2024.10.10
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伝える力【話す・書く】研究所所長であり、 ライティングサロンも主宰する山口拓朗さんに学ぶ 「伝わる文章」の実践的ノウハウ(全7記事)
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高橋朋宏氏(以下、高橋):例えばキャッチコピーだと、あえて「呼応」(ある言葉を使った時に、決まった言葉で受けるという表現方法)をちょっと崩すことによって、印象深くしていますよね。
山口拓朗氏(以下、山口):そうですね。キャッチコピーは「正しく伝える」というより、どちらかというと「興味や関心を向ける」ことや、「引っかかりを作る」ことが求められているので。そこは文章的な国語的な正しさではなくて、あえて崩していくことがよくありますよね。
高橋:僕の女房がちょっと英語ができるので教えてもらったんですけど、Appleの「Think different」ってあるじゃないですか。
山口:はい。ありますね。
高橋:Thinkの後に形容詞がくるのに、若干違和感があるらしいんですよ。
山口:あぁ~、そっか。そっか。
高橋:Think differentが、その違和感ですごくキャッチコピーになってるっていう。
山口:なってますね。確かに、そうですよね。そこで正しさを追求しちゃうと、キャッチコピーとして弱くなってしまう。文章はそういうところがおもしろいですよね。
例えば「ですます調」なんかも、最初が「ですます調」だったら、最後まで「ですます調」の書き方になっていくわけですけど、時々「だ・である」を用いて効果を出すこともあるわけですよね。
結局は、最終的にどういう文章に仕上げたいのか、どういうふうに読者に受け取ってもらいたいかが大事なので。あまりまじめに、ここはこうじゃなきゃいけないと追求しすぎるのもよくないケースもあります。
高橋:そうですね。ルールに縛られたら、ちょっとおもしろくない。ちょっと崩してるところに、なんか魅力がありますよね。
山口:魅力が出てきますよね。
高橋:でも、その崩し技を使うには基本をちゃんと理解しないといけないですよね。もし若い方で、文章を仕事にしていきたい方、ライティングを仕事にしていきたい方がいらっしゃったら、とにかく基本をきっちり押さえることが大事ですよね。
山口:そうですね。やはり守破離じゃないですけど、まずは基本をしっかり身につけたうえで。そこが身についていれば、個性って出てくるものでもあるわけですよね。
高橋:そうですよね。
山口:「個性を消せ」というのは意外と難しいものなんですよ。基本さえ学んでいれば、書き手の個性は香り立ってくるものなので。まずは若い方は基本をしっかりとマスターしていただきたいなと思います。
高橋:基本を押さえるということで言うと、山口さんが書かれた本の中で、若い方に一番おすすめの本ってどれですか?
山口:そうですね。それでいくと、『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける87の法則』ですね。すごく基本的なことを網羅しています。
書き方についても書いてありますし、テンプレート・構成ですね。流れの構成についても、7個か8個ぐらいのパターン・バリエーションを用意しています。あとは書く前の準備ですね。準備として、相手は一体誰なのかと考えたりとか、その人のニーズをちゃんと考えることだったりとか。
山口:これは僕がよく言うことなんですけど、相手の反応を決めることがすごく大事で。読んだ人にどういう反応をしてもらいたいのかを、文章を書く側が決めるということ。
高橋:そうですよね。
山口:準備段階から、推敲とか構成の話も書いてありますので、網羅して学んでいただけるんじゃないかなと思ってます。
高橋:今、すごくいい言葉を聞いて……。僕も著者の方に、相手がどういう感情になるのかを書くほうが決めるんだと伝えているんですけどね。
山口:あ、そうですか。タカトモさんと同じことを言っていて、すごくうれしいです。
高橋:僕もうれしいです。
山口:すごく大事だと思います。みんな読者任せなんですよね。例えば何かを売る文章だとしたら、「あ、この文章で売れるかな? どうかな?」という感じでフィニッシュさせちゃうわけなんですけど、やっぱりそれだと売れる文章にはならなくて。
どういう反応が理想的なのか。「あ、これ私にめちゃめちゃ必要なものじゃん! すぐ申し込まなきゃ」っていう状態が理想だとしたら、やっぱりちゃんとそれを先に思い描かなきゃいけないし、そのために何が必要なのかって頭が考えてくれるはずなんですよね。賢い頭なので。いわゆるナビゲーションシステムみたいなものですよね。
最初に反応をちゃんと決めることによって、そこに連れて行ってくれる。そういうスーパーコンピュータ以上の賢い脳を、私たちは持っているので。そこをもっと利用するといいのになと思うんですが、なかなかやっている方がいない。中途半端な反応ではなくて、「本当にあなたが求めている、最高に理想的な反応はなんなのか」を考えてもらうようにしています。
高橋:わかりやすさを追求していくとシンプルな文章になっていくけれども、あまり感情が動かないようになる。一方で、このセールスライティング的なものは感情を一番意識して作っていく。
山口:そうですね。そこですね。
高橋:これも大事なんですけれども、たぶんシンプルなわかりやすい説明文だって、感情を動かしていくセールスライティング的な文章のどこかに入ってくるんですよね。
山口:そうですね。どこかに入ってきますよね。そこは書く文章の目的。ビジネス文書で上司に報告書を書く時には、こっち側(感情)はいらないと思うんですよね(笑)。
高橋:いらないですね。
山口:むしろ書くと怒られると思うので、そこは注意してもらいたいんですけど、例えば、タカトモさんとまだ会ったことがない人が、初めてアポを取りたいと。
Aさんの書くメールは、ぜんぜんタカトモさんにスルーされちゃうわけですよ。でもBさんが書く文章は「あ、ぜひお会いしましょう」って言ってもらえるということって、よくあると思うんですね。
AさんとBさんは、同じ「タカトモさんに会いたい」という文面を紡いでいるはずなんだけど、中身の何かが違うはずなんですよね。その中身に何があるかというと、おそらく「感情」。「会いたい」と思わせる何かがそこに含まれているわけなので。
人の心を動かす時には、ただ単に「会っていただけませんか」という情報を伝えるだけでは、まったく会ってもらえないわけで。
高橋:(笑)。
山口:タカトモさんに、「この人に会わないとなんか自分は機会損失なんじゃないか」と思わせるぐらいの何かを入れていかなきゃいけない。中身もそうだし、書き方もやはり工夫しなきゃいけない。
文章コミュニケーションにおいても、よくロジックとエモーションって言いますけど。ロジカルに書けることと、感情が動くようなエモい感じの書き方ができるということ。この2つがすごく大事かなと思います。
高橋:両方意識しながら使いこなせることが大事なんですよね。
高橋:ここにいくまではたぶん相当な練習が必要だと思うんですけど。でも僕らが若い頃、文章術の本ってそんなになかったじゃないですか。今はけっこうビジネス書として文章術がね。
山口:多いですよね。
高橋:昔は文芸の文章術、文章読本はあったけれども。すごくショートカットできる、いい時代になったと思うんですよね。
山口:いやぁ、本当にそうですね。もうこれだけいろんなものが出てますから、1冊2冊読んでいただくだけでも、それを実践するだけでも文章力って上がっていくと思うので。本当にいい時代だと思います。昔は谷崎潤一郎さんの『文章読本』とか、本当に有名な作家の書いたやや文芸寄りのものしかなかったですからね。
高橋:そうですね。あとは天声人語を模写しようとか。あのやり方は僕はあんまり……と思ってるんで。
山口:うーん。天声人語はまた独特な文章の形態ですよね。
高橋:あれこそ、接続詞がないですからね。
山口:あの限られたスペースの中で情報密度を高めるという書き方なので。
高橋:文章の見本かというと、ちょっと違いますよね……と、僕は思ってます。
山口:そういう、右から左のスペースの中のどこに入ってくるのか、「この文章ではロジカルにシンプルに伝えることが大事なんだなぁ」とか、「ここは少し感情を動かすということが大事なんだな」というバランスを常に考えること。
感情を動かすためには、やっぱり自分自身の書いている時の感情が動くことも、すごく大事だと思っているので。冷静さは必要なんですけど、やっぱり感情を動かすためには、自分の感情がホットじゃないと、なかなか人の感情を高ぶらせてくれないと思うんですよね。
そういったあたりも少しわかっておいて、自分の感覚を意識しながら書いていくと、少しずつつかめていくかなと思います。
高橋:ランナーズハイという言葉がありますよね。ライティングハイみたいなことですか。
山口:あぁ~、そうですね。ライティングハイ、ありますよね。特に夜中とか書いていると、けっこうライティングハイになって。夜中に書いたラブレターを「これは完璧だ!」と思って朝見ると、超はずかしいとかね(笑)。
そこもバランスですよね。夜に書いたものは、すごく熱くてホットで、エネルギッシュで。ハイになっている状態なので、がーっと出てるんですけど。それが全部悪いわけじゃなくて、ある意味いいもので。
そこから「冷静」が直すところですね。冷静が少し入ってきて、客観的に整えていったり、あまりにも熱すぎるところをうまく取り除いていくような作業が必要になってくると。
この本の中でも「情熱で書いて冷静で直す」と書いているんですけど、その言葉がすごく好きで。やっぱり文章もエネルギーなので、書く時はある程度エネルギッシュに思いを込めて、多少「てにをは」が変でもぜんぜんいいと思うんですよ。
ただ、それで終わらせてしまうと、本当にむさくるしい文章で終わってしまう可能性もあるので。読み返す時には冷静になって、クールダウンして、読む人の気持ちになって読んでいくと。それをやっていくと、すごくバランスのとれた文章になるかなと思っています。
高橋:なるほど。
山口:おそらく、編集者のやられていることはそういうことなのかなという気もするんですよ。けっこう著者が熱くばっと書いてきたものを、編集者さんが読者視点に立ちながら読んでいくというか。
高橋:でも冷静に中庸にしていく感じではない。僕はどちらかというと、シンプルに増幅させる。
山口:なるほど。そこがおそらくタカトモさんが他の編集者さんと違うすばらしいところなんですね。音楽でいうと、「この人は低音がいい」と思ったら、そこの低音の広がりみたいなのをぶぉーって上げちゃう感じでしょうね。
高橋:そうですね(笑)。
山口:あぁー、なるほど。すごくおもしろい話ですね。
高橋:僕は著者じゃないから、編集者として本を作ってきたわけです。本を作っている時に、ゾーンに入るような感覚を味わう瞬間があるんですよね。すべての本であったかどうかはわからないですけど。
山口:へぇ~。
高橋:その時、ある意味著者になってる。山口さんが沢木耕太郎になっていたように(笑)。沢木耕太郎はこういうふうに書くだろうなというように、この著者の先生であれば、たぶんこういうことを書くはずだっていう。
山口:なるほど。それはすごいですねぇ。
高橋:いえ。それがちゃんと書けていればいいんですけど。僕、わりとそこをけっこうやるタイプだったんです。著者がすごくいいことを言ってくださっているけど、あと1行、2行、3行足せばもっとよくなる。さっき言ってたところの「増幅させる」。
山口:なるほど。それはすごい作業ですね。著者になりきって編集者が読み、その文章を一緒に考えてくれる。なんか『エヴァンゲリオン』の世界じゃないですけど、もう著者と一緒くたになったような感覚で作られているというのは、すごく興味深いです。
高橋:でも僕だけじゃなくて、他にもそういう編集者がいっぱいいると思いますね。
山口:なるほどねぇー。おもしろいですね。いろんな読み方とか修正の仕方とかのバリエーションは、本当に無限にありますからね。
高橋:そうですね。
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