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グラスタアカデミーvol,2「ベテラン女性広報が語る、若手の頃の勢いだけでは終わらせない広報術」(全5記事)

サイバーエージェント広報が実践する、時流と社流を繋げ合わせたゼロからのネタ作り 

株式会社グラニが主催するグラスタアカデミー。第2回は「ベテラン女性広報が語る、若手の頃の勢いだけでは終わらせない広報術」をテーマに、株式会社サイバーエージェント・上村嗣美氏、リノべる株式会社・田尻有賀里氏が登壇。10年以上の広報経験があるベテラン広報の2人が、広報のネタ作りについて語りました。

“情報を持っている人”になる

石根友理恵氏(以下、石根):では次のご質問に移らせていただければと思います。「広報の業務にあたるにあたってネタ作りをどうやっているか」というテーマをおうかがいしたいと思います。

プレスリリースやサービスリリースなど、なにかネタがある時以外に、ネタを捻出して会社をアピールすることも、広報の仕事の1つだと思うのですが、そのやり方も含めておうかがいできればと思います。

では、まず田尻さん、いかがでしょうか?

田尻:さっきの話と重なってしまうんですけど、ネタ作りは社内のキーパーソンといかに繋がっているかとか、自動的に情報が入ってくる仕組みを作れるかということですね。それは社内だけじゃなくて、社外から情報が入ってくる仕組みも含めてです。どうすればいいかと言うと、1つの方法としては、情報を持っている人になればいいんですね。

よく広報担当者がたくさん入っているFacebookグループとかいろいろあると思います。そういった場で広報さんが「今○○のディレクターさんがこういうネタ探してます」みたいな情報を出して、それに当てはまる企業さんが手を挙げて、ネタを探しているメディアさんに紹介するというやり取りをよく見かけるのですが、それも1個の手段です。

この人に聞くと何か情報が得られる、たくさん人脈やネタを持っているから、自分の企業じゃなくてもネタを持っている人を紹介してくれる。そういう人になると、相談役のように自然と声をかけてもらう機会が多くなったりするんですよね。

あと、他社を紹介しなくても、自社のネタでも聞かれたオーダーに対して与えられる情報が多ければ多いほどすごく信頼を得ます。やっぱり信頼を得るってすごく大事で、「この人に聞けばなにか情報をくれる」と思ってもらえていると強い。それは社内も同じで、「この人に情報を持っていけばなんかいいことがある」という状況を社内外で作るように心掛けています。

もう1つは「世の中の流れに敏感になること」で、そうすると、オーダーに対してキラーパスを投げることもできる。これは今流行っているキーワード、新聞でよく見かける言葉、ニュースでよく聞く言葉に結びつけたネタを投げると、すごく掲載につながりやすいということはあります。

プレスリリース1つ作る時でも、タイトルを考える時でも、そういう流行っている言葉をなにか結び付けられないかなとか、けっこう意識してやっています。

広報からの提案で実現した記事

石根:わかりました、ありがとうございます。こちらに関しては田尻さんが実際に仕掛けられた具体例をご用意させていただきました。

田尻:(スライドを指して)左側のテーマは「働き方改革」。たぶん今年1年はめっちゃ旬なテーマだと思います。「『働き方改革』というネタでちょっと書きたいんですけど、何かないですか? でもいわゆる制度や福利厚生とかではなくて『働き方改革』があったからこそ生まれた勝機、ビジネスチャンスに関わった記事を書きたい」、というオーダーをいただき、「うーん」と考えたんですね。

うちはリノベーションの会社です。働き方改革を推進するような事業ではありません。福利厚生の面で言っても、ベンチャーなので法律で決めらている範囲くらいので制度しかない。そんななかでふと思ったのは、「働き方改革」で、在宅ワークが増えているんじゃないかと。そういう流れで在宅ワークの家づくりというのを思いつきました。

在宅ワークが増えている。それによって、家に書斎もしくはワークスペースを作る人が増えているんじゃないかと思って、「実際にそういう事例を最近やった人っていますか?」と社内でヒアリングしてみたんですね。

今チャットワークを社内で使っているのですが、全社に投げると幸いにも個別に何件か「僕やりました」「私やりました」というのが上がってきたので、これはいけると思って記者さんに提案したら「それおもしろいね」っていうことで、企画になりました。

「在宅ワークが増えていて、家で仕事をする人が増えている。でも、東京の家事情で、家に書斎をつくるのはけっこう難しい。そうするとリビングに書斎スペースを作るようなリノベーションが増えている」そういったストーリーで、日経MJに記事を掲載していただきました。

右側は違う記事なのですが、左下のと右上のものは、2つとも実は提案をした記事で、メディアさんから取材をいただくこともあれば、こちらから提案するかたちもあるという例として出しました。

企画書を出して編集長に通って取材を設定して記事になる、そういったものもけっこう多くて、ポイントは時流、今読者が興味を持っているトピックで提案するというところでしょうか。

石根:わかりました、ありがとうございます。その記事を提案する時について質問なんですけど、記者さんにアポをとって、例えば具体的に、「こういうネタがあるんで、ぜひ話を聞いてください」と売り込むのか、それとも別のやり方をとっていらっしゃるのか……どういうやり方をされていらっしゃるのでしょうか?

田尻:押し売りと提案は違うと思っていて、1歩間違えば押し売りになって、提案になるとネタの1つとして重宝してもらえて、良い記事になるんですね。そこの違いというのは、やっぱり担当の記者さんが何に興味があって、何を担当しているのかということをきちんと調べて、記事ももちろん全部読んで。

その人に合うものや、その人が書いたらバリューが出るような提案をしています。とりあえずアポ電かけて「会ってください」と言って「記事書いてください、新しいの出たんですよ」っていうのは押し売りだと思うんですね。提案っていうのは、その人が欲しい情報をなるべく欲しいかたちで提供する。でも、実際に企画したり取材するのは記者さんなので、作り込みすぎず。

その記者さんにとって、メリットがあるようなかたちで簡単な企画書を提案するというのが、お互いにとっても心地よく、また記事化の確度も上がる方法かなと思っております。

時流と社流を繋げ合わせるネタ作り

石根:わかりました、ありがとうございます。では続きまして上村さんにご質問させていただければと思います。

上村さんの回答は「時流と社流を繋げ合わせるネタ作り」と「ゼロから広報によってクリエイティブする」ですが、詳しくおうかがいできればと思います。

上村:はい、私たちも田尻さんと同じようにメディア側に提案することはもちろんですが、そもそも「会社としてこういうふうになったらいいよね」「こういう会社だと思われたらいいよね」というゴールがあるなかで、会社の今の戦略、流れである「社流」と、世の中の流れである「時流」をうまく繋ぎ合わせて、例えば今社内に転がっているネタを広報が料理して世に出そうとするんじゃなくて、「素材から作っちゃおう」といったことも行っています。

例えば「広報がゼロからネタを作った」という例がこのゲームクリエイター奨学金制度というものなんですけど、当社ではゲーム事業を通じて多くのスマートフォンゲームを提供していますが、単にゲームを遊んでもらうだけではなく、自分のアイデアをカタチにする楽しさを知ってもらう取り組みができないか、ということと、ゲームの適切な遊び方なんかの啓発もきちんと行っていくことが必要なんじゃないかと。

それで、ゲームが好きで、将来ゲームクリエイターになりたいと思っている小学生に対して、そのゲームを作るプログラミング教室というものを提供しようと考えたんです。

奨学金としている通り、半年間のプログラミング教室費用も当社が負担しましょうということで、このゲームクリエイター奨学金制度を、ゲーム事業の担当広報が企画して、実際に実施しました。

どうやって実施に至ったかと言うと、私たちのグループのなかで、小学生向けにプログラミング教室を行っている子会社があるので、この企画を考えたゲーム事業の広報担当が「こういったゲームクリエイター奨学金制度ということを一緒にやろう」と話をして、社内調整の上、実現させました。

実際にゲームクリエイターになりたいという小学生を募集をして、半年間ゲーム開発に必要なプログラミング学習を無償で提供し、当社のスマートフォンゲームの開発現場を見学してもらったり、スマートフォンゲームの担当役員である副社長や、ゲーム事業のCTOと奨学生の交流の場を設けたり、ということを行いました。

実際に「ゲームクリエイター奨学金制度というものを始めて、 奨学生を募集します」というプレスリリースを出したら、NewsPicksでたくさんピックされたり、Twitterでも「これはすごくいいな」「こういうものが自分の時代にもあったらな」といった、好意的な声が多く集まったんですね。

そうやってソーシャルメディア上で好意的な声が挙がったと同時に、実際に開発したゲームの発表会や、社内見学の様子を取材してもらったり、といったことを行いました。

これは事業部からこういったことを企画したので広報してください、と依頼されたものではなく、広報が完全にゼロから企画して、実現させた取り組みになります。

ゼロから作ったプロジェクト

もう1つご紹介をすると、これは本当に「時流と社流を繋ぐ」というところと、「ゼロから作りました」という例なんですけども。(スライドを指して)昨年ですね、世の中で「保育園落ちた日本死ね」というブログが話題になりました。

私たちの会社は今、ママ社員が150人くらいいて、私も出産して2年前に仕事復帰してるんですが、それまではなんとかかんとかみんな保育園に入れていたのに、昨年、保育園に入れずに育休期限を迎えてしまい、結局退職するという例が初めて出たんですね。

仕事を続けたいのに仕事復帰ができない、これは会社としても問題だよね、そして世の中的にもこういったブログが話題になっているよね、と。であれば、ここに手を打つ制度を作りましょう、ということで、人事を中心に広報も一緒のプロジェクトとして人事制度を考え、結果的に認可外保育園補助という制度を2016年6月につくったという例になります。

この認可外保育園補助は、実際にテレビなどで紹介されました。今保育園に入れないという問題がある、そこにサイバーエージェントという会社はこういう制度を作った、というものです。

世の中でブログが非常に話題になっている、実際に保育園に入れない人が増え興味関心が高い話題、ということと、社員が安心して働き続けられるようにする、という社内の課題解決ですね。そこをうまく結びつけて作ったことが、記事にもなり、もちろん社員もハッピーになるし、世の中的にもサイバーエージェンとはきちんと働く女性を支援する会社だと伝わったという例になります。

こういったゼロから作っていくっていうことは、単なる話題作りだけでなくきちんと会社の課題解決が必要なので、私たちも本当に試行錯誤なんですけれども、これをやるには田尻さんもおっしゃっているように、社内とのリレーションがすごく大事です。

さっきのゲームクリエイター奨学金制度も、プログラミング教室をやっている事業責任者と、きちんと直で話ができるようなリレーションがないとできないし。この認可外保育園補助も、人事と広報で密接に連携をして一緒に考えられるような普段の交流というか、リレーションがないとできなかったかなという例になっています。

石根:わかりました、ありがとうございます。

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