2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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干場弓子氏(以下、干場):私ばかり訊いてしまってはいけませんね。みなさん、質問をお書きになっているので、これからは、みなさんの質問を。手を挙げて質問していただければ。
質問者1:健康管理についてうかがいたいのと、あと、すごく勉強時間を重ねていらっしゃって、その勉強時間をどのように調整して、勉強をするときに「何分休んでからやる」とか、睡眠時間を何時間か確保した上で勉強をするとか、なにか自分のなかで決めていらっしゃることがあれば、ぜひうかがいたいなと。
関谷:そうですね。勉強時間の確保に関しては、これもある意味、目的意識が大切かなと思っています。
同時通訳だと、通訳する業界のことやクライアントは常に変わってくるので、それについての勉強は、常にしていかなきゃいけない。通訳としてしっかりしたパフォーマンスを出すために必死で勉強しています。ある意味、仕事の一環で勉強できているということはすごくありがたいことなんですけどね。なので、目的意識とか、勉強に対してなにかの意味付けをするというのが1つ。
あとはもう1つ。ハードルを下げて習慣化できるようにすることじゃないですかね。私はそれがなかなかできないときがあって、つらいんですけど。
健康管理については、睡眠をちゃんと取るように意識しています。毎日リフレッシュして仕事に向かうには、睡眠が自分にとっては一番効果的な方法かなと感じています。
たぶん、みなさんのなかでも自分のパターンとかあると思うんです。そのパターンを知りながら、どうやったらベストなパフォーマンスができるかを考えたらいいんじゃないかなと思います。
質問者1:ありがとうございます。
干場:次の方どうぞ。
質問者2:お話、ありがとうございました。質問なんですけれども、関谷さんは、日本ですごく通訳者としても活躍されていて。ずっとこのまま日本で続けられるんだなと思っていたときに、日本を離れてアメリカに拠点を移されてしまったのが、どういった思いで行かれたのかのかな、というのが1つと。
あとは、スタンフォードというところで学ばれて、今ご卒業されて、行ってよかったなとか、やっぱりアメリカに行ってこういったことを学んだなって、よかったなってことがあれば教えてください。
関谷:あれ? アメリカに住んでらっしゃいましたよね? お会いしていますよね?
質問者2:はい。関谷さん……。
(会場笑)
関谷:ここ、東京ですよね?
(会場笑)
質問者2:関谷さんが最初にスタンフォードにいらっしゃったときのウェルカムパーティーでお会いして……。
関谷:あー、ご無沙汰しております。
質問者2:ありがとうございます。
関谷:彼女はアメリカにいました。あれ、ここにいらっしゃるということは、今東京にお住まいってこと?
質問者2:そうです。2014年に帰ってきました。その前にスタンフォードで関谷さんにお会いして、私もやっぱり関谷さんみたいになりたいと思ってお仕事を辞めて、日本に帰ってきて、通訳の道を歩き始めたんですけど。そうしたら、関谷さんが戻っていらっしゃらなかった。
(会場笑)
関谷:それはまずい(笑)。
質問者2:入れちがいになったなと思って。また引き続き、アメリカに拠点に残られているので。なぜ、日本だともっと活躍できる場がたくさんあるのに……。
(会場笑)
関谷:(笑)。そうですよね。本当にすみません。ありがとうございます。今日は来ていただいて。
アメリカに最初に行った理由ですよね? それは、学びたかったから、というのがあるかもしれません。それまでは通訳業、通訳会社の運営、NHKラジオや書籍といったビジネス英語に関する発信にすごくフォーカスしてアウトプットしてきました。フォーカスするのってすごく大切で、それらが自分の強みになっていくと思うんです。実際そうなったと思います。
ただ、同じことばかりをずっとやっていると、シュリンクしていくと思うんですね。今までやってきたことをやり続けるだけだと、どうしてもこじんまりとなっていったり、すぼまっていってしまったりすると思ったんですね。なので、それを避けるために、どこかで広げなきゃいけない。広げる過程はすごくつらいんですけど。
だから、スタンフォードへはストレッチ、学びや体験の幅を広げられたらという思いで行きました。実際にできたこともできなかったことも含めて、日本にいたら体験できなかっただろう体験ができたからすごく学びはありました。
学びにしても、人生の領域にしても、思い切ってどこかで幅を広げて、そこから「やっぱり自分はこの道だな」と思ったら、またそこにフォーカスしたらいいんですけど、そのフォーカスしたときに、1回広がっているから、シュリンクするというよりは、もう少し広い視野というか、大きな目で、フォーカスしてきた専門性を見られるんじゃないかなと思って。
広げたりフォーカスしたりを交互に続けていくというのは大切だなというのを思っていて。タイミング的に、いろんなことがうまくいっていた時期に、でも人生をさらに一歩進めるには、どっかで広げないといけないかなと思って、行ってみました。
今後のことですけど、起業とかキャリアを考えたときには日本にいた方が、おっしゃるようにめぼしい機会が多いのかもしれません。卒業してもうすぐ1年経っちゃうんですね。この1年間、関谷はなにをしていたかと言うと、アメリカでいろいろ試していて、なかなか人生うまくいかないなということを感じています。
向こうで事業を立ち上げたいと思っていたり、アメリカの一緒に立ち上げる人たちを見つけて、こういうことをやりたいみたいなのがあったんですけどね。でも、なかなかすぐには、すべてがうまくいくということはなくて。
次はどうしようかなと思っていて、まだけっこう苦しいっていうのがほんとのところ。もう少し物事が進んだら、お知らせできるタイミングがあると思うんですけど、まずは挑戦し続けてみたいなと思っています。だから、スタンフォードに行って、アメリカに行ってよかったはよかったですけど、成果みたいのはまだこれからかな、という感じです。
質問者2:ありがとうございます。
干場:関谷さんのすごいところはそこですよね。よく、英語に関わっている方で本も書く方って、英語を教えるということをずっと商売にするじゃないですか? それはそれで必要なんですけど、それってまるで東大に入った人が東大に入るための塾を開くみたいなもので、ほとんど私は発展性を感じないんです。
でもそうじゃなくて、仕事もまさに言葉は道具ですから、それを使って新しいビジネス、日本とアメリカをつなぐビジネスをお考えになっていて、それはすごいなと。
関谷:ありがとうございます。
干場:経営者としてはあり得るけど、英語を生業でやっていこうと思えばやっていける人なのに、発想が経営者というか。同じことを繰り返していたらつぶれるのは会社と同じなんで、本当に経営と同じだなと。すごいなと。
関谷:ありがとうございます。
干場:まだ質問したい方いらっしゃいますね、すみませんね。次の方どうぞ。
(会場笑)
質問者3:ありがとうございます。今、英語と日本語の翻訳の勉強をしているんですけれども。英語の難しさもなんですけど、最近すごく身にしみるのが、いかに正しくきれいな日本語を作るかということですごく苦労しているんですね。
関谷さんは本もお書きになっているし、きれいな日本語を習得していると思うんですけど。日本語を意識して勉強されたりとか、なにかされていることってありますか?
関谷:ありがとうございます。その通りで、同時通訳者というと、英語だけをすごく勉強しているように捉えられるんですね。もちろん英語も勉強するんですけど。ただ、日本語と英語の両方を使うし、人に伝えるということもあるので、日本語の勉強ってすごく大切だなと思っています。
なにをしているかというと、読書かなと思います。
干場:なにを読むかですよね。変な日本語、多いし。
関谷:そうだと思うんですよ。1つは、英語でも日本語でも、文法などの形式、基本的なところをおろそかにしない。日本語でも「ら抜き」で話すときちんとした印象は与えられないのと同じような、基本事項を英語でも復習するようにしています。
それに加えて、通訳の仕事などでは、今っぽい話題、最先端の話題が多く出てきます。例えば、私は海外からいらして日本で講演される方の通訳が多いんですけど。講演される方って、今日本に必要だからとか、世界で話題だからという理由でお話される場合が多いので、時代の空気感とか、今の日本に求められているだろうことを知っておく、みたいなものも大切かなと思います。ので、ある程度、売れているものとか日本で支持されているものは、読むようにしています。
先ほど、ご自身は翻訳をされているとおっしゃっていましたよね。翻訳と通訳がちょっと違うところは、通訳は、今っぽいって言うんですかね、その時代の流れみたいなのも反映しますし、通訳した言葉自体が記録にされずに流れていくことも多いかと思います。
翻訳は、いろいろな時代のものの翻訳を求められる機会もありますし、1回アウトプットしたものは書き物として残るので、言葉の選択がより重いのかもしれません。言葉選びに時間もかかると思うので、日本の美しい日本文みたいなものを読まれるといいかもしれないです。
質問者3:ありがとうございました。
干場:なにを翻訳するかにもよるんですが、翻訳については、『ダ・ヴィンチ・コード』の翻訳をした越前敏弥さんの本も我が社にありますから、どうぞ(笑)。
質問者4:貴重なお話、どうもありがとうございました。2つあるんですけど。1つは、先ほどおっしゃっていた、英語と日本語のスイッチを切り替えるトレーニングみたいなのがあったと思うんですけど、それは具体的にどういうトレーニングをしているのか、というのが1つと。
もう1つは、例えば、電話会議とか、ちょっとした学会とか、1、2分の話を聞くだけなんですけど。それが、意訳になってしまうんです。僕自身が。それを言っていることを正しく解釈したり、伝えるにはどうしたらいいでしょう。例えば、メモの取り方をどうしているとか、工夫されていることはありますか?
関谷:ありがとうございます。日本語と英語の切り替えについてですね。私の感覚ですが、通訳をしているとき、頭のなかではだいたい、イメージというんですかね、映像とか画像になっていて。
例えば、英語を聞いて、日本語にする場合も、英語を聞いて、理解を映像でするようにして、その理解したものを日本語で出す。そのほうが速いと思うんですね。言葉をいちいち、言葉同士で対訳していくよりも。なので、映像とかイメージで見るようにしています。
とはいえ、通訳的な技術が求められる場合は、メモが大切になってきます。メモを取るときに、英語を聞いて日本語に通訳するときは、要点は日本語でメモをとるようにしています。
干場:あー、そうなんですね。
関谷:逆に、日本語を聞いて英語に通訳するときは、英語でメモをとるようにしています。なので、大事なところほどメモは、自分がアウトプットするほうの言語で書いています。
干場:よく、海外の会議で誰かに通訳してもらうとき、その方が単語を英語で言っちゃうんですよ。あれって、今おっしゃったように、英語で聞いて英語でメモして、メモ見ながら通訳していたんですよね、きっと。
関谷:うん、そういうことだと思います。「interestがsameだから、あのpartyもinvolveしておかないと」、みたいな感じですかね。
干場:そうそう、そういう感じ。
関谷:あとは、自分でメモ用の記号を決めておくのも手です。「世界」とかworld, global, international みたいな概念であれば丸を書くとか。地球儀のイメージ。こういう意味のときはコレ、みたいな素早く書ける絵とか記号とかを作っておくといいかもしれないですね。
質問者5:本日はありがとうございます。私はNHK『入門ビジネス英語』を去年から聴き始めたので、入れ違いで(笑)。
関谷:そうですね。入れ違いでした。
質問者5:ちょっと悲観的な話をおうかがいしたいのですが。私は法律事務所で翻訳をしているんですけど。今ITが進んできているので、通訳者とか翻訳者とかというのは、そう遠くない将来に本当にもう淘汰されてしまうのではないかと、現実的に思うんです。私は年齢がいっているので、おそらく逃げ切れるんじゃないかと思っているんですけども(笑)。
今、翻訳を勉強したいという方からなにをしたらいいか聞かれるんですけど、私がやってきた勉強はもう今後はやり方は違うと思います。私は電子辞書がないようなころからやってきましたけど、今の若い人たちは産まれたときからそういうものがあるなかで、たぶん語学とかに対する感覚が違うと思いますし。
そういうことをいろいろ考えていくと、今どういう勉強をしたらいいんですかというのは、今の時点ではとても有効なんですけど、5年後、10年後はどうなっていくのか。通訳者、英語で仕事するのではなくて、英語を仕事にするという人にとっての将来的な見通しというか。まだお若いので、今後も長い間仕事をされていくと思うんですが、その辺をちょっとおうかがいしたい。
関谷:そうですね。おっしゃる通りだと思います。私はみなさんが英語を学ぶときは、英語を使って仕事をするから英語を使う目的とか、仕事の目的に合わせて英語を学びましょうってことをお伝えしているんですけども。実際に英語を仕事とされている方は、日本ではまだすごく多いと思います。
英語と日本語とのランゲージペアですかね? 今のご質問の方は。
質問者5:はい、一番多いのは英語と日本語。
関谷:私はスタンフォード在学中から卒業後も続けていたプロジェクトがあって、それがうまくいかなかったってさっき言ったものなんですけど。実は、スタンフォードとバークレーのコンピュータサイエンス学部の方と、機械学習と人工知能を使った、翻訳技術の開発に関わっていました。
うまくいかなかったのは、現実的にその技術開発と実用化が難しいから、なんだと思います。おっしゃるように、そう遠くない未来にテクノロジーによって通訳者とか翻訳者が置き換えられてしまうこともあるのかもしれないですけど、私の感覚では、もう少し時間がかかるのではないかと思うんです。
とくに、日本語と英語のランゲージペアは、まだけっこうかかるかなという感覚です。
ただ、ヨーロッパ言語とかはもっと速く機械化されるかもしれませんね。機械学習とか人工知能って、なにで機械に学習させるかというと、私のスタートアップでもネットに公開されている情報で学習させるんですね。
なので、例えば、EU圏だったら、全部の公式文書が、それぞれ英語とかフランス語とかスペイン語とかイタリア語とかで公開されているので、ペアになっているんですね。なので、学習させやすいみたいなんです、機械に。だから、そういう言語から技術が進化していくのかもしれません。
その点で言うと、英語と日本語のランゲージペアはまだけっこう時間がかかりそうかな、と思いました。
技術に関してもう1つ言うと、「機械が人間に置き換わる」というのが今言われていて、コワイ響きがするように思われることの1つですが。その間で、ちょっと理想主義的かもしれないんですけど、技術が人間を支えるという時期があると思うんですね。
イメージで言うと、「人間が全部やっていました」が、そのうち「機械が全部やります」になるとして、その間というのが、機械が人間をサポートするタイミングであったり、なにか人間的な解釈が必要な状況があるんじゃないかなと思っています。
私が開発したかったのも、翻訳者の方の作業効率を高める技術だったんです。今でいうと、例えば、グーグル翻訳とかを使っている方はわかるかと思うんですけど。日本語をバーッと入れたら英語がバーって出てくる。それって、機械側に立ってみると、機械にはワンチャンスしかないんですね。
ただ、人間と機械が一緒に作業ができるようになると、ワンチャンスじゃなくて、バッと出てきた英語に対して、翻訳者の方がこっちの英語のほうが適切だ、みたいなのをインプットしたら、その後ろもどんどん変わっていくみたいな。そういうことで、人間と機械が一緒に作業をして、人間の作業効率がよくなるような、そういう技術がほしいし、そういうのを作りたかったなって。それが間に入ってくるんじゃないかなとも思います。
なので1つ言えることは、今後、通訳や翻訳の道を目指される方は、機械とかテクノロジーにはなるべく精通していたほうがいいということかと思います。それと、技術的にも、今なにが世の中で研究されていて、どうやったら実用化されるのかなどの情報をアップデートされていたほうがよいと思います。もしかしたら、それらに精通しているおかげで、通訳とか翻訳以外にも技術的なことで力を発揮できる仕事も出てくるかもしれませんよね。
質問者6:私、ライターをしていまして、以前インタビューをさせていただいた方の通訳で、関谷さんとご一緒させていただいたことがあるんですが。そのときに、とても印象に残っているのが、話している方の熱量をすごく伝えていらっしゃるなということでして。
いろいろと通訳者の方のお話を聞きますけども、非常に印象的で。伝えることはもちろんなんですけど、それを伝わることってするために意識されていること、正しく伝える以外に、その方の想いだったりとか性格面だったりとか、伝わるようにしていることをおうかがいできますでしょうか?
関谷:はい、ありがとうございます。その節はありがとうございました。同時通訳もそうなんですけど、逐次の通訳をするときも、なるべくその人に成り代わるというか、イメージとしては声優さんを意識しています。私は、言葉の媒介する「medium ミディアム」ですね。なので、そこに私の意見はなくて、その人が言っていること、伝えようとしていることを意識するようにはしています。
通訳の場ってすごく緊迫した現場でもあるので、ある意味、言葉だけに集中してしまうと(深刻そうな言い方で)「今はまさしく私たちは興奮しています。とても楽しいです」とかになってしまいます。
(会場笑)
ぜんぜん楽しそうじゃないじゃん、みたいな感じになる。そういう、今のは粗い例ですけれども、多少意訳してでも、すごく楽しんでいる雰囲気を伝える。あるいは、講演の場だと。……(間)。こういう間をすごく大切にされるスピーカーもいます。
みなさん、この場合はどう思いますか? ……(間)。
講演では、こういう間って綿密に計算されていますよね。でも、同時通訳ってこの間のあいだに追いつきたい気持ちになるんですよ。話者のあとをついていっているので。
話者の間を使って訳したいんですけど、それをやっていると、聞いているほうは、見ている映像と聞いている言葉が一致しないので、聞きづらいかなと思って。話者がシーンとなったら、通訳もシーンとする、そういう臨場感みたいなのを大切にしています。
司会者:それでは、関谷さん、干場さん、ありがとうございました。
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