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日本再興戦略~広告業界が取るべき未来戦略とは(全4記事)

人は自分が理解できないものを恐れる 落合陽一氏が語る、魔術化時代に求められるコミュニケーション

2018年5月14日~17日、「Advertising Week Asia2018」が開催されました。マーケティング、広告、テクノロジー、エンターテイメントなどの幅広い業界が集い、未来のソリューションを共に探索する、世界最大級のマーケティング&コミュニケーションのプレミアイベントです。本セッションでは、メディアアーティストの落合氏が登壇。さまざまなテクノロジーの進化がある一方で、少子高齢化や人口減少などの課題を抱える日本。今後、世界の中で日本が再興するにはどんな戦略が必要なのか。魔術化と自然化の時代に、メディアが担うべき役割について語りました。

日本古来の美的感覚

落合陽一氏(以下、落合):最後に……時間オーバーしてて恐縮なんですけど、これだけは言わせてください。最後にですね。そういった意味で「我々は日本風の古典的な美的感覚や価値というものをどうやって取り戻すか」というのが、僕が抱えているもう1つのミッションです。

例えば侘び寂びだとか、金継ぎだとか、日本は古来から美的感覚を持ってきています。ただ1900年以降の欧米化によって、おそらくこういった枠組みは失われてきてしまっていると。

僕はメディアアートのポジションなんですけど、我々がスマホ時代を経たあと、そういったメディア装置、メディアアートを考えながらどうやっていくかということをやっています。

僕が思っている今のアプローチは、例えばどうやってそういう人工知能を使ってものを作るとか、もしくはハードウェアを使ってものを作るかという、そのクリエーションをどうやって日本の美的感覚に乗せるかということを考えています。

例えば僕は、今日も着てるんですけど、山本耀司さんの服が好きなんですよ。だから、山本耀司さんが死んじゃったら悲しいじゃないですか。でも、人間はやがていつかは死ぬわけですよね。

でも、そうなったらどうやってデザインを復元するかと言ったら、今までデザインスケッチを描いて、パターンメイキングをして、服を作って、ファッションショーをしてたんですけど。その膨大な蓄積データがあったら、ファッションショーの写真からデザインスケッチを起こせるかと行ったら、おそらく起こせる。起こしたデザインスケッチからパターンメイキングをして、服を作ったらできるかと言うとできるんですよね。

(スクリーンを指して)「どれが山本耀司の服かわかりますか?」ってファンに言うと、「3番は山本耀司みたいだね」って言う。でも3番は我々が作ったディープ耀司なので、山本耀司さんの服ではないんですけど。

(会場笑)

非常に良くできている。でもこれって、人間がいなくなってもデザインが描けるかって大きな問題に近しいし。出てくるデザインも順次、高精度になっているわけです。

実際にファッションショーをやったやつと比べてみると、そこそこ良く描けてる。パタンナーに渡せば、これでだいたい服作れるんですよね。「足この丈で、このスタイルで、これで、これで、こうか」みたいなことができる。

でも、これって1つの自然化じゃないですか。つまり何回も何回もプロセスがコンピューターの中で働くことによって、ある人が持っていた手グセだとか、そこにあった本質というものが絵になって描けるようになってきて、その自然化したアプローチという問題をどう扱っていくかということが重要です。

つまりテクノロジーを経たあと、侘びで不揃いかもしれない、繰り返して得られた形質かもしれない、そういったような回り回って繰り返して得られた形質、デジタルやテクノロジーやそういうものを得た形質というのが、美的感覚となって徐々に出てくるわけです。

例えばそういったものを借りながら、僕は作品を作っています。例えば借景、空間の中にパキッと切り出して見えるようなディスプレイだとか、もしくは作品というのはどういう意味をもっているかとか。

はたまた、そういう風景を切り出すような枠組みというのは日本のアートのうちの1つ、例えば丸窓を作ったりだとかあるわけですけど。そういうものの中で、僕は風景とずっと対峙してきました。

アートや広告に含まれたメディアメッセージ

最後に広告の事例を1つご紹介したいと思っているんですが。この前TDKさんの広告でADKさんとやらせてもらったプロジェクトで。アンディー・ウォーホルの広告を覚えている方がいらっしゃるかわかりませんが、昔TDKさんの広告でアンディ・ウォーホルが「赤、緑、群青色、きれい」って言ってた広告があります。

これって僕の中ではすごく印象的な広告です。ここに持ってるメッセージってめちゃくちゃ強いなと思います。なんでかと言うと、アンディー・ウォーホルはアメリカのポップアートを作ろうとしたわけです。

つまり、アメリカの中にあるキャンベルスープとかマリリンモンローみたいなものが、どういうアートとしての意味を持っているかということを考えているわけです。それはアメリカの芸術です。でも、僕らはそういった意味で日本の芸術を今の最先端で持っているかと言われたら、それを考える(ことは)たぶん正しい。

そんなときに僕が着目したのは、彼が作っていたシルバークラウズっていうアルミ風船のインスタレーションなんですけど。アンディー・ウォーホルにはめずらしく、すごく物質的な作品なんですよね。これは1つキーだなと思って。それをモチーフに作品を今作るとしたら、どういうプロジェクトができるのか。

あのカラーバーはアンディー・ウォーホルのカラーバーなんですけど。カラーバーや映像といったものを借景として捉えて、空間にある映像がパキッと出てくるのって丸窓を開けたりとか、窓を持ってきたりとかすることに非常に似ている。それにコンピューターを使って最適化させた波動のかたちの彫刻を、瓶彫刻にして浮かせて作る作品を僕は作った。

このコミュニケーションがすごくおもしろいと思うのが、僕はこの広告の仕事を受けたときに、「落合さんの好きなものを作ってください」と言われるわけです。これはアーティストがアーティストとしてものを作っているんです。

アーティストがアーティストとして自分の文脈を考えながらものを作っていることを、広告にのせてメディアメッセージで発信しているというのは、さっきやったアートとデザイン、サイエンスとエンジニアリングの間の垣根として、僕の感覚ですごくトガったものを作るということと、そのトガったものをどうメッセージに変えるかの変換プロセスが、コミュニケーションとしては非常におもしろいなと思っています。

鯖の擬態に見る侘び寂び

でも、こういうようなものを使って、僕が今アートの枠組みでやっているものは、例えば今表参道で個展をやってますけど。日常に置けるような、例えば床の間に絵画や掛け軸があったり、床の間に花瓶があったりするように、我々の生活の中にぽっと置けて、買えて、置いておくようなものは昔の日本はあったわけですよ。

だけど今の日本にはたぶんあんまりない。それはどういう意味かと言うと、絵画をかけられるのはリビングルームくらいですね。ベッドの横にちょっと置き時計でも置いてあるところに芸術作品を置くか? でも、置けるようなかたちの芸術作品を作らないといけない。

僕は今回のアート展ではそんなでかいものは作ってない。ひたすら小さいもの、10センチ、20センチ、30センチの上に乗るものをひたすら作っているんです。でも、そういったものというのはすごく意味を持つと思います。

我々は1900年代の頭まで普通にそういった工芸品や民芸品や芸術的なものを生活の中に置いていることが普通だったからです。花を生けるのは普通だったし、それを床の間に飾るのは普通だったわけです。

そういうジャパニーズの文化を持ったもの、それをメディアを使ってやろうが、絵画の枠組みでやろうが、古典的な絵の枠組みでやろうが、それはあんまり関係がない。それは綿々と受け継がれる1つの文化の到着点だと思います。

その中で1つ印象的な作品が僕の中ではあって、鯖なんですけど。鯖の銀箔の絵なんです。これ何かと言うと、上に鯖の模様があるんですよ。

なんで鯖はこの模様になったかと言ったら、自然の中で上から来る敵には波の形に擬態するのがいいじゃないですか。海の中だからね。お腹が銀色になっているのは、上に太陽が見えるから太陽の方向に擬態したら銀色になるわけですよね。

それを横から切り取ったら風景画になると思ったんですよ。どういう意味かと言うと、擬態した海と擬態した空があったら、横から取ったら風景画です。ふだん敵は上から見てるから波の擬態だし、下から見たら太陽の擬態。でも横から見たら水平線の風景画じゃないですか。風景画を切り出していく。

この風景画がなんでできちゃったかと言ったら、何千万年もかけて遺伝子が伝わるデジタルなプロセスの中で、彼(鯖)は風景を写し取ってしまったんです。さっき山本耀司の絵が出たように、風景を体に刻印されてしまったという。非常にネイチャーだなと思うし、それはデジタルだなと思うわけです。

それが擬態する風景っていうのに、彼はカメレオンじゃないから常にリアルタイムにアップデートはできないけど、そこをビジュアルに作っている。これは非常に侘びてるし寂びてるなと思うわけです。

魔術化時代に求められるコミュニケーション

そういったような展覧会などをやっているわけなんですけれども。我々が本来持っていたようなダイバーシティ、その中にはアートもありメッセージもあり、もしくは独特の社会があったわけですけど。

そういったものを、メディアメッセージを考える際に、マスメディアってインフラが撤退したら撤退するように見えるじゃないですか。でもこれは撤退するんじゃないんですよ。たぶん今言ったような細かいアートの枠組みだとか、カルチャーの枠組みを維持しながら続いていくんだと思います。

というわけで今日は撤退戦やソフトデザイン、過分な例をやりながらいろんな話をしてしまったんですけれども、枠組みとして……これ写真タイムですけども。最後にもう1回だけ強調したいことは……ちょっと待ってね。最後に1つだけ言わせてください。

最初に言ってたこの枠組み。最初はわからなかったと思いますが、さっき鯖の絵とか山本耀司の絵とか見てると、だんだん計算機が外に対して自然化してくるというのがわかると思います。

つまり何回も何回も繰り返し最適化してくると、自然に起こったこととテクノロジーを使って起こったことがほぼ同一になってくる。でもここで1つ重要なのは、そういったことが起こってるよって、ちゃんとコミュニケーションしないと、おそらくものすごく怖いものになるんですよね。

「AI、怖いよ」とか。どうでもいいんです。AIは怖くないんです。でも怖くないって知ってるのは、僕が(それを)やってるからであって。じゃあそれをどうやってコミュニケーションしていくかというのがおそらく重要。

社会の問題や新規に出てきたものは、コミュニケーションしたりとか、情報伝達の枠組みの中で伝えていかないといけない。もちろん稼ぎどころはパーソナライズかもしれない、だって車を買うときに万人へメッセージを発しても車を買ってくれないかもしれない。それは、パーソナライズすればいいんです。

ただ僕は、自動でドライバーが乗ってない車がそこら中を走ってたら、一瞬怖いなとたぶん思います。しかしながら、それはメディアメッセージとして発信していく意味があるし、そういったマスとパーソナライズが互いに行き交う社会というのが、魔術化・自然化時代の方法なんじゃないかなと思っています。

ありがとうございました。

(会場拍手)

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