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アントレプレナーの意思決定に必要な戦略思考を学ぶ(全6記事)

思考には必ず軸がある 最適解を導き出すマッキンゼー式「10%ルール」

ビジネスにおいて、日々の生活において、目の前に現れる多くの選択肢のなかから、いかにして判断を下し、最適な答えを選んでいけばいいのか? 「アントレプレナーの意思決定に必要な戦略思考を学ぶ」と題して、2016年1月22日「Impact HUB Tokyo」がミートアップを開催。本パートでは、マッキンゼー出身の戦略コンサルタント・田中良直氏が戦略思考に適した「5つのフレームワーク」を紹介し、そのなかから「MECE(ミーシー)」の考え方をレクチャーしました。

旅行プラン1つでも選択肢は無限

田中良直氏(以下、田中):旅行プランを考える時に、今、「人」という話がありましたよね。それから「アクティビティ」というのがありましたよね。家族のことを考えた時にどうしようかなとか、アクティビティはなにがいいかなとか。たぶんいらっしゃると思うんですけど……、予算で止まった方もいらっしゃると思います。あと、そもそも1週間が長すぎるという方(笑)。「想像もつかない、なにすりゃいいんだ」みたいなのがあるかもしれません。

例えば、旅行のプランを立てるという非常にシンプルな1つのプランニングにおいても、こういう要素があるんです。あるいは「そもそもどこに行くか?」。山に行くか、海に行くか、非常に明確に最初から思ってらっしゃっても、なにをやろうかなと考えると、そこで選択肢がたくさんありますよね。

釣りが好きと言う人もいるかもしれませんし、なにかマリンスポーツをやりたいと言う方もいるかもしれませんし、ハイキングに行きたい、登山に行きたい、海に行ってダイビングがやりたい……。いろんなアクティビティがありますよね。アクティビティを考えた時に、例えば「これをやるんだったら、いくらかかるんだろう?」みたいな思考が、横の要素にピョンと飛ぶことがありますよね。

でも、30万円かかるのか? そもそもそれは何日でできるのか? 何日で行って(帰って)これるのか? 30万円あって4日あったら、どこに行くのか? でもここに行くと、このアクティビティができないし。やっぱりこっち側に行くと……、いやいや、ちょっと待って、誰と行くんだ? 家族を連れて行ったらどうするんだ? 家族を連れて行くんだったら、予算がこれだけかかるよな。そうすると、やっぱりこっちの場所? いや、日数を減らす?

こういうふうに思考がジャンプしていくんです。これがランダムな思考なんです。こうやってグルグル回っていくうちに、「あー、めんどくせー! よくわかんねーや!」となる人はなるんですね。人間の脳は、そんなに同時にマルチタクスでものを考えられないんですよ。

だからこうやって、これ考えて、これ考えて、これ……と、それぞれに選択肢はたくさんあるわけですよ。アクティビティだって、自分ができること、最初から旅行に行ったらこれをやるんだと決まっている人は、非常にシンプルです。「俺の人生は登山だけ!」みたいな人は、いいんですけれども。でも、いろんなことを楽しみたいじゃないですか。

せっかく休みが取れて、旅行に行くんだったら、いろんなことができて、いろんなことをやりたいなと。そうすると、選択肢がいっぱい出てくるわけですよね。それでいろんな選択肢があるうえに、行けるところがたくさんあるわけですよね。そうすると、ここ(アクティビティ)×ここ(行き先)で、パターンが何十パターンもできますよね。

それに何日行くのか。日にちを掛けると、またそこで何百パターンになりますよね。それから1人で行くのか、家族で行くのか、友達と行くのか、誰と行くのか、そのパターンを掛けると、そこでまた……。その時点で、旅行に行くと考えただけで、数千のパターンがすぐにできちゃうんですよ。

要素を明確にして「思考の軸」のなかで考える

それを全部ランダムに考えたまま、ベストなソリューションを作ろうということ自体が無理なんですね、ランダムに考えると。そうやってグルグル回っていっちゃうことが起きる。じゃあ、どうするのか?

どうしたらいいのかと言ったら、この要素を人、アクティビティ、バジェット、期間、場所、それぞれに対して、選択肢がいくつあるのか? アクティビティは、自分がやりたいことがいくつあるのか? バジェットはいくらかけられるのか? 期間としてはなにがあるの? それぞれのなかで、選択肢をまず明確にするわけです。一番要素の多いやつは、最後でもいいですからね。決められるところから、だんだん迫っていく。

それで1人で行って、アクティビティはなにをやって、バジェットはこのぐらいで、期間はどれぐらいかかるのか、これがパターンAです。あるいは家族優先で考えたら、アクティビティとしては我慢してこういうのをやって、バジェットはこのぐらいかかって、期間はなるべく時間をとって、予算はこれぐらい、それはパターンBです。

こうやって、選択肢をリストアップしていくんです。「パターンAとパターンBは、自分にとってどっちがいいんだろう?」「どっちの選択肢のほうが、より自分が幸せになるだろう?」という意思決定を、今回してください。どっちが最適な意思決定か? 今、2016年の自分と家族と自分のいろんな関係において、どっちのほうがよりベターな意思決定なのか、最適な意思決定なのかを比較してもらうんです。

グルグル回っていくほうではなくて、このように一つひとつの要素を明確にしていく。これを私は「思考の軸」と呼んでいます。

つまり、旅行プランを立てることをやる時に、なんの軸を使えばいいのだろうか? 行き先という軸があるよな、誰と行くかという軸はあるよな、アクティビティという軸はあるよな、バジェットという軸はあるよな、期間という軸はあるよな……。それぞれの軸を明確にして、それぞれの軸はそれぞれの軸のなかで、まずものを考える。その組み合わせで、選択肢を抽出していく。抽出した選択肢を比較して、どちらかを意思決定していく。こういうやり方を取るんです。

今は旅行だったので、簡単なんですけれども。ビジネスの場で意思決定をするのに、これをやっていると大変です。選択肢がたくさんあるものを掛け算、掛け算、掛け算……の順列組み合わせで、最適なものをこのなかで一発で出そうと思うとできませんので、こうやって軸を明確にする。それぞれの軸のなかで物事を考えて、そこで選択肢を明確にして意思決定をしていく。これが戦略思考のやり方なんです、具体的な。

マッキンゼー式「10%ルール」

ランダムに考えると、混乱します。思考には必ず軸があるので、最初に軸を明確にすることが、戦略思考のアプローチの大前提です。わかりますか? この軸を作るためにいろんなフレームワークがあるわけです。

最初に軸を考えるのは、ランダムに考えると混乱するからです。思考には軸がある。まず軸を考える。そのためにフレームワークを活用する。最初にやるのは、フレームワークを考えること。「ランダムにやるなよ、最初に軸を考えろよ、そのためにフレームワークを使え」というのが、戦略思考のアプローチです。

私がマッキンゼーに入社して、最初に教えられたこと。東京のコンサルタントと一番最初に仕事をしたのが、デュッセルドルフ……、ドイツ人のめちゃくちゃ頭が固そうな人だったんですけども(笑)。あとは、アメリカ人のコンサルタントや何人かのコンサルタントと、シビアなコンサルタントのお仕事をしたんですけれども。みなさんが同じことを最初に教えてくれました。

なにかというと、マッキンゼーのなかで……、日本では10パーセントルールと呼んでいたんですけど。人によっては5パーセントの人も15パーセントの人もいるんですけど。10パーセントルールとはなにかというと、自分がやる作業の最初の10パーセントを、軸とフレームワークを考える時間に使えということなんです。

さっきの「いきなり、これをやるなよ」ということなんです。軸を考えるために、何個か出すために、最初にブレンドアップをやるというのはOKなんですけども、いくつかの軸を出したら「重要な軸はなんなのか?」、「なんのフレームワークを使うのか?」、そこのプランニングに最初の10パーセントの時間を使え。

もし、1日でアウトプットを作る……、1日で例えばレポートの1個のチャプターだけ書くのだったら、それを1日の時間のなかの8時間でやるんだったら、その10分の1、40分か50分か、そのぐらいの時間をそこに使って考えろと。

1ヶ月でやる仕事だったら、最初の1〜2日はフレームワークの検討に使え。1週間でやるんだったら、月曜日の午前中はそれに使えと。1時間でやる仕事だったら、最初の5分はそれに使えと。1時間でやる仕事でも、いきなりあそこ(思考)のランダムに入らずに、最初の5分は軸とフレームワークの整理に使えと。

これを徹底すると、いろんな思考の軸が混在している状態と混在していない状態、クリアになっている状態が、自分でだんだん区別が付くようになってきます。ぜひ、やってみてください。最初に軸を考えて、フレームワークを考えるということです。

戦略思考の代表的フレームワーク「MECE」

具体的に、フレームワークとはどんなものなのかというのは「この5つを押さえておけば、だいたい大丈夫だよな」というのがあります。1つ目はミーシーというやつで、2つ目はマトリックスというやつで、3つ目はロジック・ツリー、4つ目はビジネス・システム、5つ目は空・雨・傘。なんのこっちゃという感じですよね。空と雨と傘です。この5つです。

時間がだんだんなくなってきたのですが(笑)。どれをやるか。まず、最も重要なものが1個目です。ミーシーというやつ。これを説明します。ミーシーというのはなにかというと、エム・イー・シー・イー(MECE)。Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive。日本語で言うと、相互に排反で全体を考慮していくこと。重複がない。全体が全部をカバーしているというのが、ミーシーです。

図で描くと、どういうことかというと……。(ボードに図を描いて)こういう状態はミーシーではありません、ここが重なっているから。こういう状態だったらミーシーになります。共通はあるけど、重複はしていない。物事を重複させない。ちゃんと分けるということなんです。

この辺にほかのものがあるとしたら、取りこぼしがあってはいけない。必ず全部を網羅していて、それぞれが重複しないように物事を分けるという考えなんです。重複はあってはいけない。全体を網羅していなければいけない。

「男」「女」はMECEか?

例を出します。人間……、日本人でもいいです。男と女に分ける場合、これはミーシーで分かれていると思いますか? 全体を網羅して、重複がない状態。男と女では、どうでしょう? なってると思う人? なってないと思う人? なってないと思うのは、どういうところがなってないですか?

参加者15:人間じゃなくて、性別だったらわかるんですけど。人間だったら、子供でもいいですし、お婆ちゃんとかでもいいですし。そういうところがミーシーじゃないかなと思います。

田中:お婆ちゃんとか子供も、男性と女性という意味だったらどうでしょう?

参加者15:男性と女性だったらミーシーになります。

参加者16:医学的に……。

田中:出た! クラインフェルター症候群の話ですね(笑)。これをする人が時々出てくるんですね(笑)。

参加者16:(自分は)そういう分野の人間だから……。完全に、遺伝子的にわかっちゃっている場合は……。

田中:(染色体が)XXYの人がいますからね。この事例でセミナーをやっているので、いろんな人に聞いてだいぶ詳しくなりました(笑)。

(会場笑)

最初はこれでOK(ミーシーになる)だったんですけれども、遺伝子で見るとそう(難しい)ですね。ただ、クラインフェルター症候群の人も、性器が付いているか付いていないかで見れば、たぶんOKなんですよね?

参加者16:両方付いている場合も(ある)。

田中:両方付いている場合もあるんですか!? スゲー(笑)。そういう人は(性別で)分かれないですね。その辺の分野になると、(ミーシーになるかどうか)危ないことになります。

では「大人」と「子供」は?

お父さんとお母さんと子供に分けた。これはミーシーになっているでしょうか?

参加者17:違う気がします。

田中:違う気がしますね。ほかの属性もありそうですよね。お父さんじゃない男性もいるだろうし、お母さんでない女性もいるだろうし、それからお父さんが同時に子供になる場合もありますね。おじいちゃんから見たらお父さんは子供だし、世代がずれれば重複してますよね。なので、これはぜんぜんミーシーじゃない。

でも、意外に物事を分ける時、ターゲットを分ける時とか、こういうこと(ミーシーではない分類)を我々は時々やっています。ビジネスでお客様を分けるとか、ターゲットを分けるとか、プロモーションを考える時に、必ずミーシーを考える。こういう分け方をせずに、(ミーシーで)やるんです。

そのうえで、お父さんという属性を持った人が一番重要で、この人たちにアプローチすべきだったらそこにフォーカスすればいいし。重複しても子供という、別の切り口でも子供という人にアプローチするのが重要だという結論が出ればそこに(フォーカスする)。選択肢として、最終的に重複した人になにかプロモーションをやるとか、なにかをやるというのは別にOKなんですけど。最初にものを考え出す時のアプローチとして、これ(ミーシー)をやる。

大人と子供、どうでしょう? ミーシーだと思う人、思わない人、どっちでしょう?

参加者18:定義付けをちゃんとすれば、ミーシーだと思います。

田中:その通り。18歳以上と18歳未満に分ければミーシーになりますね。この状態では、ミーシーかどうか危うい。「お前、子供だろ」という大人もいるかもしれない。なので、性格が優しい人、きつい人。これも同じですね。つまり、基準が明確になればミーシーになる。逆に言うと、ミーシーにするためには明確な定義基準を持つ必要があるということなんです。

なので、市場分析をやる時、顧客分析をやる時には、まずどこで分けるかという基準を明確にする。さっきのお父さんとお母さんと子供みたいな、なんとなく分けることはやらないわけです。必ず明確にして、ミーシーにアプローチをすること。

私たちは考えるときに軸を混同させがちである

我が社の製品を知っている人と知らない人。これはどうでしょうか?

参加者19:「知っている」の定義による(と思う)。

田中:「知っている」の定義はどうでしょう? 「使ったことがある」と「知っている」は、たぶん違う次元でしょうね。「その人が『知っている』と答えたかどうか」と、例えば定義したらどうですか? 聞いてみて、「あなた知ってますか?」、「知りません」「知ってます」のどっちかで答えたら? そうすると、ミーシーになりますね。「『知っている』と答えた人」と、「『知らない』と答えた人」だとミーシーになります。

今、先回りしちゃいました(笑)。使ったことがある人と使ったことがない人、これも同じですね。「使ったことがあるけど本人は覚えてないやつは、自己申告でどっちにするんだ?」みたいな問題がありますけれども、使ったことがあるかないかというのは、事実で見ればどこかでミーシーになるはずですよね。

じゃあ、使ったことがある人と知らない人。ミーシーじゃないですよね、これは。違う軸が混在していますよね。今ミーシーという話をして、この「知ってる」、「知らない」の話が出て、「使ったことがある」、「使ったことがない」が出て、それでこれ(使ったことがある人と知らない人)が出るとミーシーじゃないとすぐに気が付くんですけど。意外と世の中では、こういうレベルで軸を混在させてやってる人が多いです。我々も、気がつかないでよくやります。

なぜかと言うと、なにか製品を売りたい、売れないから売ろうとアプローチをしようと言った時に、最初に思い浮かぶのがこういう人たちなんですよ。使ったことがない人になんとかして売ろうぜ。使ったことがある人にもう1回売ろうぜ。リピートしようぜ。一番すぐに思い付くじゃないですか。自分の目の前にあることは。

でも、これはミーシーじゃないので。知ってるけど使ったことはない人というセグメントが落ちちゃうんです。もしかしたら、そこが一番売れるのに近い人かもしれない。だけど、そのセグメントがポコッと落ちちゃうことがよくあります。

参加者20:アプローチも違いますよね。知らない人に対するアプローチと、使ったことのある人にするアプローチと。

田中:そうですね、ぜんぜん違いますよね。グッドポイントです。ありがとうございます。

ここのミーシーで物事を分けるということをぜひ覚えて、これを徹底して使ってみてください。

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