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現代ビジネス×ブラック企業探偵団@超会議2016(全3記事)

「銀行への就職はあまり勧めない」ブラック企業本の著者と経済評論家・山崎元氏が語る“企業分析法”

「ニコニコ超会議2016」で行われた、経済評論家・山崎元氏と『進め!! 東大ブラック企業探偵団』の著者・大熊将八氏の対談。企業の分析を行ってきた2人が、ブラック企業・ホワイト企業の基準について語りました。

みんなホワイト企業にあまり目が向いていない

山崎元氏(以下、山崎):あとブラック企業でいうと、それぞれ業界別にブラック企業とホワイト企業。「これはいい会社だぞ」というのと両方紹介していこうという建てつけの本ですけれども。

本を書いてみて「やっぱりこれは自分では就職はしなかったけれども、いい会社じゃないか」みたいなもの、「この会社はきっといい会社だろう」みたいな印象を今でも持ってる会社ってあります?

大熊将八氏(以下、大熊):本で取り上げさせていただいた、お寿司を作るロボットを作ってるメーカーの鈴茂器工というところですとか、あとは電設資材とかを作ってる未来工業さんですとか。

けっこうニッチなBtoBメーカーのなかに、経営的に見てもROEも高いし、儲かっているし、従業員もすごく大切にしているし、たくさん特許も取っていて、というところが多いなと思います。

そういったところに目がいってないし、そういういい企業にもっと目が向けばいいのにって思いますね。

山崎:でも、あんまり東大生はそういうところを就職しない?

大熊:そうですね。さっき「チャレンジする人もいる」って言ったんですけど。ほとんどはミーハーなんですね。僕もですけど(笑)。

なんとなく一番いいところだから目指したとか来たとかっていう人が多くて。すごいブランド志向というか、「みんなが知っているところ、みんなが羨むところがいいところなんだ」というのを持っている人がすごく多いんですよね。別に東大だけではないと思うんですけど、それはあると思いますね。

それが、実際のいいところ、実際の将来性があるところというのを見る目を曇らせているところはあると思いますけどね。

山崎:もともとはゼミがベースになってるんですよね。瀧本先生のゼミでしたっけ?

大熊:そうですね。瀧本哲史ゼミというところがございまして。

瀧本ゼミではなにを行っている?

山崎:どんなかたちでゼミやってるんですか?

大熊:インカレサークルのかたちです。大学も問わず、もちろん男女も問わず、あとは学年も問わず。今、代表をしている子はちょっと前まで大学2年生だったんですけど、そこに院の2年生もいたりするというところで。

山崎:何人ぐらいで?

大熊:今活動してるのは20人ぐらいです。もう4代目ぐらい。次で5代目です。累計で100人ぐらいいるんですよね。

山崎:ほかの大学からもジョインできるんですか。

大熊:例えば筑波大学の人もいますし、かつては東工大の人ですとか、いろいろいらっしゃいますね。首都大学ですとか。

山崎:それって申し込みの方法とかあるの?

大熊:ちょうど今新歓をやってるんですけど、今年度の春の新歓は締め切りになっちゃいまして。秋にももう1回やるみたいなんですけど。

山崎:論文を出して、それで合格したら受け入れるみたいな、そんな感じですか?

大熊:エントリーシートみたいなのがありまして。そこで、「なぜここのゼミに入りたいと思ったか」みたいなのを書いて。それが合格でしたら、面接で「なぜ入りたいの?」みたいなことを。ゼミの入り方は就職活動にちょっと近いかもしれないですよね。

僕は1.5期生という立場でして。1期生が始めて、次の2期生を取ろうという立ち上げ時期にいたので。そういう意味では僕は試験を受けてないんですけど。

山崎:週に1回ぐらいのペースなんですか?

大熊:今はおそらく週に1回で。自由に、企業を調べたい人が「こういう企業がいいと思う」と発表して。それを先生とかゼミ生が「この数字の見方おかしいんじゃない?」とか「この仮説は間違ってる」とか「その資料の取り方では、このこと言えないよね?」というのを徹底的に。ディスカッションが中心ですね。

企業にまつわる意外なファクトを探す

山崎:最終的には私のほうの世界だと、「これはこういう会社でこういう業績だから、これぐらいの株価がいいのではないか。しかし、現在の株価はこれよりも安い」とか「高い」とかっていう話が、最終的な企業を分析する目的みたいなかたちになるんだけども。

瀧本ゼミの企業分析というのは、なにをターゲットにしていて、どういう企業を「いい企業」と言うんですかね?

大熊:基本的には瀧本ゼミ自体は株のゼミなので、株が上がるか下がるかというのを分析するんですけど。チャートを見るとかではなくて、いわゆるファンダメンタルズの経営分析なんですね。

ポイントが、今適正株価がどうかみたいのを見る時に、みなさんが知っているストーリーだともう市場に織り込まれているじゃないですか。

例えば「トヨタが来期に25パーセント増益します」というのがコンセンサスになっていれば、もう「今からトヨタが上がるから、この株は買いだ」とは言えないじゃないですか。

意外なファクトですよね。「実はこの事業がうまくいってないんじゃないか?」とか。「実はここは次にもうすぐ特許を取って、ものすごく伸びるんじゃないか?」とか。「実は……」とか「本当は……」みたいな、そういうものを頑張って探し出そうという。それがテーマですね。

山崎:人が知ってるとか知らないとかっていうことは、どうやって測るの?

大熊:それはゼミ生および先生のフィードバックにおいて、「これはたぶんみんなわかる」とか「これたぶん……」。

山崎:「これ難しいよね」とか。「この株価から見ると気がついてないだろう」とか、そういう話ですかね。

大熊:そうですね。あとは実地調査でわかることというのもすごくありますよね。例えば、「鳥貴族」というところって今すごく伸びてます。一見パッと見ただけなら、「外食系の企業ね。今後本当にたくさん出店できるのかな」みたいなところですけど。

実際に行ってみると、2等地、いわゆる一番いい場所じゃないにも関わらず、すごいけっこうブランドを確立していて。お客さん集まっているし、模倣しているお店にはあんまり入ってないなとか。それなら、ここはもっと出店できるんじゃないかとか。

そういう実際に見ることで、ネットに転がっているとか、公開されている情報以上の仮説が立てられる、検証できるところもあるのかなと思いますね。

投資をする時の2つのタイプ

山崎:実際のその会社を訪問するというのも有効な場合もあれば、有効でない場合もあって。競馬でいうと、パドックを見て馬券を買うのとそうでないと。パドックを見て馬券を買うと納得して馬券を買えるけれども、当たり外れはあまり変わらないみたいなことはあると言えばありますね。

証券会社のアナリストでも、社長と会ってインタビューはしてきたけれども、じゃあ、それでそのアナリストの判断で株を買って儲かるかどうかというのは、あんまり有効でないことが多かったりはするんですが。

大熊:ポジショントーク入りますもんね。

山崎:ポジショントークも入るし、だいたい話の感じのいい社長というのはあんまりビジネスに強い社長ではなかったりするところもあるし。むしろ、「こんな奴には二度と会いたくない」というような嫌な感じの社長の会社のほうが生き残ってたりすることもあるし。

社長とあったり、現場を見たりとかっていうのは、投資では有効である場合も有効でない場合もあるし。

昔、ファンドマネージャーやってたんだけども。投資をする考え方のタイプとして、会社を見るタイプのファンドマネージャーと投資家を見るタイプ(がいる)。

さっき「情報が織り込まれてるか、織り込まれてないか」というようなことをおっしゃってたけど、「これは今盲点になってるんじゃないか、あるいは行き過ぎてるんじゃないか?」というようなことを、なんとかして見ることができないかというアプローチで投資する人もいるし。

それは2通りありますよね。私はどっちかというとゲームとして投資をするというスタイルだったから。

大熊:ゲームというのは?

山崎:要は、リスクとリターンをどうやって作ったらいいんだと。どうやってベンチマークに勝って、要は「隣のファンドマネージャーにどうやって勝てばいいんだ?」というゲームとして運用してたので。

そういうゲームでいうと、どっちかというと企業を見てるよりは投資家、マーケットを見てるほうがアプローチとしては効率がいいことが多かったかなというような。でも、それは両方やり方があるので、どっちがどうとは言えないですけれどね。

“ブラック企業本”が1万部超え

これ(『進め!! 東大ブラック企業探偵団』)は、表紙は誰に描いてもらったんですか。

進め!! 東大ブラック企業探偵団

大熊:表紙は桂明日香さんという方でして。もともと漫画をよく描かれてる方でして。

山崎:加藤編集長が選んでくれたという?

大熊:そうですね。紹介してくださいまして。

山崎:なんか不必要に胸が大きいよね(笑)。

大熊:記事にも載ってましたね(笑)。

山崎:あんまり好みのタイプじゃないなと思うんだけど。

大熊:もうちょっと慎ましいほうがですか。

山崎:もう少し慎ましいほうがいい。

大熊:ものすごい開いてるシーンもありますよね。3章ですかね、おそらくこのへんの……。

山崎:何部刷りました?

大熊:1.1万部刷っていただきまして。

山崎:1万部超えました。よかったですね。だいたい、でも、なかなか単行本1万部超えないですよね。

大熊:こちらがその噂の大きな胸ですけれども(笑)。見えますか?

山崎:こんなのもあって。

大熊:たしかにちょっと大きすぎるところもありますね。

東大の学生の意識は高い?

山崎:東大の女子学生というのは最近はどうですか? 昔は、私のときはクラスに1人もいなかったし。経済学部にほんの数人みたいな感じでした。今、比率的には10数パーセントですけど、でも一時よりはちょっとまた下がってるんですよね。

大熊:そうですね。20パーセントいたのが10パーセント台に減っちゃってるみたいなんですけど。ただ、すごく垢抜けた人とか多いですね。あと行動的な人も多くて。それこそ、女性に多い気がしますね。「起業します」みたいな。

仮説なんですけど。東大男子のほうが、それこそお受験ママみたいなのに鍛えられて「将来出世して」みたいなことをすごい言われてることが多いのかなと。

どっちかというと、女の子のほうは、別に親から無理やり「東大に行け」と言われてるわけじゃなくて、純粋にやりたいこととか興味を追ってたら、すごい優秀で東大に来たという人が多いかなと思います。

「出世しなければならない。いい企業に務めなければならない」みたいな意識は女の子のほうが少ないのかなと思ってまして。けっこうチャレンジャーな人多いです。

ホテルの経営にチャレンジしてる人もいましたし、もともと両親が酒造、お酒屋さんだったので、お酒ベンチャーみたいなのを作ろうという人とか。けっこうIT系に限らず、いろんなところでチャレンジする人に女の子が多いなというのは感覚としてあるんですよね。

山崎:今はあれですかね。ちょっとこっちのほうの興味で聞いちゃうんだけども。いわゆるアベノミクスで金融緩和してマイナス金利になったり、というようなことをここのところ何年もやってるわけですわけですけど。

これに対しては、大学ではどういうふうに教えられているの? 賛成の意見が多いのか、あるいは批判的な意見が多いのか。今マクロの経済政策については東大の学生ってどう思ってるんですかね。

大熊:学生がどう思ってるかですか?

山崎:学生がどう思ってるかと、先生がどう教えてるか。

大熊:それはたぶんかなり先生が大きいと思ってます。やっぱり先生が経済の諮問委員会とかに入られてる方多いじゃないですか。基本的にアベノミクスを否定できない人が。御用学者とまでは言わないですけど。

でも、やっぱり構造的に政府側というか、政府の関係者の方というのは、事実として東大経済学部に多いだろうなと思うのと。

一方で非主流の人ですよね。そういう学部長とかやってるわけじゃなくて、まだ若い教授の方ですとか。留学帰りの方ですとか。そういった方々のほうがけっこう忌憚なくアベノミクスも批判できるし、批判してる人が多いなと。

そういうゼミのほうが、新しくて伝統もないけれども、けっこうおもしろい学生が集まったりするというのはあるのかなと思いますけどね。

山崎:だいたい教授になる直前とか、あるいは海外の大学から帰ってきて教授になるっていうぐらいの先生が一番活きがよくって。政府の審議会に入っちゃってるような人というのは、あんまり授業もちゃんとやらないし、ゼミもただ座ってて頷いてるだけみたいな。

大熊:らしいですね。それこそ「政府の審議会行くから、ゼミはしばらくお休みで」みたいなことも多いみたいで。

でも、そういうゼミに入りたい人もいまして。それはやっぱりすごいミーハーな人なんですよね。「テレビで見たことがあるあの先生のゼミだから入りたい」みたいな。

だから、そういうゼミの生徒にはやっぱり伝統的な会社に入る人が多いですね。

率直に言って、銀行はあんまり就職先として勧めない

山崎:マイナス金利なんていうのは個人的にはどう思います? マイナス金利は有効か有効でないか? あるいは、やめたほうがいいか、続けたほうがいいか、広げたほうがいいか?

大熊:うーん。思い切った手段ではあるなと思ってます。そういう意味では、なかなか今までにない動きといいますか。ある種ポジティブには捉えてますけどね。

山崎:銀行の収益が悪化するじゃないですか。そういう意味ではたぶんマイナス金利の個人の生活に対する一番の影響というか一番心配な弊害は、銀行がつまらない投資信託だとか、一時払いの保険だとか、手数料稼ぎの商品を。まあ「ぼったくり営業」とあえて言うけれども。そういうものに注力することが、おそらく個人の生活にとっては一番の弊害だろうと思いますね。

大熊:そうですね。

山崎:そうですねと思う、やっぱり?(笑)。銀行だとか証券会社とか、あんまり金融は人気ないですか?

大熊:ありますよ。金融は大量採用してるのもありますし。証券会社とかも多いですね。

山崎:例えば銀行と証券会社と保険会社とかっていうと、今は人気的にはどうなんですか、学生から見て?

大熊:東大の経済学部の学生が、ということですかね。

山崎:まあ、そうですね。

大熊:そこは正直なところ、学生のなかで証券と銀行をちゃんと区別してる人ってそんなにいるのかなって思うんですけど。

山崎:けっこう情けないっちゃ情けない(笑)。

大熊:どっちでもいいという人は多いですね。併願していて、より人事がたくさんおごってくれたほうとか。人事が綺麗だったほうとか。そういうので選んでる人さえいますから。それこそ3大メガバンクと証券を受けてる人ですね。

山崎:率直に言って、銀行はあんまり就職先として勧めないです。例えば、商社と銀行でいうと、だいたい第一線の現役の年数が5年ぐらい違うんですよね。銀行は50歳で出向だし。大手商社は55歳ぐらいで役職定年なので。

そういう意味では、けっこう就職としては成功例として、メガバンク入ったりすると喜ぶんだけども。入ったあとはちょっとつまらないかなと思うし。人の使い方が雑であるという意味では、ある種大企業で有名企業なんだけれども、銀行というのは「ブラックかな」というような。

僕はちょっといろんな会社を転職して歩いてみると、あえて言えば「銀行はブラックだ」というふうに思いますが、ブラックの専門家としてはどうですか?

大熊:ぜんぜん専門家ではないんですけど。確かにすごい保守的な部分、変われない部分というのが大きな銀行にも多いのかなと思います。ただ、やっぱりそれでも東大でも一番人気ですし、全学生の間でも一番人気なんですね。

そこに情報の非対称性といいますか、実際に働かれた方からすると、そういう嫌な面とかダメな面がいろいろ見えるけど、就活生にとっては憧れの企業、三菱UFJとか、そういうふうになってるという、そのギャップがすごい深刻だなと思いますけれどもね。

山崎:今日はどうもありがとうございました。

大熊:こちらこそありがとうございました。

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