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テクノベート時代を生き抜く力とその育て方(全4記事)

リーダーたちよ、メンバー全員を“えこひいき”すべし 教育のプロが明かす、モチベートの極意

グロービスの経営理念である、能力開発、ネットワーク、志を培う場を継続的に提供することを目的とした招待制のカンファレンス「あすか会議2018」が、2018年7月7~8日に開催されました。8日に行われた分科会E「テクノベート時代を生き抜く力とその育て方」には、こうゆう 花まる学習会・高濱正伸氏、ライフイズテック・水野雄介氏、リクルート・山口文洋氏、ベネッセ・福武英明氏が登壇。日本の成長のカギを握る教育について、識者たちが語り合いました。

元不良には「決める力」がある

高濱正伸氏(以下、高濱):(山口)文洋さんのことで1つ思うことがあります。(山口氏の話から)やっぱりリクルートすごいなというポイントが見えました。(リクルート創業者の)江副(浩正)さんの教えをもう受けてはいませんが、でも花まるは本当にそこの3つをやってきたので、当たっているなと思ってありがたかったです。

例えば自己決定性のところで1つずつ付け加えると、これは、この春にある大学教授から聞いたことですが、ご存じかどうか、シリコンバレーで何十年分のデータが出ているんです。要するに山ほどスタートアップが起きたけれど、成功したところと失敗したところのデータが出終わったんですね。

それでなにが一番の大成功組の関数かというと、創業社長が不良というやつなんです。つまり、25歳までパチプロみたいな人がいいわけです。

(会場笑)

そこがなんなのかという話です。つまり、中退組とか元遊び人とか、(世の中から)一見はぐれているように見えるのですが、「誰になんと言われようが、俺はこっちやりてえんだよな」ということを人生において1回やっている人たちは、決める力がすごくあると思うんですよ。

だから、ポイントとしてはそういうことなのかなと思います。悪いことをわざわざやらなければいけないのではなくて、外の期待ではなく、自分のやりたいことに一度徹したことがある経験がすごく生きてくるんです。

だから、花まるでもお母さんたちにもそう言っています。不良になっても気にしなくていいというか、それはもしかすると「啐啄(注:そったく、またとない好機の意味)」と言いますけど、親がつくった殻を自分で1回割るということをやっているのだから、悪くないと思いました。

スモールステップの話は、今はどこも小成功体験でやっていると思いますが、一番おもしろかったのは承認欲求の話ですね。これは本当にそうで、実は、昨日出た方は私話しましたけれども、やっぱり教育の1つの根幹に愛というのが重要なんです。やっぱり講演をまた聞きに来ていただければと思いますが、愛とは何かというと、究極、「ひいき」なんですよね。

つまり、「あなただけがすごい大事だ」みたいなことをやられちゃうと、人間はがんばれちゃうんです。「平等に」と言われても伸びない。社員は誰も伸びていないんです。

教え子全員を「えこひいき」する効果

高濱:そこで1人だけひいきしたら犠牲者が何十人もできるということで、バレーボールの中田(久美)監督が言っていたのが「全員にえこひいきする」ということなんです。これは本当におもしろい話で、一見矛盾するけれど、僕はもうピンときたんですよ。「それだー!」と思いました。

どういうことかというと、僕が6年生のときの先生はまったくそれだったんです。授業2日目に「高濱、来い」と言われたんですよ。その人はバーンと叩くので有名だったんです。怖い先生なんだけれど呼ばれて、「うわ、なんで、俺なんにも悪いことしてないんだけどなぁ」と思っていたら、「座れ」と言われる。

そこで「お前は違う」と言われたんですね。「なにがですか?」「いや、お前は頭がいい」。「俺も熊本高校出てるんだけれども、君も熊本高校ぐらい行けるタイプだよ」みたいに言うんです。それは、その場所から本当に10年に1人ぐらいしかいかない山の中だった。でも「(高濱氏は大学に)いける」「君なら九州大学ぐらい行けるかもしらん」と言われたんです。

「学校の勉強は簡単だろう?」と言われて、「はい」と答えたら「ふざけんなよ」と言われましたね。

(会場笑)

「調子に乗るな。世界は広いんだ」「学校の勉強じゃなくて自分でやってこい。どんどん自分で自習して持ってこい。俺が見てやるから」。

そんなこと言われたらやる気になるじゃないですか。それでもうね、先生が時々驚くわけですよ。「お前こんなやったのか!?」という顔をされるわけですよ。そうすると「マジ大したことないっすよ」みたいなことを言うんですよ。

(会場笑)

寝ないでがんばるぐらいのことをやって、気づいたら、もう中学校に入ったら県で1番か2番みたいな成績になっていって、もうそのあとは3浪しようが4留しようが「俺はすげえ」みたいな自己肯定感を持ち続けられたんですよね。

「その先生にひいきされたから、俺、今あるよなぁ」と思っていたら、さいたま市の常盤中学という、公立で一番いいと言われている中学なんですけど、クラスメイトがそこの校長になったんですよ。(故郷から)はるばる離れて2人でさいたまです。

「おう」と呼ばれて、その校長である友人が「高濱、もう今だから言っちゃおうかな」。しみじみと「俺、昔、ひいきされとったんよ」と言ったんですよ。

(会場笑)

「えっ、俺だけど?」みたいに思うじゃないですか。タカノ先生という先生なんですが、まったく同じことやってるんですよ。「お前来い。お前はすごい」「お前の水泳はハンパじゃねえ」。

(会場笑)

つまり、その先生はその人のいいところを見つけてきて「お前のこれはすごい」と言っていたんですね。それを僕は勉強面でやられていたんです。これが「全員にえこひいきする」です。

ひいきとは何かというと、親はみんな、ほかの子よりも我が子が絶対にかわいいんですよ。どんなにほかの子がイケメンだろうが、頭良かろうが、うちの子に障がいがあったとしても、絶対にうちの子がかわいい。

これ以上言うと長くなるのでカットしますが、日本の問題は、簡単に言うと、ひいきされた家族間の愛情格差なんですよね。お姉ちゃんにはきつい言い方をして、弟には甘い、みたいなことです。これがこの国の大きい病で、花まるを25年やって気づいたことです。

そこを変えていかなければいけないと思っています。子ども3人が全員「お母さんは俺・私のことが一番好きなんだよね」と思うように育ててあげる。これは21世紀型のこういうテクノベート時代であっても、常に真理であるポイントかなと思いました。

60年前から「個の尊重」を掲げるリクルート

山口文洋氏(以下、山口):今の高濱さんの話を聞いて「そうだな」と思いました。僕も中途だから、リクルートという会社びいきはぜんぜんしたくないんですけれど、「やっぱりリクルートはいいな」と思ったことが1つあります。

さっき言った心理学をベースにしてるということなんですが、なんと1960年に創業しているんですよね。来年に創業60年ぐらいを迎えるんですが、その1960年の創業当時から、経営理念の3つの柱の1個に「個の尊重」を入れているんですよ。

やっぱり当時は男尊女卑みたいなものとか性別とか、いみじくも年功序列とか、いろんなことが当たり前だった時代ですよね。そのなかで、「もう男女とか年齢とか関係ないじゃん」ということだったと思うんです。

人間というのは一人ひとり、十人十色で、そのなかに一人は絶対にダイヤの原石的な強みを持っていて、それを「相互リスペクトし合おうよ」「相互信頼し合おうよ」というところをベースにしているんですね。

僕らがつくっているいろんなメディアも、やっぱり多種多様なクライアントさんとユーザーの方がいらっしゃいます。そのすべてを網羅的にすくい取れる情報発信や機能をつくっていくことは、ベースを考えていく上ではすごく大事だと思います。

あと、子育てを考えたときに一番大事なのは、とくにこの先だからなんですけれど、やっぱりダイバーシティ&インクルージョンな世界にしていくなかで、ダイバーシティな環境を子どもたちに提供しているかどうかだと思います。

僕は「ちょっとどうなのかな?」と思ってしまうのが、例えば、小中校一貫で1学年が100~200人しかいませんといった学校さんがあるとします。じゃあずっとその200人で12年間も同じ会話するんですか? という話なんです。出身の人も含めて、ある意味、どれだけカテゴリーセグメンテーションされたモノカルチャーな画一的な集団なのかという話なんですね。

別に僕はそれを否定するわけではなくて、じゃあそういう学校だとしたら、1週間の中で自分たちとは違った人たちとの出会いの接点をつくってあげることがすごく大事だと思っているんです。

僕は自由なキャンバス、無限大のキャンバスに加えて、やっぱり神奈川県秦野市という土着の民から、都会から流れ込んでくる市民の方を含めて、多種多様な人がいる中で育ってきました。

そういった公立、パブリックセクターの学校のど真ん中で、大人も子どもも含めた、無常なる矛盾を抱えたコミュニティの中で過ごしたときに、子どもながら「ああ、世の中ってこうなっているんだな。そんな理想ではない矛盾だらけの世界なんだな」「いろんな価値観を持った人がいるんだな」と思いました。

でも、そんな人と調和して生きていかなきゃいけないとか、その人たちを巻き込んでしか自分のやりたいことはできないんだなと気づいたんですね。それはある意味、自分本位になるのではなくて、やっぱり他者とどうつながって、その人の常識や視点でどうコミュニケートしていくかなんです。

育てる側は喜び方の練習をすべし

山口:またキーワードを足してしまいますが、無限のキャンバスに、さっきの3つに、ダイバーシティな環境。ここで改めて高濱さんの話を聞きたいです 。

高濱:いや、ちょっと言いたいことあるんですよ(笑)。

(会場笑)

多様性の前に、1つだけ付け足してみなさんの役に立つことを言っておきます。先ほど「愛はひいきだ」と言いました。これはあくまでそれぞれが1対1で思っていればいいことなんですが、その究極のかわいがる側、育てる側の技は何かというと、実は褒めるじゃないんですね。

なにかというと、人間は信頼して愛しているその人が喜んでくれることが一番うれしいんです。「この部長についていこう」と思う人が「お前やったのか!」となる、この瞬間を見たくて結果を出すんです。なので、喜び方の練習をしておいたほうがいいです。

本当そうなんですよ。子どもってダイヤも土地もなんにもいらなくて、お家帰って「先生に今日褒められた」と言って「あら!」という、もう母親の「あら!」が欲しくて来てるんです。そういうものなんです。部下もそういうもので、そこは信頼関係がないと話になりませんが、喜んであげることがすごく鍵になります。

あと、さっきの多様性はもう本当にそのとおりで、これからのテクノベート時代の人間力部門ですよね。どれだけの人と接するか。

今、隔離政策で、例えば障がいのある人と接すること1つにしても、大人こそ経験がないから、インクルージョンといっても、学校の先生が嫌がるんですよ。悪い人じゃないんです。だけど、「なにかあったらどうしますか?」と言って受け入れるのを拒んでしまう。つまり、大人のほうに心の壁があるんです。

そういう意味でいうと、うちはそこはずっと前から考えています。我が校はそういったものもありますけれども、うちはサマースクールに連れていくときは、例えば7,000人連れて行くとしたら、700人はなんらかの問題がある子です。

そこで班を構成すると、最初は面倒くさがって「えー」と思うけれど、子どもたちのすごく良い力は、「あなたは3班だよ」と言ったら3班を必ず好きになるんですよ。子どもというのは、「なんとかこの3班で優勝したいな」と必ず思ってくれる生き物なんです。

障がいのある子がいても「なんとかこの子込みでちゃんとやっていくし、経営していくしかない」とみんなが思うんです。そうすると「この子、これは渡れないよね」と、あらかじめ行かなきゃいけないところで車椅子が通れないところがあったらすぐ言ってくれるんです。

あえて、そういう基礎経験をつくらないと、もう今は文洋さん言ったとおりで、3年生は3年生同士で遊んでいるんです。異学年も異性もいないし、障がいのある人もいないし、老人と付き合ったこともない。

答えめいたことを言うと、「1人の子どもを育てるには村1つが必要だ」というアフリカのことわざがあります。つまり、いろんな人間が関わることによって、1人の子がちゃんと育っていくということなんですよね。それを文洋さんはいみじくも言い当てたので、さすがだなと思って聞いていました。

福武英明氏:ありがとうございます。

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