2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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田中信哉氏(以下、田中):みなさん、こんにちは。「いま捉えなくてはいけないクリエイティビティは、科学的思考のすぐ隣にある」というセッションです。
このセッションは、一橋大学大学院の鷲田祐一教授と、タグボートの代表でクリエイティブディレクターの岡康道さんと、私、電通アイソバーの田中信哉で進めたいと思います。よろしくお願いします。
(会場拍手)
さっそくなんですけれど、テーマのバックボーンになる考え方として、鷲田先生の書籍からいただいた言葉を今、ここに出しています。『未来洞察のための思考法』という本なんですけれども、ちょっと読み上げますね。
「現代の企業経営手法やマーケティング手法は、効率性・生産性を追求するあまり、いつしか創造性や文化性の問題について、著しく疎くなってしまっている側面がある」と。「そのような経営環境に囲まれた日常の中では、文化性や創造性の大切さ、あるいは社会的な問題の解決などということを提言することすら困難な雰囲気がある」というところで。
効率性を追求しすぎて、クリエイティビティが置き去りになっていないか。僭越ながら、自分の思っていた問題意識を言い当てられたような気がしておりまして、このテーマにしています。
Advertising Week Asia はおそらく、ほかのハコでは「いかにマーケティングの効率を上げるか」という議論をしていると思うんですけれども(笑)。もちろん、デジタルの力によっていろんなことが可能になって、それも大事なことだと思っています。私がいる電通アイソバーも、デジタルによってクライアントの課題を解決するという仕事をしておりますので。
ただ、人を中心に置いたときにはクリエイティビティがもっとも必要だよね、というところは、みんなが一丸となって考えているところであります。「左脳に寄りすぎていないか」ということに留意しながら、仕事を進めていくと。
こういう環境の中で、いま一度立ち止まって、すごく当たり前のことを議論されるとも言えるんですけども、クリエイティビティについて話してみよう、と思っています。
鷲田祐一先生です。一橋大学大学院の教授をされています。博報堂の出身で、マーケティングプランナー出身。それから生活総研、イノベーションラボなどで活躍されて、東京大学の大学院を経て「イノベーションの死の谷」についての研究をされたりとか、それから今シナリオ構築による未来洞察、未来を読んでいく力を探求されている先生です。
1つご紹介したいのが、「デザイン経営宣言」というものがございます。ちょうど昨年の今ごろに経産省と特許庁が合同で発表した、この研究会の座長を鷲田先生がされています。
「デザイン経営」の「デザイン」の意味なんですけれども、単なる見た目のデザインというだけではなくて、ここにも書いてあるんですけども、「人々が気づかないニーズを掘り起こして事業にしていく営みである」と捉えながら、国際競争力を高めながら、どうやって日本の企業が強くなれるかを研究されていらっしゃいます。
先生、この「デザイン経営宣言」についての解説というか、ひと言コメントいただければ。
鷲田祐一氏(以下、鷲田):はい。鷲田です、よろしくお願いします。もともとはこれは、デジタル化やIoTとかAIといった、いわゆる第4次産業革命が普及してきた中で、「人間がやることは何なのか」というときに、「やはり創造性であろう」という話が、経済産業省で議題に上りまして。それで、「高度クリエイティブ人材とは何か」という委員会を始めたんですよね。
それが一つ目の委員会で、それが一段落ついたあとに、今度は特許庁のほうで、英語で言うと「Design Law」なんですけども、意匠法を改訂したいと。非常に時代に合ってきていないので改訂したい。簡単に言うと、今までのデザインは「モノに付着した色や形」だったんですけれど、実は、モノと引き離すという作業をしたんですね。
そのときの会議が、この(デザイン経営宣言という)会議でして。デザインというものをモノから引き離すことは、やっぱりかなり大きい変更でした。ついこの間、国会を無事通りまして、始まったわけですけれども。
そのときに、それをやっぱり知財として活かしていきたいということで、企業側がデザインというものを武器にしていく経営に変わっていかなくちゃいけない、ということを話し合いました。
もともとは、「デザイン大国宣言」とか「デザイン立国宣言」と安倍首相に言ってもらおう、というような話だったんですけれども。「いや、そういうことじゃなくてやっぱり企業側が宣言すべきだ」という想いを込めて、そういう宣言を作りました。
田中:ありがとうございます。「デザイン経営宣言」と検索しますと、PDFでもうファイルが公開されています。いろんなファイルが公開されていて、その投資効果ですとか定義、実践といったことについてすごくわかりやすくまとめられているものですので、ぜひご覧になっていただければと思います。
田中:それから、タグボートの岡康道代表です。クリエイティブディレクターです。広告界、クリエイティブディレクションのトップランナーであり続ける岡さんで、99年にタグボートを設立されて、それ以前も電通で圧倒的な結果を出し続けられていて。今ここに書かれている仕事も含めて、タグボート設立後ちょうど20年というお話でしたけども、20年で数え切れないほどの賞を受賞されておられます。
ちょっと個人的な話になっちゃうんですけれども(笑)、99年にタグボートが設立される1年前、98年に私は電通に入社しました。実は配属されたのはクリエイティブの、岡さんの部でありまして。そのあとでも新入社員は来ていないと思うので、岡部最後の新入社員が私になると(笑)……いうようなところです。
私は田中信哉と申します。電通アイソバーという会社におります。電通のクリエーティブ局のCMプランナー、それから、クリエイティブディレクターをやらせていただいて、岡さんの遠い背中を追いかけながらですね。
レクサスの仕事や資生堂というブランドの仕事など、本当に数多くやらせていただきました。1年ほど電通の経営企画部を経て、2017年から電通アイソバーにジョインしております。
田中:今回、こういうテーマに関わるきっかけというところなんですけども、この2年ぐらい毎週土曜日に、朝から晩までビジネススクールに通ってみたということがあってですね。経営学をちょっと勉強していました。
こういう仕事をしていますので、そこでのテーマはやっぱり、今ここに表示されているようなこと(「創造性の誘発力について。マーケティングの変革と広告会社が見据えるべき未来について」)をテーマに考えて、掘り下げてまいりました。その中で、お二人にインタビューするという終盤を迎えたんですけども。
僕は自分で「誰もがすべてをわかったように話すが、誰ひとりとして、すべてをわかっている人はいない」と思っています。そもそもマーケティングは、すごく捉えづらいものだと思うんですけれども、デジタルなり技術なりが広がって、その磁界が広がって、自分たちのクリエイティブの置き場所はどういうところにあるべきか、とか、どういう世界で仕事するべきかというところ。
「どうやって仕事すればいいんだっけ」「どういう気持ちで仕事すればいいんだっけ」というところが、ちょっと置き去りにされていないかな、という懸念もあったんです。左脳に寄りすぎてないかな、という懸念もあって、こういうテーマを投げかけてみました。
昨年末に鷲田先生と岡さんにはインタビューをさせていただいております。しかしながら、岡さんと鷲田さんは今日が実は初対面なので、進行役の私としてはちょっとドキドキしています。アップルウォッチの心拍数が、見たことのない数字をたたき出しているんですけども(笑)。
(会場笑)
田中:ただ、インタビューした私が感じたのは、違うアングルなんですけれども、やっぱり同じことをおっしゃってるな、と思っています。いろんなことに確信を持って進むためのヒントがあるかな、と思っていて。
いくつかの質問を投げかけたんですけれども、すごくシンプルなところでいくと、これが中心でした。「クリエイティブをどうやったら誘発できますか?」という質問をしておりました。
そろそろお二人のお話をうかがいたいんですけれども、鷲田さんにインタビューしたときに「原因と結果」というキーワードが出てきました。鷲田さんも博報堂のストラテジストだったので、「原因」というのは広告キャンペーンにおける事前検証であったり、マーケティングの仮説だったり、今で言えばデータだったり。
それで、「結果」というのは、キャンペーンにおける成果・アウトプット、それからそのあとの事象についてをイメージした会話だったんですけれども。
今日はお二人にインタビューした発言録。なにか図表が出てくるようなことはなくて、(言葉が)カギ括弧でひたすら出てくるという会になります。
鷲田先生が最初におっしゃっていた原因と結果の話で、すごく興味深かったのが、「原因が間違っているのに結果が合ってしまう現象がある」と。「科学者は困るが、現実にはすごく重宝する現象」である。「調査をすると、原因のことをよく知っている人ほど、原因が外れたのに結果が合っているという状況を肯定する」。
つまり、仮説とかそういったものをいろいろと検証して準備するんだけれども、そのとおりにならないと。そのとおりにならないアウトプットや結果に対して、それを許容しながらポジティブに受け止める力のある人というのは、やっぱりなかなか優れた人だよね、という議論でですね。
「単なる細い因果関係に頼らなくても、非常に膨大な原因要素、仮説を持っていれば、原因と結果がうまくつながらなくても、たぶんこうなんだということがわかる」というふうに。
これは研究からでもありますよね。「暗黙の知でしかない、それは人の持つ能力だ」というふうにおっしゃっていて。これが研究からわかったことというところで、おもしろいのでちょっとこのへんを聞きたいんですけども。いろんな実験の中で見えてきたことでもあるわけですよね。
鷲田:そうですね。いくつか仮説的な原因と結果のシナリオを作って、対象者にクイズのように出すんですね。それで、必ず原因が外れているのに結果が当たる、というふうにやって、いじわるな回答を出し続けてあげると、科学的にものを考える人は「原因が外れてるのに結果が当たるのは無意味だ」と考えるんですけれども、科学的からちょっと隣にいる人たちは、案外これを肯定的に捉える、というものが見つかったんですね。
それで、非常におもしろい現象だなと思ってそういう人をずっと追いかけていくと、やっぱり実は原因にあたる部分を、ものすごくリサーチして知っている人だ、っていう特徴がわかってきたんですね。そういう人はたまたまそのときに、仮にこの原因、仮にこの結果、と言っているだけにすぎなくて。
でも、やっぱり大事なのは、結果が当たってることじゃないですか。だから、結果が当たっているという現象をすごく大事に捉えて、「そのときにあり得た原因は何だろう」ということをさかのぼって考えるんですね。今で言うと「バックキャスティング」というものですけど、それを自然にやるんですよね。それがけっこうおもしろいなと。
それで、そこから見ていくと結局「因果関係」という言葉のとおりに、まず最初に仮説を立ててそれを検証していくという営みが……語弊を恐れず言うと、バカバカしくなってきて(笑)。人間ってそれよりももっと、ぜんぜん大きな力を持ってるんだな、というふうに感じたという研究でした。
田中:「それは人の持つ能力だ」というところに非常に勇気づけられて、僕はインタビューを続けていたんですけども。岡さんにも同様の、「原因と結果」の「原因」のほうですね。マーケティングの仮説とか指標について、質問させていただいて。こういう答えが返ってきました。
「客観的な指標はない、と言いきれる。おもしろくなければ目立たないし、効率が落ちる。マーケティングというものは、全部同じ広告表現である、という前提で成り立っている」と言われていて。パッと目が覚めるようなことですよね(笑)。
もちろん、別に客観的な指標を信じてないとか、使わないとか、そういうことじゃないと思うんですけども。ただ表現に落とし込むときに、それを果たしてどこまで使うのかとか。確かにマーケティングと同じ広告表現である、というところ。
その続きで、「表現が一つひとつ違うのに、どうやってそれを比較するのか」と(笑)。で、「根本的に広告のマーケティングというものが」……これ本当にほかのセッションとはまったく真逆のこと、真逆かどうかわかんないですけど、違う視点でものをおっしゃっていて。でも、非常に的を射ているというか。
「根本的に広告のマーケティングというものが説得力を持たないのはそのせいである。表現の部分は空欄のまま考えられている」。確かにプロセスの中で、我々は表現というのは最後に考えています。
最初に来ることもありますけど、基本は最後のほうに来ますね。それまで、原因というものを突き詰めようと、仮説を突き詰めようというふうにしているんですけれども、「その時点で空欄だよね」というような投げかけがある。
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