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グランジと考える笑いと広告コミュニケーション(全3記事)

TCC受賞芸人のグランジが語った、「日常のズレ」がネタに変わる瞬間

2019年4月25日、株式会社マッキャンエリクソン HUBスペースにて「木曜日のミレニアルズ #23『TCC新人賞を獲得したお笑い芸人グランジと考える笑いと広告コミュニケーション』」が開催されました。東京ガスのラジオCMでTCCを受賞したお笑い芸人・グランジの五明拓弥氏と遠山大輔氏をゲストに迎えて行われたこのイベントでは、「笑いと広告」をテーマにトークセッションを実施。本記事では、グランジがネタの作り方について語ったパートを中心にお送りします。

東京ガスのラジオCMに関わることになったきっかけ

坂東宏樹氏(以下、坂東):今日のトークセッションのテーマは「なぜお笑い芸人が広告を?」というところです。どういった経緯でTCC(東京コピーライターズクラブ)賞を取ったのかというお話をお聞きしたいと思ってます。

五明拓弥氏(以下、五明):これは最初、遠山さんだよね。

遠山:はい。さっきの五明の本でも一番最初に対談させていただいているんですけど、電通の澤本さんという、もう生きるレジェンドがいるんです。

井上慶彦氏(以下、井上):そうですね。

遠山大輔氏(以下、遠山):僕は本当恥ずかしながら存じ上げていませんでした。「澤本さんってどういう存在なんですか?」とコピーライターの方に聞いたら、「お笑い界で言えばダウンタウンの松本さんだ」と。誰もがおもしろいと言わざるを得ないくらいの力の持ち主で、多大なる影響をみんなが受けているという存在の澤本さんは、ACCの広告賞を実際に何度も賞を取られております。

テレビ部門とかラジオCM部門とか、いろいろある中の、その年のラジオCM部門の審査委員長を澤本さんが務めていると。それが2014年くらいです。ラジオCMはその年に全国で流れた600本700本くらいを、それまでは審査会を2日間に分けて、年配のみなさんで聞いて審査するというのがそれまでの流れだったらしいんです。

澤本さんはけっこうパンク精神、ロック魂みたいなものがあって、それを変えようとしている。そもそもラジオCMを聞いてる人は年配の人だけじゃないし、若い人だっていっぱい聞いてる。じゃあ若い人も審査員に入れたいと。

ラジオの作り手、しゃべり手の人にも聞いてもらいたいなということで『SCHOOL OF LOCK!』という番組をやらせてもらってる僕にお声がけいただきました。そこから澤本さんと、まず僕が面通しというかね。

五明:知り合うようになったと。

遠山:そうですね。なんか僕が昼食のときにボソッと言ったらしいんですよ。

五明:これ、怖い話ですよ。

遠山:じゃあ澤本さんが言うような言い方をしますよ。「お昼食べてるときに、『どう? 遠山くん』と聞いたら、『いや~、こんなの芸人だったら誰でもできますね』と言ったんですよ」と。

(会場笑)

僕はそんなこと言うわけないんです!

五明:めちゃめちゃ言いそう(笑)。

遠山:僕がコントとかネタを作る側なので、例えば「あそこのセリフをもうちょっと食い気味に言ったらもっとおもしろく聞こえるんじゃないかな?」とかいうことを言ったのが、もういつのころか変換されてる。「俺だったらいつでもできますよ!」と言ってるってことになっちゃったんです。

五明:変換されて?(笑)。あ~そっかそっか。

遠山:その審査会が終わって1ヶ月〜2ヶ月くらい経ったときに澤本さんから直接連絡いただいた。

五明:やっぱ引っかかってたんだ。

遠山:違う違う(笑)。「あのときの言葉は何だ? なめんなよ」ということじゃないんですよ。「東京ガスのラジオCM作れるでしょ? お願いするわ」と突然話が。澤本さん、おもしろい方なんです。

五明:「言ったでしょ?」ってことね。

遠山:「あのとき君は『芸人なら誰でもできる』と言ったでしょ」ということです。

五明:いや~怖いね。

「これはチャンス!」と挑んだプレゼン

遠山:「え!?」って。でもおもしろそうですし、チャレンジしてみたいということで「じゃあやらせてください」と。僕ら3人組で、五明もネタを書いてるので。五明は大喜利のイベントだったりとかも自分でやったりとかもしてるので、絶対得意だろうなと思って声をかけた。それで始まったんです。

五明:誘っていただいた。

井上:なるほど。さっきの「芸人なら誰でもできる」って、本当に嫌なやつですよね。

遠山:僕はそんな言い方、本当にしてないっすよ!(笑)。

井上:クリエイティブに携わる者が全員イラっとする。

五明:iQOS吸いながら言ってたんだっけ?

遠山:そもそも喫煙者じゃねぇ(笑)。そのためだけにiQOS吸わねぇ。それで東京ガスさんのCMを僕と五明で、電通の若手のコピーライターのみなさんも一緒でした。

五明:オーディションを受けられるみたいなことか。

遠山:まずはそうですね。「期限がここまでなので、何本でもいいので、テーマはこれ、これ、これです。20秒、40秒、60秒なんでもいいので好きなように書いてきてください」と言われた。よくわからないまま、がんばって書いたんですよ。東京ガスのみなさんとかいらっしゃる中で、実際プレゼンしたんです。

井上:クライアントさんにプレゼン。

遠山:あ~、そうですそうです! 全員分台本があって、自分の台本はその場で自分で読んでやるという。もうめちゃめちゃ汗かきながらでした。

井上:緊張されました?

遠山:めちゃめちゃしました!

坂東:されるんですね。ちなみにそのときは何案くらい出したんですか?

遠山:僕は10くらいです。五明がもっと。

五明:僕は15、16ですかね。

井上:もっと考えたうえでの15、16みたいな感じですか? それとも思い付いたやつ全部出そうみたいな感じだったんですか?

五明:ちなみに聞いときたいんですけど、その15、16というのは少ないんですか? 多いんですか?(笑)。

井上:1人で出されるにしては、プレゼン量としては多いと思います。

五明:一生懸命考えて出しました。

(一同笑)

遠山:その場で汗拭きながら。

五明:本当に考えましたよ。そのとき休みもすごく多くて、どっかで「これはチャンスなんじゃないかな」と思って考えましたね。ボツになったコント案とかもそっちに再利用できたりもして、持っていきましたね。それが本当に最初のきっかけです。

TCC賞を獲った東京ガスのラジオCMを聞いてみよう

井上:なるほど。ちなみに、それこそ澤本さんというのは「ガス・パッ・チョ!」のCMを作ったクリエイティブディレクターで、あそこのクリエイティブをある意味全部統括しているような方です。たぶんそういったお2人を採用する権限みたいなものがあったと思うので、すごくいい方に出会われたなと思いますね。

遠山:そうっすね。僕らが台本書いて、澤本さんにたしか送ってるんですよ。普通だったら澤本さんのチェックを必ず入れて、もう1度こっちに返して、クライアントさんに見せるんだったりするらしいんです。

澤本さんはやっぱり変わってるので、「もう2人に関してはそのままいってもらう」と。「荒削りのほうがいいこともあるだろうから」と言って、そのままだったんだよね。

五明:たぶん、プロからしたらめちゃめちゃだったかもしれないですね。

遠山:プレゼンの手応えもよくわからない。めちゃめちゃ緊張してる中、さらに澤本さんがおかしいなと思ったのは、その場をずっと自分のスマホで隠し撮りしてて、僕らが緊張してるさまを自分のラジオで流すという。

(会場笑)

とんでもない、奇行に次ぐ奇行だと俺は思ってますよ。

五明:ニヤニヤして聞いてたもんね(笑)。たぶん1回家で通して聞いてるよ。

遠山:というのがあった。

坂東:その東京ガスのラジオCMがあるので、ちょっと聞いてみましょう。

五明:僕らが初めて作ったCM。お恥ずかしい。

坂東:こちらは五明さんの。

五明:そうですね。

遠山:これがフジサンケイの賞を取ったやつですよ。そうだよね?

五明:これがそう。100万円のやつ。

遠山:そういう言い方をするな(笑)。

坂東:じゃあ流します。

五明:これはお恥ずかしいですね。

(ラジオCMが流れる)

坂東:いや~、いいですね。

(一同笑)

五明:そう言うしかなさそう(笑)。

坂東:お笑いのネタっぽいですもんね。

五明:こういうのはプロが聞いたらどうなんですか? 

井上:単純におもしろいなと思いました。

坂東:これは悔しいです。

井上:勉強になるなと思いました。

五明:本当ですか?

井上:はい、本当に。

五明:嬉しいな。

井上:ガン見しないでもらっていいですか(笑)。

五明:言ってる人の言葉がちょっと変じゃなかったですか? 本当は台本の段階ではお互いもっと若いヤンキー夫婦のやりとりだったんです。

「ぶっ殺すぞ」みたいなことを言ってたら、「ちょっと……すみません。言葉がキツすぎます」と。「もうちょっとまろやかになりませんかね?」みたいなことを東京ガスの方が言ってて、でもまろやかにしたらおもしろくなくなるだろうなと思った。

ナレーターのキャスティングも僕らが選んでいいということで、よく知ってる吉本の芸人と女優さんにやってもらったんです。じゃあ大阪弁でやったらいいんじゃないかと。まろやかだけどちょっと強くいけるみたいな。

それで当日収録する日に2人に来てもらってブースで大阪弁でやってもらったら、演出してる方がちょっと東京ガスの人に呼ばれた。7分くらい。これはなにかあった時間だなと思った。

(会場笑)

7分はなにかあったんだろうなと思いながら、「どうしたんですか?」と聞いたら、「すみません、うち東京のガス会社なんです」と。

(会場笑)

坂東:ですよね(笑)。

五明:「ああ、本当だ!」と。「本当っすね」と言ってたら、うちの遠山さんが好プレーを。その日一緒に収録にいて、「だったらもう、不自然ぽくても標準語でやったらいいんじゃない?」と。

「関西弁の人が標準語でやって、なんかちょうどよくなるんじゃない?」みたいなことを言ってくれて、そしたらいい感じに落ち着いたという。

井上:じゃあもともとのお2人は普段は関西弁を使われる方?

五明:僕は2人ともゴリゴリの関西弁だと思ってたんですけど、僕は関東出身なのでちょっとよくわかんなくて。女性の方は関西弁で、男性は僕は関西弁だと思ってたんですけど連れて来たら四国出身で(笑)。香川弁と言うんですか?(笑)。

坂東:はいはいはい。ありますよね。

五明:香川弁ですというね。正直関東出身だとわからなくないですか!?

井上:そうですね(笑)。ざっくり西でくくってますしね。

五明:いろんな事故は起きたんですけど、間を取って標準語でやりました。

坂東:でもそんなに違和感ないですよね。

五明:そうですね。東京に住んでるので。

坂東:じゃあ続いて遠山さんの東京ガスのCM。

遠山:僕のはいいですよ!

五明:いや、いっとこうよ。

遠山:だって賞も取ってないし、なんかもう恥ずかしいんですよ。今ならもうちょっとうまくできるとかってない?

五明:いや~どうだろう。

遠山:いや~いいっすわ。

五明:でも俺、自分の作ったのを聞いてるときに目線をどこにやっていいかわかんないのよ。みんなが聞いてるわけじゃない。すっごい恥ずかしいのよ。俺はずっとこの角見てたんだよ。

(会場笑)

自分のってたぶん恥ずかしいから、遠山さんも顔伏せといたほうがいい。

坂東:じゃあ流します。

遠山:(顔伏せる)

(ラジオCMが流れる)

遠山:……いや、拍手とか。

(会場拍手)

どうですか?

坂東:いいですね~。

(一同笑)

五明:定型文(笑)。

井上:その流れで次。

遠山:もういくんすか!? なんかもうちょっとないんすか?

文句がアイデアの素になる

井上:これの流れでいきましょうか。

坂東:「グランジのネタの作り方」。

遠山:あ~そういうこと! 

坂東:実際のコントとかネタを、どう作っているのかということをお聞きしたいなと思ってます。

遠山:コンビ、トリオによってまったく違います。僕らはここ最近は、僕と五明と、もう1人構成作家さん3人で集まってます。なにかを誰かが持ち寄ってポンとそこに投げて、「それいけそうだね」と言って積み重ねて積み重ねてだいたいの流れを作る。例えばそれを五明が最初に投げたら、五明が責任を持って書いていきましょうみたいな作り方なんですよ。

五明:もっと根本的な話ですかね? どういうところでとか? 

井上:あ、そういうの聞きたいですね。

五明:でも本当、時と場合によって違うんです。みなさんも、CMとかも作り方って毎回一緒じゃないですよね?

坂東:そうですね。

五明:たぶんネタもすごく似てると思ってます。毎回違う。でも僕が思う共通してるのは、はてな、クエスチョンがあるところにヒントが落ちてるんじゃないかなということですね。

変な人を街で見かけたとしたら、この人どこにいたらおもしろいんだろうとか。不思議な場所があったら、この場所はどんな人が来たらおもしろいんだろうとか。日常に違和感があるところが多いような気がしますね。

坂東:なるほど。この前某有名な広告の方に聞いたのは、文句を言ってるほうにアイデアがある。文句がアイデアの素になる。そこには不平みたいのがあるので、それを改善するようなことを考えるといいと言ってました。

五明・遠山:へ~。

坂東:文句言ってる人には走っていって聞きに行くという(笑)。

遠山:でもおもしろい漫才とかって、たぶんそうっすよ。

五明:ブラマヨさんとかね。

遠山:そう! 本当にこの人はこれに対して怒ってるんだなぁというのが内から出てきてるから、漫才がめちゃめちゃおもしろいなというのはすごく思いますね。

怒ってる人とそれをなだめる人。お互い怒ってたりとかもあります。その熱量で「なに真剣にこの人たちはバカなこと言ってるんだ?」とどんどん引き込まれて笑ってるのもあるなと。

井上:その真剣感みたいなところですよね。それに共感性があったりするとまたいいというところもあったりするんですかね?

五明:共感性の場合と、あとぜんぜんぶっ飛んでて「この2人何やってるんだろう」で笑っちゃうというパターンもありますよね。

違和感がネタに変わる瞬間

遠山:さっきの日常のズレみたいなやつもあって、けっこう僕もネタを考えるときはわりとテレビとかふつうのシーンとかで。

去年の秋にルミネの単独ライブでやったネタは、僕は『東京ラブストーリー』を見たことがなくて、再放送がやってたのでおもしろそうだなと思って見てたんです。そしたら鈴木保奈美がいるじゃないですか。めちゃめちゃすぐ帰るんですよ! 

(会場笑)

「そんなことで帰る!?」というくらいカンチに怒っちゃって、バーって家から飛び出して帰るんですよ。これなんかできるなと思った。どんなことがあってもすぐ帰る女。

坂東:あ、僕そのネタ見ました。

遠山:本当ですか!

坂東:YouTubeで見ました。

遠山:そうですそうです! それも別にネタとか作ろうと思ってなかったんですけど、自分の中で違和感があった。それを書き留めといてあとから見直したときに、これたぶん3人でコントになるなとか。

坂東:仕上げみたいなのは五明さんがやられることが多いんですか?

五明:いや、その打ち合わせで主導権を握ってたやつが(やる)。「あとは任せるよ」みたいな感じですかね。

確かに日常はあります。僕が思ったのが……コントライブをやったときに、カントリーロードという曲があったんですよ。外国人の老夫婦がおばあさんが後ろに乗って、自転車2人乗りしてるんですよ。

昔、横に座っておばあちゃん乗りみたいなのあったじゃないですか。あれでうっすらカントリーロードが流れてるみたいな。そのあといろんな事件が起こるんです。

街を歩いてて、老夫婦が手をつないで歩いてたんですよ。それを見た若者が「あ~あの歳になってもあんなって、本当に仲良いよね」と言ってたんですけど、俺は「いや、付き合いたてかもしれないじゃん」と思ったんですよ。

老夫婦が手をつないでたら絶対長く付き合ってるわけじゃねえんだぞと思ったんですよ。これはなにかできそうだなと思った。

仲のいい老夫婦、もしくは付き合いたてじゃないけどなにかを達成しようとする老夫婦。手をつなぐ。自転車で2人乗りでカントリーロード。最初バーって流れて、その老夫婦が自転車でひったくりするというネタなんです。

(会場笑)

ひったくりしまくるというネタです(笑)。それは渋谷を歩いてるときかな。

井上:じゃあすごく考えようと思って机に向かってるみたいな感じではいつもない?

五明:でもやっぱりそういうときもあります。

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