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孫正義×山中伸弥×五神真×羽生善治による対談(全6記事)

孫正義「“なんとなく”ではもう生き残れない」AIが進化し続ける世界で人間がやめてはいけないこと

2016年12月、ソフトバンクグループ代表である孫正義氏が未来を創る人材育成を目標とした「孫正義育英財団」を設立。翌年2月10日には、25歳以下を対象とした特別対談イベント「未来を創る若者たちへ」を開催しました。当日は孫氏のほか、同財団の役員としても参加している京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥氏、東京大学総長の五神真氏、棋士である羽生善治氏が登壇。本パートでは、AI技術が進化し続けた世界について登壇者らが大胆予想。人間がコンピューターに唯一勝てるポイントとはなんでしょうか。

ほかの人と同じことをやっていてはダメ

孫正義氏(以下、孫):やはり、まさに今日集まっているような、若い異能のみなさんというのは、知恵の力の優れた人たちですよね。

せっかくの優れた知恵の力や考える力があっても、それを宝の持ち腐れで、普通の人と同じように、ただなんとなく人生を過ごしてしまうと、本当にもったいない。ほかの人がしてないことであれば、当然ユニークなものになる。人がやっていることでも、その中でさらに大きく抜きん出たら、これまたすごい人になる。

だから、やっぱり強烈に考えたほうがいいと思うんです。少なくとも今日現在で人間のほうがコンピューターより優れているのは、考えるということですよね。新しく生み出す。すでに過去にあるものを繰り返すのは、コンピューターに絶対負ける。過去にないものを作り出していく時に、まだチャンスがあると思います。そのために必要なのは考えることですよね。

研究者は、ほかの人と同じことをやっていても研究者とは言えないですよね。やっぱり新しく考えなきゃいけない。

羽生名人も、過去の手と同じ手だったら、丸暗記ではそれはもう勝てないわけですから。それはやっぱり新しい手を考えなきゃいけない。ビジネスの世界、僕らがやっている事業の世界でも実はそうなんですよね。ほかの会社、ほかの人がやっていることと同じことをやっていたのではダメだから、やっぱり考えなきゃいけない。

考えるということが大事で、悩むとは考えているということなんです。考えてない人は、なにも悩まないから。ある意味、幸せな人かもしれない(笑)。悩むということは、実はもうすでに幸せなんだ、と。悩むということは、考えている証拠。若い時はおおいに悩んでほしいし、そこで見出したものは考えた結果ですからね。

ぜひぜひ僕は考えてほしいと思う、持っている力を発揮してほしいと思います。

人類はこのまま何事もなく生き残るとは思えない

では、次のテーマとして「これからの世界はどうなるのか?」ということですけども、どうですか? 先生。

山中伸弥氏(以下、山中):これは楽しみでもあり、怖くもありますね。もういろんなことが急激に変わりすぎていて。

:さっきの人工知能とかもどんどんシンギュラリティで、コンピューターのほうが賢くなっていく。

山中:そうなんです。

:そういう時に、人間としてさらに考えて、さらにこれから人々に役立っていこうとか。

山中:今までの地球の歴史を見ると、一時は恐竜が地球を支配して。でも、滅びてしまって。「それと同じことが人類に起こらないか?」というのは、すごく怖いですね。今、AIとか原子力などの技術、僕らのバイオテクノロジーも含め、これだけ技術が進んで、ちょっと前まではSFでしか出てこなかったことが、どんどんできるようになっていて。

このままこれが、人類がどんどんそれをいいように使って、豊かになっていったらいいんですけどね。恐竜は隕石がぶつかったかなんかの天候変動でいなくなったといいますけど、実はその前に、先ほど原人の……。

:クロマニヨン人?

山中:はい。ネアンデルタール人とかいっぱいいたんですよね。僕たちの研究によると、おそらく私たち人類はそういったネアンデルタール人とかから進化したわけではなくて。猿までは一緒で、そこからネアンデルタール人がまず生まれて。

その後に、それとは別に私たち人類が生まれて。姿形も脳もほとんど一緒だったんですけれど、ある時にピタッとほかの原人がいなくなって、人類だけが残ったんです。なにが起こったかは誰もわかんないんですけども。

:こっちがいたのに、片っぽがピタッといなくなって。

山中:はい。それには2つしか可能性がないんですよね。1つ目は人類が原人を滅ぼした。

:ああ。

山中:もう1つは、なんらかのものすごいクライシスがあって、人類は頭がよくて生き残ったけれども、ネアンデルタール人たちは生き残れなかった。

:なるほど。

山中:とにかく、ほぼ人類に近いネアンデルタール人たちは完全に滅んだんですね、わずか数万年前に。だから私たち人類がこのまま未来永劫、何事もなく生き残るとは思えなくて。今のこの急速な技術の進歩が、もしかしたら人類を滅ぼす理由になるかもしれない。「そんなの、まだまだ先の話」と思われるんだったら、いいんですけども。

もし孫さんが言われたように、30年で100万倍になり、次の30年でさらに100万倍になるとしたら、これが人類にとっての恩恵じゃなくて脅威になるんじゃないかという。今ここにいる人たちがどう使うかによって変わると思いますから。すばらしい社会になるか、それとも大変な社会になるか。僕たちというよりは会場のみんなが決める。

人口を見てもこの1万年ぐらいずーっと横ばいで、この50年でビューッと上がっているんですよ。だから、この人類が今までに経験しなかったことが、この人口だけ見ても起こっていて。「食糧がどうなるんだ?」という、問題にも直結しますし。そして「このいろんな技術によって、逆に滅んじゃうんじゃないか?」という、そういう大変な時にいるのも事実。

:そうですね。気候変動とか、いろいろな問題がありますけども。気候の変動以上に技術の変動が与える影響は、はるかに変化が激しいということがありますね。

大事なのは、知の活動を続けること

五神先生、いかがですか?

五神真氏:その技術の変化というのは……ちょうど孫さんと私は同い年で、大学に入るちょっと前にマイコンができた世代で。技術がいかに人類社会、人間の活動を変えてきたのかを実感しているんですね。パワードスーツがありますよね、人間の能力以上に力を発揮して重いものを運ぶという。そういう、究極の“パワードスーツ”を人間が備えたと。

ですから、地球の裏側の情報も瞬時にとれるようになった。だから、一人ひとりの活動の影響がアッという間に全地球に影響するようなことまで、“パワードスーツ”は高度化したという状況なんですね。そのなかで、人間がやっぱり社会を作っていくこと自体は変わっていないわけですけれども。「人間が、人との関わりの中でどう人間らしく生きてくか?」ということを、ちゃんと制御できるかどうかが問題になっている。

実は、私はそんなに悲観していないですね。私が育った頃というのは、地球環境はどんどん悪くなる、川は汚くなる、空気は汚くなる、それが当然だった。「環境がよくなることはないんだろうな」と思っていた。それから、日本の場合は物価も上がるもんだと思っていました(笑)。

それがこの間、昨年10月の『ナショナルジオグラフィック』の日本版の表紙に、ものすごくきれいな多摩川の写真が出ていて。鮎がパーンと飛び跳ねているんですよ。私は多摩川の近くに住んでいたので、子供の頃に釣りをしていた多摩川というのはあぶくだらけで、「遊泳禁止」という札が立ってるんですけど、泳ぐ人はまずいないというものだったんですよ。

それが今ではすっかりきれいになって、食べてもなんの問題もない鮎が住んでいる。しかも、子供たちが川に入っていろいろな防災のトレーニングをするぐらいきれいになった。だから、「よくする」ことはできる。つまり、知恵をどう使うかによって、なにかをよくするということについて、人間には経験があるんです。

今一番の問題は、そういうテクノロジーの進歩で、我々が制御しきれないぐらい“パワードスーツ”の威力が増してしまっている。そして何百年もかけて作ってきた民主主義とか、資本主義とかいった仕組みが、どうもそれを制御できない状況になっているかもしれないというところなわけです。しかし、そもそもなんのためにそういう社会を作ってきたか。

「人は人との関わり合いの中で頭脳も鍛えてきた」という事実を外さず、いかにいい社会を作るかという課題に知恵を使うのは可能だと思うんですね。そこで重要なのは、知の活動を諦めずに続ける。つまり考え続けること、それを放棄しないこと、それからやはり同じ世代の仲間と共感すること。人間の経過を何百年という歴史をよく理解し、今の変化に耐えうる知力を鍛えることが、とても大事ではないかと。

我々よりも、みなさんの世代がこれからどうしていくのかにかかっていて。ここに集まっている仲間同士の切磋琢磨も極めて重要だと思うんですけど。そういう個ではなくて他者を理解しながら、共感しながら知を高めていくという意識を強めていただきたいなと思っています。

AIは脅威になる。一方で課題を解決する

:羽生さんは、人工知能のいろんな取材だったりを受けていますよね。

羽生善治氏(以下、羽生):そうですね。昨年、ちょうどテレビの番組で取材した1つに、オックスフォード大学人類未来研究所というところがあって。そこが発表したレポートの1つに「人類が抱える12のリスク」というので、例えばパンデミックとか、気候変動とか、さまざまなもの……。よくいわれる今の地球が抱えている問題が挙げられたんです。その中の1つに、AIも実は入っているんです。

私、そこで1つ思ったんですが、気候変動は気候変動で、それはただただリスクだけしかないと。一方でAIというのは、その技術がものすごく進んだ時に、残りの11の脅威をもしかすると全部解決してくれるかもしれない、それだけのポテンシャルがあると思ったんですね。だから、非常に強力な技術だと。

これから先、AIはリアルの世界に進出してきて、社会の中でそれをいかに使っていくかということが議題に上がり始めると思います。なので「どうデザインして、取り入れて、活用していくか」は、人間の選択なので、ぜひ若い人たちの感性で「こう取り入れたらいいんじゃないか」という議論をしてほしいなと思っています。

:今、すばらしいお話をいただきました。12の危機の中の1つがAIで、でもAIは使い方によって残り11を解決してくれるかもしれない。僕、聞いたの、今が初めてなんですけど。

羽生:(笑)。そうですか?

:初めてなんですけど、まったく同感なんですね。

羽生:ありがとうございます。

便利さに翻弄されない“踏みとどまる心”を持てるか

:今回、僕は「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」というファンド……約10兆円の資金を使って、いろんなところに投資をして、事業の成果を出していこうというプロジェクトを今、準備中なんですが。さっそく、いろんな投資先を巡って検討しているんですね。そのなかに、今まで我々が解決できなかった問題を人工知能で解決しようとしている会社とか個人がいくつもあったんです。そこにものすごい可能性を感じて。

人工知能が今までの人間の知能ではできなかったことを、より上手にやってくれるようにする。これはすばらしいことだと思うんですね。ですから、人工知能の危機というのがあると同時に、羽生さんおっしゃったように11の危機を救ってくれるのもコンピューター、人工知能かもしれないと考えると、僕はすごいと思うんですよね。

山中:ゲノムの解析の技術は日進月歩で、ものすごい進歩をしています。AIと組み合わせることによって、ガン治療などもどんどん進歩していくと思います。さらには今、ゲノム編集という技術ができて、単に解読するだけじゃなくて書き換えてしまうと。これが本当にできるようになってしまって、理論的には人間でもできるようになったんです。

つい1週間ぐらい前の『Nature』という科学雑誌にも出ていましたが、ゲノム解析の進歩のおかげで、身長の高い、低いを決める遺伝子……遺伝子というか、わずかな配列の違いで1センチぐらい身長を変える遺伝子を30ぐらい見つけたという論文が出ていました。そういうのを全部ゲノム編集で変えていくと、身長さえも簡単にコントロールできるような時代が、やろうと思えば目の前にある。本当に「どこまで僕たちはやっていいのか?」という。

:そうですね。

山中:どこまで技術を使っていいのか。ガンの治療には使っていい、これはほとんどの人が納得すると思うんですけども。じゃあ、ドーピングというのは絶対ダメですけども、遺伝子ドーピングのようなかたちで、筋肉隆々の……。

:(笑)。

山中:今、筋肉隆々の魚とか牛というのは、ゲノム編集で作られています。牛でできるんだから、理論的には人間でもできます。それがどこまで許されるのか。これは、本当に心が試されるといいますか。日本は、酷い公害が僕たちの小さい頃に進んで。でも、なんとか踏みとどまって、今は汚かった川がきれいになり、青空もいつも見えるようになって、喘息もすごく減った。それは日本人が踏みとどまる心を持っていたからだと思うんですね。

そこで「本当は便利さだけを追求して、もっと工場いっぱい作ってやりたいんだけど、このままだったら大変なことになる」。だから「ちょっと不便だけれども、ここは我慢して違う方法を考えよう」。そういう心があったから持ち直したんです。これからもそういう心を持ち続けられるか。僕は、日本人はいろんな国の中でもそういう心を持っている民族だと思います。

でも、もうだんだん国境が離れてしまって、グローバルになって、日本だけでは解決できないようなことになっていますから。だから、心が技術をキャッチアップできるか。技術がどんどん進んでいく時に、もう本当に僕たちの心というか精神がそれをキャッチアップできるか。何遍も戦争してきたわけですね、私たちは。もう1回戦争したら、世界大戦が起こったら、ほぼ間違いなく滅ぶと思います。

:そうですね。

山中:核を使えば。だからもう本当に今、自制できるかどうかだと思うんですね。そういう自制のところに、AIが助けてくれるかどうかだと。助けてくれたら、すばらしいと思います。例えば戦争しそうだけど、AIが計算して「これはどう考えてもバカげている」「もうこんな戦争やめなさい」とAIが冷静にいってくれたら、やめられるかもしれない(笑)。

(一同笑)

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