2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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石川善樹氏(以下、石川):こんにちは。よろしくお願いいたします。すごく不思議なテーマをやらせていただきますが、今日は3人が登壇しています。15分ずつ喋るという形式になっていますが、(時間的に)詰め詰めになってしまったので、一方的に話して終わりになってしまうと思うんです。疑問とか文句とか、いろいろ出ると思います。
最後にお知らせいたしますけれども、僕も外で待っていますので、そこでいろいろとみなさんと意見交換できたらなと思っています。我々3人の共通点は、みんな研究者であるということです。
「研究者って何なのか?」と考えると、「考える」ことを仕事にしています。「ただ考える」のではなくて、「人と違うことを考える」というのを仕事にしています。そういう意味では「考えるとは何か?」ということを、ふだんからよく考えているんです。
その内容は、もしかしたらみなさんの日々のビジネスにも、あるいは生活の上でも役立つんじゃないかということで、今日はこれからお話しさせていただきます。みなさんそれぞれ題材が違いまして、私は俳句をテーマにThink Differentを考えたいと思います。
真ん中にいる西田(貴紀)さんは、見ておわかりのとおり、ファッションをテーマにしてThink Differentを語っていただきます。一番左にいる永山(晋)さんは、漫画と音楽をテーマにThink Differentを語っていただきます。
(3人それぞれ)全然違うテーマですけれども、1つの共通項が浮かび上がってくると思うので、ぜひ楽しんでいただけたらと思います。まず私からいきたいと思うのですが、Think Different……。何か物事を考える時に、私たち研究者は「語源を調べる」ということをよくやるんです。
このDifferentとはどういう意味なのかと語源を調べてみると、「離れたところに置く」という意味なんです。これを図示するとどうなるか。言葉で考えたり、イメージで考えたり、私たちは行ったり来たりしながら物事を考えるんです。
Think Different、「『離れたところに置く』ってどういうことなんだろう?」とイメージで考えてみると、(スライドを指しながら)こういう「考える」の全体像が四角だとして、みんなこのブルーの点みたいなことを考えるとしますよね。そうすると、赤い点を打ったら、これがThink Differentなんです。
私は、日本にいた時には「Think Differentって簡単じゃないか!」と思っていたんです。というのは、日本では多くの人が同じようなことを考えているからです。例えば今だったら「AIだ!」とか「ブロックチェーンだ!」とか、みんな同じようなことを考えているので、それと違うことを考えるのは簡単なんですよね。
その後に留学したんですけれども、留学して気付いたのは、海外では基本的にみんな考えることがバラバラなんですよ。だから、少しくらいでは違う角度にならないんですよね。それで湧いてきた疑問として、「そもそも『みんな違う』という前提の中でさらに違うって、一体何なんだろうか?」ということを深く考えるようになったんです。これが私にとってのThink Differentの出発点になります。今からおよそ10数年前ですかね。
これは多分、今のビジネスの状況とも似ていると思います。コグニティブ(認知)化が進んで競争が激しくなり、例えばビールも昔は数種類しかなかったのが、今はたくさん出ていますよね。発泡酒も出てきたりして、みんな違う中でさらに違うことが求められているのは、研究だけではなく、ビジネスの世界でも同じかと思います。
この問題を考える時に、「ちょっとデータで見てみよう」ということになります。思考実験として、「ニュートンとアインシュタインは、どっちの方がよりThink Differentしたんだろうか?」という問いがあるんですね。
実は、人類で初めてこういう問いを定量化して考えたのが、今回のSansan Innovation Projectにもいらっしゃっていて、明日基調講演をされる、MITのメディアラボのセザー・ヒダルゴ先生という方です。
彼は「どちらがより偉かったのか」「偉大だったのか」を定量化する手法を編み出しているんです。それはヒストリカル・ポピュラリティ・インデックス(HPI)という指標で、数式を使って算出するんですけれども、一言で言うとWikipediaです。
Wikipediaを見て、「その人のページが何ヶ国語に訳されているか?」というのと、「どれくらいページビューがあるのか?」というシンプルな指標を考えて、Think Different具合を測ったんです。
アインシュタインなんですけれども、HPIという数字が30.21なんですよね。数字が大きければ大きいほど、インパクトがでかい。「Think Differentした!」ということなんです。赤い数字のちょっと上を見ると、He isなんとかかんとか……。166Different Languageと書いてあります。166の言語に訳されて、その下の数字が2008年以来、だいたい8,900万回見られている。これがアインシュタイン。(HPIは)30.21。
では、ニュートンはどうか。(HPIは)30.29です。なんと191の言語に訳されている。ということで、アインシュタインとニュートンだと、ニュートンの勝ちなんです。これを世界的に見ると、この2人、実はちょうど1位違いで、23位がアインシュタイン、22位がニュートンなんです。
ここまでくると、「人類史の中で一番Think Differentしたのは誰か?」と気になって見ると、……。3位! 銅メダルです。人類の中での銅メダルですよ。これがキリストです。ちなみにブッダは26位くらいです。キリストが1位でもよさそうですけれども、3位です。
2位! プラトン。そして、1位の金メダルですね。「人類の歴史の中で一番Think Differentしたんじゃないか?」というのが……アリストテレス。私はこれを見て、「そうか。超えるべき敵は、アリストテレスなんだな!」と思ったんです。
しかし「ちょっと待て。いきなり世界で1位になろうなんて、偉そうなことだ。おこがましい。まずは日本でしょう!」と日本人のThink Different具合を調べました。日本のみならず、諸外国に影響を与えたという意味で、あくまでもWikipedia調べですけれども、(スライドを指しながら)10位から4位まではこんな感じです。
現代人で唯一入っているのは、宮崎駿監督です。これからみなさん、「もし宮崎駿とは何者だ?」と問われたら、それは「(宮本)武蔵と紫式部の間の人である」と言っておけばいいですね。3位に昭和天皇。2位が(織田)信長です。
「1位は誰だ?」「日本人でありながら、国内外に多大なる影響力を与え、今でもたくさんの人に見られている人は誰だ?」と調べると、ちょっと意外でしたね。松尾芭蕉。これを見たときに、「そうか。日本人として生まれたんだから、『松尾芭蕉がなぜ偉大だったのか』と、まずはそこを学ぼう。真似よう」と思ったんです。
ここからは、「松尾芭蕉にThink Differentの大いなる作法、日本人が得意とする作法があるのではないか?」というのを5分くらいしゃべって、西田さんにバトンタッチしたいと思います。芭蕉は101の言語に訳されていますね。
芭蕉といえば、みなさん(が思い浮かべるのが)この俳句ですよね。「古池や蛙飛び込む水の音」。みなさん、この俳句がなぜすごいのかって、習ったことありますか?
私は高校時代に習ったことがありまして、まず「古池や」が「侘び」を示しているというんです。まず「古池とは何ぞや?」ということですが、池というのは、生きていたら何年前にできていたものであれ、池なんです。「古池」と言った時点で、水がない、かつて池だったもの、死んだもの、枯れたもの。「侘び」なんです。
「古池や」と言われたら、水がないものをイメージするのが当時の人の発想となっているわけです。これは、「古井戸」を考えたらわかりますよね。「井戸」は現役であるがゆえに「井戸」なんです。「古井戸」は、「水がなくなった、かつての井戸だったもの」ですよね。(「古池」は)水を張っていない、かつて池だったもの。
「蛙飛び込む」というのは、下品さの象徴です。『新古今和歌集』以来、蛙と鶯は鳴き声が雅であるということで、蛙が出た瞬間に上品さをイメージするわけです。歌の中では普通、蛙が出てきたら必ず鳴くんです。なのに、その蛙を登場させながら、鳴かせずに飛び込ませる。「なんて下品なんだ!」となります。
ここまでで、いろんなドラマチックなことが起きているんです。まず、「かつて池だったもの」に、いないはずの蛙が出てくるという、「なんで?」ということ。蛙が出てきて、鳴くのかと思ったら、飛び込むんです。「はあ!? どこに飛び込んでいるんだ!?」となります。
最後、水の音というのは「寂び」です。「寂び」というのは、物事の本質とか、生命がみずみずしく現れているということですが、ここで初めて「あ、池は死んでいなかったんだ!」と気づきます。
ただ、人里離れたところで忘れ去られているけれど、今でも存在しているんだということです。「侘び」「下品」「寂び」という、当時の人からするといろんなことが起こり過ぎている俳句なんです。
これが松尾芭蕉のすごさなんです。「ここにThink Differentのヒントがあるんじゃないか?」というのが私の話の結論ですが、ちょっとこれを分析していきたいと思います。
芭蕉は何が違うのか。先ほど「Think Differentとは何か?」ということで、「競争が激しい中で、どう違うのか?」という話がありましたが、こういう状況を分析するときに、まず自分を起点に、主観的に物事を見るという発想があります。あるいは他者の視点から自分を見るという、客観の話があると思います。
(それらに対して)主観でも客観でもない物事の見方があって、さっきみたいに「わーっ!」て(いろいろなものが)ある中で、俯瞰して見るという世界があるんです。
俯瞰することによって何が起こるかというと、狭く見ている時は違って見えたものも、例えばAという軸で「なんだ、みんな一緒じゃないか」、あるいはBという軸で「なんだ、みんな一緒じゃないか」というように、俯瞰してみると(わかります)。
こうやって考えると、Think Differentというのは、実は2段階あるということに気付くんです。(スライドを指しながら)僕ら研究者がよくやる方法で、何か物事を俯瞰して見たい時には、必ずこういう2軸のものを引くんです。
そして、研究され尽くしているように見えているエリアでも、俯瞰して見ることによって、1段階、2段階違うものが作れる。この枠組みを使って、さっきの芭蕉の句を整理します。もともと「和歌」というものがありました。
「和歌」は雅なるもの、優雅なるものでした。まず横軸にアップデートというものを引いてみましょう。新しさという軸です。「何が新しいのか?」というと、もともと「和歌」というのは、貴族が詠んでいたものなんです。
これに対して「ターゲット」をぜんぜん変えてみることによって、俳諧というものが生まれるんです。和歌と違って、蛙が飛び込むような、極めて下品でふざけている。これがアップデートという軸。
縦軸にアップグレード、質の高さというのを取ってみると(見えてきますが)、芭蕉がやったことは、俳諧に「侘び」「寂び」を入れてアップグレードしたんです。貴族たちはずっと、「和歌」を「質が高いもの、質が高いもの」へとアップグレードしていたんです。
芭蕉のすごさは何かというと「まず新しくした後に、質を高めた」というところで、これはもしかしたら、ビジネスの世界でもヒントになるのではないかと思います。
どういうことかというと、どうしても私たち日本人というのは、「質」を高めたくなるんです。でも一度、「質」を「和歌」から上に上げてしまうと、庶民に横展開するのは極めて難しいんです。
例えば、東京で生まれたサービスは質が高くなってしまっているから、地方展開が難しいんです。こういう言い方をしては失礼かもしれませんが、ニトリにしろ、ユニクロにしろ、地方発のロークオリティのもののほうが、いろんなターゲットに響きやすい。彼らが質を上げるのは最後ですよね。(スライドを指しながら)これは私の最後のスライドになりますけれども、「Think Differentとは何か?」ということです。
芭蕉から「『まず新しくしてから質を上げる』ということが重要なのではないかな」と見えてきます。これは逆に、先に質を高めてしまうと、いわゆる「イノベーションのジレンマ」(に陥るということ)です。既存顧客なり既存市場に過剰適応してしまって、新しく現れた質の低いものに駆逐されてしまう。
芭蕉に私たちが学べることがあるとすると、「まずは質の高さはどうでもいい。1回新しくした後に質を高める。これが日本流のThink Differentなんじゃないか」ということが言えるわけです。
ここからは、例えば仮にこういうフレームワークがあったとして、ファッションの世界、あるいはイノベーション研究の世界では、どういうことが起きているかを、次の西田さんにバトンタッチして見ていきたいと思います。
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