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大企業の組織風土改革〜イノベーティブな機運づくり(全6記事)

「絶対に儲からない」と言われた事業が売上500億円に 『ゼクシィ』生みの親が語る、新規事業に挑戦する意味

「Cross the Boundaries」を旗印に、日本最大級のスタートアップカンファレンスIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)が2024年も昨年に続いて京都で開催されました。本セッション「大企業の組織風土改革〜イノベーティブな機運づくり」には、渡瀬ひろみ氏、椿奈緒子氏、原田未来氏、麻生要一氏の4名が登壇し、トークセッションが行われました。本記事では、新規事業の立ち上げが組織づくりにどのような影響をもたらすのかを語ります。

前回の記事はこちら

24歳で新規事業プランコンテストのグランプリに

渡瀬ひろみ氏(以下、渡瀬):では、椿さんお願いいたします。

椿奈緒子氏(以下、椿):みなさん、こんにちは。椿と申します。今日は、たぶん新規事業系の方が多いと思います。この中での私の位置づけは、新規事業系で抜擢されて事業を15回ぐらい立ち上げたので、当事者目線のポジションで今回はお話をさせていただきます。よろしくお願いします。

ちなみに私は、原田さんのローンディールでメンターをもう7年ぐらいしています。その前はスタートアップの取締役だったんですが、2名を受け入れているので、回し者じゃないですがローンディールが大好きなので、興味ある方はぜひという感じです(笑)。

じゃあ、私のキャリアの話を簡単にしたいと思います。もともとは新規事業がやりたくて総合商社に入ったんですが、昔は若くて女性だと難しかったんですよね。なので、それでもできるということで、サイバーエージェントに転職しました。

ちょうど私が入社した時に、「ジギョつく」という新規事業プランコンテストの第1回が開催されることになりまして、これはやるしかないということで応募したら、なんと第1回のグランプリに選ばれました。

私は当時、24歳だったんですよ。もちろんマネジメントもしたことがなければ、事業責任者もやったことがなくて、すごく大変だったんですが、いろいろな経験をしました。一揆が起きたりとかいろんな事件があったんですが、いい経験をしました。

2回目の事業責任者が、サイバーエージェントとサイボウズで合弁会社を作ることになりまして、そこ(cybozu.net株式会社)の代表取締役をしていまして、トータル5年ほど在籍していました。

“安心して失敗できる環境”で新規事業にチャレンジ

椿:そんな感じで、サイバーエージェントの中でも立ち上げては潰し、降格してはまた昇りという感じでしたが、サイバーエージェントの中には「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを。」という素敵なキーワードがあったので、私としても安心して失敗できた。

失敗をこてんぱんにされずに、それを次につなげるカルチャーがあったので、「じゃあ、私はそれを体現する」みたいな感じでチャレンジして、どんどん打席に立ち続けておりました。その後も、1年に1個ずつぐらい新規事業を立ち上げ続けておりました。それこそCVCが社内にあったので、出資先に出向いて一緒に事業を立ち上げることもやっていました。

あと、子どもを産んでからは、社外でプライベートプロジェクト的なこともやり始めました。そうすると、内閣府に呼ばれたり、党首と話したりするようになって、「社内の雇われ経営者もいいけど、もうちょっと社会にインパクトがあることをしたい」と思い始めて、そこに目が向き始めました。

ちなみにこれは家族なんですが、夫は外国人です。すごくいろいろ苦労しているのを見てきたので、日本に住む外国人のメディア会社に取締役としてジョインしまして、ここがスタートアップの時に、ローンディールからまた2人を受け入れたりしていました。CVCさん、事業会社さんからたくさん出資を受けまして、そこの事業立ち上げをやっていた経験もあります。

そこからメンタリング株式会社という自分の会社を立ち上げたんですが、今まで散々会社にチャンスをいただいて打席に立ってきたんですが、そういう人をもっと増やしたいと思っています。

だいたい新規事業にチャレンジする人は1回目なんですよね。初めての時って、何もわからないじゃないですか。そこに何回かやっている人がいると、スピードもクオリティもかなり上がるんです。そうするともっと短距離で行けるし、成功確率も上がるんですよね。そういう仕組みを作りたく、事業開発のメンタリングをメインとするメンタリング株式会社を作りました。

上場企業の女性取締役の少なさ

椿:そんなこんなしていて、上場企業のグループ会社社長とかをやっていると、上場企業の社外取締役などもお声掛けしていただくようになりました。今、女性の管理職は本当に少ないじゃないですか。事業責任者になると社内の取締役になるはずで、もう一気に近づくんですよね。

特に上場企業の場合ですが、社内で女性の取締役が少ないのはすごく問題だと思うんです。ぜひ、女性を事業責任者に抜擢してほしいです。私はこれを言いたくて、こういった場によく立つんですが、社内の事業責任者の事例ってぜんぜん出ていないんですよね。「女性起業家、女性起業家」と言っているわりには、社内の事業責任者をぜんぜん誰も支援していない。

それこそNTTグループで社内起業家をされていた方をはじめ、協力しながら事例を集めて、事例を広める活動をしているので、もしみなさんの周りに同じような女性の事業責任者の方がいらっしゃったら、お声掛けください。紹介するメディア「イントラプレーヌ協会」をやっているので、広めてもっと人を増やしたいなって思っています。

実際、私がどういうことをやっているかというと、今まで(新規事業を)15個ぐらい立ち上げてきて、かなり失敗しています。何で失敗するかを毎回分析しているので、だいたいわかるんですよね。なので、失敗の経験を糧に事業立ち上げのメンタリングをするみたいな感じです。

新規事業なので、新しい系のものが多いんですよ。デジタル系が多いですね。特に0→1が多くて、ビジネスモデルを検討するところから、PoCのところまでを短期間で、スピーディーに、なるべく失敗しないように、かつアライアンスを考えられるようにやることが多いです。

大手企業さんだとキリンさんとか、スタートアップだと例えばローンディールさん経由ですることもあります。なので今日は、先輩連続社内起業家として、外部メンター役として覚えていただければなと思います。よろしくお願いします。

渡瀬:椿さん、ありがとうございました。

(会場拍手)

渡瀬:この4人はどこかで一緒に仕事をしているので、そのつながりで、今日は和気あいあいといきたいと思います。

絶対に儲からないと言われた『ゼクシィ』が売上500億円に

渡瀬:私も少し自己紹介をしようと思います。わかりやすく言うと、実は麻生さんと同じで元リクというやつです。リクルートのゼクシィという事業が「こんなものは儲からない」と言われていた中で事業化を果たしました。「絶対に儲からない」と言われた事業が、売上500億円、利益200億円の事業になるという経験が私の礎となっています。

だから、私は会社の偉い人が「こんなものは儲からない」と言っても信じないんですよ。マーケットの声を信じる、お客さまの声を信じる。それをやってきたら、「こうやったら失敗しないな」というビジネスの立ち上げ方を身につけることができて、それを日本のために使おうと思って、リクルートを辞めてアーレアを作りました。

今、私が持っている「失敗しない事業の立ち上げ方」を使って、虎ノ門ヒルズに森ビルが作ったARCHという、大手企業の新規事業部門の人しか入れないインキュベーションセンターの立ち上げから関わり、今はそこでチーフインキュベーションオフィサーという仕事をしています。

私の信条なんですが、新規事業をやる組織の中に共通言語がないと推進していかないんですよね。1社でできることは小さいから、複数の企業が力を合わせて、足りないところを補うようなやり方をする。

あとは今日のテーマにもなると思うんですが、新規事業って社外よりも社内に敵が多いんですよ。これをどうやって突破していくか、ということを日々やっています。今は120社、950人の大手企業のメンバーがARCHに所属をしていて、こうやって飲み会やクラブ活動まである組織なんですが、日々素敵な仲間と切磋してやっています。

「イノベーティブな企業」とは、どんな企業?

渡瀬:ゼクシィの話は先ほどしたとおりですが、ここからは今日のテーマの「イノベーティブな企業を作っていく」というキーノート的なお話を10分ほどさせていただきます。

「イノベーティブな企業」ってどんな企業なんでしょうね? 今いらっしゃるみなさんの中で、「自分の会社はイノベーティブだ」という方。……しーん。安心してください。ほとんどの会社がイノベーティブではないと、みなさんも思っていらっしゃいますね。

じゃあ、「やはり課題があるな。なかなかイノベーティブになれないな」と思っていらっしゃる方は手を挙げてください。ありがとうございます。だから、みなさんは30分前からここにいらっしゃってるんですね。ヒントになるお話をざっとさせていただきます。

「挑戦的で創造的な企業」とは、どんな会社か。ちょっとまとめてみました。見えにくいかもしれないので少し前に来ていただいてもいいですし、なんならここに体育座りとかしていただいても見えやすいかと思うんですが、今から少しお話しします。

そもそも真逆の会社はどういう会社かというと、例えばオペレーション・エクセレンスと言われるようなものが求められていたとします。

「お客さまのためにルールを守る」「規則を守る」「間違いなくやる」ということを、お客さまのために本当に大事にしていらっしゃる大手企業の方は、「決められたことを決められたとおりにやる」ということを10年やると、自由な発想ができなくなっちゃうんですね。かつ意見を求められることがなかったりするんですよ。

今から言うような機会があるとイノベーティブなんですが、例えば決まったことの通達はあるけど、「どうしたい?」「どうすればいい?」なんてことを聞かれたことがないような会社がたくさんあります。

新規事業をやることで社員の目が変わる

渡瀬:例えば「上司の上司に直接話しかけてはいけない」みたいな会社があったりしますが、自由な会社は、社内で自由にコミュニケーションを取れる風土があります。

正解がないアジェンダを、ホワイトボードにぐるぐる絵を描きながらディスカッションする。「そんなことはしたことがありません。Wordの通達しか見たことがありません」みたいな会社がいっぱいあったりします。

「やりたいな」とか「こうしたらいいと思うんですが」という意見を、どこかに公式に伝える場所があったりするかどうか。それから、上司の壁を突破して、良い意見が必要な人のところに届けられるかどうか。そして、「挑戦していいんだよ。どうぞ、挑戦して失敗してくださいね」というミッションが会社の中に組み込まれているかどうか。

それから、副業やリモートなど働き方の自由度があるかどうか。原田さんのような越境出向とかは、すばらしい仕組みだと思います。あとは、社員の声を受け取る仕組みがあるかどうか。それから、行動様式がぜんぜん違う、例えばスタートアップのような企業との交流があるかどうかです。

こういう企業が持つ最強の力は何かというと、正解がない中で、圧倒的な顧客志向で挑戦を成功へ近づけていく。小さな小さな挑戦ができるかどうか。これができる会社をぜひ作っていただきたいなと思います。

この議論と少し似ているんですが、「なぜ新規事業をやるか?」「いつやるか?」という問題があります。まずは「なぜやるか?」なんですが、新規事業をやることで社員の目が変わるんですよ。

例えば、こういう挑戦を社員にさせない保守的な会社では何が起こるかというと、お客さまが「ねえねえ、こういうことってできないんですか?」と聞いてくださって、ニーズが目の前にあるのに、「いや、うちではできません。以上。終わり」みたいな。そういうことをやっていると、会社ってぜんぜん変化していかないんです。

だけどイノベーティブな会社は、「これはお客さまのニーズかもしれない」「これをできる会社になりたいな」と思って、「お客さまから最近こういうことを言われるんですが、これを新しい事業にできないでしょうか?」ということを会社に上げるルートがあって、こういうことを通じて新規事業をやれる。(スライド)真ん中に書いてあるような力を、椿さんは「総合格闘技」って言いましたっけ?

椿:そうですね、総合格闘技。

渡瀬:総合格闘技のような力が身につくと椿さんは言ってくださってるんですが、これって新規事業のための力だけではなくて、既存事業をイノベーティブに変革させていく力にもなるわけなんですよ。なので、新規事業開発をぜひ積極的にやってくださいというのが答えなんです。

上から下まで、役員から新入社員までイノベーティブになる。そして、世の中に合わせて変化できる組織を作るドリルだと思っていただければと思います。

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