2024.10.10
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アダム・グラント氏:アイディアを売り込む際に起こるもう1つのことは、自信満々になり過ぎてしまうことです。あなたは、このアイディアがこれまでにないすばらしいものであると考えます。そうして、あなたのアイディアに賭けてくれるよう、他人を説得します。強みを強調して、このアイディアが世界を変えると熱く語るでしょう。少なくともあなたの世界を。
ルーファス・グレスコという起業家に会った時、とても驚きました。ルーファスはたいへんおもしろいことをしました。
彼に初めて子供ができた時、とても戸惑いました。これまで彼が聞いた「両親になるということ」はすべて嘘であると発見しました。夜は眠れないと誰も注意してくれなかったし、常にある自信のなさと自己弁解の感情についても、誰も教えてくれませんでした。そこで彼は、子供を持つことの真実を伝えようと考えました。
彼はBubbleというウェブサイトを設立して、これを実現しようとしました。資本金を調達する必要があったので、投資家を回って売り込みました。
彼はこういう売り込みをしたのです。それは「Bubbleに投資するべきではない3つの理由」でした。こうして、彼はベンチャーキャピタルから3,100万ドルの資金調達に成功したのです。なにかが起こっています。
そして、2年後、彼はディズニーを訪れ、「私の会社を買収したほうがいいと思います」と言いました。ここでは、「Bubbleを買収するべきではない5つの理由」を話しました。結果、ディズニーは4,000万ドルでBubbleを買収しました。
一体なにが起こっているのでしょうか。
これほど短い期間で成功した人間はほかに見たことはありません。
「私のすばらしいアイディアについて話をします! 本当に酷いです! 投資するべきではありません!」
このようにアイディアを売り込む人は誰もいません。ルーファスが成功した理由の1つは、意外性です。注目を集めるためのトリックを使って、投資家たちの注目を集め、後に潜在的な買収企業の興味を引いたのです。
否定するほうが興味を引くのはなぜか、これは心理学です。
ここで幸福度調査をしてみましょう。あなたの人生を振り返ってください。人生においてすばらしいことを3個考えてください。リストを作ります。みなさん、少し時間をとって考えてみてください。人生ですばらしいこと3個です。
まだ考え込んでいるみなさん、今この瞬間、オースティンでの経験がすばらしいものではないのか心配になりますね!
いいでしょう。ではこれが1つです。次に37個、人生においてすばらしいことを考えてください。どうぞ、やってみてください。37個です。すでにある3個のリストも使って、34個足すだけです。
この実験を初めて行った時、人生ですばらしいことをたくさん思いつく人は、当然幸福だろうと思い込んでいました。無作為に人々を選んで、3個またはそれ以上の数を割り当てました。そして、人生でどれほど幸福か尋ねました。私はとてもショックを受けました! 実際には、数多くすばらしいことを挙げた人ほど、不幸だと答えたのです。
エイモス・トベルスキー氏をご存じの方には、これは利用可能性ヒューリスティックと呼ばれるものだとわかるでしょう。簡単に想起できることを基準にして、一般的で重要または代表的だと思い込んでしまう偏り(バイアス)です。簡単に思いつかないことについては、滅多に起こらず、重要でも代表的でもないと思い込みます。
つまり、人生における3個のすばらしいことは、すぐに思いつくので、「私の人生はすばらしい!」と感じます。一方で、37個挙げなければいけない場合、平均8個目か9個目でネタが尽きて苦しみます。「なんてことだ! 私の人生はひどいものだ!」と感じるのです。
これは逆も当てはまります。人生において3個悪いことを挙げてください。シンプルな作業ですが、その瞬間、自分の人生は最悪だと感じるでしょう。
もっとたくさん悪いことを挙げるには、より頭をひねらないといけません。時には、「私が思ったほどには悪くないかもしれない」と言うかもしれません。
この原則は人生のあらゆる分野に適応できます。
私のお気に入りの実験は、政治家です。トニー・ブレア氏を例にしましょう。イギリスの人々はこう質問します。「トニー・ブレア氏に関して2個悪い点を挙げてください」または「5個悪い点を挙げてください」。その後、どれほどブレア氏を好ましいと思うか調べます。5個悪い点を挙げた人の方が、2個悪い点を挙げた人よりも、好感度は高いという結果になりました。
実は私もこれを自分で試してみました! どう作用するのか知りたいという好奇心に駆られたからです。まず2個考えました。「トニー・ブレア氏は私よりもクールなアクセントで話す」「私よりもずっと年上なのに髪がふさふさだ。なんてことだ!」。次に、5個考えてみました。少し頭をひねる必要がありました。すると、「彼はそれほど悪くないね」と感じるのです。
まったく同じことが、ルーファス・グレスコにも起こりました。彼が投資家にBubbleを売り込んだ時です。通常は、投資家にとって企業の欠点を指摘するのはとても簡単です。タイトルのスライドを見ただけで、プレゼンテーションを遮って「君のビジネスがうまくいかない基本的な欠点を2個も挙げることができる」と言えます。
しかし、投資家たちが思いつく点はすでにルーファスが提示した「投資するべきではない3つの理由」にあるのです。そうなると、別の懸念事項を考え出さないといけません。これは骨が折れます。欠点を探して考えれば考えるほど、「欠点が見つからないなら、このビジネスは悪いアイディアではないかもしれない」と自分で自分を納得させてしまうのです。
そして、もう1つステップがあります。もしかするとベンチャーキャピタルに特有かもしれません。彼らは、ルーファスがすばらしい起業家であり、頭もよく、自己批評ができるほどバランスがとれていると認めると、今度は彼らがどれほど優秀か彼に思い知らせたいと考えます。問題を指摘することで、それを見せつけることはできません。彼はすでにそれを理解していますから。代わりに彼の問題をすべて解決することで、優秀さを見せつけようとしました。実際に、スポンサーたちはこう言いました。
「ルーファス、あなたは先ほど投資するべきでない3つの理由を言いましたね。私なら、このミーティングの終わりには、その問題を全部解決してあげますよ!」。
そうなると、この企業は並外れてすばらしい企業であると感じ、「投資しなければ」となるのです。つまり、欠点ではなく、美徳を見始めます。
これは人生のあらゆる局面において当てはまります。
高校でディベートクラス(討論の授業)をとった方はわかりますね。意見を主張する時、必ず反対意見にも言及しなければいけません。アイディアを売り込む時だけ、これを忘れてしまうのです。アイディアを愛するがゆえ、または壊れやすいと思うのか、アイディアがしぼんでしまうのを恐れます。だから、アイディアの強みだけをプレゼンテーションするのです。
心を開いてこのように言うことができます。
「見てください。このアイディアはとてもワクワクするすばらしいアイディアだと思います。こういう欠点もありますが、強みが欠点なんて吹き飛ばしてしまうと思いませんか? みなさんと対話を重ね、この問題に取り組む心構えがあります」。
このほうがよほど信頼できる売り込みです。
みなさん、もしかしたら就職面接もこれでうまくいくだろうかと思っていることでしょう。
(面接官「あなた自身を3つの言葉で表すとしたら?」 候補者「怠け者です」)
その可能性はありますね。このようなデータがあります。もし弱点に対する質問に正直に答えた場合、30パーセント採用される確率が高くなります。
マイケル・スコット風(アメリカの放送局NBCで放映された『ザ・オフィス』というコメディードラマの登場人物))に答えるとこうなりますね。「私の弱点を聞きたいだって? 気を遣いすぎること、頑張りすぎちゃうことかな」。
(会場笑)
こういうかたちであっても欠点を進んで認めることができる人は、言葉を聞いてもらいやすく、関心を向けられがちです。
1年ほど前に、とてもおもしろいメールをもらいました。送信者はミッシェル・ヘンセンという名前でした。彼女はとても競争率の高い仕事に応募しました。
彼女はカバーレターの最初に、「私がこの仕事に適していない理由」を書いたのです。「採用条件に、同じ分野での勤務経験必須とありますが、私はありません。広範囲なテクニカル・スキル必須とありますが、私は持っていません。でも、そんなことに関わらず、私を雇う必要があります」。そして、最終的に彼女は採用され、その会社でスターになりました。彼女の物語は、非科学的だと思われることも、真実なのだということを教えてくれます。
ジョージ・クリステンの話をしましょう。「私は無職で両親と住んでいます」というようなことでさえ、採用面接で有利に働くことがあるのです。
(5)異なる採用
質疑応答に入る前に、後2つお話ししたいことがあります。どのように「オリジナルな人」の組織・コミュニティ・チームを作りますか?
オリジナルなアイディアを持つ新しい組織が、新たに人を雇用する時、3つの方法が考えられます。1つは、「必要なスキルを持つ人材を雇うこと」。次は、「スター人材を雇うこと」。彼らは私たちが必要としている分野の専門家ではないかもしれませんが、高い可能性を持っています。頭が切れるでしょうし、業務を学ぶのも早いでしょう。
第3のアプローチはこうでしょう。スキルやスターはすばらしいですが、最終的に必要となるのは「企業文化に馴染む人材を雇うこと」です。価値観を尊重し、責務を果たすことです。
創業者やスタートアップ企業を追いかけると、それぞれ異なった傾向を持つことに気が付きます。もちろん、すべての人材が欲しいと考えるでしょう。でもすべての人材を見つけることができない場合は、階層を作ります。どれか1つを選ばなければいけないとすると、ある人は「スキル人材が優先順位1番だ」と言い、別の人は「スター人材が1番だ」と言い、別の人は「あえて言うなら企業文化への適合がすべてだ」と言います。
スタートアップ企業の足跡を辿ると「企業文化への適合」アプローチがもっともいいことがわかります。創業者が雇用方針を決定してから15年間を追いかけると、「企業文化への適合」を優先して雇用した企業は、絶対的に失敗する確率が低いです。200のスタートアップ企業を調査した研究によると、「企業文化への適合」を優先した場合、失敗確率は0パーセントでした。それだけではなく、IPOつまり株式公開にも有意に差があります。
こう考えると非常にシンプルですね。創業初期における「企業文化への適合」は明らかに調和します。オリジナルなアイディアを持ち、類を見ないほどやる気に満ち、彼らを唯一見つけてくれた企業なので、ほかの場所で働くなんて考えられない。そんな人々を得ることができます。つまり、類まれなるやる気と、才能に溢れた人材を確保することができるのです。これはいいニュースです。
悪いニュースは、この企業が上場した後です。毎年の時価総額を追うと、「企業文化への適合」を優先した企業の成長率はもっとも遅くなります。「なるほど! 企業文化へ適合する人材を最初に雇用して、組織が成長したらより効果的なモデルに切り替えればいいのか!」と考える方もいるでしょう。この効果的なモデルとは「スター人材モデル」です。
しかし、悪いモデルから良いモデルに切り替えたとしても、業績が落ちていくケースがあります。
この問題はどのように解決すればよいでしょうか? なにが起こっているのでしょうか?
主な問題は、「企業文化への適合」はそのうちに集団思考に近づいていくということです。企業が大きくなれば、もはや不安定なアイディアの上に立脚しているわけではありません。しかし、あらゆる角度からもたらされる不安定さに対応しなければいけません。
価値観を尊重し、私たちのミッションに情熱をもって共感する人材を雇用するということは、意図とは逆に、結果的にはほかの人がすでにしているのと同じように見て、同じように考える人々を採用することになります。
ノースウェスタン大学のローレン・リベラ氏は、投資銀行、コンサルタント会社など多くの専門サービスを提供する組織を調査しました。「企業文化への適合」を重視する人は、「この人とビールが飲みたいどうか?」という記号を使うと言います。もしくは、「この人と出かけたいか?」です。実は、オリジナルな企業を活性化するには、あまりいいとは言えません。
では、一体どうやって解決すればいいのでしょうか?
私がもっともすばらしいと思ったアイディアは、あるプロダクト・デザイン会社からやってきました。彼らはApple向けのマウスをデザインした後、会社の大部分はほとんどデザイナーであることに気が付きました。どのように問題解決を図るか、代替的見解を失いつつありました。
そこで、彼らが行ったのはデザイナーを慣れない環境に移すことでした。そして、その環境でどのように問題を解決するか考えさせます。
例えば、食料品店のショッピングカートをデザインするように言われます。そんなものは今までデザインしたことがありません。どうすればいいのかわかりません。そこで、得意な人を探すと、人類学者がこれにぴったりだと気が付きました。人類学者はこれを生業にしています。つまり、異なる文化に赴き、その文化の規範を理解し、その理解を持ち帰ることができます。そこで、彼らは人類学者の雇用を始めました。
彼らは、「人類学者は天才だ! 人類学者だけを雇うべきだ」と思い始めます。
(会場笑)
これをすると、再び罠にはまりますね。
次に、新しい環境を理解したら、その理解をデザイナーやデザインを依頼したクライアントに伝える人間が必要だと考えます。これは、話を語るスキルです。誰がすばらしい語り手でしょう? 脚本家、ジャーナリスト? IDEOは実際に、この仕事を行うために脚本家やジャーナリストの雇用を始めました。
そのうちの1人が、今日ここにお越しいただいているアン・キム氏です。彼女のおかげで、IDEOの資金運用に驚くほどの価値が加わりました。ここでまた「すばらしい人々だ! こういうバックグラウンドの人材だけを雇うべきだ」と言いたくなります。
しかし、IDEOの施策は「私たちは企業文化に適合する人を雇うのではありません。企業文化に貢献する人を雇います」というものでした。結局、企業文化とはなにか、そしてどのように文化を代表する人々を取り込むのかと質問する代わりに、彼らは自分たちの企業文化に足りないものは何かと考えました。そして、企業文化を豊かにする人々をどうすれば取り込むことができるか考えたのです。
これは私たち誰もができることでしょう。
1歩下がって、私たちの企業文化に足りない物はなんでしょうか? 多数派とは異なる文化的背景、職務経験、人口学的特性を持つ人々を取り込むにはどうすればいいでしょうか?
彼らこそが、企業価値を高め、文化を構築し、向かうべき方向を示してくれるでしょう。
これが、私の知る限り、集団思考の問題に対する唯一の回答です。もちろん、ある種の反転体験や逆の世界観を持ち込むことにもあります。
私が行ってきた多くのキャリア研究もこれに関連します。それは、この人物は「ギバー(与える人)」か「テイカー(奪う人)」か、という問題です。見ればその違いは明白です。「テイカー」は自分の利益を真っ先に考える人。「ギバー」は、組織に惜しみなく貢献する人です。
どのように見分けるのか、という質問をたくさんいただきました。ある人は組織に多大な貢献をし、単純に新しいことを持ち込むだけでなく、組織やチームにやる気を与えます。どうすれば、その人が「ギバー」か「テイカー」か見分けることができるのでしょうか?
IKEAはこの問いに完璧に答えました。
このトピックに関する研究で、私のお気に入りをお話ししましょう。この後みなさんにも回答いただきます。
「奪う行動」を例にしましょう。窃盗、つまり会社から盗むことです。窃盗はどれほど一般的でしょうか? アメリカ合衆国で、どれほどの人が、雇用主から月に少なくとも10ドル盗むでしょうか? これには現金、オフィス用品、材料、商品なども含みます。数字を考えてみてください。計算してくださいね。後でみなさんに挙手してもらいます。
0から20パーセントの窃盗率だと思う方、挙手してください。
20から40パーセント?
40から60パーセント?
60から80パーセント?
80から99パーセント?
誰か100パーセントだと思う人いますか? ……つまりあなたがそうだということですね!
(会場笑)
結果は真に受けないでくださいね。しかし、データによると、他人が泥棒である確率を高く見積もる人ほど、自分自身が泥棒である確率が高いとあります。
(会場笑)
お知らせです。80パーセント以上と見積もった人の隣に座っている方は、いますぐ財布があるか確認してください。
(会場笑)
いいえ、高く見積もっても「テイカー」ではないことはいくらでもあります。心理学的に興味深いのは、この質問に答える時、まず自問することから始める点です。「自分はどうだろう?」。それから他人を推定します。わかりやすいように特徴を説明しましょう。
極端な「テイカー」はこう答えます。「ふむ、私の会社から何パーセントの人が10ドル盗んでいるだろうか?」。「テイカー」はいつもこのような話し方をしますね。「私は先週377ドル盗んだから、1ヶ月に10ドルは当たり前だ。94パーセントに違いない」。
一方で、極端な「ギバー」はこう答えます。「一体どうやって10ドルも会社から盗むのだ? 何本ペンを家に持ち帰れば足りる? 約400本かな。誰がそんなことをするのだろう? たぶん5パーセントくらいかな」。
「ギバー」の話し方は私そっくりですね。声色を1つしか使えないだけですが。
真面目に言うと、この違いが大きなサンプルとなります。「テイカー」は、他人が自己中心的行動をするものと推測します。こうして、自分自身が「テイカー」であることを正当化します。「私でなく、あなたたちすべてが自己中心的なのだ。私はただ、賢く、注意深く、自分を守っているだけだ」と言います。これを当てはめて、あなたが一番心配する「奪う行動」を思い浮かべてください。オリジナルな考え方という意味では、知識を自由に共有せず、隠すことかもしれません。他人のアイディアから功績を横取りすることかもしれません。
仕事の応募者やこれから一緒に働こうとしている人々に聞いてみてください。その行動がどれほど一般的だと思うのか。もし高く見積もるなら、なぜか質問してください。なぜ高い見積もりを思いついたのか。
ある人は合理的に答えます。「以前の職場にはたくさんの泥棒がいました。データもあります」または「以前の組織では泥棒を見つけるのが仕事でした」。これは問題ありません。しかし、最悪な答えは「なんと言っても、人間というのは自分の利益を優先するものだと思うのです」。これが意味するのは、彼自身が自分の利益を優先する人間である、ということです。
ある人物の貢献が、すばらしい業績を上げるのみでなく、企業文化を豊かにするかどうか見極めるには、これは非常に重要な点です。
もう1つ、企業文化に貢献する人物を見分けるいい方法をお伝えしましょう。採用面接の最後にこう質問します。「採用プロセスをどのように改善すべきだと思いますか? ゼロから採用プロセスを見直すとしたら、どうしますか?」。
彼らは実際に採用プロセスを体験しています。この質問をすれば、アイディアを持っているか、進んで意見を話すことができるか、また、実務や原理・原則を考え直すことができるのか、見極めることができます。
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