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AI時代を生き抜く(全5記事)

想定外の状況に対応できる人は「情報編集力」がある——藤原和博氏が説く、AI時代の生きる力

2018年9月7日~17日にかけて、日本財団「SOCIAL INNOVATION FORUM」と、渋谷区で開催した複合カンファレンスイベント「DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA」が連携し、都市回遊型イベント「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA」が開催されました。本セッションでは「AI時代を生き抜く」と題し、藤原和博氏が登壇。従来の日本型の教育が育んできた「情報処理力」と、AI時代に求められる「情報編集力」の違いについて解説しました。

日本の学校では、子どもの人間力を育むのも先生の役割

藤原和博氏(以下、藤原):ではそろそろ、人間の本来やるべき仕事ってどういう仕事で、どういう仕事だったらロボット、AIに奪われないか(についてお話します)。

種明かしのヒントを与えておきたいと思うのですが、これを見てもらってヒントにしてもらいたい。「生きる力の逆三角形」と呼んでいる図ですね。

この3つの分類については、文部科学省もこの10年ぐらい、僕はこの20年ぐらい前から言っているのですが、こういう感じで生きる力というものを大切にするようになっています。

ただ、文部科学省はわりと円を3つ重ねたような感じで言ってますが、言葉遣いは違う。だいたい基本的にこんなことを言っています。

まずここで、基礎的な人間力というのをベースに持っていますね。俗にキャラとも言われていますが、基礎的人間力。これは、ここに書いてあるように、体力・忍耐力・精神力・集中力・持久力などはだいたい家庭教育で養うので、どんな環境で育ったのか。あるいは、どんなコミュニティで影響を受けたかというところで、この基礎的人間力は育まれますよね。

もちろん学校でも、日本の場合はとくに、学習指導とは別に生活指導や生徒指導というものがありまして、そちらでいろいろな学級活動をやって、その後も掃除をちゃんとやる、あるいは給食を最後まで食べるというような躾の部分も学校が引き受けて、先生方がそういう人間形成というものをやっているわけですよね。

学級活動や学芸会、運動会などのイベントで、誰がリーダーシップを取るかとか誰が助けるとか、裏方に入って一生懸命やるのは誰かというようなことを演じ分けさせる中で、そこを一生懸命やるのは日本の学校の特徴です。これは海外で育ったり、海外に赴任して、自分の子どもをインターナショナルスクールに入れたりすればわかるのですが。

基本的にはヨーロッパやアメリカの先進国においては、だいたい15時半ぐらいまでに学習指導が終わったら、絶対に親が親のタイミングで迎えにきて、帰したら先生方はそこから先はやりません。

それぞれの地元でスポーツや、文化活動、音楽を習ったりしてくださいという感じ。自分には自分の子どももいるし、自分のコミュニティがありますから、というのが普通です。

日本と欧米の教育はどう違うのか

あるいはフィンランドの教育が良いとかいろいろ言ってますが、僕も行きましたけども、陰山英男さんと一緒に行った時に、例えば小学校のクラスでガムを噛んでる子がいたとしますね。日本からお客が来ている授業中でも、ガムを噛んでる子を注意しません。要するに、それがヨーロッパ・アメリカ流です。生徒指導や生活指導は関係ないと。そういうのは教師の仕事ではないと思っています。

どちらが良いかというのは非常に議論があるのですが、今アジアのいろいろな発展途上の国などでは、日本をけっこう真似ています。やっぱり親父なども掃除(しなさい)とか言うじゃないですか。先生たちの負担はかかるんだけど、食べ物は最後まで食べさせるってすごく立派なことじゃない、というようなことで。

日本流が素晴らしいということで再評価されていることもあって、この基礎的人間力というところがまた最強ですよね。中学・高校となると部活があって、今ちょっとやり過ぎているところがいっぱい見つかっていますが、それでも部活を通じて精神力や体力などを鍛えているところがあるから。

学校は基本的にはそんなに助けられないけど、そういう学級活動やイベントだったり、あるいは部活を通じて、この基礎的人間力を補強することはやっていると思いますね。

学校が主に養成しているのは「情報の処理力」ですね。情報の処理力とはなにかというと、正解がある前提の問題に対して、正解を早く正確に当てる力です。

「1+2は?」といったら「3」とすぐ答えられるか。コロンブスは何年にアメリカ大陸を発見しましたかといわれたら「イヨクニが見えた」と覚えておいて、「意欲に燃えたコロンブス」という覚え方もあるようですが、「1492」がすぐ出るかどうか。こういうことですね。

情報処理力を高めてきた人に必要なのは「情報の編集力」

だから学校内で日々、徹底的に正解を覚えさせようとして記憶力に頼って、要するに詰め込み方の教育をやりますよね。さらに反復練習で計算でも漢字でもそうですけど、何度も何度も練習させて正解が導けるようにする。算数、数学もそうです。

学校の授業を真面目に受けて、それを補強して塾や予備校に通うと情報処理力は高まるんですね。ただ、テストが終わるとぐっと下がるんですね。そういう力になるかと思います。情報の処理能力というのは、正解がある前提の問題に対して、速くその正解を言える力です。

これはもうみなさん気付くと思うのですが、成熟社会というのは、実は日本では1998年から始まっていて、もう20年間成熟社会。失われた20年と言われているのは、その成熟社会が丸ごとそうなのですが、ここからの成熟社会も深まっています。多様で複雑で変化が激しい社会ね。

つまり、その前の時代のように、みんな一緒にぶわっと成長しておこぼれに預かれるような社会ではないということです。そういう成熟社会においては、正解というのはもうほとんどなくなっていくわけですよ。

たぶんみなさんも社会に出ている人は、日々解いている仕事って、正解がはっきりしている仕事ってほとんどなくなっていると思うんですよ。学校の現場でもいじめの処理1つ(とっても)正解なんてないですから。正解はないです。

なので、その状況その状況の中で、やったやつからいじめられた子、その親、それを眺めていた級友を含めて、みんながある程度納得できるファクトですね。納得できる仮説。納得解を出していかないと、とても教師は務まらない。こういう時代になっているわけですね。

その力のことを情報の編集力と言います。もう1回言いますね。正解が1つじゃないとか正解がないようなやつ。要するにそういうもの。そういう課題に対して、いくつも仮説を出さないといけないわけですね。

かつては詰め込み教育で情報処理をしていれば幸せになれた

仮説を出していって、その仮説の中で自分が納得したし、関わる他者も納得できるもの。そのことを納得解というのですが、この納得解を頭を柔らかくしてどれぐらい紡げるか。もちろんそれを実行してみて、試行錯誤の中で、来年、あるいは明日、来週、来月、来年、もっと納得がいくように解を修正していかないとならないわけですね。

こっち(情報処理力)は「答えを1発当てましょう」だけど、こっち(情報編集力)は、「仮説を出していって無限に修正していく」というしつこさがすごく必要なわけですよ。

すべての事業が今求めているのは、この情報編集力の高い人材です。それはGoogleであろうとリクルートであろうと、どこであろうと。というわけで処理力と編集力。何となくわかってくれました? ここまでのところが大切で、処理力とか編集力について、なんとなくわかった。まあ5割ぐらいわかったかなという感覚の人は、ちょっと拍手してくれる?

(会場拍手)

それを75パーセントぐらいまで上げたいのですが、その前に言っちゃえば、まあ上がると思うんです。ここでなくなる仕事というのは、情報処理型の仕事ですよね。こっちの仕事が続々と奪われるわけですよ。

だから、ちょっと前、君たちのお父さんお母さんぐらいの代までは、東大や厚生労働省を目指して、情報処理力を徹底的に鍛えるわけですね。それでだいたい幸せになれたわけです。まあ人並みかそれ以上の幸せが約束されたわけですよ。ところが今はもうそうじゃない。こういうことですよね。

これからの時代の子どもたちは、処理力だけ磨いても、そういう仕事がどんどん片っ端から奪われていく時代に入っていますので、ということはどうすればいいのかというと、解は2つしかないわけですね。

AIやロボットにできること、できないこと

(まず1つは)基礎的人間力を磨くこと。ここについては、わりとAIが苦手かもしれないので。例えば、本当に人間味のあること。ちょっとおもしろいから、みなさんにやってもらおうかな。

(指を動かしながら)目の前でちょっとこういう指の動きをしてみて。ここからいきなりですが、こういう蛙って作れる? 指をこうやって組み合わせて作る蛙ですね。カメラに写らないと思いますが、その展開で小指を立てて耳を出して、親指立ててブルドックというこの変化。小学校の時は、こういう指遊びをしたかなという人は、ちょっと手を挙げてみて。

(会場挙手)

ですよね。日本では非常に指の動きとかにすごくこだわる民族で、こういう影絵もそうですね。インドネシアやタイなどもそういうところがあるんだけど、この指の動きね。今、どれくらいの方が蛙からブルドックの変化ができたか知らないんだけど、この指の今の動きは、最先端のロボット科学者が「まず藤原さん、10年無理だと思う」と。これが1番難しいの。

例えば、腕力や脚力は今もサイバースーツやパワードスーツが出ているじゃないですか。そういう腕力や脚力はかなり早くに置き換わったり、サイボーグ技術として、それを痛めた人に替わりにパワードスーツを着てもらうというのが、たぶんどんどん出てくるでしょう。

指については、ロボットでやろうとしたら、アクチュエーターというモーターを入れることになるんだけど、この人間の関節って縦だけに動いてないのね。斜めや横の動きができないじゃないですか。さらにいうと、指を使った細かいこういう所作、それから絡めるという作業。

それから撫でることでなんとなく癒やされる。この体温みたいなものが(ロボットにはできない)。この指周り。飴細工師みたいな仕事は、やっぱり人間がやったほうがきっと売れると思うし、ロボットで、工場でガンガンガンガン飴細工作ってもそんなに高くは売れないよね。

目の前でやるから、やっぱりヨーロッパの人なんかもパリでやっているのを感動して買うわけなんでしょ。たぶん。

ヒューマンケアは人間ならではの強みが発揮される領域

そういうところから、指圧なども僕はけっこう残ると思うんですよ。AIを搭載して達人の技を再現しましたというマッサージチェアがあるじゃないですか。僕はそういうものに座っても満足しないの。やっぱりわけわからないあの穴の空いたベッドに寝かせられて。

(会場笑)

上からギュイギュイっと、それでツボに指が入ってきて、キュッキュッっていう痛気持ちいいという、あの感覚は残るんじゃないかと思うんですよね。何となくやっぱり温かいというところも含めて。とにかく僕が恐ろしいのはロボットにやられて、ギュッとツボに入ったはいいけど、そのまま故障されたらどうするんだみたいな(笑)。

(会場笑)

そういう恐怖もありますので、やっぱり整体師とかそういうのって、今若い人がけっこう増えてますよね。僕はけっこう技のあるやつはもつんじゃないかと思う。

1時間で昔6,000円だったのが2,980円が相場になっちゃったけど、ここからやっぱり技のある人とない人に分かれて、技のある人の単価がぶわーっと上がってくるんじゃないかと思うんですよね。

そういうところから発想してもらえれば、例えば、その延長で本当にヒューマンケアな仕事。保育はどうですか。あるいは医療よりも看護の仕事。あるいは介護。

そういう仕事は、かなり基礎的人間力が要求される仕事だし、あるいは微笑みが素敵とか、今まではビジネス上ですごいとかなんとか力と言われなかったような、そういう人間の人間たるところ。微笑みが素敵だったり、その人・その子がいるだけで癒やされるとか、優しさが半端ないといったことですね。

そういうものは今までは市場化されなかったり、あまり注目されなかったと思うんだけど、僕はロボット社会が深まれば深まるほど、ロボット・AI社会が深まって、逆にこの基礎的人間力がクローズアップされると僕は思います。わかります?

新幹線で急病人が出たときの対応の難しさ

そういうことで、人間としての所作は、すごく大事なものです。基礎的人間力ね。それともう1つ、さっきの車掌の仕事に当てはまるんじゃないかと僕は見ているのですが、要は想定外の仕事がガンガン起こったり、事実相反で板挟み問題が続々と出題されるような、そういう職場の仕事は残るんじゃないかなと思っています。

どれぐらい残るはかわかりません。10年は残ると思っています。でも、20年したらわからない。

例えば、この間、奈良に住んでた時にこういう体験をしたんです。東京に出張する時に、奈良からだと京都から新幹線に乗るんですよね。のぞみに乗るので、次は名古屋なんですが、乗ってしばらくして社内で放送がかかりました。これは僕は初めてでした。

何百回も新幹線に乗ってますが、初めてです。航空機ではたまにあるんですけど、医者がコールされました。「お医者さんいらっしゃいますか。何号車で病人が出まして、お医者さんがいらっしゃいましたら名乗り出ていただけますか」みたいな。

当然車掌が行ってますよね。様子を見てますよね。医者がくるかこないか。それから何科の医者がくるかで対応が変わりますよね。

さらに個人がどの程度自分の状態をわかっているか。意識がなくなるようなことがあれば、どこでも緊急停車してすぐ搬送しなくちゃならないんですけど、例えば、本人が名古屋まではもつと言っているとか。こういうものはすごくややこしい。

持病がわかっていて、てんかんみたいなものだったら、静かに頭を打たないようにして待っていればいいんですけど、そういうものの初動の訓練は、車掌さんもしているんじゃないのかなと思います。

あるいはAEDを使う必要があるのかないのかという話。そうじゃない場合、名古屋までもつかもたないか。もたないのだったら、どこの駅に緊急停車するかというようなことを判断しなければならないわけじゃないですか。

仮説をたて行動できるのが人間の力

その1人に思いっきりパワーを割いて、思いやりでがんばりたいんですけど、それをやればやるほど、時間をかければかけるほど、他のお客さんに実際に迷惑がかかるわけで、出張でも何時に会議が始まるという人もいるでしょうし。あと、もしかしたら羽田から海外行き飛行機に乗り継ぐ人もいるかもしれないですね。

ということは、その人ひとりにどれくらい時間をかけて、どれくらい丁寧にやるかということ。あと、そこでダイヤの編成が変われば、電車を待ってる人、その電車を使う人や他の列車にも影響が出るわけだから、膨大な迷惑がかかる。

そのバランスじゃないですか。わかります? こっちをとったらこっちの時間が取られていく板挾み問題とかね。こういうのが頻繁に残るようなところには、おそらく一つひとつの状況の変化に対して一番良いデータ、つまり正確無比な素晴らしいデータが入ってくるとは限らないですよ。わかります?

要するに、相当に時間が制約されている中で判断しないといけない。いくつもいくつも判断しないといけない。言ってしまえば、いい意味での人間の冗長性やいい加減さ。大雑把でガッと判断してしまって、後からその行動に対して責任を取るというのは、人間にしかできないことだと思います。わかります? 

ロボットに正確な情報が全部入ってくるんだったら判断できると思うんですけど、そうじゃなくて、後で責任取れと言われても困るじゃないですか。ロボットに責任取らせられるんですかね? たぶん無理ですよね。

というわけで、そういう仕事は先ほどから出ているような、とにかく想定外の状況が起こったり、あるいは板挾み問題で正解が一つじゃないようなところに納得解を続々出していかないとダメなの。

仮説を出して、行動してその責任を取らなきゃならないという力が情報編集力だということです。わかります? というわけで、要するに処理型の業務はどんどん奪われていき、人間としての基礎的人間力と情報編集力の部分を磨かなきゃいけないというこの感覚、分かってもらえましたか? いいですかね、はい。

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