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小霜和也 × 本田哲也 トークイベント(全5記事)

博多華丸・大吉のPRキャンペーンはなぜ拡散したか カギはインフルエンサーの「やらされ感」がないこと

小霜和也氏著の『急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。』の刊行を記念したトークイベントが2017年10月3日に行われました。登壇したのは小霜氏と、ブルーカレント・ジャパン社長の本田哲也氏。広告とPRのプロが「デジタル時代の新しい広告✕PRの掛け合わせ方」をテーマに語ります。

「1-9-90」モデルとは何か

本田哲也氏(以下、本田):2つ目のポイントです。インフルエンサー。ここも語りだすときりがないですけれど。ソーシャルメディアもTwitter、Facebookときて、最近はInstagram。それぞれでYouTubeだったらYouTuberのようなインフルエンサーが台頭してきています。PRの領域における昔からあるインフルエンサーです。

お医者さんや有識者と組んでファクトをつくるというのは、普遍的にあります。しかし、強化系インフルエンサーはすごく発達していて、今で言うとインスタグラマーやYouTuberが代表格で、先ほどの博多華丸・大吉さんもそうです。酒飲みインフルエンサーとしての博多さんたちはこっちに入る。

このアプローチの仕方は、1つ言うと「1-9-90」モデルというのがあります。アメリカだと「One Nine Ninety」と言われてます。つまり1パーセントの人と9パーセントの人と90パーセントの人に分けられている。

1パーセントの人は情報やコンテンツをつくり出す人である。これはソーシャルメディア内の調査によって逆算されて、算出された結果です。次の9パーセントは、この1パーセントをフォローしていて、かなりの頻度で拡散する人。これが「シェアラー」と呼ばれる9パーセント。

そして実は、90パーセントというのは、だいたい見ているだけの「リードオンリー」と呼ばれますけどそういった人たちです。「1-9-90」という図式をどう上から展開していくかが大事です。

最近、近いことをやったのがユニクロさんです。「UT Picks(ユーティー ピックス)」というキャンペーンでやられたんですけど。「UT」ってご存知だと思うけど、ユニクロのTシャツですよね。なんとなく「デザインが違うだけで全部同じじゃないの?」と思われている「UT」が、実はいろんなサイズというか形のデザイン、素材があるんだということを伝えるPRなんです。

これはもうほぼインフルエンサーしか使っていない。さっき出てきましたけども、20人のTOP OF TOPのインフルエンサーをセレクトしている。そこには又吉さんみたいなタレントさんも含まれているんです。

ほかにもスタイリストやDJなど、そういった人たちにTシャツを選んでもらって、それを動画にするということをやっていました。その何万人、何十万人いるフォローワーがそれを購入していく。

購入した人は、それをまた当然インスタに上げたり、Facebookを通じて拡散したりすることが起きた。さっきの「1-9-90」みたいに意図的に落としていく過程で、「UTはいろいろあるんだね。思ったよりそんな画一的なデザインじゃないんだ」みたいなことをブランディングしていくキャンペーンだったわけですね。

私の話はここまでにしますけど、デジタル時代のPRというと、かなりいろいろあります。パブリシティさせる露出の話と、生身の人間であるインフルエンサーをどう使うかという、この2点がけっこうポイントだろうと私としては思っているわけですね。

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広告とPR、アプローチ手法の違い

司会者:この後はお2人の会談のパートに移ります。申し遅れましたが、宣伝会議の編集をしております刀田と申します。小霜さんの本のこともさせていただいておりまして。

急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。

本田:決算に間に合ったということですよね?

司会者:さっきの話ですね。はい。おかげさまで間に合いました(笑)。今日は広告とPRの最前線のお2人にきていただいて、それぞれの考え方を今お聞かせいただいたんですけども。

やっぱりアプローチがぜんぜん違うと思いました。PRって、ターゲットに物を買ってもらいたいとしたら、ターゲット以外の周りの人も含めて、考え方を変えて空気づくりをする人を囲っていく感じのものだと思うんですけど。

小霜さんのさっきの「VAIO」の宣伝は、買ってほしい人にダイレクトに広告を当てて、パワーで買ってもらうもの。そういう売り方の違いなのだなと思いました。

その2つが組み合わさって、空気をつくった上でさらにそういう広告的なアプローチがあると、すごい効くんだろうなと。2つ合わされば最強だなと思いながら聞かせていただいていたんですけども。

お2人にそれぞれクロスで質問してみたいのですが、例えば小霜さんはふだんのお仕事の中ではPRをどのぐらい意識されたり、実施されたりしていらっしゃるんですか?

小霜和也氏(以下、小霜):大きなキャンペーンになると、以前と違ってもう普通に戦略PRは入ってきます。

司会者:「デジタルの時代になったから、PRも当然やってくださいね」という感じですか?

小霜:それはデジタルということとは関係なく、本当に空気づくりというか。そういう意味で「広告と戦略PRと2本立てで」みたいな、きっかけです。やっぱり餅は餅屋なので、PRはPRに長けた人たちがやるべきだろうということで、僕はあまりそこには関わらないんですよね。

司会者:そういうPRの専門家と一緒に考えながら企画もしながらやっていくみたいなことですか?

小霜:エージェンシーさんの仕切りの仕事だと、僕とPRチームが一緒になってやることがあまりないですね。そういうことなので、PRの知見は少ないということがあるんですけどね。

司会者:では、先ほど見せていただいた「零ICHI(ゼロイチ) 」の博多華丸大吉さんのPRの施策は、お仕事の中でも、ちょっとめずらしいパターンだったという?

小霜:あれはPR会社もなにも入ってないので。

司会者:自前でPR動画をつくったということですか?

小霜:「おもろいものをつくらなければいけないな」ということだけでつくったものなのです。

インフルエンサーのやらされ感がないことが大事

司会者:ありがとうございます。本田さんはふだんのお仕事の中で広告とセットでキャンペーンを企てるということが多いと思います。本田さんのお仕事の中で広告に関わるというのは、どういうかたちで関わっているのでしょうか。CMの企画などもされるんですか?

本田:そうですね。2パターンあります。今、小霜さんがおっしゃられたように、とくに広告のクリエィティブ周りがそれはそれで進んでいて、それを補完するというか、もっと広いところでやるPR企画が同時進行しているという。代理店さんの仕切りだと、その両方を見ていなければいけないことになるパターンもあります。

あとは、5年前とかはほとんどなかったと思いますけど。最近やっぱり増えてきているのは、全体の設計を基本的にはPR会社であるうちに話がくる。「全体の空気づくりみたいなのはこうしましょう」と。

そして最後にプッシュでいく広告のところは、こういうメッセージ。それをクリエイティブチームに我々のほうから依頼するという。だから、前と逆なんですよね。そういうものと両方ありますかね。

司会者:広告主導というより、PR主導で進めていくような?

本田:どちらを先に決めるかの話かもしれません。しかし、どっちが偉いということでもないと思うから、補完して成果を上げていくことを誰が考えるかですね。

司会者:そうですよね。先ほど「SNSでたくさん『零ICHI(ゼロイチ)』のことが拡散されました」という例をご紹介していただきましたけども。ああいったSNS施策というのは本田さんから見るとインフルエンサーの範ちゅうですか?

本田:さっきのですよね。あれは小霜さんはインフルエンサーだとかPRということを、そんなに意識されずに「とにかくやっぱりおもしろい物をつくらなきゃ」ということでつくられていたということでした。

そこから見て思うのは、結果的には博多華丸・大吉さんたちもSNSで拡散しているのがよくわかる。なぜなら、PR的にいうときのインフルエンサーとのつきあいの仕事で一番大事なのは「インフルエンサーがやらせられていないこと」なんですよね。

基本、お金が介在したりしなかったりがあるわけなんですけど。見え方としてですよ、知名度もあって影響力もある人なんだけども、完全にやらされている。その人たちのSNSで投稿とかそんなものじゃないけど、「xxさんはこれは嫌々拡散している」「あまり上げたくないことも上げている」みたいなニュアンスが出るじゃないですか。

そういうのは逆効果でだめだということになる。そうすると、実はコンテンツや動画をつくるときは、究極は「本当にその人がネットに上げるだろうな」というものに仕上げていかないといけないという工夫ポイントがあります。

それでいくと先ほどの博多華丸・大吉さんのやつは、タレントとしてすごく「零ICHI(ゼロイチ)」を宣伝しているというのではなく、酒飲みであり本業の芸人で超おもしろいということに純粋に準じてコンテンツを立てたんでしょうね。そこはインフルエンサーのSNSにあがって、自然に拡散して……190万回でしたっけ? それはすごく頷けるなと思いましたけど。

おもしろければ消費する

小霜:インフルエンサー・マーケティングって、ちょっとステルスマーケティングに寄っていくところがあるじゃないですか。自然に振る舞って「私、この商品使ってよかったのよ」みたいなことを言ったら、「ステマだろ」とすぐ言われちゃうところがある。

先ほどお見せしたのは、もうカルトの広告じゃないですか。カルトの広告みたいなものが、案外インフルエンサーマーケティングみたいになっているということがあるんですかね。

本田:そうなんです。ユーチューバーさんたちもそれと同じようなものがあります。なにかYoutubeとユーチューバーだと、商品いじったりしますけれども、「xx提供」「ボーン!」と出ると、ある種「広告ですよ」という感じでやっているんだけど、見ている人は広告だかPRだかは何だか関係ない。

ただおもしろければ消費するわけじゃない? だから、そういうところで言うと一周回ったというか、変に隠している感じよりも訴求するというのはあるんじゃないですかね。

小霜:中国の動画で「この商品すごいいいよ、いいよ」とおすすめしてくるKOLって人たちがいますよね。これもそれをやることによって利用権を得ているわけだから、オーガニックなものではないんですよね。

本田:そうですよね。

小霜:でも、すごく支持されていて、商品の購買に影響を与えるということがあるんですけど、これも1周回ってみたいなことなんですかね。

本田:中国ですか? 中国は僕はなにかちょっと違うなと思ったのは、先入観を持っていただくとアレですけど、けっこう露出の話だったりしますよね。だから、インフルエンサーを使っているっていうんだけど。実はもともとのアドで同じ情報はできるだけ一気にガーと世に出そうと。中国ではEコマースとインフルエンサーがすごく、くっついているんです。

ソーシャルコマースも発達していて、とにかく情報を……昔の日本のアフィリエイトみたいなものですけど、それで売れるというのはあるみたいですね。だから、深い意味でのインフルエンスというよりも、露出の量みたいなところはけっこう大事になってくると思うんですよ。

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