2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
渡辺由佳氏インタビュー(全1記事)
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――いつごろから、「モノの言い方」を意識するようになったのですか?
渡辺由佳氏(以下、渡辺):もともと私は小さいころから「○○がほしい」「○○をやりたくない」といった自分の気持ちを言えない性格でした。自分の気持ちを相手に伝えようとしたときに、断られたらどうしよう、負担だと思われたらどうしようと不安になり、人にうまく物事を頼めなかったのです。
けれど、社会人になるとそういう訳にもいかず、お願いをしたり、断ったりする場面にどうしてもでくわします。そんななにかを言わなきゃいけないという場面で、相手を傷つけず、自分の思いをきちんと伝えるための方法を人一倍考えてきたように思います。そのなかで言葉づかいを大切にするようになりました。
――もともと、相手に気持ちを伝えることが苦手だったとは意外ですね。
渡辺:アナウンサーをしていたときに、編成局の偉い人と話す機会があり、「渡辺君、君はどんな番組がやりたいんだい?」と聞かれたことがあります。そのとき私は、「今のワイドショーのリポーターの仕事がとても充実しているので、一生懸命やりたいと思います」といわゆる優等生コメントを言ったのです。本当は朝のニュースを担当してみたかったのに、遠慮してしまったんですね。
ワイドショーの仕事は非常にやりがいのあるものでしたが、事件や事故の関係者や遺族にマイクを向けることもあり、私にとってつらい仕事でもありました。ワイドショーはやめたいというのが本音だったのですが、うまく言うことができず、結局そのまま、3年半ずっと現場にいることになって……。
精神的に限界だったのか、最後のころには病気になって入院してしまいました。その後、30歳でテレビ朝日を辞めて、結婚、育児を経て、ご縁があって話し方の講師を務めることになったんです。
アナウンサーになっても、やりたいこと、やりたくないことを自分の気持ちに正直に言えないままでした。今思えば、いい子ぶってしまうというか、気が弱いというか、人からなんと思われるのかが心配だったんですね。あのとき、私がもし「モノの言い方」を知っていたら、伝えることをあきらめなかったら、また違った今があるかもしれませんね。
――講師として「指導」するときのモノの言い方も難しそうですね。
渡辺:先生なので、生徒たちに「モノの言い方」を指導しなくてはいけません。しかし、直接的に注意をすると相手を傷つけてしまうかなと思い、なかなか指摘できませんでした。
たとえば「がさつなモノの言い方だな」と思ったときに、それをストレートに表現すると相手を傷つけてしまいます。そんなときは、「元気があり余りすぎていて、相手を驚かせてしまうかもしれませんね。語尾をもう少し柔らかくしましょうね」と言うように、別の言葉を探して、相手のマイナスポイントを傷つけずに伝えられるよう、四苦八苦していました。
ビジネス研修だと「もっときびしく指導してください」という声もあるのですが、私は気が弱くてそういうやり方はできません。ビジネスコミュニケーションが苦手だという人向けの、励まして元気づける「後押し型」スタイルの指導を心がけてきました。
――上司と話すときに、とくに気をつけたい「モノの言い方」はありますか?
渡辺:言いたいことを上司にそのまま伝えようとするときに、上司の立場に立って言葉を受け取るときの気持ちを想像してみることです。
たとえば、「この企画はこのような段取りで進めていこうと思います」と言い切られるのと、「このような段取りで進めていこうかと考えていますが、いかがでしょうか」と言われるのとでは、どちらが上司の立場として受け取ったときに、気持ちがよい言葉でしょうか。「いかがでしょうか」と上司に判断を任せる言い方のほうが、適切ですよね。
本でも紹介したのですが、「○○してください」という言葉にも気をつけてもらいたいですね。ある雑誌のアンケートを見ていても、「部下から『○○してください』と言われたくない」と考えている上司は多いようですから。
「何時に会議室にお越しください」「何時までに書類に目を通しておいてください」と朝から晩まで「○○してください」と言われつづけていると、どちらが上の立場かわからなかくなってしまいます。「○○してください」を「○○していただけますか?」と言い換えるだけで上司の受け止め方は変わってくるでしょう。
――若手社員にオススメのフレーズはありますか
渡辺:ぜひ使ってもらいたいのは「ありがとうございます」「勉強になります」。この2つは必須アイテムですね。
若手社員、とくに新入社員は、上司や先輩、取引先から仕事を教わる場面が多いと思います。そういうときに、「ありがとうございます」と「勉強になります」をすぐに言えれば、素直で可愛い後輩だと思ってもらえます。この2つの言葉は1日に何度言ってもいい言葉ですから、ぜひ積極的に使ってみてほしいですね。
ここで覚えておいてほしいのは、「勉強になります」と「参考になります」という言葉は似ているようでまったく違うものだということです。「参考になります」は、多くの人が誤って使う言葉のつです。
「参考になります」は、本来目上の人が「参考にするよ」と言うなど、考えの足しにする場面でつかう言葉です。下の立場の人から言われると、教えたことを軽視されたと相手に誤解を招き、「上から目線」で失礼だと受け止めてしまう人も多いので、上司や取引先など立てるべき相手には使わないほうがよいでしょう。
「勉強になります」を言えるようになったら、さらにひと工夫するのがおすすめです。
「勉強になります」という言葉とともに、どう学び、今後どう生かしていくのかを、具体的な行動を伝えるのです。「○○について勉強になりました、今度○○のときにやってみます」というように、何が勉強になったか、どう活かすかをきちんと伝えてほしいですね。そうすれば、ちゃんと理解していることが積極的な姿勢とともに相手に伝わります。
そして、多くの人が見落としがちなのが、「はい」という返事です。たわいのないことですが、「はい」という返事ができるができないかで、印象が大きく変わります。何かを頼まれたとき、「わかりました」と答えるだけの人よりも、「はい! わかりました」とすぐ行動に移る人のほうが気持ちがいいですよね。
――言葉づかいでその人の性格が伝わるんですね。
渡辺:言葉づかいの前提の話になりますが、「自分が口から発した言葉は、すべて自分のイメージになる」ということを忘れないでほしいです。
言葉は大きく分けると、ポジティブな言葉、ネガティブな言葉の2つがあります。ポジティブな言葉は、前向きで周りを明るくさせる言葉、ネガティブな言葉は、後ろ向きで周りを暗くさせるような言葉ですね。それぞれの言葉のどちらが多いかが、一緒にいて気持ちよいかどうかを左右します。
新入社員同士だとついつい、悪口や愚痴を言いたくなってしまう場面が多いかもしれません。しかし、ネガティブな言葉ばかり言っていると、その人はネガティブな雰囲気に包まれてしまい、「一緒にいて楽しくない人」「かわいげのない人」になってしまいます。
だからこそ、ネガティブな言葉はやめて、ポジティブな言葉を発するようにすれば、自然と人が集まり、「好かれる人」になることができます。
――最後に、読者へメッセージをお願いします。
渡辺:本書では、自分の気持ちをストレートに表現することがもともと苦手だった私が、なるべく言わなくて済むなら言いたくない言葉、言われて嫌な気分になった言葉を「NGワード」、自分の気持ちを誤解なく伝えるために言い換えた言葉を「OKワード」としてまとめました。
私と同じように気が弱くて、引っ込み思案な方たちには、今まで正直に言えなかったことでも、うまく伝える言い方があるので、我慢しないで自分の気持ちを言葉にしてほしいと思います。この本が、その助けになればうれしいです。ぜひ伝えることをあきらめないでほしいですね。
一方で、今まで周りの人に思ったことをそのまま伝えていたという方たちもいると思います。人と話していて「あの人はなんで急に機嫌が悪くなったんだろう?」と思ったことがある人は、もしかしたら誤解や気持ちのすれ違いを招くひと言を発していたのかもしれません。
人の性格は十人十色ですから、どういう思いで言葉にしているかどうかは本人にしかわかりません。だからこそ、その違いを、あらためて知ること、発見する手引きとして読んでいただき、周りの人とよい関係を築く「モノの言い方」を知ってもらいたいですね。
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