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『営業はいらない』三戸政和×『無敗営業』高橋浩一 結局、営業っているの?いらないの?(全7記事)

嫌われる営業は顧客との「ズレ」に気づかない 『無敗営業』著者が語る、情報ギャップの落とし穴

累計16万部突破のベストセラー『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』の著者であり、『営業はいらない』にて「あと10年で、営業マンは不要になる」と語った、株式会社日本創生投資 代表取締役社長 三戸政和氏。一方で著書『無敗営業』にて「営業力とは技術である。誰でも身につけられる」と語り、自身の「コンペで8年無敗」のノウハウを公開した、TORiX株式会社 代表取締役 高橋浩一氏。「営業」に関するヒット書籍を持つ両名が、2020年8月11日に「結局、営業っているの? いらないの?」というテーマで対談を行いました。本パートでは「『ズレること』が、顧客を不快にさせる」などについて語ります。

売れて仕事につながる著書・つながらない著書

司会者:では第二部として。先ほど「本をどうして出したのか?」というところに触れていただきましたので、その続きのお話をお願いをしたいと思います。

三戸政和氏(以下、三戸):私が聞きたいのは、(自分の本『営業はいらない』を指し示しながら)こういう本で「営業はいらない」ってやっちゃうと、やっぱり何十万部売れても、私の仕事にはならないですよね(笑)。

営業はいらない (SB新書)

高橋浩一氏(以下、高橋):ハハハ(笑)。

三戸:でも(本のタイトルが)『模範営業』とかだったら「コンサルしてください」とか「講演してください」とかになるんですよ。『無敗営業』の1万部と『営業はいらない』の100万部が一緒ぐらいの、このあとのお金の計算になっていくと思うんですけど。これ、なんの得もないんですよ。「営業はいらない」って言っちゃうと。

実際、だってなんの講演も、オファーもかからないんです(笑)。まぁそうだろうなと思っているんですけど(笑)。これどのくらい、社会的なインパクトとして……『無敗営業』ってどのくらい売れたんでしたっけ?

高橋:(対談開催時の2020年8月時点で)今、4万部です。

無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」

三戸:4万部売れて、結局、オファーはあるんですか? どういう会社が何を目的に「これを講演してくれ」とか「コンサルしてくれ」とか。何を伝えて欲しいってなるのかなと思って。

高橋:オファーはそうですね……わりと多いパターンは、会社の営業部門の役員とか。あとは社長みたいに「引っ張ってきた側の人」が「自分の考えていることに近いけど、ただ自分の言葉で説明するのが難しいから、こういうのをちゃんと会社にインストールしたい」みたいな。そういうのが多いですね。

『無敗営業』は再現性が高すぎて、逆に問題に?

三戸:やっぱりそうなんですね。私、これ(『無敗営業』)を読んで思ったのは、もともと(高橋氏が)コンサルご出身というのもあるから、きっちり言語化されているというか。図表もそうですけど、すごくわかりやすく書いていて。営業がたぶん仕組み化されていくというか、再現性の高いやり方を、相当この本に書かれていると私は思っているんですよね。

それが、ちょっと問題になるんじゃないかなと思っているんですよ(笑)。これがすごく浸透していけば、もしかしたら社会的にすごく再現性の高い「目的・手段」でいう「手段」を極めたやつらが登場し始めて。「営業公害」が増えるんじゃないかなと、ちょっと思っていたりするんですよ(笑)。だからダメだって言ってるんじゃないんですけど。この本、良い本だなと思っているんですよ(笑)。それ、どう考えてらっしゃるのかな? と思って。

高橋:そうですね。でも書いたきっかけでいうと。僕、こうやってお話しているとわかると思うんですけど、別に明るく豪快な営業キャラではないし。むしろどっちかというと、世の中的にはわりとコミュ障のほうに入ると思うんですけど。起業した時はやっぱりそうも言っていられないので。とにかくやっぱり営業しまくるじゃないですか。

そうするとやっぱり「キャラで売れないんだったら、他のやり方で売らなくちゃいけない」ということで。最初に入った会社がコンサルの会社だったので、とにかくロジック寄りで売っていたんですね。そうなった時に、ゼロから会社を作るとやっぱり実績はないので、初めのほうって「おこぼれ受注」みたいなやつが多いんですよ。

要は「他の会社が嫌だったから頼むよ」みたいな。積極的に頼むじゃなくて(笑)。「今まで使ってたところがちょっと気に食わないから頼むよ」みたいな感じで。でも起業して数年、おこぼれ受注が増えていくと、あるタイミングで「世の中の営業は、お客さんによく思われてないんだな」というのも、けっこう見えるんですね。

三戸:「あいつが嫌だから」とか「あまり来ないから」とか、そういう感情的な部分ね。

高橋:一番多いのは「一方的だし、よく理解してくれないしズレてるし」みたいな感じだったので。だからつまるところ、全部、その逆をやっていこうみたいなところでずっとやっていったら、自分が起業した業界の中ではわりと受注とか業績とかが上がっていって。

それで「そのやり方って、本当に世の中に汎用的なんだろうか?」と思って。いろんなところで話をし始めると、意外と多くの会社でも同じようなことがやっぱり当てはまる。要は「ズレによってお客さんを不快にさせることの真逆をみんなやっていくと、お客さんも喜ぶし業績も上がる」というようなことが起こるんじゃないかと思って。それで本を書いたんですね。

「ズレること」が、顧客を不快にさせる

三戸:一番刺さったのは何ですか? 具体的なところで言うと。その「ズレを解消する」の、ズレってどういったものがあるんですか?

高橋:だいたいお客さんの持っている情報と営業の持っている情報って、違うじゃないですか。例えば服とか買いに行くとして。お客さんはスーツを買いに行きます、ネクタイ買いに行きますと言って。例えば仕事用としてだったら「どういう仕事をしていて」「何のために必要で」「その人がどういうスーツを持っていて」「こういう色が好きで」とか。いろいろあると思うんですけど。

こういう情報は、ほとんどお客さん側にしかなくて。営業側は営業側で「今月はこのラインナップを売れ」みたいなやつがあったりとか(笑)。目標としては「この、なるべく粗利の高い・単価の高いやつを売りなさい」と言われたりとか。あと、以前にアパレルの接客の研修をやってる人に聞いたんですけど「試着をしない人より試着をする人の方が、買ってくれる率が44パーセント上がる」とか、そういうデータがあるらしいんですよ。

これは、売る側しか知らないデータです。だから僕らが買い物に行って、デパートでネクタイとかを選んでいると「試着できますよ」と、すっと寄って来られて。みんな「嫌だな」と心の中で思っているんだけど……たぶん心の中だけで「嫌だなぁ」って思う率は、もう9割超えぐらいしていると思うんですよ(笑)。

だけど一方的に売り付けるスタイルって、圧倒的にマジョリティで。ずっと変わらないじゃないですか。僕はそれが何でなんだろうな? ということをずっと思っていたんですね。それで最初に入った会社がコンサルで、けっこうアンケートの設計とかをやっている会社だったので。お客さん側に試しに(営業をどう思ってるか)聞いてみたら、実際、やっぱり「ズレる」ということがお客さんを不愉快にさせる原因で。

とにかく、ズレを作らないようにすることを常に気を付けていけば、やっぱりお客さんから受け入れられる度合いは上がるんじゃないかなと思って。

実際に「営業がいらない」と思っている人は8%ぐらい

三戸:今のところでいうと、何が答えなんですか? 今のところの「試着44パーセント」で言うと。企業側からすると販売の再現力を上げていくためには、販売員に「とにかく試着させなさい」って、たぶん常に研修していくと思うんですよね。それで44パーセント売り上げが上がってよかった、みたいなことで。

でもお客さん目線でいうと、9割以上が「うわ、嫌だなぁ」と思っていると。そこが永遠に収斂していかないというか。お互いのニーズがマッチしていかないと思うんですね。そこの問題は何かというと、さっき話したことで端的に言うと、私は構造的にアパレルメーカーが飯を食っていかないといけないから「毎年シーズンごとに服は買いましょう」とか。

「今年の流行色というのを作ろうぜ」みたいな、よくわからへんマーケティングのやつを考え始めて。「今年の流行色は緑です」とか「じゃあ緑に買い替えよう」みたいなところで「毎年毎年、服が売れる仕組みを作ろうぜ!」みたいなのが、無駄な大量消費・大量生産社会だと思うんですよね。それを解決していかないことには、たぶんお互いが良かったと思わないと思うんですよ。

高橋:そうですね。

三戸:やっぱりここをやっていかないと、持続的な社会になっていかないと思うんですよね。無駄なものばっかり持ってる、みたいな。

高橋:そうですね。それで言うと、僕はもう会社の数と従業員の数が多すぎるなって。やっぱり根本的だなと思って(笑)。ただBtoBの業界を減らすと、購買側の仕事がなくなっちゃうので。

実際、つい最近の調査で「どういう購買スタイルがいいですか?」というのをアンケートでまた聞いたんですね。この『営業はいらない』も読んだので、実際、何割ぐらいの人がそう考えているんだろうと思ったら「営業がいらない」という人は8パーセントぐらいだったんですよ。

あとの人は、だいたい営業の介在というのを望んでいるんですけど。でも僕も買う側になると、ぶっちゃけ営業の人に対して、やっぱり「この人すっ飛ばして買えたらいいな」と思うことは、正直、経営者としてあります。「なんで世の中の人は、こんなに営業を介して買うのだろうか?」と考えると、やっぱり買う側の人たちの“仕事のための仕事”みたいなのは、世の中けっこうあったりして。

僕はさっき(従来型の営業行為がなくなるまで)20年と言ったのは、10年になるとそれが「大失業時代」みたいになっちゃうので、20年かなぁという感じがするのと。あと、なにかしら兼務みたいな感じで「営業機能」は、たぶん企業対企業って世界では、まぁまぁ残るだろうなと思っているところはあるんですね。

ただ、根本的には売る側と買う側の情報ギャップに対して、それを無視してゴリ押しで売るというのがなんだかんだ多いというのは、僕は問題だなと思っているんです。

「営業は必要」って、本当に本質的?

三戸:20年間で、要はソフトランディングしましょうみたいなことじゃないですか。だから、全部ソフトランディングは必要だと思うんですけど。例えば今回のことで、すごくわかりやすいのはコロナがバンと起きた瞬間に「そんなこと言ってられへんよね」ということが絶対に起こるじゃないですか。

コロナの第2弾が来るかもしれないし。だから、もちろん20年間の猶予を持って、徐々に徐々にやっていければいいんですけど。「20年後にこういう社会になるなぁ」とみんなが思っているのに、その20年を「1年でも早くしていこうという姿勢」の方が、私は正しいんじゃないかなと思うんですよ。

だって5年以内に、例えば無駄な“働かないおじさん”がいなくなったほうが、みんながハッピーになるんだったらそれをやろうよと。その代わり「働かないおじさんをどうするか問題」を別で考えようよみたいな。

営業は、例えば大企業が中小企業から物を買う時に、営業マンが大企業の購買の仕事を若干アウトソースしてるとか。もしくはなにかトラぶった時に、大企業の社内向けにエクスキューズして「こいつが間違ってたから、俺は関係ない」みたいなもののための、矢面に立つ者としての営業マンが存在したり。

じゃあ向こうの中小企業のなんとかさんが来て「すみませんでした!」て謝ったら「いや、こいつが悪かったんですよ」と言って、大企業の購買担当のメンツが保てるみたいな。たぶんそんなのも含めた上で「営業はいる」という(アンケート上での選択肢としての)賛成ボタンを押していると思うんですけど。俺は「じゃあそれって本質なの?」というと、意外とそれっていらないんじゃないの? と思っているんですよね。

高橋:だから僕はそれに対しては、大きな会社がどんどんスリムになっていって。やっぱり小さくておもしろい会社が世の中に増えるってことじゃないかと、個人的には思っているんですね。

一番の問題は、ノルマとExcel管理

三戸:でも、アレですよね。『無敗営業』を書いて、そこの営業のところをもう少し良くしていけば、会社・社会が良くなるということだと思うんですよね。それがウケているとは思うんですよ。それがどの辺なのかなというのが気になる。

高橋:やっぱりさっきの「ズレという概念」と「わかってくれる営業」というキーワードが……(営業として物を)売れてる人はそんなにズレを作らないんですよ。三戸さんの『サラリーマンがオーナー社長になるための企業買収完全ガイド』の中でも書かれていますけど。

サラリーマンがオーナー社長になるための企業買収完全ガイド 起業よりも簡単! 独立できて低リスク

日本語にすることで、カタカナアレルギーの人たちに対しても受け入れやすくするとか。相手の感覚に合わせるってあったじゃないですか。それってやっぱり、売れている人って自然とやっているし。感覚的・体験的に学んでいるんですけれども。実はあまりそういうことをちゃんと教えられている人って、少ないんです。

あと、僕は一番の問題はノルマとExcel管理だと思っていて。まず、ほとんどの会社でのExcel管理の仕組みっていうのは「営業チーム」、(その下に)「個人」ってあるんですけど。個人がそれぞれ「目標、今期はいくらに対して、いくらいけます」という読みを中間地点で出すんですね。それをチームで積み上げるわけです。

そうすると上から降りてきている目標にちょっと足りないので、チームリーダーの人がちょっと気持ち乗っけて上に報告するんですね。「このぐらいいきそうです」みたいな(笑)。

三戸:はいはい。

高橋:それは、誰がやるかわからないんだけど、やってほしい金額が設けられて。今度、チームリーダーが集まった会議で、さらに上の部長が「どう?」と聞くと、チームリーダーの数字を集めると部の目標に足りないので、部長がちょっと気持ちまた乗っけるという感じでいくので。役員のところにいく頃には、(個人の数字に)すごく積み重なった数字が上がってくるというのが、Excel管理なんですね。

三戸:よく言いますよね。

高橋:その役員の人たちが真顔で「着地見込みが書いてあるんだけど、本当はいくらぐらいになりそうなの?」と話されている場面をけっこう目撃して。これはやっぱり、いろんな人にとって幸せな状態は生まないなと思うんですよ。正しく実態が見られた方が、みんなハッピーじゃないですかと僕は言いたいんですね。ただ、世の中には正しく実態が見えると困る人たちというのがやっぱりいて(笑)。けっこうな割合というか、意外とたくさんいるので。

それは今までのExcel管理だと、いわゆる“隠し球”と呼ばれる……なるべく営業メンバーの人は上司にわからないように、見込みの案件なんかをたくさん隠して持っておく方が、いざ何かあった時に追加投入しやすいので(笑)。

三戸:そうですね。

高橋:上司は上司でなるべくその隠し球を引っ張り出したいけど、あまりそれが早々にあると、さっきの気持ちの読みに加算されちゃうので。メンバーはなるべく隠しておきたい。こういう攻防が繰り広げられているんです。僕はそれはやめませんかと言ってます。

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