ありがとうね。そういう姿勢、助かるんだわ」。

なかなかリモートワークをしていると、褒めてあげるシーンってないですよね。どうやって情報を入手するんでしょう? 他の1on1をしている時に、「次は、伊庭くんと1on1をするんだけども、何か情報ある?」と聞きながらやっているわけですよね。

職場にいる場合はそんなことをしなくても、見ればわかることが多いです。でも、リモートの時は部下の動きがなかなかわからないですから、褒めてあげましょう。

「本題」は3つのテーマから1つを部下に選んでもらう

伊庭:ここまではアイスブレイクで、ここからが本題です。ここから25分は長いですが、やることは決まっております。「主体性向上のテーマ」として(スライドの)この3つ、「職場の気になる点」「業務の気になる点」「キャリアの視点」から1つを選んでいただきます。誰に選んでもらうかというと、部下にです。

「伊庭くん、今週は何について話し合おうか?」「じゃあ今週は職場のことでいいですか?」「いいよ。どんなことがあるの?」「大したことはないんですけれども、最近業務が忙しくなってきて、残業が先月より増えているように思うんです」。

「そうなんだ。どんなことが起こっているの?」「そうか。じゃあ、こうすればいい」。ダメです。いきなりアドバイスをしたら、25分、説教大会になります。そんな1on1は地獄でしかありません。私もそんな1on1をされたら仮病を使いたくなります。

そうじゃないんですね。自己決定感を高めるんですから質問です。「そうなんだ。それはいつから?」「そういうことか。みんなはどう言っているの?」「なるほど。何があれば解決するのかな?」「なるほど。他にあるかな?」。この質問力が前提になります。

「うちの管理職、大丈夫かな?」と思われたかもしれませんが、ご安心ください。あとで「この方法を使えば、ある程度担保できる」という話もお伝えします。まずここでは、30分の場合であれば、20分なり25分なり聞くという話になります。

業務のことであれば、「最近は商談がこんなことになっている」とか「目標が達成できない」「難易度が高いプロジェクトで」とか、いろいろあるとは思います。

キャリアの視点は、「やってみたいこと」になります。「聞いてもらっていいですか? 実は今迷っているんです」「どうしたの?」「次のキャリアのことで」「そう。聞かせてもらっていい?」。

部下もそんなに毎週毎週、聞いてもらいたいものがあるわけではないんですよ。本人に考えてきてもらうために私がお勧めしているのは、シートを用意しておくことです。キャリアの視点、職場の視点、業務の視点。「どんなことでもいいので、気になることがあったら書いてきて」と言うんです。

その場で何も考えずにいきなり始めると、3~4回やったら「じゃあ今度は業務のことで」となっちゃうので、「あらかじめて書いて臨んでね」ということをする。こうしておくと、雑談に終わりにくくなります。

この後、最後の5分程度で「気づきはあった? やるべきことは見えた?」という流れで終わります。「何が何でも結論を出しましょう」ではありません。聞いてあげるだけでも十分だったりします。

1on1で使える「傾聴のスキル」

伊庭:(スライドの)「聴く力の有無が成否の鍵」については、よく「傾聴のスキル」と言われるものです。出来事を何でも聞くのではなく、本音を話したくなることを、きちんと質問によって引き出さないといけないんですね。

その時に必要なのが傾聴のスキル、聴き方です。今回は細かくはやりません。(スライドの)これは、私のUdemyに載っている「リーダーシップ大全」より抜粋して持ってきたものです。

「そうなんだ。忙しいんだ」と反復をするとか、「そうか、いよいよだね」「楽しみだね。楽しくなりそうだね」「おもしろいよね」「それは寂しくなるよね」というような、相手が思っているであろう感情の言葉を同意するようにつぶやくとか。

「伊庭くんが言っていることってこういうことかな? ホニャララホニャララ」みたいなことを(スライドに)要約しています。聞き役に回るためには、相手に寄り添う相づちが必要なんです。それから「体を向ける」「目を見る」「表情を出す」。

明治大学の齋藤孝教授の本に書いてあったことがものすごく刺さりました。「男性は40歳を超えると顔が怖くなる」。自覚がございます。53歳。自分の鏡を見る度に、毎朝「怖い顔をしているな」と思っています。だから、極力笑顔に努めないといけないと思います。ご注意ください。

「(40代以上の)普通の顔=20代は怖がる」。これはかなり重要なポイントです。笑顔でお願いします。

次に「拡大質問」ですが、ここがめちゃくちゃ重要です。「どうして?」「どんな?」「どのように?」と聞くことによって、相手の思いを文章で、長い言葉で引き出すことができます。これを「拡大質問」といいます。

「限定質問」は、1問1答で「いつからやったの?」「誰が?」「これ知ってる?」です。そうではなく、拡大質問。「なんで伊庭くん、それを相談しなかったの?」。ダメです。「なんで~しないの?」はダメです。「しろよ」にしか聞こえませんね。

「なんで」ではなく、「そうなんだ、伊庭くん。相談しにくかったんだ。相談しにくかったのはどんな背景があるの?」。スマートですよね。

こういったテクニックを織り交ぜながら、15分、20分、25分聞くということをやっていきます。ちょっと不安になりますよね。でもこれは、トレーニングをすれば絶対できます。各企業さまでのトレーニングでは、こういった簡単なことからやっています。

部下の「自己決定感」を高めるコミュニケーション術

伊庭:その上でご紹介しているのが、「GROWモデル」です。これはめちゃくちゃいいです。コーチングで使うものですが、1on1と相性がいい。

「自己決定感」というキーワードを先ほど言いました。最後はどんなことでも自分の意思に仕立てることができる。「うちの部下は主体性がない」。……違います。それは主体性を殺しているからです。

誰もがこの手法を使ったら主体性が出ます。やってみましょうか。ゴールから話し合います。「そうか、最近残業が多いんだ。残業をなくす方法を考えようか」「じゃあ、現状(Reality)を教えてもらっていい? いつからそうなっているの?」「ああそうなんだ。どんなことで?」など。

次に資源の発見。これはわかりにくい言葉です。「そのゴールに到達するためにはどんなものがあればいいの?」と聞くんです。

「じゃあ、何があれば残業をなくすことができるんだろうね」「仕事量を減らすことですかね」「確かに。でも上司としては、ちょっとそれは非現実的だ。他にあるかな?」「他ですか」「例えば仕事のばらつきとかないの?」。

こういうふうに、「例えば〇〇はないの?」と問い合わせをしながら、「確かに週末、月末は忙しいです」「確かに。他はある?」とか言いながら、「じゃあ何があれば残業しないで済むんだろう?」とか、「平準化することに感じました」「いいんじゃない?(伊庭くんが言うならば)」ですね。

次がO(Options)。「いくつか方法を考えてベストチョイスを選ばない?」「お願いします」「じゃあいくつか出してみようよ。1個目はある?」「はい。じゃあお客さまに早めにやってもらうようにします」「いいね。他は?」「そうか、2つ目はそれか。3つ目にいこうか」「3つ目ですか?」「3つ目いこう」と言いながら、考えることを楽しむイメージです。

最後の「W」はWillです。「やってみたいことはあった?」「そうですね。いったんお客さまに相談したほうが早いかなと思いました」「納得感はある?」「納得感はあります」「じゃあスケジュールを決めてやろうか」「お願いします」。

というコミュニケーションをすれば、否が応でも本人の意思にはなる。「本人がやりたい」となるんですね。1on1ではアドバイスをするのではなく、このGROWモデルを使いながら20分、25分聞いてあげると、本人の自己決定感が高まり、寄り添ってあげることになります。

部下のストレスになりにくい1on1にするポイント

伊庭:では最後のスライド、「定着に向けて」。「1on1ミーティングのやり方はわかった。じゃあどうすればいいの?」ということですが、1つはオフィシャルの取り組みにすることを一番お勧めしています。

「やりたい人、やろうよ」では、まずやらないです。組織は「2:6:2」とよく言われますが、2割はするけど8割はしません。6割は様子を見て、2割は「絶対しない」と思っています。なので、会社としてやることが今多いです。

オフィシャルの取り組みにして、方針を明確にしてみてください。会社として、もしくは部門でも課でもいいです。

そして、上司側には進み方をレクチャーする。今回のセミナーの内容を見るでも、本を見るでもけっこうなのでやり方を教える。そして1on1をやった後にレポートをしてもらい、モニタリングまでできたらベストです。

部下たちには「1on1は自分たちのためにあるんだ」と認識してもらうために、目的を話し、ちゃんと話しやすいスペースも用意する。立ち話じゃないですよ。

「トピックをちゃんと考えてきてね」とシートも用意をする。そこまでやって、初めて部下たちにとってもストレスになりにくいというお話をいつもしています。もしよろしければ、ご参考程度にしてみてください。

駆け足ではございましたが、いつも1日かけてやっていることを25分でしゃべっていますので、大変なワープ状態でございます(笑)。少しでもお役に立てば幸いです。ありがとうございました。

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