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曽和利光氏インタビュー(全2記事)

「自分が不在でも回る組織」を作れる人こそ、究極的に最も優秀 部下への“勇気ある権限移譲”が導く、更なるキャリアの高み

「組織における『理想的な権限移譲のあり方』とは?」について、書籍『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』『人事と採用のセオリー 成長企業に共通する組織運営の原理と原則』の著者であり、株式会社人材研究所 代表取締役社長の曽和利光氏にお話を伺いました。後半となる本記事では、「『意地でも権限移譲したくない上司』は、なぜ生まれる?」「『権限移譲してほしくない人』に、無理に権限移譲することの愚かしさ」などについて語られています。

「意地でも権限移譲したくない上司」は、なぜ生まれる?

――ありがとうございます。ではここから、より具体的なところについておうかがいできたらと思います。私はこれまで、管理職側・権限を移譲する側の「意地でも権限移譲したくない上司」を何人か見てきました。

なぜそういった管理職は、そこまで頑なになるのか? ということと、「もっと権限移譲してくださいよ!」と言えるような、会社側や部下側からのアプローチの仕方はあるのか? というのが、とても気になります。

曽和利光氏(以下、曽和):めちゃくちゃ性悪説で考えたら「権限」とは「権力の源」であって、人間の基本的な欲求には「権力欲求」がある、と。まぁ、めちゃめちゃ性悪説的に考えたらそういうことがあるんだと思うんですけれど、僕はドラマの『半沢直樹』みたいな権力闘争が理由で権限を移譲させたくない人は、そんなにそこまで多くないんじゃないかなと思っていて。僕はどちらかというと、性善説派ではあるんですね。

でも「性善説だったら、人を信じて(権限委譲を)やればいいじゃん!」ということなんですけども、いくつか理由があって。例えば「(上司側に)行動を形式知化できる能力が足りないが故に、指示ができないから権限移譲しない」というのもあるかもしれないですよね。

他には例えば「自由と自己責任型」(第2ステップ)の権限移譲をしようと思った時に、メンバーに対する信頼感というか……「本当に部下が自力でいろんな手法を考えて動いてもらえるかどうか」に対する恐怖心、というか「部下を信じられない」という不信感ですかね。

それは(上司側の)「組織人としての責任感の現れ」とも言えると思うんですけど、自分がさらに上の上司から貰ったミッションを、自分のチームを使ってやっていかなければいけない。そんな時、権限移譲というのはあくまで“ツール”であって、「結果を出すこと」が一番大事なわけですね。なので「権限移譲はいいことかもしれないけど、それはあくまでツールであって。結果が出せなさそうな権限移譲は、単純にやりたくない」というだけのような気がするんですよね。

「上司にはできて、部下に任せるとできない理由は何か?」の解明

曽和:それに対して、じゃあどんな解決策があるか? というと、上司側が「権限移譲すると結果が出せなさそうだ」と思っている根拠・理由にもよるんです。それは例えば「自分の指示力・指導力不足」と「部下への信頼感不足」のどちらかなのかもしれません。

(指示力・指導力不足の場合)「やっぱ俺が出ていかないと駄目か」とか「俺がいないと、チームは回らないからな」とか、よくありますよね。本当は「その人がいないから回らないチーム」なんて駄目だと思うんですけども。

だから必要なのは「上司にはできて、部下に任せるとできない理由は何か?」というのを、解き明かしていくような“サポート”。これを誰かがしないといけないというか「スーパープレイヤーは、必ずしも名監督にならず」みたいな感じで、「できるかどうか」と「人に教えられるかどうか」は違うわけですよね。そこを何とか乗り切ってもらわないといけない。

サブ(サポート)の人が、リーダーがやっていることを「言語化、形式知化、仕組み化」してあげることによって、「あ、なるほど。俺のやっていることをまとめてくれて、ありがとう。このリストができるんだったら、ちょっと任せられるわ」みたいな感じ。

責任感がある人ほど「部下に任せて結果が出なかったらどうしよう」と思うわけですよね。それを安心させてあげる。指導力不足の人の安心のさせ方には、こういった行動化とかリストアップみたいなことがあるかなと思います。

けっこう多い「部下について何も知らない上司」

曽和:また「部下について、能力(を含む全般)を知らないマネージャー」って、けっこういて。例えばマネジメント研修をしていて「あなたのチームメンバーはどんな能力を持っていて、どんな性格の人で、どんな価値観の人ですか?」と聞いても「いやぁ、わからん」みたいな人って多いんですよ。

「彼・彼女のキャリアのゴールって何なんですか? 今の仕事のどこにモチベーションリソース置いていると思いますか?」「いや、知らん」。そんなふうに、単純ですけど「部下のことを知らない」という人が、すごく多いと思うんですね。

例えば昔、僕が入った頃のリクルートでも、部長が部下に「飯食いに行くぞ」とか「お前、まだ仕事終わらないのか」と言って、無理矢理に明日の仕事にさせて、飲みに連れていくとかいろいろあって。今ではパワハラとか言われてアウトかもしれませんが、でもそれって、結果として「メンバーのことをよく知る」という意味では機能はしていたと思うんですよね。

そうすると「こいつはこういう能力なのか。こういうことをやりたいのか。ここにモチベーションがあるのか」ということがわかる。「自由と自己責任型」でも、「よく知らない部下のことを信じる」ことは難しいと思うんですけど、知れば「こいつだったら成果を出してくれるんじゃないか?」と思えてくるわけですよね。

そうすると「部下を知らないが故に任せない人」も、けっこういると思うので。そういうパターンに対しての解釈としては単純で。「部下のことをよく知る」ということですね。

「1on1」が流行っているのはそういうことだと思いますし。ただ、公私の区別だとか、プライベートに入り込んでくることがパワハラ・モラハラと言われる世の中においては、ちょっとやりにくい状況にはなっているとは思います。

でも、すごく単純なソリューションなんですけど、「部下を信じられるぐらいまでには、部下のことを知りましょう」ということだと思うんですね。そうすると自然に「任せよう、任せてみよう」という気になってくるんじゃないかと思います。

「権限移譲してほしくない人」に、無理に権限移譲することの愚かしさ

曽和:――ありがとうございます。では次に、権限移譲される側の「メンバーの心理」についてお聞きしたいです。例えば人によっては「権限移譲された、やったぜ!」と思う人もいれば、「いや、そもそも自律的に働きたくないから、リーダーにならずにメンバーをやってるんですよね」みたいな人もいると思うんです。

後者に対して、管理職が「これを君に任すぞ」と権限委譲した時に、「いや、任されても困ります」みたいな問題が起きることもあるのかな、と思っているんです。

曽和:まさにそれは起きると思いますね。さっきの段階(ステップ)が1、2、3、4とあったと思うんですね。「行動まで指示してあげたほうがいい人」「ゴール(結果)だけ設定してあげたほうがいい人」「自発的に計画を出させたほうがいい人」「価値観(文化)だけ共有しておいて、あとは放ったらかしでもいい人」の4ステップ。

これは「マネジメントの進化の過程」とも言えるんですけれども、一方で「個人の権限移譲の度合いの段階」とも言えると思うんですよね。それは部下のレベルによっても違うので。

「そこまで個別の部下ごとのマネジメントなんて、できないよ!」と言うかもしれませんけれども、できれば本当はそれを見て、行動まで指示して欲しい人には手取り足取り、1から10まで行動を指示してあげる。ゴールだけ任せて欲しい人には、ゴールだけ任せてあげる。ゴールも含めた計画を立案・プランニングしたい人には、そういうのを出させてみる。

もう「何が何でも放ったらかしにしてほしい!」みたいな人。すごく自発性が高い人には、抽象度が高いけれども「絶対に守らなきゃいけない理念」とか「こういうことだからな」という文化で縛る。

というふうに、人(部下)を見て権限移譲の度合いを決めましょうという話だと思うんですよね。

冒頭に述べたように、僕は「権限移譲は何が何でもしなければならないものか?」というと、「認知限界を超えたら、権限委譲しないと組織が回っていかないので、しなければならない。そういった必要性にかられてやるものだ」と思ってたりするので。

例えば権限委譲しなくても、マクドナルドさんとかは会社としてものすごくうまくいっていますよね。例えば「新しいメニューを勝手に作ってもいい」みたいな、餃子の王将さんのようなシステムにしてもいいんですけど、マクドナルドさんはしてないじゃないですか。だから、無理に権限委譲しなくたっていい。

これ、上司と部下の「どっち向きの話か」にもよるんですけど、権限移譲してほしくない人に、無理に権限移譲するほうが愚かしいと思います。

「ワンパターン」がマネジメントで一番駄目

――それは先ほどおっしゃったように、管理職側が部下をちゃんと知って「この人は任せてほしいんだな」「あの人は任せてほしくないんだな」というのを理解した上で、権限を振っていくのが大事ということですよね。

曽和:そうだと思いますね。「ワンパターン」がマネジメントで一番駄目だと思うんです。「俺の権限移譲の仕方は、これ!」とか言っている人は、その時点で駄目だと思うんですよね。

権限委譲するかしないかは、される側の部下の「有能さ」の視点だけじゃないと思うんです。権限移譲って「慎重性」や「楽観性」などの、される側の性格ともすごく絡むことだと思ってて。

「めちゃくちゃ優秀なんだけれども、いちいち上司に確認したい人」っていると思うんです。だとすると、結果としては「行動レベルまでチェックしている」みたいな。それは結果論としては「権限移譲していない」ということになってるわけです。

それがストレスない状態で、しかも優秀なんだとしたら、行動まで指示してあげれば別にいいと思いますし。「権限移譲にも好みがある」というだけだと思いますね。

「課長になったら、この腕を振るうんだけどな!」

――なるほど、ありがとうございます。では「責任は負わされないけど、裁量も与えられない状態」になっているメンバーの人が、「もっと自分に権限移譲してくださいよ!」って、会社や上司に求めて交渉していくための、理想的なルートはあるんでしょうか。

曽和:つまり、今は行動までがんじがらめにされている人が「いや、ゴールだけにしてくれよ」とか「そこから計画、立案させてくれよ」とか「計画も出さなくて、事後の報告にしてくれよ」って、1個ずつ進んでいくためにということですよね。

――そのとおりです。

曽和:僕は権限移譲って、社内の他の現象とつなげると、だいたい昇進とか昇格につながっていったりすると思うんです。要は「上のポジションに付くことによって、一定の自由度が広がっていく」という話だと思うんですけど。「自由になったら、俺はこういうことをやれるのに!」と言っている人には、会社はいつまでも自由度を与えてくれない、というのが基本原則だと思うんですね。

だから「自由にされたら俺はいろいろアイデア出すのに!」じゃなくて、自分の職務権限の範疇外のところでもアイデアとかいろいろ出していけばいいと思うんです。多くの会社では、課長になる人は「課長じゃないのに、課長クラスのことを考えている」とか「自分の責任範囲でも権限でも何でもないんだけれども、その視点でいろいろ提案してくる」とか。

そういった人が「もう、いつ課長にしてやってもいいんじゃない?」ということで課長になって、結果、課長の権限を得る。みたいなのは、よくある話ですよね。

逆に、さっき言ったように「課長になったら、この腕を振るうんだけどな! でも今は係長だから、振るわないで温存しておく」といった人は、「ホンマか……?」みたいな話なので。

基本的に出世していく人は「1個上(のレイヤー)の仕事をしている感覚がある」と、僕はどの会社を見ていても思います。どの会社でも、経営者の「引き上げる側」から見たら、みんな同じように言いますよね。

「課長になったらがんばります!」と言っている人を課長にするか? といったら、「そんなことない。今からがんばれ」みたいな感じだったりする。もし権限を移譲されていなくても、移譲されてない権限について何か考えていくことはできるはずなので、それをやってみることだと思うんです。

権限移譲してほしいなら“権限移譲されたかのように”振る舞うべし

曽和:そういうことを「役割外行動」とか、最近よく使われている言葉で「組織市民行動」とかって言ったりするんですけど。役割外のことなんだけど、組織・仲間・同僚とかに貢献しようとする行動、組織の中のボランタリーな行動のことです。

でもそれって、組織コミットメントがなければできない。(上から)「やれ!」と言われてやることでもないのに、コミットしていない組織に対して(自ら)やるというのは、馬鹿らしいじゃないですか。だから組織コミットメントがない人は、組織外行動・役割外行動・組織市民行動をしない。

逆に言うと「組織市民行動をしない人は、組織コミットメントができていない人だ」という考え方もあるんですよね。だから「権限として与えられたからやる」じゃなくて、「もうやれよ」「Just do itだ」と。

例えば、小林一三(阪急阪神東宝グループ創業者)の昔の話で、秀吉をイメージしているんだと思うんですけど、「下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ」みたいな。「人を引き上げる側の論理」って、そういうもんだと思うんですよね。

だから「権限移譲してほしいんだったら、権限移譲されたかのように振る舞う」ということなんじゃないかなと。

――なるほど。上から指示されていなくても「こんな仕組みってどうだろうか?」って考えてみて、却下されるかもしれないけど提案してみるとか。

曽和:「余計なことかもしれないんですけど、こんなの書いてみたんですけど」みたいなことですね。マネージャーによっては、ものすごく心無い人もいて、「そんなもん、お前がやらなくていい仕事なんや!」って言われてしまうかもしれないんですけど。ただ、(メンバーの側も)何回かやったくらいで諦めてちゃ駄目ですよね。

確かに、大きい会社になったりすると「職務権限」はハッキリしていたり。特に外資系企業とかも「ジョブ」がきちんと定義されてたりして、自分の権限外・範疇外のことをやるとむしろ疎ましがられる、みたいなこともないことはないですよね。

重い提案であればあるほど確認される、本気度・熱狂度

曽和:そういったことがあったりするので、よかれと思ってやった役割外行動に対して、マイナスのことを言われることってあると思うんですけれども、それを何回かやったくらいで諦めているようだと(難しい)。よく「成功するまでやったら成功する」みたいな精神論がありますけど、それも一理あるなと思っていまして。

「権限移譲してくれるまで、やり続ける」ぐらいの人じゃなければね。「数回で諦めるぐらいの思いだったら、留めておけば?」という判断にもなると思うんですね。変な話、経営者とか癖の強い人とかだったら、わざとそういうことしたりしますよね。「本気度を試す」みたいな。

例えば若い経営者で、サイバーエージェントの藤田(晋)さんとかを見ていても、熱量・情熱とか、そのアイデアに本人が熱狂してるか? を見て、権限移譲するかどうか。つまり「GOサインを出すかを決める」みたいに言ったりするように、ちょっと駄目と言われただけで諦めるなら、熱狂していないわけですよね。

ちょっと思いついただけのことを「じゃあお前に任せてみようか。権限移譲してみよう」と上司側が思うか? と言ったら、そんなことないわけです。だからやっぱり本気度の確認の仕方というのも、人によってさまざまですし。

あと、提案する内容の重い・軽いによっては、別に熱狂度を確認せずとも「とりあえずやってみなよ」みたいな。「会社のトイレって、こうしたほうがよくないですか?」といったレベルの軽い提案に「そこに熱狂度はあるのか!?」って聞かないですし(笑)。

――(笑)。

曽和:「これにしたほうがいいと思います」「じゃあやってみる?」とか、軽い提案だったらそんな感じだと思うんですけど。重い提案であればあるほど、やっぱり本気度は確認されますよね。だから精神論っぽいですけど、諦めずにやるしかないんじゃないかなと思います。

「自分が不在でも回る組織」を作れる人こそ、究極的に最も優秀

――ありがとうございます。では最後に、曽和さんがお考えになる「理想的な権限移譲が浸透する組織」「こんな日本組織になっていったらいいな」といったメッセージをいただけますでしょうか。

曽和:さきほど性悪説についてもお話しましたが、やっぱり人間って、自分の存在を認めてもらいたいから「自分がいないと、この組織は回らないだろ!」と思いたくなると思うんですよね。

ですけど「余人をもって代えがたい」という言葉もありますが、基本的には「この人がいなければ回らない組織」ができることを、経営者の多くは恐れていますし、それって会社の継続性という観点でいったら駄目なわけですよね。

ですから、実は「余人をもって代えがたい存在になること」が「組織にとって評価されること・いいこと」ではなくて。むしろ「自分がいなくても回る組織を作れる人」こそが、究極的に最も優秀な人なんじゃないか? と思うわけです。

一番いいのは「このリーダーは『自分がいなくても回る組織』を作れたんだから、今度はさらに上の仕事をやらせてみるか」とか「ちょっと新しいことを挑戦させてみるか」と言って、さらに上から(そのリーダーに)権限が回ってくるというんですか。

逆説的なんですけど「部下に権限移譲すれば、自分にも(もっと上から)権限移譲される」みたいな仕組みもあるわけですよね。

だから「無責任な権限移譲」になっちゃ駄目ですけれど、部下を見ながら「適切な権限移譲」を行って、最終的には「自分がいなくても回る組織」を作る。これって怖いことですけどね。だって自分がいなくても回るということは「クビなんじゃないか? いらなくなるんじゃないか?」って思う。

でも、そこは恐れることなくて。「自分がいなくも回る組織を作れる人」というのは、会社が手放すわけないぐらい優秀な人ですから。勇気を持って権限移譲を行っていくことで、もっと高みの新たな権限を自分が移譲されていく。

これでキャリアをさらに高めていけると思いますので、勇気を持って権限移譲しましょう。見てくれている人は、きっといると思います。

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