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バズを生むコンテンツの作り方、完全マスター。 ヒットの法則教えます!(全3記事)

「ヒットさせたいのは『左ききのエレン』」漫画家・かっぴーが語る、バズとヒットの違い

数多くのヒットコンテンツを輩出する作り手たちが、常に意識していることとは? WOMマーケティング協議会が主催するイベント「WOMJクチコミフェスタ2016」では、LINE・谷口マサト氏と漫画家・かっぴー氏による「バズを生むコンテンツの作り方、完全マスター。 ヒットの法則教えます!」が行われました。本パートでは、PR記事だけど読まれるポイントのほか、バズとヒットの違い、その使い分けについて語られています。

PRコンテンツなのに泣ける理由

藤崎実氏(以下、藤崎):谷口さんが、今日は特別に「ヒット記事の作り方」を教えてくれるということなんですが。

谷口マサト氏(以下、谷口):おこがましいですけど、まず事例から。先ほど言いました、山科ティナさんに描いてもらったものです。

かっぴー氏(以下、かっぴー):やっぱり使ってる!(笑)

谷口:これは「どうしてパパはカメムシになったの?」という不思議なタイトルで、ライフネット生命さんのPR漫画です。父親が死んだ後にカメムシに生まれ変わって、家族の生活が貧乏になっていくのを見守る話なんですよね。ちょっと悲しい話ですけど。

これはけっこうバズりまして。LINEでまず100万人に配信して、その後はニュースに転載したんですけど、そこでも話題になりました。

左がコメントです。PR漫画なのに泣いている人が多かった。PR漫画で「泣く」は、めずらしいんですけど。あと、おもしろかったのは、中国の方が勝手に翻訳して、そこでもバズったということ。

藤崎:おもしろいですね。勝手に翻訳してくれたわけですね。

かっぴー:すごいですよね。

谷口:カメムシが臭虫と書いてあって、そのままなんだと思ったんですけど。翻訳版を見ていておもしろかったです。「泣いた」「保険に入りたくなった」という声も多かったんですよ。

では、なぜこんなふざけたような漫画で保険に入りたくなるのか。その裏側をお見せします。

まず、課題を決めます。けっこう大きな課題で、「そもそもの生命保険の重要さを伝えたい」とクライアントが言っていました。

その次にどうしましょうという話なんですけど、実は私、保険の漫画やPRなどをいっぱい作っているんですが、自分は入ってないんですよ(笑)。

自分をじっくり観察したインサイトを見てみると、死んだ後も家族の生活が続くのがいまいち想像できていない。これが問題だと、自己観察して思いました。「自分が死んだ後……父親が死んだ後、家族の生活は続くんだとリアルに想起できるような話を作りましょう」と提案しました。

最初は、幽霊の設定でした。でも、幽霊が見守るとなると、とんでもなく悲しいものになり、重すぎたんです。そこで、カメムシにして、ちょっと軽くしました。

そういった構造があって、結果的にメッセージが届いて、保険に入りたくなったということです。こういった構造がなければ、逆に「単におもしろかった」「泣いた」だけで終わっていたと思います。

ドキュメントは写真記事、ストーリーには漫画記事

もう1つの例です。これもティナさんですね。H.I.S.さんのハワイ旅行とのタイアップですけど、こちらは、ややこしい設定なんですよ。

ハワイに行ったことがある彼女の前で、見栄を張って嘘をついてしまった彼氏がしらを切るのを、H.I.S.が裏側で助けるという話なんです。これ、漫画としてはちょっと変ですよね。ややこしいし。

なんでこんなことをしているかというと、まず旅行プランの特徴を聞いたときに、「現地サポートとして、ハワイの現地でもいっぱい助けます。このあたりが充実しています」と言われたんですよ。では、それを表現するために、そもそもサポートが必要な人間を主人公にしようと提案しました。

後は、ハワイに行きたいと伝えるために風景画を多くしたんですけど、こういったもともとのインサイトとメッセージをどうするかを話し合いました。広告の基本ですけど。

漫画の脚本のパターンについてです。映画の脚本パターンはいっぱいあります。それを整理して、どうやって広告に結びつけるかを考えました。映画のパターンでよくあるのが、最初になにか大切なものがあり、それを失って、なんとか取り戻そうとして、持ち帰るという話なんです。主人公に寄り添う存在として、広告を出していくのが1つの方法かと思います。いろんな方法があるんですけどね。こういったものを整理しています。

藤崎:今のお話をお聞きしていると、先ほどのライフネット生命保険もそうですが、情報はいつも充満していて、みんな知っているけれど、それをもう1回リマインドするなど、重要性をわかってもらうためになんらかのストーリーが必要。そして、そのストーリーに漫画が適しているということなんですかね。

谷口:そうですね。後でいいますけど、私、写真記事も作っていまして。写真でストーリーを作るときに問題なのは、すべて茶番に見えるんですよ。写真で演技して、それにテキストを入れるんですけど、これはドキュメントにはすごく向いているんですよね。

実際の取材が生っぽいんです。ただ、ストーリーテリングになってくると、創作なので、茶番臭がすごくする。これを消すのが大変なんですよ。漫画の場合はなんでもありですよね。

藤崎:漫画なんだからということですね。

谷口:ストーリーテリングとして広告に組み込むには、写真に比べると漫画はすごくいいなと感じています。

バズとヒットは、そもそも違う

藤崎:次にかっぴーさんにお聞きします。「ヒット漫画の作り方」を教えてください。

かっぴー:これも「知らん!」で帰ろうかと思って……これ、あまりウケないんですね。たまにやるんですよ、知らんスキームを。

バズとヒットがそもそも違うと思っています。バズの話は、谷口さんがしっかりしてくれる期待のもと、ヒットさせたいと思っている話をします。

バズとヒットが違うと思ったきっかけは、先ほどの『おしゃ家ソムリエおしゃ子!』という漫画でした。これ、今はFacebookのいいね数しか出ていないですけど、1話目が1万強シェア、2話目が1万弱シェア、3話目が2,000~3,000だったんですよ。3話目で思いっきりガーンと下がっている。むしろ、2話目までよくやったと感じで思っていたんです。

Twitterで4話まで含めてどれが一番好きかを聞いたら、圧倒的に3話目が一番好きというファンが多かったんです。バズったこととヒットが、まったく逆になっている。3話目は、初めて泣ける回だったんです。「てめー、パクチーをまいてるんじゃねえ」と言っていたおしゃ子には、実は好きな人がいて、厳しいお父さんに「別れろ」と言われて、おしゃれ雑誌『KINFOLK』を持って泣いているという。

藤崎:馬鹿にしている(笑)。

かっぴー:『KINFOLK』を馬鹿にしていないですよ(笑)。

藤崎:涙の量は半端じゃないですね。

かっぴー:すごく泣いてますね。この回は、本当に泣いてくれる人が多くて、一番好きだという人が多かった。なので、あるあるネタを乱打してもあまり意味ないと思ったんです。

あるあるネタの漫画ももちろん描くし、バズるから仕事としても描いています。広告漫画としてですね。ただ、プライベートワークでは、3話目のヒットのような「あの話、大好きなんですよ」と言われる話を作りたいと思っています。

あるあるより「共感する!」を積み重ねて、愛されるキャラクターを作りたい。それがバズらなくても、やりたいなと思っているんです。そこで今、『左ききのエレン』という、めちゃくちゃ真面目な漫画を描いているんです。

藤崎:ちょっとアンケートをとってもいいですか? 知っている人もいるけど、知らない人もいるかもしれないので。『左ききのエレン』を知らない人?

かっぴー:知らないでしょ(笑)。

藤崎:あら、けっこういらっしゃいますね。

かっぴー:ああ、そうです、そうです。まだまだぜんぜん。

谷口:これ、すごくおもしろいですよ。

藤崎:すごいですよ。毎週、心がドキドキしていますよ。

かっぴー:本当に感想はめちゃくちゃいいですね。ツイートでシェアよりも、コメント付きで投稿してくれる人が多いので。

藤崎:素晴らしい。

かっぴー:『左ききのエレン』は僕の経験を漫画にしているんです。広告代理店へ行って、いわゆるデザイナーでクリエイティブという仕事をしていたけど、なかなか脚光を浴びられなくて。ふつうの人生が嫌だから広告代理店に入ったのに、「いつまで経ってもふつうだ」という葛藤を、ストレートに漫画にしているんですよね。セリフをすごく重要に考えていて、ハッとするシーンを毎回たくさん入れようとしています。

例えば、サラリーマンをすごくていねいに描こうと思っていて。広告代理店のデザイナーが主人公の漫画だと、営業が敵に回る感じがするじゃないですか。営業と対立して営業を負かす、言い伏せて仲間にするなど。そういう展開もありそうなんですけど、本当のリアルなものが描きたかったんです。

営業は営業で信念を持っていて、アーテイストかぶれというか、クリエイティブという仕事に対して「お前ら、仕事なめてんじゃねぇーよ!」とリアルな思いがあったり、「お前、ちゃんとサラリーマンやれよ」というシーンを入れたり。だから、営業の流川というキャラクターは、営業の脇役で、主人公じゃないんだけど、めちゃくちゃ人気あります。

例えば流川には、打ち合わせで「クライアントのことを一番わかっているのは、お前だろ?」とクリエイティブに言われるシーンがあるんですよ。そこで流川が言ったセリフが「わかるか、だって? なめるなよ。どれだけ(クライアントのところへ)通ったと思ってる」なんです。

これは、僕が仲のいい営業の人といろんな話をした上で思っていた、サラリーマンへの想いでもあります。

「どれだけ通ってたと思ってる」というセリフにかぶせて、クライアントに叱られたり、クライアントのペットの写真を見せられて一緒に笑っていたり。そういう、何気ない日常のシーンを重ねてグッとくるようにしているんですね。そこで、あるあるの解像度の高さを使いたいと今は思っています。パクチーよりも(笑)。

それまで描いた漫画で『おしゃ家ソムリエおしゃ子!』、SNSのあるあるを突っ込む『SNSポリス』など、絶対的な強者が「お前、それやっちゃだめだぞ!」「パクチー!」と言うスタイルでしたが、今描いている『左ききのエレン』は、お仕事バトル漫画だと思っています。対立する双方に正義があるキャラクターがいて、どちらにも共感してもらえるというのをやりたいと思っているんです。

天才と凡才が対立したり、クリエイティブと営業が対立したり、個人主義と組織主義が対立したり。仕事と恋愛など、正解があるはずもない対立構造に解像度の高い共感を乗っけて、キャラクターたちが本音でぶつかる漫画を描きたいと思っています。バズったのは『おしゃ家ソムリエおしゃ子!』だけど、ヒットさせようとしているのは『左ききのエレン』と思っています。

嫌われないギリギリの言葉選び

さらに、そこからまた1周回って広告に使えるんじゃないかと思って、PRに起用してみたんです。大学の友人が今、映画監督をやっていて、そのクラウドファンディングをするために、映画監督を漫画に登場させちゃおうと。漫画のなかで「クラウドファンディングを始めたんだよね」という話を出して、漫画の最後にURLを付ける。今は達成率50%を突破しています。

そういった感じで、ヒット漫画を作ろうと思っていたりします。バズは仕事として活かしていきたいです。(注:2016年12月時点でクラウドファンディングの達成率は70%になっています)

バズを生み出しやすいコンテンツは、スキームとしての広告漫画を展開しています。例えば、新作に『金子金子(かねこききんこ)の家計簿』という、お金に超うるさい女の子が活躍するギャグ漫画があります。これは、SMBC日興證券さんのオウンドメディアの連載です。

谷口:これ、名前がいいですよね。「金子金子」。

藤崎:いいですよね。漫画だからできちゃうんですよね。

かっぴー:うん、「金子金子」いないかな。どこかにね(笑)。

藤崎:いそうですけどね(笑)。

谷口:それを付けた親が見てみたい。

かっぴー:お金にまつわるあるある漫画です。合コンで男に「ロレックスの時計してる!」「ボッテガの財布持ってる!」「モンブランの万年筆持ってる!」「ブランド三銃士コンプリートするなー!」と、そういう漫画なんです(笑)。

スキームと言っても、「これだけでは他人に再現できないだろうな」という要点を意識しています。それを一応挙げます。「あらゆる方面のあるあるネタ」「嫌われないギリギリの言葉選び」「メッセージの着地」は気を付けています。これまで描いたテーマがすごく多いんですよね。

谷口:これ、取材しているんですか?

かっぴー:ものによります。本当にわからないものは取材しますけど、女子会はそのままを描いてます。女子会をしたことがあるので。車だけは乗らないので、まったくわからなかったので取材しました。しかも、Honda様の仕事でスーパーフォーミュラというモータースポーツの漫画を描いたとき、さすがにわからないからレースを見に行きました。

藤崎:かっぴーさん、めちゃくちゃ範囲が広いですよね?

かっぴー:そうですね。興味の範囲はありますね。あと、自分のフィールドに持ってくることもできるんで。

藤崎:しかもそれぞれのディティールが、すごく細かいですよね。

谷口:これ、いいですよね。僕、だいたい詳細のところにいくんで。犬に精通するために、調教師に3ヵ月くらい習ったんですよ。

かっぴー:えーっ! すごいなぁ。

谷口:犬を飼っていないのに、飼い方を習って。「なにやっているんだろう」と思いましたけどね。それは、そっちのフィールドにいくからであって、自分のフィールドがあれば、引き寄せればいいんですよね。

かっぴー:そうですね。まさに犬のやつで今、糸井重里さんの仕事で「ドコノコ」というペットアプリの漫画を描いて、納品して、公開を控えているところなんです。犬、出てこないんですよ(笑)。

キャラクター個人の主観にする手法

こんな感じで、カバーしているテーマは多いです。本当に、ギリギリなんですよ。例えば、「そんな高くておしゃれ過ぎるジャージは箭内道彦に着せておけ。ロック!」という。

谷口:あ。ロックでフォローしている(笑)。

かっぴー:これを最初に描いたのは「そんな高い派手なジャージは箭内道彦に着せておけ」と言ってましたが、「そんな高くておしゃれ過ぎるジャージは」と「おしゃれ」と言って、気をつかっている。

「このおしゃれ豚野郎!」と言ったら、豚野郎で和らぐ……みたいな。

谷口:実は、けっこうドキドキしながら描いているんじゃない?

かっぴー:ドキドキしていますよ。そのドキドキがないと、たぶん描けない。

藤崎:かっぴーさんは、はっきりした切り口がすごく爽快だったりするから、スカッとするんですよね。

かっぴー:ギリギリです。これ以上マイルドにすると、「うわー、こいつビビってるわ」になりますし。

谷口:最新作の『左ききのエレン』27話で、「替えが利かない“有能”」「替えが利く“有能”」と、ざっくり切っちゃうじゃないですか。

かっぴー:本当は『左ききのエレン』のほうが、きついことをいっぱい言っているんです。ただ、主人公が言われている側だから「かわいそうに」と、みんなが同情してくれるんです。そういうテクニックというか、「読者に言わないで、誰かに言う」な逃がし方はありますよね。

あとは「値段が高いもの=いいものだと思っている男」を「ダメだ!」と言うんじゃなくて、「そういう男はつまらん!」という言い方にしたり。

谷口:キャラクター個人の主観にしているわけですね。

かっぴー:主観ですね。「ダメだ」は言い切りだから、ちょっとよくないなと。けっこうギリギリを攻めているつもりではありますよね。

メッセージの着地は、先ほど谷口さんが言っていたところなんですけど。例えば、最新作の『金子金子の家計簿』だと、「年収が高いクラスタに投資の重要性を訴えたい」。インサイトが「年収1,000万前後の小金持ちほど金遣いが荒く投資や貯金に向かない」があって、アイディアとして「イケてない金銭感覚を突っ込み倒す痛快ヒロインを作る」という感じでやっています。

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