2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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干場弓子氏(以下、干場):みなさん、こんにちは。ようこそいらっしゃいました。みなさんに代わって、追加の質問をしてみたいと思います。よろしくお願いします。
安藤俊介氏(以下、安藤):はい。よろしくお願いします。
(会場拍手)
干場:本当にお話がお上手というか、わかりやすい。
安藤:ありがとうございます。
干場:自分自身の研修とか、こういう場ってもう何十回も設けているんですけど、一番わかりやすかった。
安藤:ありがとうございます。
干場:私、元々、マネジメントする気がないから、アンガーマネジメントは私には必要ないと思っていたんですけれど、今日の話を聞いて、そういう私にぴったりだということをますます感じました。
みなさんはどうでしょうか。(アンガーマネジメントという概念は)アメリカからということなんですけど、例えば6つのタイプとか、あのあたりもみんな同じなんですか?
安藤:ああいう6個のタイプにきれいに分かれるかどうかというのは微妙なんですけれども、ただ、人間であれば、基本的には似たような感じにはなります。アメリカであっても、日本であっても。
干場:じゃあ、テストなんかも同じなんですか?
安藤:テスト自体は、独自に日本で作ってますので、(会場の)みなさんの手元にある本は独自に作られたものだと思ってください。
干場:それは、安藤さんが代表を務められている協会で。
安藤:うちで全部設計して作ってます。
干場:じゃあ、アメリカの人のアンガーマネジメントと日本のアンガーマネジメントで、怒りとかその状況についての違いってあるんですか?
安藤:元々は、アンガーマネジメントはアメリカで生まれたものなんですけども、彼らはものすごく直情的に怒るんですよね。どちらかというと、元々表現する人たちなので、怒ってるってことを表現する。日本人との違いというのは、日本人は、どっちかというと、内側にため込んでしまう。その違いがやっぱりあるのかな、というのがあるんですね。
もちろん、アメリカにも、ため込む人というのはいるんです。それを英語では、「stuffing(スタッフィング)」というんですね。ぬいぐるみのことを「stuffed animal」というんです。中に詰め込むという意味で。
ですから、アメリカのアンガーマネジメントにも、スタッフィングという概念はあって、アメリカ人でもため込む人はいるんですけど。
干場:ウディ・アレンとか。
安藤:ああいう、ウディ・アレンのような繊細な人たちも、もちろんいるわけですよ。どちらかというと、民族や文化の傾向でいうと、やっぱりアメリカ人のほうが表現をし、日本人はため込むというのが美徳というか、あまり人前で怒らないというのが美徳なのかと思います。
干場:戦術的に怒ってみせることはありますよね。やっぱり交渉の場とかで、ここで怒ったほうが勝ちを取れるということってあると思うんですけれど。それはたぶん国際政治の場なんかではあると思うんですが、日本は損してるのかしらね。
安藤:そうですね。たぶん、あまりうまくないんでしょうね。ですから、日本は外交下手とは言われてますよね。ですからやっぱり、そういった意味での感情の取扱いみたいなものというのは必要ですね。ちなみに、トランプさんは、アメリカでもアンガーマネジメントが必要というふうに言われてますからね。
(会場笑)
干場:じゃああれは、真剣に怒ってる。
安藤:真剣に怒ってますね。ですから、もちろん彼は共和党で、共和党は、FOXグループが推してるんですけれども、そのFOXグループの論説委員が、トランプさんに対してアンガーマネジメントができていないと言うぐらいなので、残念なところですけどね。
干場:では、安藤さんはどうしてアメリカでこれ学ぼうと思ったんですか? 実はアンガーをコントロールしたかったんですか?
安藤:はい。そうです。
干場:こんな穏やかそうに見えるけど、実は、トランプさんみたいな。
安藤:やっぱり、僕自身、すごく怒りっぽかったですし、好戦的でしたね。本当に。要するに、誰かとぶつかるのをぜんぜん厭わないタイプだったので。ですからそれは、どうにかしたほうがいいなとは思ってました。
干場:怖いですよね。道ですれ違いたくないタイプ(笑)。
安藤:(笑)。そういうケンカはしないですけど、仕事とかでそういうのはありましたね。上司とぶつかるのもぜんぜん平気でしたし。勤めてる時に、「いつでも辞めてやる」という気持ちでいたので、なんか怖くなかったんですよね。
干場:ご結婚はなさってる?
安藤:はい。してます。
干場:じゃあ、奥さんともめた時も、いつでも別れてやるとか。
(会場笑)
安藤:奥さん、実はすごく穏やかな人で、ぜんぜん僕、怒られたことがないので。
干場:じゃあ、一方的に怒ってるの?
(会場笑)
安藤:僕も怒ることはないですね。うちはぜんぜんケンカしないので。
干場:私は安藤さんより、よっぽど何倍も長い結婚生活をしてると思うんですけど、私の夫も私とまったく違うタイプで穏やかな人なんです。でも、歳をとってきたせいか、このあいだ、結婚して、初めてか2回目ぐらい、すごくつまんないことで声を荒げたんですよ。
安藤:どちらがですか?
干場:向こうが。私が荒げることはしょっちゅうだから。
(会場笑)
干場:それで、すごく驚いて。でもね、その3倍ぐらい荒げて言い返しましたけど。年齢によっても変わってくるのでしょうか? 最近、「キレる老人が増えてる」とも言いますよね。
安藤:そうなんですよね。ですからもちろん、歳をとることで、脳自体が萎縮をしていくので、感情のコントロール自体はしづらくなるのは、もう仕方がないんですね。ただ、最近も取材を受けたんですけれども、「(キレる老人について)どうですか?」って聞かれた時に、私の見解としては、社会との関わりというのが、やっぱり希薄になってくる。
昔であれば、おじいちゃん、お父さん、子どもがいて、世代として暮らしてたんですけど、核家族が進み、あるいは、独居老人が増え、という話になっていった時に、社会ってやっぱタガなんですよね。
今、僕たちが無茶をやらない理由というのは、やっぱ社会的に制裁を受けるというのがあるんですけど、老人になった時に、社会的な制裁がなくなっちゃった時に、タガが外れるんですよね。
会社というタガがあったり、家族というタガがあったりするのがだんだん外れていってしまうのは、怖いことかなと。なので、なかなか難しいんですけど、やっぱりコミュニティーの中にお年寄りを入れておくってことじゃないですかね。やっぱり、社会の中で一緒に関係性を持っておくというのは、すごく重要だとは思います。
干場:(先ほどの話の中で)共通するのが、「べき」って言いましたけど。私が思うのは、やっぱり自分がここにいることを認めてほしいというか、「私はここにいるんだよ」ということを承認してほしい。社会的な繋がりがなくなったり、地位がなくなったりして、軽く扱われたり、自分の話を誰も聞いてくれないような時に、こっちを向かせるために怒るみたいなことってないでしょうかね。
安藤:そうですね。基本的に私たちは社会から受け入れられたいし、存在自体を認めてほしいんですね。ですから、不良の中学生とかが、見てほしくて悪いことをするのと構図は一緒ですね。認めてほしいんですよね。受け入れられたいし。
ただ、こうなるはずじゃなかったんですよ。今のリタイアされた方々というのは。要はリタイアすれば、バラ色の老後の生活が待ってるはずだったのに、そうじゃなかったんです。
干場:ギャップが起きちゃったんですよね。
安藤:しかも、もっと変な話ですけど、寿命がどんどん伸びていくので、もっと楽に暮らして、もっと早くに死ねるかなと思ったら、どうもそうじゃないってことがだんだん見えてきた。
干場:そうですね。
安藤:だから、それはやっぱり、すごくストレスと不安にはなっていると思います。
干場:そうですね。
安藤:なので、働いたら年金をもらって報われるという、その将来像、設計図があったものが、いざリタイアしてみたら、ぜんぜんお金は入ってこないし、ぜんぜん人から尊敬もされないし、人生はずいぶん長いような気がするし、ということで、今大きな壁にぶつかってるんだとは思います。
だから、それこそ、なんでしょうね。60過ぎてからなにをするかって今から考えておかないとダメですよね。
干場:そうですね。
安藤:多くの人は、会社がなくなった瞬間に、なにもなくなってしまうので。とくに男性とかはね。
干場:企業の研修等もたくさんなさってますけれども、一般の方向けの研修やこういうセミナーでは、働く女性の受講生が非常に多いと聞きました。私はてっきり男性かと思ったら、女性が多い。どうしてなんでしょうね。女性は怒らない気がするんです。普通は。
安藤:私がアンガーマネジメントを日本で始めた時に、海外、アメリカのファシリテーターからいわれたんですけども、アメリカでは、アンガーマネジメントを受講する人は男性のほうが圧倒的に多いんですね。
それで、これはもう、生物学的に男性のほうが怒りっぽいんですよ。本来は。これはもう、テストステロンというホルモンの関係で、男性のほうが怒りっぽいんです。ところが、日本では、女性のほうが受講者が多いんですね。今日はちなみに、どうなんでしょう。半々ぐらいですかね。男性のほうが多いんですかね。
干場:若干、男性のほうが多いみたいです。
安藤:今日は男性のほうが多いんですね。なぜかというと、私がその時に思ったのは、受けている女性が30代後半から40代ぐらいの女性が多かったんですけれども。
干場:それは主婦ではなくて?
安藤:全員、キャリアを持ってる人です。
干場:結婚していてもしていなくても、とにかく仕事を持っている。
安藤:はい。仕事をしている人ですね。そこで思ったのは、やっぱり日本の社会って、女性が働きづらいってことです。
なので、やっぱり社会の中でのポジションを維持するとか、あるいは家庭に行ったら家庭で、家庭のことをやらなければいけないだとか、そういったことに対する不平等感とか、そういったものというのが、やっぱり日本社会の女性にとっては重いんだろうなと。
このあいだ、日経かなにかに出てましたけど、男女の格差ランキングって百十何位かなんかですよね。日本って。
干場:そうそう。日本はね。
安藤:ですからやっぱり、そういうことなんだなと思いました。
干場:ほかに、どういった方がどういう動機で参加なさることが多いんですか?
安藤:あとは私たち、子育てママ向けの講座などもやっていますので。
干場:子育て中はね、やっぱりアンガーマネジメントが必要かなって。後で振り返ればそう思います。
(会場笑)
干場:なんかこう、だんだん、つまんないことで、「何回いったらわかるの」って怒ってるうちに、だんだん……。昔、昼間デパートに行ったりすると、本当に、ずーっと3歳ぐらいの子に怒鳴り続けてるお母さんを時々みかけました。今もきっといるんでしょうね。
安藤:そうですね。干場さんは、子育て中はどんなことに怒ってました?
干場:「早くしなさい」とか。
安藤:息子さんでしたっけ。
干場:「はっきり言いなさい」とか。いたずらとかはあまりするほうではなかったし、約束を守らないってことでもなかったので、たぶん、そういうつまらないことだと思いますけどね。「なにノロノロしてんの」とか。
(会場笑)
安藤:今でも、息子さんを怒ることってありますか?
干場:今は、旦那に対しても息子に対しても、怒ったところでもうムダだから。社員には言うんですけど。「怒られているうちが花だ」と。
要するに、「こうあるべきだ」というのを押し付ける時に、ある意味、自分にも相手にも押し付けるから怒りが湧くわけですよね。それで、「まあ仕方ないか」って、諦めの境地みたいな(笑)。
安藤:なるほど。じゃあ今、旦那さんと息子さんに関しては、そんな境地になってるんですか?
干場:どっちかというとね。まあいいか、みたいな。
安藤:旦那さんにはこのあいだ、3倍ぐらいの声で言い返したって……。
干場:条件反射というか。
(会場笑)
干場:それでも、私は、あんまりバーっとか怒るタイプじゃない。
もう25年ぐらい前のことですけど、グループ会社に、当時、とにかく怒鳴りまくることで有名な若いドクターがいました。そういう人って、いつも怒鳴っているので、怒鳴られることに慣れてなかったみたいで、一度、その3倍くらいの強さで怒鳴り返したら、すっかり私の下僕になっちゃいました。
(会場笑)
干場:「もう干場さんに言うのやめよう」ということで。だから、あえて、その時葛藤したことをガーっと言うと、けっこう相手をコントロールできるってことを学んじゃったんですけど。
安藤:確かに、干場さんに怒られたら怖いですよね。
(会場笑)
干場:あと、自分のことで申しわけないですけど、「べき」って確かに大きいと思うんですが。私が自己観察をしていた時に思ったのが、自分はたとえば寂しいとか、悲しいというのを認めるのがなんか自分が弱くなるような気がして嫌で。怒りに転化する、みたいなことが私は多いなという感じです。
例えば今だったら、「私は社長なのに」とか「年上なのに、それに応じた扱いをすべき場所でしない」と。そうするとすごく怒るわけです。怒りが出てくる。でもこれって、自分が大切にされなかったって悲しみなのかもしれない。
それを悲しいと思っちゃうと弱みになるので、弱みを見せまいと、自分の中で怒りで包んでいないかな、みたいなことを観察して。友達の中で自分だけ誘われるのが遅いとか、好きな人になんか冷たくされるという時に、怒りになるというのって、やっぱりその「べき」なんですか?
安藤:怒りってさっき、防衛感情っていう話をしたんですが、実はほかのいい方もあって、万能感情っていう言い方があるんですね。万能、要するに、万能の神じゃないですけど。どういうことかというと、怒ることで、さっき簡単に干場さんがおっしゃったように、悲しいとか痛いとか辛いとかというのをごまかしたり忘れられるんですよ。
干場:そうですね。本当に。
安藤:人は悲しいとか、辛いとなった時に、怒ることによって、ほかの感情をごまかすってことができてしまうんですね。なので、万能感情って呼ばれてるんですけど、あまりその万能感情に頼りすぎてしまうと、どんなことを感じてもすぐ怒りに転化してしまうので、あまりいいことではないんです。ただ、元々の役割として、そういうのはあるんです。
干場:そうですよね。そのことに気付いたと同時に、相手の怒っている時には、きっとそれがあるんだろうということで、戦略的に怒り返すことはあるけれど……基本的には怒ってる人に対して、その時は反射的に怒り返したりしても、愛おしく思えるようになりました。
本当に、私に怒っているのではなくて、この人の中に、そういう悲しみとかがあるからなんだなと思って、愛おしい。
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