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Stanford Graduate School of Business Conducting Effective Negotiations(全4記事)

これができれば結婚生活も上手くいく より良い関係性を築くスタンフォード流交渉術

交渉事はビジネスや日常生活の中での基本的なスキルです。誰もが会話というかたちで日々交渉を行なっているわけですが、ビジネスの世界でのハードなネゴシエーションの場面で、効果的な交渉を行ないたいと考えたことがある人は多いのではないでしょうか。今回Stanford Graduate School of Businessで解説するのは、効果的な交渉の行ない方。このパートでは、参加者の質問に答えながら、交渉術を学ぶための古典の紹介などを行ないます。

交渉の相手を選べない場合はどうするか

ジョエル・ピーターソン氏(以下、ジョエル):交渉の世界では「おれはホームランしか打たない」という人もいます。

もしホームランを打っていなければ、買っていなければ、それはまだ今後の取引に残されているというだけです。だからみなさんは、そこでの自分の評判をどうしたいのかを決める必要があります。

これらは、先ほども出て来たフィッシャーとユリーに関係しています。問題解決の第一人者ですね。これから彼らについてもう少し詳しくお話します。何かコメントがありますか?

聴講者:これまで交渉の相手を選ぶという話をしてきましたが、もしどうしても決まった相手と交渉しなければならない場合はどうすればいいですか? 他の選択肢はなく、相手とは価値観も合わないといった場合は。

ジョエル:そんなケースもありますね。同じ組織の中で違う交渉相手を得られることもありますし、その相手と対立点を明確にして、より深いレベルで話をできることもあります。

かつて「我々はこれについて取引しているのではありません。それでどう取引が成立するんですか?」と言うパートナーがいました。これはあるケースでは非常に効果的です。関係を良好にし、より継続的な関係を築くことができます。

それで相手と現実を共有できることもあるでしょう。選択肢を生み出すという冒頭の私の観点に戻ると、本当に頼るべき相手は1人ではないのですが、これは非常に楽天的です。

いつもそうできるとは限りません。かつて私が取引した企業は、我々のビジネスの40パーセントを占めており、非常に重要な相手でした。取引をしないわけにはいきません。それでノートを取って、取引を成立させました。

そういう場合もあります。全ての交渉に効く万能薬はありません。難しい相手と交渉することもあるでしょう。怖くなることもあるでしょう。でもそれは幸せな経験なんだと言い聞かせるんです。win-winの交渉よりも、相手を選べるよりも良い経験になるんです。

お互いに好感を持ち、信頼して問題を解決する

ジョエル:私が非常に良いと思うマインドセットの1つは、交渉はただの会話だと思うことです。ただの交換なんです。みなさんはいつも誰かと話しているから会話は得意ですよね。

だから、部屋に入って、ドアを閉めて、テーブルを挟んで座るというのは、これからお話するものより非常に恐ろしい考え方です。交渉とは、我々の多様な興味について、相互に満足できる何かを得るための会話だと考えるんです。誰でも会話ならできますよね。交渉を、これまで話してきた一連のものと考えるんです。合意は耐久性のあるものでなければいけないという考え方ですね。

合意に達するようなポイントはなく、6カ月後に訴訟が終了します。良い交渉ができたわけではないんです。柔軟性が必要なんですね。そこで相手とどれだけ関係を深められたかが重要となります。

一旦相手から高い信頼を得られれば、ドキュメントに頼ることはなくなります。私がこれまで行なってきたほとんどの良い取引では、ドキュメントを改めて参照することなど一度もありませんでした。

こういったことは25年〜30年、つまり私のビジネスキャリアを通じて続いたのです。一度もドキュメントに頼ったことはありません。何故か? それはお互いに好感を持ち、信頼して、現実の問題を膝を突き合わせて解決するからです。永続性のある合意が欲しいですよね。

脅すという行為は愚の骨頂である

ジョエル:もう1つのマインドセットは、win-winについて考えることです。言い換えると、自分には責任があると認識することです。

往々にして交渉人は、自分自身に対してのみ責任があると考えがちです。自分のために勝つんだと。広い責任のない交渉というのは非常にレアです。自社の社員に対して、コミュニティに対して、シェアホルダーに対して、役員に対して。

時にこれは非常に効果的になります。「ちょっと待って。これはできない。コミュニティにとってこれは良くない」と、一呼吸置くことができます。「川にこのヘドロを捨てるのが良いとは思えない」と。

みなさんには責任があるんです。この外部に対しても責任があるというマインドセットはとても良い方法の1つです。

みなさんの言葉に着目してみましょう。罵ったり叫んだり、下品な言葉を言ったり、ドアを叩いたり、部屋を出て行ったり、脅したり。脅すという行為は愚の骨頂です。自分の評判をかけることになりますからね。

永遠に脅迫者として見られることになります。だから、個人的には脅したりは絶対にすべきではないと思っています。絶対にです。私は「高速の言葉」(high velocity words)と呼んでいるんですが、相手の感情を高ぶらせるだけです。

そんな言葉は使わないで下さい。もし逆に言われたら、無視して下さい。取り合う必要はありません。感情を高ぶらせたりもしないで下さい。自分の言葉に着目して、もし自分が本当に困惑したらどうなるかを観察するんです。

あえてそうなっているわけではないでしょうし、それをコントロールしようというテクニックを使っているわけでもないはずです。感情のコントロールはチャレンジしてみるべきです。

影響のある交渉人になりたければ、信頼されること

ジョエル:その理由はこうです。ベースラインを設定しているとします。どんなベースラインであれ、そこからのバリエーションは影響を受けます。だからそれには決して賛同しません。とても強力だからです。

もしみなさんが私のことをよく知っていて、何度も交渉したことがあったら、私はそんなことはしないでしょう。もし私が物を投げたり、罵ったり、ヒステリックになったりしていたら、もう二度とそんなことはしないと言うでしょう。それで皆さんは、「大丈夫。彼は明日戻ってきますよ」と言うでしょう。

ベースラインを低く保つことはとても賢い方法です。血圧も低く保ってくれます。十億円単位の取引の話です。私はパートナーと座っていました。相手6人と私1人です。その中の最年長者が、その取引は完全にアンフェアだというようなことを言いました。

私は立ち上がって、「ジェントルマン。これまであなたと数年間一緒にビジネスをできて、とても光栄に思っていましたが、こんな風に終わらなければいけないのはとても残念です。これから飛行機に乗って帰ります。もしお話したいことがあれば、ダラスにいるので電話して下さい」と言いました。

空港に着くまではそんな風にシンプルでした。彼らのうち3人から、戻って来てくれ、交渉したいんだという電話を受けました。事が起こった時、私は立ち上がって部屋を出ましたが、言い方は穏やかだったんです。

それで彼らは「彼は本気なんだ」と思ったはずです。それは私が本気だというメッセージでした。それが分かってほしかったことで、キレたわけでも制御不能になったわけでもありませんでした。人はそういうことをあまり信じませんからね。

もし影響力のある交渉人になりたければ、信頼されることです。もし相手がみなさんを信頼できれば、長い時間をかけて、みなさんのブランドを構築することができるはずです。

持続的な合意を成立させて、深い信頼関係を築き、クリエイティブな解決法を生むんです。だから多くの人が持っているようなものとは異なるマインドセットを持つことをおすすめします。

代理人の弁護士同士での取引は良くない

聴講者:(聞き取れず)世界中で働いてきました。怒ると上手く機能しないかもしれませんが、もしそうなっても大して驚くべきことではないと思います。

もし常に穏やかだったら、あらゆる文化を越えて伝わりますからね。

ジョエル:世界の共通言語のようなものですね。

聴講者:「ノー、ノー」と言い続けていれば、信頼を全て失ってしまうような文化もあります。

ジョエル:頼りがいがないと見られてしまいますね。

聴講者:周りはそれを許さないと思います。

ジョエル:業界にも寄りますね。ワイルドな人ばっかりの業界もありますからね。

聴講者:我々は間接的に投資銀行家や弁護士と交渉します。これを選択と仲介のモデルとして使うことはできますか? こういった人たちは自分のブランドに非常に大きな影響力を持っていることがありますし、彼ら自身は直接関わっているわけではないので。彼らが実際に何をしているか正確に知ることはできませんが。

ジョエル:そういった人たちはあなたのブランドを担っているので、非常に慎重にならないといけません。私は取引をファシリテートするよりも、台無しにしてしまう弁護士を多く見てきました。実際私は、弁護士がファシリテーターとして取引できるかという観点で選んでいます。

ディールメーカーか、問題解決者か? もしくは全ての争点を気にしたり、最もタフなドキュメントを書かなければいけないような自己中か? 取引では弁護士と争うことがよくあります。それでは取引も関係性も台無しになってしまいます。

だから一番は最前線に仲介者をあまり置かないことです。私はエージェントやブローカー、投資銀行家、弁護士などと交渉するのは好きではありません。取引では相手と一対一の関係を築くのが好きなんです。

それが自分のブランドを維持するうえで、最も安全な方法です。より良い関係を築くこともできますし、より良い結果も生みます。ショートランの方が上手く機能して、ロングランではあまり上手くいきません。

こういった仲介者を使うのには理由があると思うんですが、それは彼らに価値があるからです。部屋の外に人を置いておくのは賢い方法だといつも思います。

何故なら交渉とはモノをあげたり受け取ったりを繰り返すリアルタイムなもので、間違いも起こり得るからです。役員でも、パートナーでも、弁護士でも、そこに入ってきて精製したり、訂正したり、スムーズにしてくれる人がいるのは非常に助けとなります。

だからそのような状況でこういった人たちを使うのは好きです。これまでもパートナーを活用する必要があったと言えます。これは理にかなっていますが、弁護士や税務相談官、会計士をチェックする必要があります。

自分の弁護士と相手の弁護士だけに取引をさせるようなことは決してしません。これはとても危険だと思います。それが機能しないとは言いませんが。

交渉相手から好かれる存在になること

聴講者:質問です。仲介者の上にも下にもならないということについてです。私は自分は何者か、自分は何を聞いているのかということに対して、かなり感情的です。

ポーカーフェイスで、それらのことに引っかからないようにして、感情的にもならないようにすると。これらのことは私にとってはあまりピンと来ません。交渉の最も良い方法は、もしあなたの身長が6フィート(182センチメートル)で、私が5フィート(152センチメートル)だったら、OK、同意しますという感じだと思います。それがいかに効果的かというのが分かります。

ジョエル:でもあなたは6フィートではないですよね?

聴講者:そうです。

ジョエル:まずは自分自身になることから始めるべきだと思います。権威とは敵対する相手から測られるものです。大いに信頼することに戻りましょう。あなたは調整することができます。振れ幅が大きくなりすぎるのをキープすることができるはずです。

6フィートではならないけども、5.2フィート(158センチメートル)にはなるかもしれません。自分自身であることが必要なんです。自己表現をしたり、身振り手振りを交えて話したり、歩きまわったり、アイデアに興奮したり。それが自分自身です。

私は私なんです。しかしそこには超えられない限界値があります。そこを壊してしまうと、多くを費やしてきた価値あるものが戻ってこなくなってしまいます。

だから自分がバラバラになってしまったら、とても価値あるものに何かを費やしてきたんだということと、他にはどこにも行き場がないということを自覚する必要があります。自分自身を行くべき場所に行かせるんです。

最後は好かれる存在になることです。みなさんが人から好かれるためにスタンフォードに来ているわけではないということは承知していますが、私がかつて携わった訴訟が終わって、相手の弁護士がこんなことを言っていたのを覚えています。

「私はあなたを嫌いたかった。原告のようにあなたに対して本当に怒りたかったんです。でもあなたを好きにならずにはいられませんでした。私はプロだから自分の仕事はしましたが、それでもインパクトがありました」

これを私の弁護士に話すと、「私も同じ経験をしました」と言いました。彼はアイヴァン・ボウスキー(1980年代にウォール街で名を馳せた投資家。インサイダー取引で逮捕歴がある)を退けたんですが、彼が関わった人物のリストを見ていくと、中には好きになってしまうようなスキャンダルもあり、それが違いを生んでいたんです。

その他はただ処刑したかったと。だからどんな歴戦のプロ訴訟人でも、相手を好きになるかどうかで変わってくるんです。

交渉術を学ぶオススメの本

ジョエル:そろそろ時間ですね。ちょっと振り返ってみましょう。エージェントについて、道理の存在について。それから弁護士、エージェント、論争について。これは交渉のフォーマルな終わりです。みなさんが仲介しようと調停しようと訴えようと、悪い結果になるというのが私のアドバイスです。

それを避けたい、持続的で柔軟な合意や信頼関係を得たいと思っているはずです。みなさんがこれらの訴訟や調停をしなければいけなければ、調停は少し短くなり、安くもなりますが、依然としてルールの下にある情報を提示しているんです。

同じようなことですね。仲裁です。もしみなさんが正しければ、半分負けるということです。これは非常に形式化された方法です。そのような交渉のルールは、みなさんの結果をかなり狭めてしまうんです。

だから合意事項を実行して、隠れたアジェンダアイテムを水に流すことには気をつけて下さい。これまでこのことについてお話してきました。フィッシャーとユリーですね。

“Getting to Yes”を読んだことがある人はどれくらいいますか? ほんのちょっとですね。たぶん古すぎるからみんなもう読まないんですね。交渉の世界ではいまだにクラシックですよ。より良い交渉人になりたい人にはおすすめします。

1981年にフィッシャーとユリーによって書かれました。二人ともハーバードの弁護士です。交渉について書かれており、上手くいった例とそうでない例に基づいた沢山のデータが載っています。

彼らは”Getting Past No”という本も書いています。”Getting to Yes”が最初ので、”Getting Past No”が2番目です。実はこの2番目の方がもっと読まれていないんです。

“Getting Past No”を読んだ人は? OK、あまり多くはないですね。これはもしみなさんが多くの交渉をこなしてきたなら、さらに洞察を与えてくれるはずです。

この2冊は非常に実用的な学問書で、みなさんを良い方向に導いてくれます。交渉する時は相手がフィッシャーとユリーを学んだことがあるかどうかすぐ分かります。

もしみなさんが読みたくなければ、リーダーズ・ダイジェスト版もありますからね。時間を節約しましょう。みなさんが私と1時間を無駄にしたと思っても、みなさんに数時間をセーブしてみせます。

良い交渉のための4つのポイント

ジョエル:基本的な考え方はバラバラですが、4つの基本があります。

人を問題から分けて考えること。これは多くの人がやらないことです。混ぜて考えてしまうんですね。この問題は困難なので、これを私に持ちかけてくる人が嫌いです。私は気まずい立場に立たされてしまうんです。

そういう人たちは混乱の中で問題と人を分けて、ポジションではなく興味に焦点を当ててしまうんです。言い換えると、何が起こるのを見たいのか、どんなポジションを取りに行くのかということです。何故ならばポジションは必ずしもみなさんの興味と関わりがあるわけではないからです。

人は彼らの興味を反映する実際の終結点ではないポジションを表現します。それから相互の利益のために、みなさんがオプションを生むと考えるボックスの外で、オプションを一緒に生み出します。

これが私にとって一番難しいんですが、客観的な基準を明確にすることです。何をもって取引成功と言えるのでしょうか? これらの客観的な基準に対して、取引を評価して下さい。

これが私にとって最も難しいんですが、これが機能しているのを見てきました。最後に、パートナーのことを知って下さい。明らかにして、書き出して下さい。それから相手のパートナーを推測するんです。

そうすれば生きるか死ぬかの問題ではないことが分かります。代替方法があり、交渉成功に近づけるでしょう。これからお見せするのは、またフィッシャーとユリーのようですが、問題への対処と物事のフレーミングです。

このスライドを上げて、他のスライドを上げて、他に何が関係があるかと考えるんです。相手を非難するのではなく、互いに話し合うんです。シチュエーションを見て、相手の立場から結果に利害を与えるんです。

挑発には乗らないで下さい。そこから一歩引いて、反発的に反応しないことです。アクティブな聞き手になり、できるときには同意するんです。かつて交渉して以降友人になった人がいたんですが、彼は全ての交渉を我々が同意できるところから始めたんです。

「OKこれに同意しましょう、これに同意しましょう」と10のアイテムを通しました。ただ同意するこの反射的な習慣を得たら、上手くいったんです。ただ11〜13番目がタフでした。これらはフィッシャーとユリーが論じていたことです。

結婚生活も交渉である

ジョエル:分かりますか? 時間がないので言っちゃいましょう。これは結婚なんです。これが私が35年も結婚生活を続けられたのは、基本的にこれらのことをしていたからです。

みなさんが持つほとんどの関係性が交渉に基づいています。これらのベストな習慣に耳を傾けていれば、みなさんの人生と関係性はより良くなることでしょう。会話はよりハッピーになり、合意はより持続的なものになるはずです。それからほとんどの場合に「成功した」という気分になるでしょう。

シャワーを浴びなければいけないほど汚れたと思うこともないでしょう。交渉とはただブロッコリーを食べるだけではなく、人生における何かを与えるものです。クリエイティビティを発揮して、関係を構築しましょう。

この後もまだ私はいますから、議論したい人や質問がある人は来てください。ありがとうございました。

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