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リクルート・大宮英紀氏×尾原和啓氏対談(全2記事)

「リクルートカラーを強めるのは本質じゃない」 Airレジ責任者が語るプラットフォーム志向の重要性

リクルートが提供するPOSレジアプリ「Airレジ」担当役員の大宮英紀氏と、リクルート出身でネットビジネスのプラットフォーム戦略を研究し、「ザ・プラットフォーム」著者である尾原和啓氏が対談。Airレジは飲食店などの店舗から「本当はやらなくていい作業」を減らすことを目指しており、誰もが手軽にお店を開ける時代を担うサービスになるのが目標。尾原氏は今後はAirレジの上で動作するサービスが登場し、Airレジ自体がプラットフォームになると予想しています。

Airレジによって「誰もが飲食店を開ける時代」がくる

尾原和啓氏(以下、尾原):僕、個人的に妄想するのは、Airレジが普及した社会って、誰もが飲食店を開ける時代になるんじゃないかなと思っています。結局いままで飲食店やるためには、お店を経営するためのノウハウとして、会計がわからなきゃいけないとか、料理以外の能力が必要なわけですよ。

でも、もしAirレジがお金の締め、やり取り、店舗の税金の処理とか、ぜーんぶやってくれるとしたら、本当に料理好きな人が純粋にお店を開けますよね。

お店を開く時の最大のハードルって、「店長って、いろいろやらなきゃいけないから、勉強しなきゃ」ってところじゃないですか。これが取っ払われると、これからリタイアするおじいちゃんが増えてきた時に、例えばAirレジがあれば自分の家を軒先カフェにして、ちょっと夕方だけカフェにして、近所の人がだべってって、みたいなことができますね。きっと新たな才能が出てくると思います。

いままでは、その才能以外の部分を無駄に仕方なく身につけなきゃいけなかった。それが本当に髪を切るだけの才能、料理を作るだけの才能があれば、お店を開くことができる、っていう時代に変われるんじゃないかな。きっとやってくれると思うんですよね。こうやってプレッシャーかけてるんですけど(笑)

「言語化できるものは、将来は全部機械に取って替わる」

大宮英紀氏(以下、大宮):はい。本当にやりたいな、と。尾原さんの記事で「ヒューマナイズ」ってありましたけど、尾原さんが言っていた「言語化できるものは、将来は全部機械に取って替わる」ということ。

人と人の非言語化なもの、要は「間」とか「距離感」とか、そういう人にしかできないことをより高めていくために、テクノロジーが支えていくべきだと思います。

Airレジは機械ができることはすべてクラウド側の仕組み側にやって、コミュニケーションを楽しんでもらうとか、人でしか満たされないものを、より増やしていくためのツールだと思ってるんですよね。

尾原:たぶんお店にとっては、集客って行為も仕方なくやっていることなんですよ。本来であれば、メシが旨くて、もてなしが良かったら、リピートしてくれるわけじゃないですか。そこに専念すればよくて、旨いメシだけ出していれば、客が来るっていう状態を、いかに作ってあげられるか。

しかもリアルタイムで、どこのテーブルが予約埋まってないかとか、Airレジみたいなのがあるとわかりますね。「たぶんこの日はあんまり来ないな」とか予想できるわけじゃないですか、そうしたら、そのタイミングは、「この日雨の日なんで、多分お客さんあんまり来ないと思うんで、デザート一品付けときましょうか?」「YES」って押すだけとか。

究極いくと利益目標だけ、「この金額ないと、困ります」みたいな数字を入力しておくと、「後の販促は勝手にやっときます」というのもありでしょう。だって、これも仕方なくやってることですよね。

大宮:そういう意味だとまだ全然入口だと思います。本当にやれるなら、尾原さんがさっきから話されているようなことをやりたいわけですよね。

米国ではAirbnbやoDeskが新たなプラットフォームに

尾原:こういう考え方を「マーケティング・オートメーション」っていう言い方をするんですけど、こういうものって実際、ネットでは昔から当たり前なんですよね。

「Google検索の、どのキーワードにいくら広告で払うか」って、5年前くらいから自動化していて誰も細かいこと気にしないわけですよ、ちゃんと安心して任せられる環境になれば。

「じゃぁ、その先に何があるか」って話なんですけど、たぶん次に来るのが、プラットフォーム構想の話で、「プラットフォーム オン プラットフォーム」っていうやつなんですよね。

Airレジっていうのは、もはや圧倒的ナンバーワンだから、だったら「Airレジっていうプラットフォームを活用して、他の事業をどんどんやってくださいよ」と。

WindowsとかAndroidっていうOSと一緒ですよね。いまアメリカでおもしろいのは、シェアエコノミーとか新たなソリューションが、新しいOSになりつつあるんですよ。

だから、アメリカとかではクラウドソーシングの「oDesk」を使うのが当たり前になっているから、oDeskの上にいろいろな職種のシンプルワーカーがいるわけですよ。

でもシンプルワーカーを取りまとめてプロジェクトマネージメントするのって、大変なんですよね。そこでプロジェクトマネージメント管理をするツールをやっているベンチャーが出てきたりしている。

oDeskって、いろいろな仕事を取り扱っているけれども、翻訳っていう仕事に限って言うと、翻訳をやるためのツールがあったり、2つの翻訳を突き合わせるという特殊な業務プロセスが出るのでそのためのツールみたいな形で、クラウドソーシングが1つのプラットフォームになりながら、その上にプレイヤーがどんどん出てきているんですよ。

同じようにAirbnbでも、Airbnbの宿主をできるだけ楽にさせるための「スマートロック」っていう鍵の市場が出てきていますね。ソリューションとかシェアエコノミーが、新しいOSになって、その上にアプリ系の事業が生まれてきています。絶対に彼らは、Airbnbが上場する手前に、Airbnbに買収されることを狙って作ってる。

だから、読者の皆さんに言うのは、リクルートに買収されるために、Airレジの上で、「Airレジがあるからできるビジネス」っていうのを立ち上げるのが、たぶんこの2年間で一番高く買われるんじゃないかと。

「リクルートはもっと買収していい」

大宮:そうですね。なかなか答えづらいです(笑) ただ指向性はその方向をとるべきだと私は思っています。グローバル前提で頑張っていくとすると、「自分たちで全部できる」なんておこがましいですし。自分たちには自分たちしかできない価値をどう発揮するかを考えています。

僕らにしかできない価値をどう研ぎ澄ませるか、って考えた時に、「できないことは、全部他の人に任せます」と。その最終結果として、リクルートが買収するかもしれないですね。

尾原:否定しませんでしたよ!

大宮:リクルートもせっかく上場したんだから、そういうことをしていいと思います。いままでやってたバーティカルビジネスだと、競合をできるだけ排他して、基本的に自前主義で全部やりたがるわけですよ。でもそのビジネスプロセスがホリゾンタルのサービスになると、他社とうまく付き合いやすいんですよね。

その中で買収とかもあって当たり前ですし、それが国内だけじゃなくて海外も含めて加速されると、リクルートって会社はもう一段違うビジネスをやっていける柱ができるなと思っています。あくまで僕個人ですけどね。

尾原:シリコンバレーでは買収されるのが一般的なんですよ。シリコンバレーでIPOするベンチャーって1割で、残り9割はバイアウトなんですよね。要は買収されるってことを前提にビジネスを作っていくっていうやり方も、ベンチャーとしての選択肢なんですよね。

日本のAirレジも世界のソリューションに変わる可能性があるから、そっちにベットしたいですよね。

Airレジの海外展開は、どこから?

大宮:海外のほうは進めてはいます。チャレンジしていくことも、投資することも決めているので、これからですね。いろいろ調査したりとか、すでに導入してもらってはいるんですよ。ただ税金の考え方が一部違ったりとか。

やっぱり、「お金」に関することって、国の収益に関することに結構近しいので、法的な違いとか、ルールの違いとかがちょっとあります。

それを使ってもらいながら検証している段階なので、あるタイミングでちゃんとしたものをリリースしていく準備をしています。

さまざまな地域に可能性があると感じていますが、そのひとつにEUがあります。それは何かというと、リクルートとか昨今買収している企業が「Wahanda(ワハンダ)」という、美容予約サービスでいわゆる「ホットペッパービューティー」なんですね。もう1つ「Quandoo(クアンドゥー)」は、レストラン予約サイトで言う「ホットペッパー グルメ」なんです。

それぞれ最終的にPOSレジまでやらないと、だんだんワークしなくなっていきますし。オンラインもオフラインも関係なく、データが溜まってオートメーション化されていくにあたって、オフライン側は「レジ」を1つの切り口として彼らも求めているので、リクルートグループとして価値を出していく方向はあります。

尾原:そういう意味で、ここ1、2年が個人的には外から見て勝負の年だと思うし、それがリクルートっていう大資本の中で、会社がガツンと上場した意味とか含めて、でっかい投資をしてくれると、グローバル店舗OSが日本発でできる。それは日本のためにやるんだから、「行ってください!」って僕もプレッシャーかけ続けていきますよ(笑)

やっぱりリクルートが強いのは2つ。1つはプラットフォーム指向で、最初から巨額の投資ができるっていうことと、もう1つは、とはいえ最後はデジタルリテラシーがまったくないおじいちゃん、おばあちゃん方のお店に、「これって便利だから、ほら触ってみてよ」「簡単にできた、すげぇ」みたいな、コミュニケーションをできる営業マンが大量にいること。

これシリコンバレーの人たちが一番苦手なことですからね。

リクルートカラーを強めるのは本質じゃない

大宮:そうですね、我々は最初からプラットフォーム指向で、いたってフラットに見せたいと思っています。極端な話、「ホットペッパー グルメ」だけではなく、「食べログ」さんでも、「ぐるなび」さんでも、飲食店が集客を望むのであれば、僕らは提供するのは当たり前にやるべきだと思っていて。

だからリクルートカラーを強くするのは、お店の人にとって良くないんですよね。「Airレジを入れると、ホットペッパーがもれなく付いてきます、他はダメですよ」なんて、本質じゃないじゃないですか。本当にどこでもよくて。

最終的には「今月は5万円で集客したい、あとは何を使うのも自由」でいい。その中で、「一番集客効率がいいのが、ホットペッパー グルメです」だったら、全然それはそれでいいじゃないですか。という考え方に最終的に立ちたい。

Airレジの「Air」、空気のような存在を目指す

大宮:会社としては、Airレジをはじめとしたサービスで利益を上げる、売上を上げることが大事ですけど、そのために使ってもらう人をこの1、2年で圧倒的に増やしていきたいです。国内だけじゃなくて、海外も含めて、日本発でプラットフォーム指向のものを広げたい。

10年後は当たり前のように、シェアリングエコノミーがもっと多様化していくでしょうし、当たり前のように使われていくと思います。その中に自分たちが携わったサービスがあったら、めちゃくちゃ嬉しいですね。とにかくその状態が絶対10年後に来るんです。来るんだったら、「他の誰かがやる」じゃなく、「自分たちがやりたい」。

リクルートにはリソースとか、ノウハウとか、いろいろなものがあるので、そこをどんどん投資して、多くのユーザーに広げていくことにとにかくチャレンジしたい。そしてちゃんと結果を残したいです。そんな挑戦権を得られるって、普通はないじゃないですか。チャレンジできる権利をいただいた、ってだけでも幸運だと思いますし、リクルートという集団で成し遂げられればいいなと思います。

尾原:ずっと聞きたかったんですけど、Airレジの「Air」って、空気のような存在になるとか、そういう意味で付けたんですか?

大宮:最終的には意味合いとしてそうです。「どこにでもあるような存在になりたい」と。最後は「気づかない存在」になるじゃんないですか。そんな意味を込めてやってます。「見えなくてもいいじゃん」って。逆に見えないほうがプラットフォームとしては最強ですよね。

尾原:素晴らしい。見えなくなるくらい便利になれば最強ですよ。気づかないから、なくそうとも思わない。そうすると誰もが人間らしいことに集中できるし、結果、多様な社会が生まれる。

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