2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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「Cross the Boundaries」を旗印に、日本最大級のスタートアップカンファレンスIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)が2024年も昨年に続いて京都で開催されました。本セッション「大企業の組織風土改革〜イノベーティブな機運づくり」には、渡瀬ひろみ氏、椿奈緒子氏、原田未来氏、麻生要一氏の4名が登壇し、トークセッションが行われました。大企業での新規事業を成功させるためのポイントとは。
渡瀬ひろみ氏(以下、渡瀬):また人材の話になるんですが、例えば新規事業の部門に配属になったり、原田さんのところで指名されて「お前は明日からベンチャー企業に出向だ」とか言われると、「俺、本流・本丸から外れちゃったのかな?」っていう不安を感じたりすることがあると思うんですよね。
ぜんぜんそんなことはなくて、実は私も30代の時に1年間スタートアップに出向してるんですよ。この1年間が私の人生を大きく変えてくれたんですよね。メインの事業部から新規事業に異動したり、メインの事業部からスタートアップに出向したりした人たちを、どのようにモチベートしたらよいかというお話をお願いします。
自分でやりたいと思ってる人はいいんですよ。でも、人事異動で来る人たちのことをお話しいただければと思います。
椿奈緒子氏(以下、椿):じゃあ、私から。やはり企業の中だと「大変そう」「失敗しそう」とか、ネガティブなイメージしかないと思うんですよね。なので、実際にやっていて、めっちゃ楽しそうにしてる人の話を聞かせるようなセミナー(を開催するのがおすすめです)。
役員を動かすには偉い人同士でもいいと思うんですが、現場の等身大の人のテンションを上げさせるには、やはり等身大の声が一番いいと思うんですよね。
あんまり聞かないですが、私はそれをつなげてやることが多いので。等身大で、今やっていてめっちゃ楽しそうな人の話をたくさんシャワーのように(浴びせる)。社内でそれができるのがいいんですが、いなかったら社外から呼ぶことをおすすめしてます。
渡瀬:ありがとうございます。
渡瀬:原田さん、いかがですか?
原田未来氏(以下、原田):うちのレンタル移籍に行く時って、行く前に「あなたのWillは何ですか?」というワークショップを十何時間かけてやるんです。「人生をかけて何をしたいの?」って青臭く内省してもらって、ほかの会社からレンタル移籍する人と一緒に壁打ちしながら話して考えてもらいます。
その上でベンチャーに行ってもらうんですが、うちの仕組みは半分ぐらいが指名なんですよ。会社から「行ってきて」と言われて来るので、最初は「青天の霹靂で……」みたいな感じなんです。
そのプロセスで「自分って何のために働いてるんだっけ?」とか、実際にスタートアップでめちゃくちゃ思いを持って働いてる人たちに触れていく中で、主体性は勝手に生まれてくる。
というか、たぶん適当に生きてた人ってそんなにいなくって、本当はみんな一生懸命仕事をするテーマが欲しくてやってるはずなので。そのきっかけを引き出してあげるだけなので、本当に丁寧に説明してあげることに尽きるんじゃないかなって思います。
渡瀬:麻生さん、いかがですか?
麻生要一氏(以下、麻生):新規事業だから、本当はやりたくない人を持ってきちゃいけないですよねっていうのは、いつも思ってることです。「『やりたい』という思いがある人だけでやってくださいよ」って思うんですが、そうも言ってられないので。
「やりたくないな」って思ってる人も、新規事業に来たりするじゃないですか。その時はその人次第なものの、会社の中で冷遇されてそうだからやりたくならないわけだから、外側に活路を見出すしかないですよね。
麻生:新規事業が花形の部門になってる会社もいっぱいあるし、左遷部門みたいに思われていたのに、新規事業部門がすごくがんばることによって花形になっていった人たちもいるわけだから。そういう人たちに教えを請うとか、ネットワーキングすることによってモチベーションを保っていくのが1つ。
あと、その人が新規事業の戦略部門なのか、実際に自分で事業を立ち上げる人なのかにもよるんだけど、立ち上げる人なんだったら、ひたすら顧客の所に行ってもらう。
顧客現場の課題とか、当事者の声を浴びるように感じると、「会社のためじゃなくて、なんとかこの被災地を復興させるために自分は会社を動かせないか?」みたいに、顧客や現場側に行ってもらえるとマインドが変わるんですよね。
原田:それ、たぶん自分たちでプロダクトを作ってから持っていっちゃうと良し悪しの話になっちゃって、「まだシンプルなプロダクトでダメだ」みたいにネガティブになっちゃうから、むしろ「何が課題なの?」っていうめちゃくちゃ手前で話すことがすごく大事なことかなと。
麻生:そうそう、手前。アイディエーションの段階でめちゃくちゃ行きまくるんですよ。
椿:確かに、顧客と話すと目の色が変わってきますよね。
麻生:変わってきますよね。
渡瀬:ありがとうございます。新規事業の部門が憧れの部署になると、素敵な人たちが手を挙げて来て、どんどんまたその部署が素敵になっていくということです。
渡瀬:よくありがちなのが、新規事業の担当の人ってちょっとおもしろそうな仕事をするんですよね。だって、ルーチンワークってほぼないですよ。行きたい所に行き、会いたい人に会い、見たいものを見てくる。
なんなら、リクルートでAirレジというPOSレジのシステムを開発した時って、開発チームのメンバー全員が居酒屋でアルバイトしていたんですよ。自分たちが先行してPOSレジを使ってみて「これは使いにくいな」とか。アルバイトの仲間たちがみんな苦労したり、レジを締める作業がいったいどういうものなのか(を現地で知る)。
店長が何を知りたがってるか、社長は何を知りたがってるか、そのタイミングっていつなんだ? とかを全部肌身に感じてから開発をするから、最高にいいスタートを切るわけなんです。
この話をいろんな企業さんにすると、「うちは副業禁止なので、居酒屋でアルバイトはできません」とか言われちゃうんですよ。「いやいや、飲食店向けのPOSレジを作る新規事業のチームにとって、居酒屋でアルバイトすることが副業なんか!」って、私は本当にキレそうになったんです(笑)。
お金をもらってのアルバイトがいけないんだったら、「店長、アルバイトさせてください。新規事業をやるために僕はアルバイトしたいので、バイト代はいりません」と。こんな人を雇わない店長はいますか? 何かをつかもうとして、きっと一生懸命働きますよ。
麻生:バイト代をもらわなきゃいいですよね。合法ですよね。
椿:確かに、副業にならないですよね。
渡瀬:合法です。こういう働き方の自由度がある会社がイノベーティブであり、事業を成功させていける会社なんですよ。
渡瀬:なので、新規事業の部門って経営企画室の横にいたりするんですが、もう絶対にそれはやめとけと言うんですよ。だって、経営企画室の隣ということは社長の近くにいて、全員がスーツを着て、カチャカチャ……ってPowerPointかExcelを作ってるわけじゃないですか。
そこにふらっとジーパンとTシャツで「おはようございまーす」って出社して、「お前、その格好はなんや」「今日は15時から居酒屋にアルバイトに行くんすよ」とは、ちょっと言いにくいでしょう。
だから麻生さんが言うように出島を作って、いろんな人が自由に「こんにちはー」って、いろんな事業部門の人が「ちょっと意見交換に呼ばれたので来ました」みたいにわらわら出て、好きなようにお茶飲んでくれ、みたいなね。
私も自分のチームは、夕方5時半以降はビールを飲んでいいと言って、冷蔵庫にビールを入れといたりしたんですが(笑)。それぐらいのほうが、ビールを飲みに人が来るんですよ。
ということで、さっきの麻生さんの「仮想出島」のお話を、この流れでもう少し膨らませてお聞かせいただけますか? 仮想出島、感動しました。あれって「リスクが」「コンプラが」という会社にとっては、むちゃくちゃすごい仕組みですよね。
麻生:そうですか。あれをなんで始めたかというと、僕自身がリクルートの新規事業開発室長をやってた時に、言葉を選ばずに言うと、新規事業ってけっこう違法すれすれのことをやるじゃないですか。
センシティブなやつをいくつかやろうとしてたんですが、リクルートといえど、その時にはやらせてくれなかったんですよ。
麻生:「広報が」「ブランディングが」「情報セキュリティが」とか、もういろんなことを言われて。いやいや、なんでランディングページ1枚出すのに30個ぐらい会議しなきゃいけないんだと。
「無理じゃないか!」ってキレていて、でも諦めたらできないのでやる方法を考えていた時に、「もう無理だな。リクルートではできないから、いったんリクルートじゃない所でやらせて買い取ろう」と思って。
それで、仲の良いまったく関係のないベンチャーを呼んできて、「ちょっとごめん。こういう新規事業を立ち上げたいんだけど、リクルートでは立ち上げられないから、うちで全部お金は出すから立ち上げてくんねぇか?」って。それで、やってもらった実証実験結果を僕がもらってたんですよ。
渡瀬:すごい。でも、それがうまくいっちゃって、買い戻そうとしたら「いやいや、返さないぞ」とか言われたらおしまいですよね。
麻生:「返さないぜ」って言われないように、最初は契約をするのがポイントでしょうね。で、今、僕がやってるのはその逆パターンで、そういうセンシティブなやつとか、センシティブじゃなくてもいいんだけど、「なんでアプリのボタンのデザインを1個変えるのに4週間かかるんだろう?」みたいなことがあるじゃないですか。
「これじゃもう戦えないよ」というやつを、がんばって会社の仕組みで戦っていくのは正攻法でやるんだけど、それでも無理な場合は1回ちょっとお預かりします。
アルファドライブのサービスとして立ち上げてあげるので、一切名前も出ないし関係もないです。だから表向きには、そっち側でやってるということはまったくわからない。こっち側で勝手にやるので。
アルファドライブの新規事業として、まったく関係ないサービスが立ち上がるんだけど、人も来てもらうし、そこで起こってる情報も全部あげるし……ってやると、めちゃくちゃ速く立ち上がるんです。
渡瀬:めちゃくちゃ速そうですね。
麻生:めちゃくちゃ速いんですよ。最近は1個1個子会社にして立ち上げて、いざ立ち上がった時に、あとは株だけ渡せばそれでいいみたいな。スキームはいろいろあるんですが、これはすごく有効です。
渡瀬:どうぞ。
原田:出島がすべての正解でもないかなと僕は思っていて。何が課題かというと、大企業で新規事業をやるって、最後に「大企業でやるから本業とのシナジーが生まれる、レバレッジがかかるよね」というところがけっこう大事な気がするんですよね。
だから、まさに僕らがご紹介した事例が対象的だなと思って。出島的に起業したという事例をご紹介し、僕らは本業との接続で生まれたイノベーションを紹介したと思うんですが、たぶん難易度で言ったら、数が出るのが出島だし、本業との接続という意味ではこっちというか。
麻生:やっている事業領域が、どれだけ既存事業と近いかってことですよね。遠ければ遠いほど「リスクマネジメントできないから無理」ってなるから、遠い場合は出島が向いているけど、近い場合は別。
原田:そういうことですね。だから、どういうパターンでやっていくといいのかって、テーマによってけっこう違いがある。
麻生:テーマの距離感。
渡瀬:そうですね。大手企業は0.0000001パーセント起こる事故やリスク、セキュリティ等々のコストに5億円ぐらいかけちゃったりとかしちゃいますからね。そんなことをしてたら、新規事業は立ち上がらないですもんね。
麻生:既存事業ではそれが重要なんですけどね。
原田:さっきのスライドで「正しいことを正しくやる」という問題の指摘をされてたけど、正しいことを正しくやったら怒られるっておかしくないですか? っていう(笑)。
そういう価値観の中から、それをひっくり返していかなきゃいけないってすごく難しいところなので、「ちょっと文脈が変わってるんだよ」ということをどれぐらい意識してもらうかは大事な部分じゃないですかね。
渡瀬:ありがとうございます。
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