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NYLON JAPAN編集長&ノオト編集者・朽木氏が語る、メディアと編集の未来(全3記事)

「大切なのは理想とする文章があること」戸川貴詞氏×朽木誠一郎氏が語る、良い編集者の条件

DeNA Paletteが主催する「Palette Party」。第3回となる今回は、『NYLON JAPAN』編集長の戸川貴詞氏、ノオト編集者の朽木誠一郎氏を迎え、「Writer Nite」というテーマでトークセッションを行いました。

3人の編集者による編集トーク

石原龍太郎氏(以下、石原):戸川貴詞さんと朽木誠一郎さんです。拍手でお迎えください。

(会場拍手)

本日はよろしくお願いします。

戸川貴詞氏(以下、戸川):よろしくお願いします。

朽木誠一郎氏(以下、朽木):よろしくお願いします。

石原:すでにご存じの方も多いと思うんですけども、まず始めに2人の自己紹介からお願いしたいなと思っています。では、戸川さんから。

戸川:初めまして。私、カエルム代表及び雑誌『NYLON JAPAN』の編集長、今回この『MERY magazine』のクリエイティブディレクターなどを務めさせていただいております戸川と申します。よろしくお願いします。

(会場拍手)

朽木:私はコンテンツメーカー、ノオトという編集プロダクションに所属しております、ライター編集者の朽木誠一郎と申します。本日はよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

朽木:わりとまぶしいですね(笑)。

石原:そうですね、けっこう熱いですね(笑)。汗が……。すみません。

朽木:いや、とんでもない。

石原:このトークセッションというのは、僕から見て戸川さんという超大先輩と、朽木さんというちょっと先輩の編集者と、僕という超ビギナー、という構図で話を進めてまいります。この構図を頭に置いておいてもらえると、話がスムーズに入ってくると思います。よろしくお願いします。

編集者を選んだのは消去法だった

では、さっそく1問目に入っていきたいと思いますが、最初は軽めな質問から入っていきたいと思います。

「なんで編集者・ライターになったの?」ということで、素朴な質問ではあるんですが、これからお話を聞いていくうえでその人の背景がわかったほうがいいかなと思いまして、この質問にしました。

編集者・ライターの仕事を選択する理由は、人それぞれあると思っております。僕はたまたま出版社でアルバイトするきっかけがあって、ライターを始めたんですけども。お2人はどのようなきっかけで、編集やライターを始めたんですか?

まず、戸川さんからおうかがいしたいんですけれども。現在『NYLON』や『SHEL'TTER』の編集長を務めていらっしゃいますけど、どういった経緯で?

戸川:そうですね、はしょってざっくり話すと、大学入って将来なにしようかなと思って、まずはいろいろバイトをやってみて、実際にその仕事に触れながら考えたくて。

たぶんその時、30種類とかやってみたんですけども、そのなかで雑誌の編集のアルバイトだったり、テレビ局のアルバイトだったり、そういうものがおもしろかったし、ちょっと下世話な言い方ですけど、モテそうだなとか稼げそうだなというのがあって。

たいした理由はないんですけど、そんな感じでピザ屋さん、レンタルCD屋さん、ゲームセンター、その他いろんなバイトををやりました。

雑誌の編集のアルバイトは、自動車専門誌の、今でもあるモーターマガジン社の『ホリデーオート』という本当にゴリゴリの車雑誌なんですけど。そういうところでバイトを2年半くらいやったのがきっかけです。

石原:車の雑誌からファッション誌みたいな感じですか?

戸川:そうなんですけど、その頃はまだ編集者になりたいという気持ちはあんまり強くなくて、削除していったらそれが残ったという、自分のなかでそれくらいの感じで。

今日、DeNAさんでこうやってトークさせていただいていて思ったんですけど、こんな素敵な場所があっていいなあって。当時ITなんてなかったんで……ぶっちゃけ言ったら、今なら絶対ITに行ってたと思います。100パーセント! ですけど、当時はこういう会社もなかったので。

まあ、出版社もおもしろそうだなと車雑誌のバイトをしていて思ったんです。でも、そこはすごく男くさくて。タバコは当時まだ部屋のなかで吸えたので、漫画であるような、山積みされた原稿の横でタバコの灰がボロボロになって、その辺に徹夜してる人が寝転がっていて、というようなところでした(笑)。

それで、こんなところにはずっといたくないなと思って(笑)。なにがいいだろうなと考えて、いくつか選んでいって、ファッション系メインの出版社に入社させていただきました。

理系の力が編集に生きている

石原:ありがとうございます。朽木さんはちなみにライターから入ったのですか? もしくは編集者としてのですか?

朽木:僕はライターからですね。そもそも僕は編集者という仕事のイメージがも正直あまりできていなかったくらいなので。

田舎の大学で学生をしてたんですけど、そもそもライターというものに漠然とした憧れがありました。でも、田舎にはチャンスがなくて、メディアは東京にある。じゃあ、東京に行こう、という流れだっところからたんですよね。

今でこそWebメディアはライターの報酬が低いとかいろいろ言われますけど、そんな議論すら当時はなかったんですよね。Webライターになるのも難しかった時代というのがあって。少なくても、地方に住んでいる未経験の人間だと限界があったので。その頃に小学館のデジタル事務局というところの運営メディアに潜り込んだのがスタートです。

最初は、ものを書くということにものすごく憧れがあったので、今でこそ「自分が書きたいことを書ける仕事じゃないんだ」ということを言われたり、言ったりもするんですけど、それもわかっていませんでした。

当時は本当に「作家になりたい」みたいな気持ちだけでしたね。やっていて「あ、これ作家になれない」と気づいたんですけど、この仕事が好きだから続けているという感じです。

石原:では、次の質問にまいりたいと思いますが「編集者とライターは文系なのか、理系なのか」。

(会場に向かって)ちなみに、このなかでご自身が文系だという方、どれくらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

けっこう多いですね、半分以上。ありがとうございます。僕も文系出身で、ライターを志したんですけども。僕のイメージだと、ライターというのは自分のなかにある漠然としたイメージを文字に落とし込んで文章にするという部分で、どちらかというと文系寄りなスキルが求められるのかなと思っていますけど、朽木さんはそうではないんですよね?

朽木:僕はもともと大学は理系なので、文系ではありません。例えば、記事を書く時にターゲットがいて、記事が載るメディアがあり、案件によってはクライアントさんもいる、という構造がまずあって。その中で読者に対してなにを訴求するのかということを考えるにあたっては、ある程度論理だてて考える力というのは必要でいます。

それが文系の力なのか理系の力なのかはなかなか難しくて、一概には言えないと思うんですけども、例えば数学の証明問題とか、ロジックで考えるということに関してはわりと理系の力が生きているのかなとは思いますね。

物理が大好きでずっと教科書を読んでいた

石原:戸川さんはずっと雑誌に関わられてきたと思いますが、文系・理系といった意識はありますか?

戸川:僕は、学校は文系だったのですが、本当に文系の勉強が大嫌いで。一方で理数系の授業は大好きでした。

社会がとくに大嫌いで、本当にほとんど授業に出てなかったです。出席日数が足りなくなるぐらい(笑)。理系ではとくに物理が大好きで、ずっと教科書読んでました。

ただ、当時は理数系の大学が暗い印象で、なんかモテなさそうだなと思って(笑)。今は理数系かっこいいと思うんですけど、女の子も少ないし、文系のミッション系がおしゃれでセンスよくていいなと。本当にそんなどうしようもない理由で文系に行きました。

理系的な発想で言うと、例えば、20ワード×10ワードでいかに字面がきれいに収まるか、みたいなところが大好きで。言葉の途中で改行されることとか大嫌いだし。とにかく全体がきれいに収まっていて、デザインの細部まで完璧に理にかなっているのが快感です。

今はデザインがDTPになってしまったので、デザインを先に割って文章の見栄えを求めることが昔より少なくなったと感じるんですけど、そういうディテールにこだわるのがすごい好きですね。

石原:Webでライターをしていると、そういう快感というのは正直ないですよね。

朽木:そうですよね。デバイスによって変わっちゃいますからね。そういうメディアの仕組みのところから今はちょっとずつ変わってしまっているんだろうなということも、このあと話していけたらいいなと思いますが。

理想とする文章があるかどうかが軸になる

石原:そのお話に関連するんですが、次の質問にいきます。

「編集者やライターに必要な素質とはなんだろう?」ということで、さっきのお話を聞いていくと理数系の思考法、スキルのほうが求められるのかなと感じています。

話の軸としては、編集者・ライターに共通する点が1つ、そして編集者とライターがそれぞれ持つ素質の3つに大きく分かれるかなと僕は思っているのですが、そこについて朽木さんはどう考えられていますか?

朽木:必要な素質ですよね。繰り返しになりますが、言ってもまだ編集者として3年目なので、なにかがわかっているわけではないんですけど、最近よく思うのは……なんていったらいいですかね? 言葉が適切かわからないですけど、美学って必要だなと思っていて。

例えば、「こういう文章のほうがいいよね」というのは、言葉にできる絶対的な基準がないなということを最近思っているんですよね。

上がってきた文章に対して「こっちのほうがいいよね」と言って、判断しなければなりません。それは、逆に言えば自分のレベルも当然高くないといけないので、難しい仕事だなと思っています。自分のなかで理想とする文章があるかどうかというのが、軸になるんじゃないかなというのは、最近よく考えます。だから美学、と。

石原:理想とする文章があるかどうか?

朽木:はい。僕はWebから始まったんですけど、最近は紙のお仕事もさせていただけるようになってきました。そのなかで例えば、紙が理想としてきた文体であったり、表現方法であったり……それはメディアによっても違うと思うんですけど、そういうものがある。それに沿っていないと、それだけでクオリティの低い文章だと思われてしまうというのは、わかりやすいと思うんですけど。

一方、例えばWebでずっとやってきた人で、やっぱりWebのなかでおもしろい文章というのが、それはそれとして醸造されてきていて。少なくとも自分が軸として「これがいい文章・いい表現だと思う」と言えるものがあるかどうかが大事なんじゃないかなと。そうしないと議論が成り立たないじゃないですか。

雑誌版『MERY』のライターはどうやって集めた?

石原:おもしろいという感情は、漠然としているなと思っていて。それが実際、書き手とか編集の立場になった時に再現性がないと意味がないというか。

例えば、おもしろいなと思っていてもマネできなかったりするじゃないですか。人は、おもしろいという感情が芽ばえた瞬間に、「なんでおもしろいんだろう?」とかあえて言語化するんですかね?

朽木:なるべく言語化しようとは思っているんですけど、言語化できるものでもないということがあって。圧倒的なものは当然言語化できないじゃないですか。繰り返しになっちゃいますけど、それはすごく難しいですよね。

個人的に思っているのは、「ライターさんの教育」って、僕自身これまで言ってきたりしたんですけど、本当に自分のレベルが高くないとなかなか難しくて。だから、まだできないな、と。

少なくとも3年目の僕にできるのは、発掘すること。「この人はおもしろい」「少なくとも僕はおもしろいライターさんだと思う」というのを、発掘することはできるというのが、3年目の今、思っていることです。

石原:戸川さんは編集長を務めていらっしゃって、ライターさんとの関わりもあると思うんですけど。先ほど朽木さんがおっしゃっていた発掘するというところについては、ライターさんをどういう軸で見ていたりするんですか?

戸川:Webや雑誌も含めて、おもしろいと思った人には……まあ「“おもしろい”の基準はなに?」ということはあるんですけど、そういう人を見つけたらとりあえず連絡してみる、ということはよくあります。

朽木:質問いいですか? 雑誌版『MERY』のライターさんは、どうやって集められたんですか?

戸川:あまり時間がなかったんですけど(笑)、やることが決まってある程度の方向性を考えた後に、そういうところにハマるような方を何人かピックアップして、お会いして、という感じですかね。

うちの雑誌はわりとそうなんですけど、ライティングまで編集の人がやっているパターンが多くて、編集者とライターというふうに分かれていないので、両方のことができる人という感じで探しました。

朽木:なるほど。『NYLON JAPAN』さんも、あまり明確に編集者とライターを区別していないんですか?

戸川:区別してないですね。『NYLON JAPAN』で言えば、例えば音楽ページとか、専門性があるところはライターさんを使ってます。

朽木:雑誌の作り方って、(全体的に)そういうものなんですか? それとも雑誌によって違うんですか?

戸川:そうですね。企画によって、あるいは出版社とか、雑誌別とか、やり方はたぶんそれぞれ違うと思います。

朽木:そうですよね。僕が携わらせてもらう週刊誌であったり、そういうところは、完全にライターが外にいる感じかなと思っていたんですけども。

戸川:そういうパターンが多いですね。

ライターにも編集視点が必要

石原:さっきの話を聞いていると、編集者とライターというのは、僕は無理やり「分けよう」と言ったじゃないですか。編集者の素質とライターの素質を。

さっきの話を聞いていると、媒体によるという話だったとは思うんですけれども、両方できる人は強かったりするのかなと。Webと雑誌では話が変わってくると思うんですけど。

戸川:両方やるかどうかというよりは、両方理解していないと……ライティング技術を理解していなければライターにお願いできないと思うし。逆にライターもエディトリアルの流れをきちんと理解してないと、当然いいライティングはできないと思うし。

作家は極論を言えば、本当に好き勝手書けばいいと思うんですけど、編集の能力はそうはいかないので。そこが、さっき朽木さんがおっしゃっていたみたいに、作家と編集者だとか、作家とライターの違いみたいなところなんじゃないかなと、僕は思うんですけど。

石原:朽木さんは現在ライターをやっていますが、編集もやっていらっしゃる?

朽木:そうですね。僕が所属しているのは編集プロダクションなので、基本的には編集がメインというか、編集が業務です。むしろ、僕が記事書いて「やった! 読んでもらえた」みたいに言っていたとしたら、「あいつは自分で書きやがったな」というのが正しい反応かもしれません。

本来は、ライターさんにネタをふったり、ネタをもらったりして、ライターさんにいい記事を書いてもらって世の中に広げるというのが、編集者の仕事かなと思います。なので、基本的には編集プロダクションは編集をメインでするのが仕事になるはずです。

ただ、僕自身はどっちかというと気質がライターに寄っているので、書くのはやっぱり楽しいですし、ちょいちょい書いちゃいますね。

でも、本来は、うちだったらありがたいことにオウンドメディアの依頼が多いので、例えば、月に何本納品するというならしっかり納品して、それでクライアントさんが求めている結果も出しつつ、世の中、読者さんに喜んでもらうというのが目標です。

石原:そうなると、必要な素質を仮に言語化するとなれば?

朽木:さっき戸川さんがおっしゃっていた編集視点というのは、ライターにもお願いしたい部分かなと思いますね。僕は美学とかの話をしたんですけど、それが合う・合わないというのは、どっちかというと、媒体によって規定されるものだと思うので。

例えば、実用的な文章が必要な媒体で、あまりポエムというか詩的な文章は必要ないじゃないですか。(媒体に)合わない。そういうことをちゃんと理解してもらうことが素質というか。それがわかってもらえるとやりやすいかなと思います。

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