2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
第一部「篠田真貴子氏講演」(全1記事)
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福山栄子氏(以下、福山):本日のセミナーを主催しております、当社、エール株式会社の説明を簡単にさせていただきます。
「モチベーションも、当事者意識も、自分の話をすることからはじまる。聴いてくれる人がいるから、話したくなる。本音も、未来も。聴き合う組織をつくる。外部人材による『オンライン1on1』 YeLL」。
私たちはオンラインで1on1サービスを行っております。ビジネスの第一線で活躍する方、マネジメント職の方、プロコーチの方など、2,200名を超える社外の副業人材が会社さまの社員の方々と週に1回、30分の1on1を実施していきます。
業務とは関係のない社外の人に対して、じっくりと本音を言葉にしていくことが、自分の仕事を抽象化し、目的を捉える機会になります。同時に、その言葉を誰かにじっくりと聴いてもらう体験をすることで、聴く力が養われていきます。
この力が組織の対話を増やし、自律性の向上につながっていく。実際にたくさんの社員の方々に起きるこうした変化から、私たちは本当に毎日、多くのことを学んでいます。
今日ご参加のたくさんの方々から、すでにお申し込みの段階でさまざまなお悩みや課題を寄せていただいております。いくつかご紹介すると「若手社員の自律をどう促していけば良いか」「研修や評価制度ばかりが整うが、社員が主体的に動く、自律的に成長するというところになかなかつながらない」「メンバーの主体性や自律を促す1on1について知りたい」。
今日はこうした課題を解決するためのヒントを、何か1つでもお持ち帰りいただければと思っております。まず第一部では、篠田さんより「企業変革を進める自律型人材とは」をテーマに「そもそも自律とは何か」「自律型人材とはどのような人材なのか」、そして「これからの企業においてこうした人材が求められる背景」についてお話しいたします。
それを受けて第二部では、エール代表の櫻井さんが自律型人材を育成するためのアプローチ事例をお話しします。それでは篠田さん、どうぞよろしくお願いいたします。
篠田真貴子氏(以下、篠田):みなさん、こんにちは。昼時のお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。まず私からは、10分少々お時間をいただいて「自律型人材って何?」というところを、みなさんと一緒に考えていければと思っております。
「企業変革を進める自律型人材」。さて、この「自律型人材とは何か」ということを考えるにあたって、私が何かすごい正解を持っているわけではないので、一緒に考えたいと思います。
そこで、みなさんに3つの質問をさせていただきます。1問目「あなたは自律的に生きていますか?」。1~5のスケールで(お答えください)。5が「すごくそう思います」、1が「ぜんぜんそう思いません」、3が「どちらでもない」だとすると、今ご自身の感覚ではどのあたりでしょうかね? ちょっと考えてみてください。
では2問目いきますね。「あなたは自律的に業務を行っていますか?」。これもご自身について考えてみて、1~5のスケールでお答えください。
最後、3問目です。「篠田真貴子は自律型人材でしょうか?」。これは「はい」「いいえ」どちらかでお答えください。
篠田:いきなり定義の話に入る前に、まずこの自律型人材というもの自体がどうして注目されてきたのか。これを私なりにひもといてみましたので、過去20~30年の流れの中からみていきたいと思います。
自律型人材には「個人発」と「企業発」の2つの流れがあるようなんですね。個人発のほうは、きっかけとしては、「自律的なキャリア」あるいは「キャリア自律」という言葉とともに(1998年頃)始まったようです。
この1998年頃というのは、1997年に山一證券と北海道拓殖銀行が破綻をし、日本の金融システムがガタガタになったんですね。同時に、金融ビッグバンという政策の下、金融制度が大きく変わりました。また1999年、日産にルノーが資本を入れて、カルロス・ゴーンさんが日産のCOOに着任、経営改革を始めた。こういうことが起きた時期なんですね。
これらの社会状況の下、経営環境が大幅に、急激に変わっていきました。終身雇用は、もう終わっていくんだなと感じました。先ほどの破綻した金融機関や日産など、ごく少数ではありましたが、日本を代表する会社でこういうことがおき始めたんですね。時代が変わったんです。
これをきっかけにして「会社任せじゃなく、どうやったらキャリアを自律的にできるの?」という問いが(生まれました)。それに対して「まずは日常の働き方だよね」「自分の働き方は自分で決める」「自律的な働き方からだよね」といった議論がスタートしたと思います。
篠田:それとは別に、企業側からの流れもありました。こちらのきっかけは「従業員エンゲージメント」というキーワード。「従業員エンゲージメントを向上させるのだ」という概念がやってきたわけです。研究上は、2007年頃に従業員エンゲージメントという概念と、それを調査する手法が学術的に整理されました。
これを世界的に調査したギャラップ社が「従業員エンゲージメントが高い状態だと、企業の業績が向上する」という発表をします。それに加えて「各国の調査において、日本では『エンゲージメントの高い・やる気のある社員の比率』が諸外国に比べて非常に低い」というニュースが世の中で話題になりました。このあたりがきっかけとなったんですね。
「じゃあ従業員エンゲージメントって、どうやって上げていけば良いの?」という問いが企業側から生まれて、これが「自律的な働き方」とつながっていきました。
こうした背景の中、特にここ2~3年は、経団連の前会長である中西(宏明)氏が「もう終身雇用は終わりだと思います」と発言されたり、トヨタの豊田(章男)社長も同様の発言をされました。
そして実際、大企業において「3年程度で転職していく20代の若手社員が3割ぐらいいる」といったデータが出てきた。こうして、ますます自律的な働き方がクローズアップされるようになってきました。
こういう状況下で、各社さんは人事制度を大きく変更していて、それを制度化しようとしています。こうした流れの中「自律的な働き方」(が叫ばれ、)それができる人が「自律的人材」と呼ばれるようになった。こういう背景だと考えています。
篠田:実際、エールでお付き合いしているクライアントさんたちも、こうした変化に直面されていて、それにはいくつかのパターンがあります。1つは、産業区分でいうと自動車産業が代表的ですが、非常に本質的な変化が起きています。
経営者はもちろん、一般社員の方々も、今この仕事を愚直にやっていくことで「そのまま未来が開ける」とは到底思い描けない状況にある。その中で、このキャリア自律、あるいは自律的人材ということが強く意識されるようになってきました。
例えば、ガソリンエンジンの設計に携わっている20代の方が「今こうやって自分が先輩から学んでいる技術が、20年後・30年後の自分のキャリアを支えるのだろうか?」と考えてみると、「無理かもな」と思ってしまう。
目の前に与えられたミッションを自分のやりがいにして、自分の将来につなげていく。会社がその材料をくれるわけじゃないから、自分で考えていかなければいけない。この状況が、まず1つ目です。
もう1つの「個」を重視する組織運営とは、事業環境がどうあるかという見立てにつながると思います。組織運営の基本コンセプトとして「組織があって、人がそれに従うのだ」というより、むしろ「まず個人がいて、その個人が動機を持ってこの組織に入ってくる」という(考え方です)。両者が、いうなればフラットな関係性で組織を運営していくという考え方ですね。
多くのベンチャー企業がこうした(形態)です。また、オーナー系の企業さんでも、若い経営陣や次の若社長がこういったコンセプトで会社を刷新していきます。さらには、大企業でも子会社の責任者になった方が、こういった組織運営をなさっていて、そこにエールがサポートをさせていただく例もかなりあります。
「人数がいれば良い」ということではなくて、より高い動機を持って生き生きと働いてもらう必要があると考えた時に、自然な帰結として、「組織ありき」ではなく「個を重視する組織運営になった」ということです。こういった経営をされているところから、やっぱり自律型人材が必要だという声が強く出ているように感じます。
篠田:ここまで、背景的なお話をしました。次はあらためて「自律」の定義は何か? について整理します。日本語では(「自立」と)同音異義語なので、若干、意味が曖昧になりがちですね。
まず「自律」については、自己を律する。英語では「autonomy」です。意味としては、自分が立てた規律に従って行動する。つまり「自律的に業務を進める」とか「キャリアを自律的に考える」という時に使えます。反対語は、日本語としてはあまり使いませんが、「他律」。つまり「他者の決めた規律に従って動く」こと。これが反対概念になります。
それに対して「自立」は、英語では「independence」なんですね。「独立」に近い意味となります。人に対して使う時には「他人に頼らず独り立ちしている、経済的に自立している」という時に使います。
英語でもまったく同じように、「自律」では「work autonomously」、「自立」では「financially independent」といった使い方が、通常されています。
「自立」の反対語は「依存」になると思うんですね。「経済的には自立しているが、業務は他律、あるいはキャリア形成は他律である」という状態が、十分あり得るわけです。私が社会人になった30年前、日本の大企業に就職するとだいたいそういう状況になりました。
篠田:以上、概念の整理をさせていただきました。先ほど「篠田真貴子は自律人材である」という問いに、イエスかノーかでお答えいただきました。少なくとも自分は、人としては「自律型」だと思っています。だけど、PTA活動においては、まったく自律ではなかったんですよね。
子どもの学校の保護者として「小学校6年間のうち、何回やるべきだ」という義務が、まずあって。でも私は、自分がPTA活動をするということに能動的な意義を見出せませんでした。係も「過去にこういうふうにやっていました」というのを、そのとおりにやる。発言もあまりせず、つつがなく終えようとおとなしくしていました。
それはたぶん、みなさんがこういう講演で接する「篠田真貴子さん」のイメージとはだいぶ違うと思うんですよね。この例を今お話しした理由は、「自律型人材」という言葉が微妙であると思うからなんですね。人として「自律的な資質を持っていること」と「実際に自律的に働いていること」とは、必ずしもイコールではない。
つまり、組織側の環境要件が自律的に働くことを促す。それに加えて、個人と組織が互いに「そういうふうにやりましょう」と合意しないと、PTAに関わった私のように、まったく自律的ではない働き方が実現してしまうことも十分あり得るわけです。
今日来てくださっている方には、企業の経営者の方、人事部の方、あるいは組織の責任者の方など、たくさんいらっしゃると思います。みなさまに、これは本当に人材(側だけ)の問題だけなのか、ちょっと問題提起したいんですね。
それ(自律的な働き方)を促す組織になっているのか。あるいは、組織の建付けができていたとして、一人ひとりと、それぞれの自律性を促すような関係性を作っていらっしゃるのでしょうか。ここも含めて自律性ということなのかなと考えました。
篠田:個人の自律性を促す組織運営ができている会社とは、どういうところなんでしょうか。エールとしても、正直そんな会社とお仕事をしたいと思っており、大変勝手ながら、私どもなりに要件を考えてみました。
3つの信念を簡単にご紹介します。1つ目が「社員一人ひとりの内的な変化を願う」。これは「内的」「変化」「願う」、それぞれがキーワードなんです。
まず自律とは、個人の内側の話なんですよね。だから、外側から「自律的になれ」と指示してもなれるものではない。(一見すると)自律的な行動に見えても、内側まではわからないですよね。
そういうふう(自律的)に変わって欲しいと願って、環境を整えたり、関係を作ったり、手を差し伸べることまでは組織側ができる。でも「それ以上はできないんだ」ということを、組織の信念として持っていることが1点目です。
2つ目は「組織の理念・戦略と個人の動機は重なる」という信念です。「もう辞めます」と言っているのではなくて、この会社で働こうとしているのであれば、一人ひとりが自己理解を深めていけば、必ず重なるところは見つかるだろうと。
3つ目は、(「一人ひとりに合う仕事を増やす・作る」。)一人ひとりに合った仕事のあり方や進め方があるはずなので、それは(組織側が)生み出して欲しいですね。
篠田:はじめにおうかがいしたように、「自律的に生きていますか?」と聞かれて「ノー」とおっしゃる大人の人って、決して多くはないと思うんですね。どちらかというと、「自律的に業務ができていますか?」と聞かれると、「イエス」と言いにくい。(でも、)こういう信念が通った組織と人が出会えば、「イエス」と言いやすくなるので、組織の状態が大事なのかなと考えています。
組織がこの状態だとして、実際、自律性を強く発揮する人とは、どんな資質を持っているのだろうか。これも考えてみました。ちなみに、このスライドに関して、高橋俊介さんの著書『キャリアショック』という本を参考にさせていただきました。
(自律型人材が)身につけている資質として、3つのことを挙げました。1つ目は「一般的な業務スキル」ですね。わかりやすく言うと、例えば私がいきなり「ロシアに行って看護師をやれ」と言われても、ロシア語はまったくわからないし、看護師の勉強もしたことがないので、自律的には到底動けないと思います。そういう意味で、最低限の水準が必要だと思います。
2つ目「課題発見~実行~検証~学習の行動特性」。このサイクルを自分で回す行動特性を持っていることがすごく大事です。極端な例では、この行動特性が非常に高い場合は、業務スキルは後から身についてきます。
私はたぶん、本当に逃げ場がなくて、ロシアで看護師をやれと言われて、自分で動機さえ持てば、5年もらえたら何とかなると思うんですよね。2年でロシア語、3年で看護師の勉強をする。
3つ目「自分の動機を理解し業務とのマッチングを見極める力」。日本の大企業やベンチャーでは、1つ目と2つ目のスキルは持っている方が多いとお見受けします。
(ただ、)自分の動機がよくわかっていないために、周りに求められることを(ひたすら)一生懸命努力してしまう。「期待に応えよう、応えよう」として、ミスマッチが長期間に及ぶと、燃え尽きてしまって、メンタル的にへこんでしまうことが起きる。自律的であるということは、自分の動機が理解できることです。これが長期的にはすごく大事なのかなと思います。
篠田:ここまで自律型人材について、どこから来ているのかという「背景」、人だけではなく「組織の環境要因(が必要であること)」、そもそも「自律人材とは何か」という話をしてきました。
では、今日のお題である「実際、育成のコツって何?」というところについて、(先ほどの資質と合わせて)3点挙げさせていただきました。具体的なコツは、この後に櫻井さんがたっぷりお話しくださいますので、私はざっと、目次的に出していきます。
(コツと言っても)「漢字を覚える」とか「Excelを使えるようになる」というのとは、まったく次元の違う話です。なので育成の働きかけも、「何かをやれば自動的にそういった人材が育つ」ということでは、当然ありません。
あくまで例として、ここにいくつか書かせていただきました。(1番目の)一般的な業務スキルは、スキル研修や学習を重ねることで身につくと思います。2番目の「課題発見~実行~検証~学習の行動特性」を育むことにおいては、やっぱりこのサイクルをすべて自主的に行える業務環境が必要です。
まず、書類1つ書くみたいな本当に小さなサイクルから、少しずつ大きな課題に携わる機会があると。書類1つレベルの小さいものを回す時から、検証と学習を自分で深められる振り返り習慣、あるいは対話の機会が非常に大事だと思います。
3つ目「自分の動機を理解し業務とのマッチングを見極める」は、到底1人ではできません。私もいろんな人に話を聞いてもらいながら、自己理解をずっと探していて、常に刷新しているような状況です。やっぱり、そうやって自分を開いて、自己理解を深められるような対話の機会(が不可欠です)。
ただ、上司から「そんなこと考えていないで仕事やれよ」とバシャーンとカットされちゃうような対話だと、やっぱり自己理解と自分の動機(探求)は進まないんですね。
それで、少しずつわかってきた自分の動機にフィットするように、ジョブ・クラフティングをするような裁量がある。このあたりが、自律型人材が育っていくための要件だと考えております。
篠田:まとめますと、自律型人材とは「なんでも1人でできる」「人に頼らない」といったイメージがありますが、そうではないんですね。「ひとりでできるもん」ではないんです。むしろ、業務の進め方や自分の動機について、多様な人たちと話す機会を持ち続けること(が必要です)。先ほどの育成の働きかけを自分の機会にして、自分で育っていく。こういうことなのではないかと思います。
さまざまな人たちと話す機会を持ち続けることが、育成というキーワードには欠かせません。これが私の意見です。
私はここまでといたします。ありがとうございました。
福山:篠田さん、ありがとうございます。みなさまいかがでしょうか。ご感想などがありましたら、ぜひつぶやいてみていただければと思います。
篠田:チャット欄に書いていただけるとありがたいです。
福山:自分を開いていくこと。「ひとりでできるもん」ではない。本当にそうだなって日々感じます。
篠田:「自律」という言葉が、「自立」と同音異義語だから、1人で何でも頑張ってしまう、何でもやってしまうイメージがありますよね。下手をすると、協調性がない人みたいなイメージすらある。
福山:そうですね。
篠田:まったくそうではないっていうことを、ちょっと今日はみなさんと分かち合いたいなと思っておりました。
福山:ありがとうございます。すでにいくつかお声をいただいております。
篠田:(コメントを指して)そうそう、「勝手に育つ」とか、そういうことじゃないんですよね。
福山:ありがとうございます。また篠田さんには、最後に櫻井さんと一緒にご質問に答えていただきたいと思います。
篠田:そうですね、ぜひぜひ。ありがとうございます。
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