2024.10.10
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井上功氏(以下、井上):本(『CROSS-BORDER キャリアも働き方も「跳び越えれば」うまくいく 越境思考』)の中で、10の具体的な越境方法についてお話しをさせていただいております。これは僕が立てた仮説なので、もしかしたらこれ以外にもあるかもしれません。個人内越境は、個人の中で越境している。企業内越境は企業の中、組織の中で越境している。企業の間で越境する。
それから職種間ですね。自分がやってきた仕事の職種と違う仕事に就いてみる。業種を越える。それから産官・産学を越えてみる。それから労使ですね。雇用側だった人が経営者の立場になる。それから、地域の越境、世代の越境、国を越える。この10ぐらいの種類があるんじゃないかなと思いました。
あとで資料はお渡ししますので、ぜひ各論をじっくりご覧いただきたいんですが、ここを述べていると時間がありませんので、代表的なものをいくつか示していきたいなと思います。まず、このページでは、経済活動につながるであろうと思われる7つの越境に触れました。個人内越境は一番簡単で、労使間の越境が一番難しいです。こういった難度の話です。
それから、社会生活に関わる越境で言うと、世代を越えて、地域を越えて、国境を越えるという話。しかし、世代間越境も別に普通にできますよね。盆暮れ、正月に親戚と会うのも世代間越境だったりします。そういう意味で言うと、社会生活に関わる越境は3種類。経済活動に伴う越境は7種類。合計10種類。
頭で考えるより、まず行動してみるのがいいのかなと思っています。これはよくあるモチベーションカーブで、僕の場合の話です。例えば今、個人内越境の中でモチベーションカーブを書く時に、人事異動の経験や、手を挙げて何かエントリーをしたこと、研修に参加したこと、場合によっては転職をした、みたいな話があると思います。
赤の縦棒が越境の機会かなと思っていて、僕も越境の機会はリクルートグループの中でけっこうたくさんありました。越境の機会を通じて、今までにない自分を確立していったと振り返れると思います。当然ネガティブなこともたくさんありましたし、ポジティブなこともたくさんありました。キーとなるのは、やはり越境のチャンス、機会だったのかなと思っています。
それから、個人内越境の中でのポイントは、「Will・Can・Must」だと思っていますが、ここにまず「Must(組織の要請)」があります。自分ができること、「Must」と「Can」をつなげていくのが、守破離の「守」だなと思っています。「この仕事をやってください」と言われて、自分ができることと接続をして、守破離の「守」はひたすら業務をがんばる、といった話です。
できることがどんどん増えてきて、やりたいことを加えていくと、もしかしたら「守」から少し違う自分の確立ができます。守破離で言うと「破」です。破ることができるんじゃないかと思ったりします。ちょっとした越境ですよね。
今度は「Can」と「Will」の領域で自分のやり方が確立してきた後で、今度は組織じゃなくて世の中から、「あなたは何をするべきか?」みたいな、ある種の要請を付託された時に、独自の境地に至ります。
これが守破離です。守破離を上手に活用していくと、個人内越境はけっこうできると思います。
「Will・Can・Must」にまた戻ります。スライドは僕の「Will・Can・Must」ですが、まず「Must」という組織の要請があって、できることが増えていきました。その延長線上で「Will」を加味していった時に、この3つの輪が重なる領域で「待てよ、この領域はいったい何のことを意味しているのかな?」ということを考え抜いて出てきた言葉が、僕にとっては「イノベーション」です。
15年ぐらい前にこの3つの輪を作りました。でも、この思考実験そのものが実は個人内越境だったりするので、こういうことが一番やりやすい越境かなと思っています。
企業の中での越境。例えばドラフト制度にエントリーしてみたり、研修に参加してみたり、社内プロジェクトが組成されたらそこに手を挙げてみたり、社内越境の機会はたくさんあると思います。
それから、今度は企業間の越境ですね。企業間の越境は最近で言うと、異業種の同じ世代ぐらいの方々が一緒にやる研修がけっこうあります。弊社でも用意していますが、異業種研修にエントリーをするのは、かなりおもしろい企業間越境かなと思っています。
それから職種間越境。僕がリクルートでの初任は一瞬人事をやったんですけど、その後、営業の仕事をある程度極めた後に、事業開発の仕事をやるようになりました。
実は掛け算がすごく大事で、100人に1人ぐらいの営業成績を残した後で、100人に1人ぐらいの事業開発ができるようになったら、100×100で1万人に1人ぐらいの人材になるんじゃないかなと思いました。
なので、職種間越境の最大のポイントは、1個の仕事を極めてもう1個の仕事をやること。それが3つになると100万人に1人の人材になれるので、こうなるとオリンピック選手級だなと思っています。職種間越境のポイントは掛け算です。
業種間越境は例えば、メーカーからコンサルへ行ったり、金融から流通へ行くことです。業種を越えると、その業種の中、業界の中での常識が越境先の業種の常識とぜんぜん違うので、今までの経験と新しい業種での経験を掛け合わせることによって、新しい価値が出せるんじゃないかなと思います。
それから産官学。産官学は、スライドを作ってみました。官の仕事のポイントと産の仕事のポイント。僕は経済産業省のプロジェクトなど、いくつもやりましたが、官と産の仕事は根本的に違います。
そういう意味で言うと、産業側は官の仕事のイメージをするべきだし、官僚や国は民間で起きていることの理解をするべきだなとすごく思います。産官もしくは産学の越境も非常に価値がある。
それから労使ですね。労使は、こういう図を作りました。スライド真ん中が企業なんですが、「企業ってなあに?」「マネジメントってなあに?」という根本的な図を示しました。
これは何を言っているのかと言うと、経営者は金融市場、資本市場からお金を調達して、労働市場から社員を調達して、資本を回転させて、商品市場に対して価値を提供して対価をもらって、もらった対価を投資家に配当等でフィードバックをした上で、もらった対価の一部を社員に給料としてお支払いするという。こういう活動が経営者の仕事です。
僕は今まで経営者になったことはありません。リクルートの中でも経営者の経験はありませんが、ここで言う左下の立ち位置、労使で言うと労働者の経験をしてきました。真ん中の立ち位置が「使」ですね。労使の使用人です。使っている、労働者を使う立場。
どっちの世界で生きていくべきなのかは、社員の時にも考えるべきだと思いますし、場合によっては兼業・副業で会社を作ることが可能な時代にどんどんなっていますので、経営者経験は社員としての自分にものすごく役に立つと思います。そういう意味で言うと、労使間の越境というのも必要になってきます。
それから、世代を越えた越境で言うと、ボランティアやプロボノなどもできますし、地域を越えた越境で言うとワーケーションや、別荘を持つこともできる時代になってきています。
国家間の越境は、例えばJICA、海外協力隊に行くのも越境です。MBAを取ったり、海外出張をしたり、バーチャルで海外の方々とコミュニケーションをするのが普通にできます。
そういう意味で言うと、リアル・バーチャルで国境を越えながらも、今までにない考え方の方々と対話をすることが、実は非常にインパクトがあるのかなと思っています。
あと7〜8分ぐらいで最後にまとめのお話をしていきたいなと思います。「小さくはじめる越境学習」というタイトルです。
具体的な越境の話をさせていただきましたが、いつでもどこでも小さく始められるのは間違いないと思います。しかし、「いいことがあまりないんじゃ、やってもしょうがないよね」と思われると思います。「越境にはどんないいことがあるの?」という話をお示しをしていこうと思います。
(ジャック・)メジローという人がいます。メジローの変容学習で有名ですね。メジローの学習理論の考え方をものすごく簡単に抜粋します。新しい知識・経験を得た時、人はどういう態度を取るのか。「肯定します」と「却下します」ということと、自分の中で「うん、待てよ? 矛盾が生じてるな」みたいなことがあります。
肯定は受け入れることで、却下は受け入れないという話なんですが、矛盾が得られた時に自分の中のジレンマで悶々と悩んだ上で、その延長線上に……これは難しい言葉で「意味パースペクティブ」と書いてありますが、「今までにない考え方」が獲得できます。
今までにない考え方を獲得することができるのが、メジローの言う「変容的学習」かなと思っていて、越境すると今までにない新しい知識や経験が得られると言っていいと思います。
スライド下の青と紫のところに「信念や価値観の批判的検討」と入れました。「受け付けない」は真ん中ですし、「いや、これはそうだな」と受け入れれば一番左です。
「待てよ、今までの俺の考え方とちょっと違うな」みたいな「批判的検討」が……「メタ認知」と書いたんですけど、自分自身のアイデア、考え方も含めて視座を高めてメタに見た時に、「こういうことなんじゃないの?」という気づきが、実は越境学習のミソだなと思っています。このあたりが特に大事だなと個人的に思います。
どんな効果があるか? まず、今までにないコミュニティに行けば、今までにない新しい知識、今までにないモノの見方が得られます。僕はリクルートグループに長くいますが、リクルートの常識は他の会社の非常識だったりしますし、ずっとリクルートの中で語られている言葉の中にいたら心地いいんですけど、でも新しい知識はあまり入ってきません。モノの見方はやはりリクルート的になってしまいます。
なので、多くの方々と努めて越境しながらコミュニケーションするようにしています。営業行為はお客さまと話をするので、まさに越境活動です。そういう意味で言うと、新しい知識とかモノの見方を得ることができます。
その次が「新結合」です。新結合は(ヨーゼフ・)シュンペーターのイノベーションの基礎概念でありますが、自分の何かと相手の何かがつながった時に、「もしかしたら、こういうことがあるかもしれないな」みたいなことが新結合のポイントです。タコ壺集団の中でずっと議論していたら、新結合はほぼ起きないと思います。
それから、対人対応スキル。例えばリーダーになって越境先でコミュニケーションするケースもあれば、メンバーとしてコミュニケーションするケースもあると思います。今までとぜんぜん違う、今までにない初めての方々とコミュニケーションすると、対人対応のコミュニケーションスキルや、人のネットワークなども当然のことながら得られるのかなと思います。
それから、新しい方々と議論をすると、「すごい」「おもしろい」「これは未来だ」みたいな感じで何かしら得られるかなと思います。僕は「ワクワク感」とまとめましたが、「もやもや」から「ワクワク」になっていくのも越境の効果なのかなと思います。
僕が仮説を立てた10の越境の中で、どういう6種類が得られるのかをイメージしてみました。これは完全に僕のイメージです。
最後の話に移っていきますが、「これっていったい何のことを言っているのかな?」ということをあらためて考えてみました。リーダーの機能、リーダーの役割、リーダーシップの先行研究を、ここでは4人の研究者のことを簡略化して示しております。
「頑強なリーダーシップの二軸」という言葉を聞いたことがあると思います。この頑強な二軸、(ジョン・)コッターの言葉で言うと「アジェンダ設定」。やることを決める。それから「ネットワーク構築」。人を動かす。
例えば1960年代に人類を月に到達させようと、今から60年以上前に、ケネディ大統領がアジェンダを作りました。作ったアジェンダに対して、ケネディ大統領自身が月に行くということではない。NASAができて、アポロ計画を立ち上げて、コンピュータを使って、ロケットを作って、宇宙飛行士を養成していきました。
これは全部、アジェンダは「月に行く」なんですが、その下のネットワークですよね。組織や人に影響力を行使してアジェンダを実現させる。リーダーの役割はアジェンダとネットワークだと思いますが、「アジェンダとネットワークが、越境によって獲得できることとどういう関係になっていますか?」と示しています。
アジェンダとは「やることを決める」です。やることを決めるのは、越境した時に新しいモノの見方が、新たな新結合が、というところにインパクトを与えられるでしょう。
今度はネットワークですね。「人を動かす」のも、越境するとネットワークが手に入りますし、対人対応スキルを磨かないといけません。あとはワクワク感も得られるみたいなことで言うと、「え、待てよ? 越境ってリーダーを作ることなのかな?」と思いますよね。
弊社でやっている異業種研修のデータをまとめましたが、越境していただくと今の仕事以上に、例えば社会課題とか世の中にない価値とかを生み出す経験ができます。さらに、実はこの半年間の異業種プロジェクト研修が終わった後に、会社に対する愛着的・変革的態度が増す調査結果になりました。
一般的には、越境させると人は辞めてしまうと思われると思います。辞めるケースもあると思いますが、実は会社に対するモチベーションなども上がる調査結果になりました。
それでは、誰にでもできる越境活動は何か。小さく始めることです。そのポイントは何なのかをまとめて終了したいなと思います。1973年に(マーク・)グラノヴェッターが「The strength of weak ties(弱いつながりが持つ強い力)」という論文を書きました。50年前に書かれた論文の中で言っていたことを引用しています。
越境をした先の人たちは、今いる組織に比べると弱いつながりです。弱いつながりの先って、「そうだな、一番弱くて一番すぐにできそうなのって何だろう?」と考えて、高校とか中学の同窓会に行ってみたり、マンションの管理組合に参加したりします。こういうことも全部越境です。
こういう越境活動ですが、副業をやるのもいいですね。この図で言う「weak ties」に当てはまります。weak tiesは実はすごく強い力を持っているのです。タコ壺からラーニングゾーンに移る時に、弱いつながりを上手に活用すべきだと思います。
これは僕の今の名刺です。リクルートの名刺が特徴的なのは、名前があるんですけど、肩書の間に距離があることです。これは「個人と会社は別物だよね」ということを示しています。もっと言うと、右側が以前の社訓プレートで、プラスチックでできているんですけど、「自分で機会を作って、機会によって自分を変えよ」と示しています。これは、「越境しろ」と言っています。
これはリンダ・グラットンの言葉を引用したスライドです。これまでのキャリアとこれからのキャリアです。僕もいい年なので定年を間近に迎えていますが、「ご機嫌に70とか80ぐらいまで仕事ができるかな」と思っています。それで言うと、今までにない生き方が人生100年時代もできるんじゃないかと思いますよね。これは越境してこそです。
衝撃のデータを示して終えたいと思います。2040年と2020年の生産年齢人口。「生産年齢人口」は15歳から64歳。これが7,441万人と5,978万人。実は今から17年後はこんなに減っちゃうんですけど、「生産年齢人口」の定義を15歳から74歳までに拡大したらどうなるかという思考実験です。
越境の話とは違う話をしているようにお聞きになられるかもしれないんですが、生産年齢人口の上が10歳上がると、今から17年後に生産年齢人口自体が今よりも219万人増えるという結果になります。これは、シニアこそガシガシ越境すべきだと示しているようです。
これが最後のスライドです。人類が越境してきたという話です。スライド左側は普通の話です。右側は、(ジョーゼフ・)キャンベルという神話学者の論をまとめたものです。世界中の神話を分析した時の構造の話です。
「セパレーション」「イニシエーション」「リターン」と言っているんですが、『スター・ウォーズ』などの代表的なヒーロー、ヒロインの映画のストーリーも、「セパレーション」「イニシエーション」「リターン」というプロセスを経るのだと思いました。
「セパレーション」とは離別・分離・越境じゃないかなと思います。別に普通に働いている人はヒーロー、ヒロインでもないんですけど、越境が人間の生活の根本であり、根本的営みであり、働き手もいろんな領域に越境して、自律的にお仕事をして、自分を磨いて高めていく。そうすると、企業の越境にもつながるんじゃないか。そんなことを、今日はお話しをさせていただきました。
ここから先は質疑応答をしながら10分間を過ごしたいなと思います。ご清聴、ありがとうございました。
司会者:ありがとうございました。井上さん、お話しいただきましてありがとうございます。最後のヒーローのお話もそうですし、リーダーの例えもすごくわかりやすかったです。
リーダーもヒーローも自律的に動くという意味だと、みなさんに必要な視点というか、どんな人も自律的に動いていこうとするならば、リーダーでありヒーロー、ヒロインであるところなのかなと言うと、やはり越境は誰にでもできるし、誰にでも必要なのかなと思いながら聞いておりました。ありがとうございます。
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